軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴェラ・トレース号

ベイムの北にある港には、多くの船が止まっていた。

帆を張るタイプの船もあれば、煙突のついた船もある。潮風を受けながら、指示された場所へと行くとそこには一際大きな船が存在していた。

積み荷を運び込む奴隷たちは、汗をかきながら今日はどこで飲むかを話し合っていた。

周囲には人が多く、少しでも気を抜くとシャノン辺りがはぐれてしまいそうだ。

後ろを歩くシャノンに目をやると、ミランダが手を握っていた。

安心して前を見ると、港で一番大きな船に向かって俺たちは歩く。

(屋敷にはアデーレさんやダミアンに残って貰っているけど……それにしても、大きな船だな)

近付いて見上げると、船の大きさに驚いてしまう。

宝玉内では、三代目が興奮していた。

『凄いね。こんなものまで作り出せるようになったのか。時代が違うのを実感するよね』

四代目も興奮している。

『これを動かすのにどれだけの資金と人材が……それで儲けを出しているとなると、購入してみたくなりますね』

五代目は呆れるように四代目を止めた。

『止めとけよ。沈んだら全ておしまいだ』

七代目も、流石にこれだけの船を知らなかったのか、素直に感心していた。

『ふむ、これに大砲を積み込めば海の近くにある都市を攻撃出来ますね。同じ船も沈め放題ではないですか?』

それを聞いて、三代目が呆れていた。

『自分の得物が銃だから、って、大砲とか勧めないでくれる? 銃も大砲も、金持ちの武器で、しかも趣味みたいな感じじゃない』

そう、銃関係はかなり高価な武器だ。魔法で代用出来るのに、一発撃つのにも弾に火薬が必要になる。

ある程度の性能は発揮出来るが、防ぐことも可能な武器であまり普及していない。だが、愛好家がいるようで、今も細々と改良が加えられているようだ。

七代目が、自分の得物を自慢するように。

『分かっていませんな。もう剣や弓の時代ではないのですよ。これからは、いかに銃を利用するかで戦争の勝敗が決まるのです』

五代目は、その意見をスルーした。

『金がかかりすぎるから却下だ。人材の育成だけでも時間と金がかかりすぎる。そこから銃に火薬、そして弾……弓や魔法で代用する方が早いだろうが』

木造の船が多い中で、トレース家の船は金属で出来ていた。煙突がついており、煙が上がっている。

そんな船を眺めていると、声が聞こえてきた。

「準備は?」

「ヴェラお嬢様の荷物はもう積み込んでいます。後は、急ぎの荷物と護衛を待つだけです」

「護衛?」

振り向くと、そこにはタラップに乗った女性が、日傘を差していた。上は赤いドレスだが、下はミニのスカートになっている。

黒いサイハイソックスに、茶色のブーツ。髪は黒髪で、ツーサイドアップにされていた。だが、サイドは長いが、それ以外は肩当たりまでの長さだった。

そして、茶色の旅行鞄を持つ彼女は、腰に金色の懐中時計と――後ろ腰には、銃のグリップが見えた。

俺と視線が合うと、鋭い目つきで俺を見てくる。紫色の瞳が、俺をとらえると鞄を置いて指を差してきた。

「あそこの冒険者じゃないの? というか、どうして乗せるのよ。話は聞いてないわよ」

船乗り――それも船長が、少女に謝罪をしていた。

「すみません、お嬢様。ですが、今回通る海域には、大型の魔物が出たようでして……流石にお嬢様でも危ないと、旦那様が」

溜息を吐いて、少女は鞄を持つとそのままタラップを上がって船へと乗り込んだ。こちらを見て――。

「早く乗りなさい。護衛でも、時間内に乗り込まなかったら置いていくわよ」

俺たちは、苦笑いをすると船へと向かう。

船長らしき恰好をした男が、俺たちを見ると真剣な表情をした。俺は、手荷物からトレース家の紹介状を取り出すと、船長に手渡す。

「……確かに。では、お乗りください。ただ、客船ではないので、あまり優雅な船旅ではないですがね。船に入ったら、船員に案内をさせます」

俺は頷くと、パーティーメンバーを連れてタラップを上がっていく。

ノウェムは、周囲を見ながら。

「ここまでのものを作れるようになっていたのですね」

感心したようだ。ミランダの方は。

「バンセイムだと船に縁がないのよね。湖や川でもっと小型の船とかボートなら乗るけど。シャノン、足下に気を付けなさい」

ミランダが注意をすると、シャノンはタラップの上で転んでいた。

「……なんでもっと歩きやすいタラップじゃないのよ」

涙目で講義するシャノンに、船長は笑いながら。

「これでも一番いいタラップなんだがね。あそこの板よりマシだろ?」

すると、船の近くにあった、木造の船にかけられた板を見た。確かに、ただの板よりはマシである。

「海の上とか……人間っておかしいわよ」

青い顔でタラップを上がるエヴァを、メイが後ろから押していた。

「早く先に行ってよ!」

その後ろで、クラーラはすでにフラフラとした足取りで。

「お、おちたら……し、死ぬ」

そんな事を言っており、最後尾のモニカとアリアは首を横に振っていた。

「死にません。大丈夫、チキン野郎が助けてついでに人工呼吸をしてくれます。こんな機会は絶対に逃しませんよ。ね、チキン野郎?」

「モニカ、お前は俺をなんだと……もういい。ほら、先に行くぞ」

アリアがクラーラの腕を掴み、そのまま一緒に歩いて行く。

「まったく、落ちなければいいだけでしょうに」

そんな俺たちの様子を見て、船長はかぶっていた帽子を外して。

「大丈夫なのかね、今回のパーティーは」

俺たちを見て不安になったようだ。

船の上。

甲板で出港する船を見ていると、俺たちに声がかかった。

「そこ、いると邪魔よ。中に入りなさいよ」

声をかけてきたのは、先程の黒髪赤いドレスの少女だった。年頃は、俺と同じか少し上だと思う。

「いや、案内が来るとか聞いたので」

すると、少女は溜息を吐いた。赤い日傘を畳むと。

「ついてきなさい。今は忙しいから、暇な私が案内してあげる」

言われて、俺たちは顔を見合わせるとそのまま少女――ヴェラ・トレースについていく事にした。

荷物を持って移動を開始すると、ヴェラさんは。

「ねぇ、ところで荷物はそれだけ? どこかに預けているのよね?」

「いえ、これだけです。あ、ちゃんと他にも持っていますから安心してください」

すると、ヴェラさんは、俺の返答を聞いて少し考えると頷いて船の中を案内してくれた。

すれ違う船員たちは、ヴェラさんを見ると道を空けて笑顔を向けてくる。慕われているのだと思っていると、最初の目的地に到着した。

「ここが客室ね。三部屋用意しているから、自由に使って」

部屋に案内されると、狭い部屋に二段ベッドが二つ入っていた。そんな部屋を三つ用意され、ドアには護衛用と書かれた札がかけられている。

ノウェムが。

「なら、先に荷物を置いておきましょうか」

そう言ったので、ヴェラさんは。

「荷物を置くのはいいけど、貴重品はしっかり自分で管理してね。鍵もついているけど、船の上だから色々と注意してよ。それと、船員も荒くれ者が多いから、不用意に喧嘩を売らないでね」

アリアは、それを聞くと頭をかきながら。

「私たち、護衛なんですけど?」

すると、ヴェラさんは笑っていた。

「船の上で満足に戦える? しかも、ここは船乗りのホームみたいなものよ。喧嘩は避けた方がいいわ。ほら、荷物を置いたら鍵を閉めて」

俺たちは貴重品を置き、そして部屋の外に出るとヴェラさんに同行した。

俺たちが使用すると思われる食堂、トイレ、そして風呂……風呂は、場所を用意するだけで、入りたければ自分たちで用意するようだ。

クラーラが魔法でお湯を用意出来るので、入るときは頼もうと思う。

それらを案内すると、後は大まかな場所を案内してくれた。脱出用のボートがある場所、そして、入っては行けない場所も教えてくれた。

そうして最後に、ヴェラさんの部屋とでも言うべき後方の大きな部屋に案内された。

広く、豪華な部屋だった。

置物や可愛らしい人形、それに衣類に本棚、そして装飾品の数々。

赤い絨毯がしかれた部屋には、魔物の毛皮と思われる敷物が用意されていた。白く黒の縞の入った毛皮。猫のような大きな魔物。

クラーラは。

「これ、ホワイトタイガーじゃないですか? しかも大型ですね」

すると、ヴェラさんはソファーに座って肘掛けに肘を置いて手に顔を乗せた。

「そうよ。適当に座って。毎回こうやってお土産を貰うんだけど、使わないのも勿体ないから使っているの。大きなぬいぐるみは、もう何年も前に貰ったんだけどね」

クマの大きなぬいぐるみは、大きなスズを首に取り付けてあった。

俺は、疑問に思って確認する。

「どうして俺たちをこの部屋に?」

すると、ヴェラさんは俺を真剣な表情で見ながら、真っ直ぐに座って右手を口元に持っていき……。

「どうしてかしら? でも、なんとなく気になったのよね。あ、男の人がここに入ったのは、船員以外では初めてかも」

笑うヴェラさんを見ると、視線がノウェムの方に向いていた。

「ねぇ、貴方の名前は?」

ノウェムは笑顔で。

「ノウェムです。ノウェム・フォクスズ」

すると、ヴェラさんは嬉しそうに。

「そう。知っているでしょうけど、私はヴェラ・トレースよ。貴方たちが守るべき荷物の一つ、とでも言えば良いかしらね? 本当はいらないんだけど」

どうやら俺たちを必要としてないようだ。

(幸運の女神様、ね)

彼女が乗る船は、どんな荒波にも沈まない。そういったジンクスを持っているために、船乗りは彼女を幸運の女神と呼んでいるのだ。

俺も、自分の名前を名乗ろうとすると、ヴェラさんは手のひらを俺に向けて「ストップ」と言って来た。

「貴方の事は知っているわよ。さっき思い出したんだけど、青い髪に瞳……聖騎士ライエルでしょ? 話題の冒険者が、まさかこの船に乗るとは思わなかったわ」

クスクスと笑うヴェラさんを見て、俺は。

「その二つ名は嫌いなんですけどね。どうも、ライエル・ウォルトです」

丁寧にお辞儀をすると、ヴェラさんも頷いて立ち上がって挨拶をしてきた。

「知っているでしょうけど、私がヴェラ・トレースよ。どうせ、お父様辺りが無理に乗るように言ったんでしょ? 魔物退治なら、ギルドも船を出しているし」

両肩を上下させ、またソファーに座るヴェラさん。

すると、宝玉から四代目の声がした。

『ライエル、ここは『いえ、貴方の船に乗りたかった』くらい言っておこうよ』

四代目の意見はスルーしておいて、俺は気になったことを聞く。

「そう言えば、船には名前がありますよね。この船はなんという船なんですか?」

ヴェラさんは、少しムスッとした表情をして、俺をジト目で睨んできた。

「分かっていないから聞いているのよね? この船の名前ね……ヴェラ・トレース号よ。父が名付けたの。最新鋭の船だっていうのに、まったく」

こめかみを右手で揉むヴェラさんを見て、俺たちは苦笑いをした。

すると、モニカが口を開いた。

「最新鋭と聞きましたが、どれだけ凄いのですか?」

すると、ヴェラさんはこちらを見て微笑みながら。

「秘密、と言いたいけど、喋れる範囲なら教えてあげる。大事な部分は希少金属を加工して作成したのよ。職人とか船大工だけだと無理だから、ドワーフの有名な職人に頼んで部品を作って貰ったの。少なくとも、他の商家でもここまでしないと思う造りをした船であるのは間違いないわ。帆を張ってない上に、水車もないでしょ? これ、スクリューっていうのが水の中にあるのよ」

それを聞いて、モニカが何度も頷いていた。

「スクリューはどうでも良いですが、職人が気になりますね。紹介して頂けませんか?」

すると、ヴェラさんは微妙な表情で。

「ちょっと、かなり凄いんだけど? まぁ、職人の方は無理よ。私が顔見知りじゃなくて、お父様の顔見知りだから。お爺様が若い時に支援したとか聞いたから、その時からの付き合いね」

そうして、少し話をすると、クラーラが疑問に思ったのかヴェラさんにきいた。

「どうして私たちをこの部屋に?」

すると、ヴェラさんは立ち上がった。ドアをノックする音が聞こえると、船員が部屋に入ってきた。

「お嬢様、出港の時間です」

すると、ヴェラさんは腰に下げた懐中時計を取り出し、時間を確認した。

「時間通りね。いいわ、出港して」

「はい!」

船員が部屋を出ると、最後に折れに視線を向けて少し驚いた表情をしていた。ドアが閉まると、しばらくして外の景色が動き始めた。

ヴェラさんは溜息を吐きながら。

「船長でもないけど、いつの間にかこんな感じなの。ごめんね。それと、なんで呼び出したかだけど……話を聞きたかったのよ。冒険者なんだし、色々と面白い話を知っているんでしょ?」

期待したヴェラさんの視線。そして、周囲の仲間が俺に視線を向けてきた。ヴェラさんも、当然だが俺を見る。

「……なんだよ」

すると、代表してシャノンが。

「だって、面白い話ならライエルしかいないじゃない」

モニカも。

「そうですね。チキン野郎の絶好調の時は、笑いあり涙ありの素晴らしい時間なのは確かです」

俺はモニカの嘘を正そうと。

「俺の絶好調が、成長後だけ、みたいな言い方は止めろ」

すると、エヴァが俺を見て口元に手を当てた。

「……え?」

メイも同じだ。こちらは両手を頭の後ろに回して。

「いや、どう考えても……」

アリアを見ると、視線を逸らされ。

「ごめん。擁護出来ない」

俺はクラーラに体事向くと、クラーラは耳まで真っ赤にして俯いていた。

「すみません。思い出してしまって……」

ミランダに視線を恐る恐る向けたら。

「絶好調というか……もうある意味で最強よね」

笑っていた。最後にノウェムに視線を向けると。

「どんなライエル様も、私の中では一番のライエル様です」

微笑んでくれた。

しかし、宝玉内からは笑い声が聞こえてくる。

『そうだね! 確かにらいえるサンは絶好調だ!』

『普通は失敗するのに、目立った失敗とかしてないもんね!』

『……諦めろ……プッ!』

『流石ウォルト家の麒麟児だ。成長後の笑いのキレは、わしはライエルが歴代一だと確信を持っている』

俺はその場に膝から崩れ落ち、そして両手を床についた。ゆっくりと揺れる船の上で、俺は――。

「嘘だ。あれは本当の俺じゃない!」

その言葉を聞いて、ヴェラさんは少し楽しそうにするのだった。

「あ、色々と失敗してきた感じ? 聞くのは悪いけど……聞いちゃってもいいかしら?」

他の仲間が、俺の過去の失敗を語り始めたのは、それからすぐのことだった。