軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ザインより酷い

ベイムに到着した俺は、一人で報告のためにギルドへと訪れていた。

魔物の素材、魔石などは明日売り払うとして、俺はギルド内にある風呂場へと向かうとシャワーを浴びて汗や泥を落とした。

ぬるく勢いのないシャワーを浴び、気を引き締めるとギルドの受付を目指す。

できればタニヤさんが望ましいが、いなければ経験豊富そうな職員が良かった。ベイムでは誰の列に並ぶかあまり考えていなかったが、今日はカウンターに誰がいるか確認してから列へと並んだ。

周囲では、今日も噂話が聞こえてきた。

「聞いたか、結構な数の傭兵団がザイン側についたらしいぞ」

「ザインは昔から略奪を許すからな。ロルフィスは王女様がお堅いって噂だからな」

「興味がない、って話じゃなかったか?」

「アレットの奴、有力な傭兵団に声をかけて回っているらしいな」

「騎士様は大変だ」

笑っている冒険者たち。

アレットさんの事を考えれば、俺としては気分の良いものではない。だが、冒険者にそこまで仲間意識を期待しても駄目だろう。

それに、アレットさんが普段から付き合いのあるパーティーは、傭兵団と言うよりも迷宮に強い冒険者たちだ。

戦場となると、きっと勝手が違うはずだ。

宝玉内からは、六代目の声がした。

『人手を集めているか。まだ戻っていないというなら好都合だ。ライエル、接触してみるか。もちろん、アウラたちの件は伏せるが』

現状、アレットさんがどんな反応をするのか分からない。

ロルフィス側からすれば、言いがかりをつけて攻め込む厄介な国なのだ。

俺が宝玉を握ると、並んでいた列が動き出した。

「……いつもより人が少ないな」

周囲を見てそんな事を思っていると、違う冒険者たちが話をしていた。

「おい、南支部の連中に声をかけられたんだが、お前らどうする?」

「傭兵団が臨時で人集め? 本格的になって来たな」

「ザイン側が有利なんだろ? だったらザイン側なら参加する、って言えば良いだろうに」

「馬鹿。そうなるとロルフィスが借金してでも傭兵団を雇ってくれるぜ。待遇が良いのはロルフィスになるから、それまで待てよ」

七代目の声がした。怒気を孕んだ声で。

『これだから冒険者は信用できんのだ!』

俺は軽く溜息を吐くと、戦争が近付いている気配を感じるのだった。

受付で俺の番が回ってくると、椅子に座ってタニヤさんに書類を手渡した。

いつも通り。書類を受け取ったタニヤさんにギルドカードを差し出すと、手続きを行なっていくつか話をした。

「安定して評価【B】ですか。やっぱり、ライエル君たちは優秀ですね。そう言えば、あの幽霊屋敷を購入したようですが、大丈夫なんですか?」

幽霊屋敷と聞いて、俺は首をかしげた。

タニヤさんは「戻ってきたばかりで知らないのね」などと言って、俺に同情した視線を向けてきた。

手続きを終えた俺は、書類とギルドカードを受け取りつつ口を開いた。

「タニヤさん、実は話しておきたい事があります」

真剣な表情、そして俺の声を聞いて、タニヤさんの表情が笑顔から真剣なものへと変わった。

「……ここでは不味そうですね。いいでしょう。優秀な冒険者をサポートするのも職員の仕事です。受付を変わるので二階で待っていて貰えますか」

俺が頷くと、受付の奥で書類を確認していた職員にタニヤさんが声をかけた。

「【リューエ】、ここはお願いね。私は用事が出来たから」

「え、ちょっと先輩!」

慌ただしく立ち上がったためか、書類が床に落ちて新人のギルド職員が慌てていた。俺は列から離れて二階へと向かう。

二階のどこで待つ、とは言っていないがすぐにタニヤさんも上がってきた。

歩いている姿、そして雰囲気……もしかしたら、タニヤさんも前は冒険者をしていたのかも知れない。

二階の会議室の一つへ入るように言われ、俺は言われるまま入った。

(ベイムに来たときに、講習を受けて以来だな)

そんな事を考えながら、俺は適当な椅子に座るとタニヤさんは俺の前に座った。笑顔を向けてくるが、どこか雰囲気が鋭い。

「さて、呼び出したんですからそれなりのお話なんでしょうね。告白なら止めて下さい。仕事中なので」

「仕事外ならいいんですか? ……冗談ですよ」

笑顔なのに視線が鋭くなるタニヤさんに謝罪をすると、俺は話を切り出した。

「相談があります。アレットさんはまだベイムにいますよね?」

「……言えません」

タニヤさんがそう言うと、俺は頷いた。別に会いに行けるし、問題はそこではない。

俺は宝玉を握りながら。

「依頼を達成した帰りに、実は人助けをしました。個人的に護衛の依頼を引き受けたので、しばらくギルドの依頼をできそうにありません」

タニヤさんは俺の顔を見ながら、机の上に両肘を乗せて手を組んだ。顔の前。口の辺りを隠すような位置に組んだ手を持って行く。

「……個人的な依頼を受けた、それも冒険者の自由です。ま、ギルドを通して欲しかったのは事実ですけどね。私個人は無事に達成してギルドの依頼を受けて貰う事を望みます。望んではいるんですが……さて、これで終わりですか?」

この程度で呼びつけたのか? そういった雰囲気を口元は見えないが、笑顔であろうタニヤさんが態度で示していた。

俺は苦笑いをしてしまう。

タニヤさんの視線が少し動いたので、謝罪した。

「失礼。ここからが本題というか、少し困っていましてね」

「困る?」

俺はタニヤさんを見ながら、笑顔で言うのだ。

「ザインの大神官、そして元聖女、それから現聖女と対立した元聖女候補を助けたんです。依頼内容は『ザインをあるべき人の手に取り戻すこと』なんですけど。俺だけでは手が足りません。なので、相談に乗ってくれませんか?」

俺の笑顔にタニヤさんは頬が引きつっていた。組んだ手で口元を隠していたが、頬の動きでソレが理解出来た。

そして、組んだ手を離して机の上から肘をどけて姿勢を正すタニヤさんは、溜息を吐いて俺の顔を見てきた。

「なる程、私には手に余りますね。ま、呼び出すに相応しいというか、受付で言わないで貰って良かったですよ。ただ……」

「ただ?」

タニヤさんは淡々と。

「ギルドはどちら側にも助力しません。ザインだろうが、ロルフィスだろうが、ギルドに依頼が来れば対応するだけです。どちらか一方に協力するなどあり得ない。この話、あまり余所ではしない方が良いですよ、ライエル君」

タニヤさんの意見を聞いて、宝玉内では五代目が。

『つまり、ギルドは両方に争って貰いつつ金儲けをしたい、と。ま、商人の都でもある訳だし、そうなるよな』

商人と冒険者の都――それがベイムだ。戦争があるから儲かる商人は多く、そして戦争になると物資も飛ぶように売れる。

どちらかに荷担して終わらせる事など、ギルドは逆に好まないだろう。何しろ、商人が支配する都市だ。

ギルドも、商人に逆らえるとは思えない。いや、ギルド自身も、魔石を扱う商人と言えなくもなかった。

ただ。

「それを聞いて安心しました。つまり、ギルドは公平であると」

「……不本意でしょうが、そういう事です」

俺が皮肉を言ったと思ったのか、タニヤさんは立ち上がろうとした。だが、俺はタニヤさんに声をかけて待って貰う。

「まだ話は終わっていませんよ」

「口止めですか?」

口止めするように言っても、報告しないとは限らない。何しろ、戦争の火種を俺が抱え込んでいるのだ。

(ミスリルどころの話じゃないからな)

言いがかりをつけて戦争をするザインにとって、俺が抱えている火種は無視出来ないものだろう。

「いえ。口止めなんかしませんよ。ただ、俺はギルドが公平で良かったと思ったところです」

宝玉内からは、嬉しそうな三代目の声が聞こえてきた。

『本当、公平で良かったよね。別に公平でなくてもいいけど!』

四代目の声もした。

『ま、人手を集めるとなると、やっぱりギルドに頼らないといけませんからね』

俺はタニヤさんに告げた。

「名指しで依頼をします。【クレート・ベニーニ】のパーティーに俺が依頼を出したいんです」

タニヤさんは俺が何を考えているのか理解したようで、額を左手で押さえて俺を忌々しそうに見ていた。

「また、適材適所とでも言えば良いのか……彼の好きそうな依頼ですね」

「そうでしょ」

俺はタニヤさんと共に一階へと降りると、依頼を出すための手続きを行なうのだった。

――“ターニャ”は、上司の部屋でライエルの事を報告していた。

上司は仕事を処理しながら、ターニャの報告に耳を傾けていた。

「そうかい。元聖女様を拾ってきたのかい。なんでも拾うのは感心しないが、また大物を拾ってきたね」

上司は笑っているが、ターニャは笑っていない。

「本部に報告しますか?」

すると、上司は首をかしげた。

「どうしてだい? 別に戦争をしない事にはならないよ。むしろ、どう動くかで戦争は拡大するかも知れないね。おっと、そうなると報告しないとまずいかな? うん、伝えるだけ伝えておこう。何もしないだろうけどね」

ターニャの上司は、書類を書き終えるとインクが乾くのを待っていた。

椅子の背もたれに体を預け、息を長く吐いていた。

「ふぅ~、今日の仕事も全然減らないね。忙しくて困るよ」

ターニャ――タニヤのスイーパー時の名前だ。

もし、ライエルが確保している元聖女たちを誘拐、あるいは殺害を命じられれば即座に動いただろう。

だが、上司は違った。

「こちらに保護を求めてきた訳でもない。協力を申し出てくるのは……来るかな? まぁ、依頼なら適正に処理をしようじゃないか」

興味がないようだった。むしろ、大きな影響はないと考えているようだ。

「宜しいのですか? 事が大きく、またはギルドの利益にならない場合が」

「ないね。それに、傭兵を抱えている南支部だって、普段から依頼は沢山来る。それに、稼げる場所はザインとロルフィスだけではないよ。既に傭兵たちは動いている。国境では早くも小競り合いが始まりそうだ。物資も売れているね。中には貯め込んでいた希少金属を売って儲けた連中もいるようだよ。まったく、冒険者がなにをやっているのか」

上司の男は、冒険者が商人のようなことをするのが嫌いなようだ。

(アルバーノたちか。前に希少金属になった鉄を迷宮で発見したと聞いていたけど)

考え込むターニャに、全体として大きな問題はないと上司が告げた。

「ターニャ、私たちは東支部の人間だ。ギルドの利益も大事だが、もっと足下を見ようじゃないか。冒険者たちが早々に戻ってこないと我々のギルドは依頼でパンクしてしまいそうだ。迷宮が見つかっても冒険者を送れない。不味いよね? それにね、ギルドは魔石を稼いでこそ、だよ」

戦争ではあまり魔石が稼げないと、上司が溜息を吐いていた。

ターニャは、どうやらライエルたちに対して行動を起こさなくて済みそうだと、内心で安堵した。

上司は。

「むしろ恩を売っておきたいね。はやく戦争を終わらせたい。そうしないと、他の支部にまた仕事をしていないと言われそうだよ」

冗談を言う上司を前に、ターニャは報告を終えて部屋を出ようとした。だが、呼び止められた。

「ターニャ、恩を売れるなら売りなさい。優秀な冒険者は手放したくないからね。ま、ギルドに不利益が出ない程度で、ね」

試すような上司を見て、一礼するとターニャは部屋を出るのだった。

(私を試しているのかしら?)

タニヤに戻り、部屋の外でそう感じるのだった――。

ノウェムたちが探し出した屋敷で、俺は情報屋のラウノさんから報告を受けた。

無精髭ではなく、酒も飲んでいないので別人のように見える。

「さて、これが調べたザインの状況だ」

報告書に目を通すと、俺は頷いた。

(ガストーネさんやセルマさんの報告とほとんど同じだな)

ラウノさんの腕が優秀だと証明も出来たところで、俺は次の依頼をするのだった。

「報告書はあとでゆっくり読みます。それと、次の依頼です」

「……次? ロルフィスの現状は、ミランダちゃんに伝えているんだが?」

ロルフィス。想像以上に爆弾を抱えており、俺は利用するのをためらってしまった。一言で言うと、酷い。

ザインよりも酷い。

アレットさんが苦労体質なのも納得してしまうくらい酷い。あり得ない。

「いえ、次はセルバで情報を集めて貰います」

「セルバ? 一番動きがないと思うが? 静観の構えだぜ。まぁ、不気味すぎると言えば不気味だが」

ラウノさんも怪しいとは思っているようだ。

宝玉内からは四代目の声がした。

『ロルフィスは王女が実際一人だけだよね。その子と婚約している王子がいて、なんで助けようともしないのか……それに、ガストーネの話だと、現聖女様はセルバ出身だよね。これで、今回の参加者の面子が揃うね!』

五代目の声が聞こえた。

『ロルフィスとザイン、それにセルバ……何を考えているんだろうな。俺としては、セルバ黒幕説を推したい』

七代目が笑いながら。

『いやいや、ザインの聖女がセルバに働きかけている可能性もあります』

六代は。

『二国の自作自演かも知れませんな。ロルフィスを叩いて引き上げ、セルバはそのまま救援に入るフリをして国に入って乗っ取りかける可能性があります』

三代目が。

『え~、それなら何もしないで婚約者の王子様を送り込めば終わりだよ。僕としては、ギルド黒幕説が面白そうかな。この周辺の戦争は、全てギルドが裏で暗躍していたんだ!』

真剣な声を出す三代目に、歴代当主たちは。

『ハハハ、それいいね』

『まぁ、儲かるから裏で手を回すくらいはやるだろうな』

『五代目、それは商人です。ギルドはまた違うでしょう』

『同じようなものですがね。魔石を扱う商人ですよ。でも、まぁ……』

歴代当主たちの意見がまとまる。

その意見に関しては、俺も同意したい。

三代目が、みなの心の声を代弁した。

『ロルフィスの王女様だけは、黒幕説はないね』

俺は溜息を吐くと、ラウノさんが俺の顔を見て。

「どうした? ロルフィスよりは頭の痛くなる内容だとは思わないが?」

「いや、比べるところが低すぎですから。ザインも十分におかしい国ですから」

俺がそう言うと、三代目が笑いながら。

『ライエルは馬鹿だね。まともな国なんかこの世にないよ。どこかみんなおかしいもん』

それを聞いて、歴代当主たちは笑っているのだった。

(本当に頭が痛い……)