軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

切り札

二つ目の頭部を食いちぎったトラシーに、俺とモニカは光の矢と砲弾を撃ち込んでいた。

雨が降る中、砲弾が爆発してトラシーが淡い光を発しながら切り離した頭部の後から血を流してこちらを睨み付けていた。

モニカは、徹甲弾という砲弾がなくなり、榴弾を使用した。そして一言。

「榴弾では効果がありませんね」

大砲を甲板に置く。先程よりも熱を持ったのか、大砲からは雨や海水がかかって煙が上がっていた。

「派手に爆発して俺好みなんだが……効果は薄いか」

俺がそう言うと、煙の中から体を淡く光らせたトラシーが赤い目でこちらを睨み付け、天に向かって咆吼した。そのまま先程よりも鋭い動きで海面に潜ると、こちらに接近してくる。

俺はヴェラさんに。

「速度を最大にしてください。どうやら本気のようです」

帰って来た返事は。

『自分の頭を切り離して強くなるとか、どういう事よ! 速度を上げればいいんでしょ、上げれば!』

モニカは大きなハンマーを、服とエプロンの隙間から取り出すと構えた。

「銃器の発展が遅れるわけですね。防ぐ手段が卑怯すぎます。なんですか、バリア、って」

文句を言うモニカに同意したのは、宝玉内の七代目だった。

『まったくだ。威力は大きく削られ、金がかかると誰も認めない……絶対に優秀な武器なんだが』

確かに優秀ではあるが、まだまだ普及するレベルではないのかもしれない。

俺は弓を構えると、そのまま海面に向かって矢を放った。

海面に突き刺さり、トラシーに直撃して爆発を起こす。しかし、先程よりも動きが鈍ることはなかった。

「頭部が三つ……同じ体では動きにくかったのか。先程よりも良い動きだ」

感心していると、トラシーの動きを見ているシャノンがメイに抱きかかえられていた。俺を見て叫ぶ。

「なんで嬉しそうなのよ! 本気を出す前に倒しなさいよ!」

その意見はもっともだ。だが、倒しきれなかったのだから仕方がない。

「俺もそうしたかったが、どうせ倒しきれなかった。ま、チマチマやるのも嫌いではないが、ここは次の手段に出るか」

モニカも同意見のようだ。

「計算上では、チキン野郎の遠距離攻撃でも倒しきれませんからね。私の方も、砲弾は榴弾が一発残っているだけですから」

その言葉に、シャノンは涙目になった。

「ほ、本当に勝てるんでしょうね!」

俺は右手で濡れた髪をかき上げながら。

「馬鹿だな。負ければ死ぬだけだ。負けた後など考えてどうする? 俺は常に勝つ事だけを考えて生きている」

メイに抱きかかえられたシャノンが、暴れながら。

「終わったら絶対にあんたを殴ってやるんだから!」

「ちょっと暴れないでよ。抱きかかえている僕も大変なんだけど?」

俺は笑顔で。

「その意気だ! 勝った後ならいくらでも構ってやる。さて、弓ばかりというのも芸がないな。今度はこいつでいくか」

弓をハルバードに変化させると、俺は甲板の上でハルバードを振り回してポーズを決めた。

直後、後方にいるミランダから。

『楽しそうなところを悪いけど、追いつかれそうなんだけど? このまま捕まると海の底に引きずり込まれない?』

俺は右手にハルバードを持ち、左手を掲げて。

「問題ない。今の俺ならトラシーくらいなんとでもなる。全員、速度が上がるから注意しろよ……アップダウン」

スキルを使用すると、急に船の速度が上昇し、そしてトラシーの動きが鈍った。だが、それでもトラシーは船に近付いてくる。

二つの頭部を切り離したことで、体の動きも統一されているのか厄介になっていた。

俺は左手であごを触りながら。

「三つ首状態が一番倒しやすかったのか……」

すると、クラーラの声が聞こえてきた。

『……取りあえず、終われば記録しておこうと思います。もっとも、今後出てくるのか微妙な魔物ですが。それと、結果が出ましたよ』

俺のスキル――コネクション――で繋がったクラーラから、俺に情報が入ってきた。検索して貰ったのは、海中の魔物に関する資料だ。

どんな攻撃をしてくるか、そしてどんな特徴があるのか――。

トラシーに近い魔物から、それらを推測するためである。

結果、多くの巨大な魔物は、船を海中に引きずり込む動きが多いようだ。

「海中に引きずり込む行動が多い、か。そうなるとトラシーもそれで決まりか? ついでに得意なのは――」

俺が思案していると、船の先頭にいたノウェムから声がした。普段よりも少し焦っているようだ。

『ライエル様、前方に氷が出現しました。結構な大きさですね』

ノウェムの視覚情報を確認すると、俺よりも早く情報を共有していたヴェラさんが反応する。

『と、取り舵! 全員、何かに掴まって!』

急激に傾く船は、出現した氷の山を避けた。しかし、進路方向が変わってしまい、トラシーに追いつかれてしまう。

傾いた船に覆い被さるように海面から出て来たトラシーは、こちらに腹をぶつけて沈めようとしているようだった。

しかし――。

「少しタイミングがずれたな、トラシー」

俺は笑うと、飛び上がってハルバードでトラシーの鱗のない腹の部分を斬りつけた。

ハルバードを振るうと、トラシーの腹の部分に触れる前に抵抗を感じた。そのまま振り抜いて数メートルの傷をつけるとそこから血が噴き出した。

返り血は浴びることがなかったが、同時にこれでは倒しきれないと直感で理解した。

着地をすると、船の後方ギリギリだった。

ミランダが俺を見て。

「相変わらず危ないことを……というか、大きすぎて倒せる気がしないんだけど?」

覆い被さろうとしたトラシーを、船はくぐり抜けて後方で大きな水柱が上がるのを俺は見ていた。

ハルバードを見た俺は、欠けていないことを確認してトラシーが沈んだ海面を見た。

ミランダが、俺を見て。

「斬ったのよね?」

俺は首を横に振る。

「腹の部分ならいけると思ったんだが、魔力で守られていたな。斬るには斬れたんだが……浅かった」

トラシーの巨体を考えれば、俺がつけた傷など小さかったのだ。

俺はハルバードを宝玉に戻すと、首にかけてスキル――ボックスを使用し、出て来た宝箱からサーベルを取り出した。

「ちょっと、銀色の武器で駄目なのに、数打ちのサーベルでどうにかなるの?」

ミランダの疑うような視線に、俺は――。

「こっちは違う魔物用だな。どうやら集まってきたみたいだ」

ミランダも気が付いたのか、周囲を見ていた。すると、サハギンの群れが船に集まってきた。正確には、サハギンの群れに船が突っ込んだ。

そこしか選べなかったので、ヴェラさんを責めることもできない。

ヴェラさんが指示を出す。

『船員に武器を持たせて! 入口で侵入を防ぐの! 甲板には出ないでいいから!』

腰にサーベルを六本。両手にそれぞれ一本の計八本を持った俺は、海面から飛び出して来たサハギンをサーベルで横に斬り割いた。

ミランダもナイフを取り出し、飛び出して来たサハギンに投擲する。

「自分を食いちぎったくせに、頭は回るみたいね」

こちらの進路方向を防ぎ、サハギンの群れに突っ込ませたトラシーは、ゆっくりと海面から姿を出してこちらに大きな口を開いた。

魔力の塊ではなく、海面から水が集まって圧縮され始めた。

俺は。

「ノウェム!」

大声でノウェムの名を呼ぶと、トラシーの目の前に氷の壁が数枚出現した。

すると、圧縮した水を放出し、氷の壁が簡単に貫かれる。だが、ヴェラさんが。

『面舵!』

船が圧縮された水の放出を避けた。氷の壁を破壊してトラシーがこちらに近付いてくると、俺は近付くサハギンを斬り伏せながら指示を出す。

『メイ、そっちはどうだ?』

『大丈夫。ついでにモニカもいるからね』

甲板の中央では、シャノンやノウェムを守るようにメイとモニカがサハギンと戦っていた。

後方にも次々にサハギンが集まり、扉が破壊され船内へもサハギンが侵入を始めた。

ミランダが、両手の指先から糸を出現させ、周囲のサハギンを捕えると次々にバラバラにしていた。

「随分と便利そうだな」

そう言うと、ミランダは。

「便利よ。なかなか切れないし、それに締め上げてもいいし、やりようによっては――」

糸がサハギンたちに巻き付く。そして、もがき苦しむサハギンの頭部が綺麗に切断された。

宝玉からは、五代目の声が聞こえてくる。

『……蜘蛛みたいな女だな』

俺も同意見だ。

「ミランダは蜘蛛みたいだな」

笑顔のミランダは、周囲のサハギンたちを相手にしながら。

「そう? ライエルも私の糸に捕まってみる?」

そう言ってきたので。

「俺が離れないようにきつく縛っておくんだな。いや、蜘蛛だから……まぁいいか。大歓迎だ! お前の糸で俺を雁字搦めにするといい!」

ミランダは、少し笑っていた。

「そう。なら遠慮なく……それと、この会話は全員が聞いているんだけど?」

「それが何か問題でも?」

真顔で聞き返すと、ミランダは楽しそうに。

「元に戻ったら、今の会話でからかうのは止めてあげる。正気の時にでも、私に愛を囁いてね、ライエル」

「いつでも言ってやる!」

周囲に集まるサハギンたちを斬り捨てていくと、持っていたサーベルが血で汚れて欠け始めた。

「交換だな」

両手のサーベルを目の前のサハギンに突き刺すと、俺はそのまま手を離して相手を蹴り飛ばした。

腰に下げたサーベルを引き抜くと、両脇から銛を突き刺しにきたサハギンを回転しながらサーベルで斬り割く。

アリアの声がした。

『そこ! 戦いながらイチャイチャしてんじゃないわよ! こっちにもサハギンが入り込んで……邪魔だごらぁ!!』

アリアの所にもサハギンが入り込んだようで、次々に槍で突き殺していた。

アリアの視界情報から、周囲の船員たちがドン引きしている姿が見えた。少しお転婆で可愛いのだが……。

「なんだ拗ねたのか? 荒々しいアリアも、俺は大好きだぞ」

笑いながらそう言うと、ヴェラさんが。

『ちょっと黙って! あ、こっちの話よ。無理に戦わないで部屋の前で押さえ込みなさい! 後で今はトラシーの相手に集中して! ……じゃない! トライデント・シーサーペントよ!』

慌てているようで、俺たちとのやり取りと船橋でのやり取りが混ざって聞こえてきた。

「トラシーでいいだろうに?」

可愛い名前だと思うのだが、どうやらヴェラさんは気に入らないようだ。船橋で色々と指示を出しており、船員たちを上手く使っている。

エヴァからは――。

『……熱い。しかも、扉にはサハギンが……汗だくで服が』

クラーラは――。

『こちらは今のところ大丈夫ですね。銃が揃っていますし。便利ですね。私も護身用に……』

銃に興味を示したようだ。

すると、モニカが――。

『チキン野郎。船橋にサハギンがとりつき始めました。あそこを押さえられるとどうにもなりません』

更にノウェムが。

『トラシーもこちらを本気で沈めに来ています。どうしますか、ライエル様?』

船橋はピンチで、ついでにトラシーが船に突撃をかけようとしていた。

「そんなのは決まっている。どっちも対処すれば問題ない!」

俺はそのままサーベルをサハギンに投げつけ、三本目と四本目を引き抜くのだった。そして、モニカが甲板に置いた大砲が視界に入る。

――船橋では、扉をこじ開けたサハギンと戦闘が起きていた。

「くっ!」

ヴェラが拳銃を後ろ腰から引き抜き、外に出るドアに向けて発砲をする。

船長が船橋に置いてある銃を手に取り。

「お嬢様、下がって下さい!」

揺れる船の中、ヴェラも必死に船橋で戦っていた。

「あんたが指示を出さないでどうするのよ! 私が押さえている間に、船をしっかり維持しなさい!」

リボルバーのシリンダー部分を解放し、弾を交換するヴェラは近付いてくるトラシーに意識を向けてしまい、弾が外れてしまった。

(くっ! もう残弾が……)

発砲し、二体のサハギンがドアから離れると、残り一体のサハギンが近付いていた。最後に発砲すると、頭部を半分吹き飛ばされながらも、サハギンが中に入ろうとする。

船長の持っていた銃も、弾を交換するために手間取っていた。揺れる船の上。しかも、トラシーが接近している状況だ。

慌てているのは、ヴェラだけではなかった。

「この……さっさとどけぇ!」

ヴェラは黒いツーサイドアップの髪を揺らし、サハギンをブーツで蹴り飛ばす。すると、サハギンは勢いよくドアから吹き飛び――。

「しまった!」

ヴェラが気付いたときには、船が大きく傾いていた。ドアに向かって蹴りを放っていたヴェラは、そのままこじ開けられたドアから外に放り出て……。

大きな口を開けたトラシーが、すぐそこに来ていた。

ヴェラは、そんなトラシーを見ながら。

(そうか、ここで終わるのか)

妙に周囲の景色がゆっくりと動いているように見える中で、ヴェラは空中で船の方を振り返って手を伸ばした。

船橋のドアには、船長や船員たちが届かないのに手を伸ばしている。何かを叫んでいるが、ヴェラにはなにも聞こえなかった。

自分も手を伸ばすと、その光景が前から見る夢と重なった気がした。

(予知夢、だったのかな……)

海に沈みたくなく、手を伸ばす。しかし、自分の崩れていく光景が死を暗示していたのではないか? そう思ったヴェラ。

(そっか、ここで終わりなんだ……ちゃんと気持ちは伝えておけばよかったかな)

ゆっくりと自分を飲み込もうとするトラシーの口が近付き、ヴェラは瞳を閉じてその瞬間を待とうとすると――。

「両手で耳を塞げ、それと口を開けて貰おうか」

伸ばした手を握られ、目を開けるとそこには大きな大砲を手に持ったライエルがいた。

ヴェラをそのまま引き寄せると、返り血を浴びて雨や水しぶきでずぶ濡れのライエルにヴェラが抱きつく形になった。

ライエルは笑いながら。

「外が駄目なら内側からだ……耐えて見せたら、奥の手を見せてやるぞ、海の神様」

「あ、あんた……笑って」

「ほら、耳を塞げ」

ヴェラが、銃をホルスターにしまい込んで耳を塞いで口を開けた。すると、ライエルも引き金部分を引いた。口を開けており、耳には耳栓をしていた。

衝撃が発生すると、トラシーはその口を閉じた――。