軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

情報屋のラウノ

「ここか」

ミランダに連れられて訪れた場所は、ベイムの表通りではなかった。

夜になれば騒がしくなりそうだが、昼間ではまるで人通りが少なく活気が感じられない場所である。

ミランダの後ろを歩き、そしてある建物に入ると少女が俺たちを出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。あ、ミランダさん。今日は妹さんと一緒ではないんですか?」

可愛らしい少女だが、少し大人びているような落ち着きを感じる。

(ノームかな)

そう思っていると、ミランダは。

「恋人よ。結婚を前提でお付き合いをしているの」

噴き出しそうになると、ノームの少女が顔を隠して両手を頬に当てていた。

誤解されてはいけないと、言い訳をしようとすれば――。

「この人が女の敵ですか。思っていたよりも優しそうでビックリです。あ、ラウノさんは奥の部屋ですよ」

ミランダは頷くと、少女に報酬を確認する。

「ありがとう、イニス。それで、報酬はいくらかしら?」

イニスと呼ばれたノームの少女は、ミランダに今回の依頼料を告げる。

「噂の確認だけですからね。確実な情報だけ、それと最近の噂なので――これくらいでどうでしょう?」

金額を提示してくると、少々高額に感じた。それは宝玉内の歴代当主も同じようで、四代目は。

『優秀でも、金額に似合わない働きしか出来ないならここに用はないよね。というか、明らかに人が多くないところみたいだ』

ラウノ、イニス、二人はいるだろうが、多くの人材を抱えているようには見えなかった。

ただ、ミランダは満足したように。

「いいわよ。帰りにイニスに渡すわ」

すると、イニスは笑顔になった。嬉しそうに。

「ありがとうございます。これで家賃が払えます」

後半、明らかにまずい言葉が聞こえてきたので、俺はミランダが認めた情報屋を疑ってしまった。

(本当に大丈夫なのかな?)

ミランダの後に続いて、俺は奥の部屋へと向かった。

部屋に入ると、ソファーの上に毛布をかぶって横になっている男性がいた。そして、酒臭かった。

テーブルの上には酒やつまみが乗っており、日が高いというのに眠っている。俺がミランダの顔に視線を向けた。

「腕は確かよ。期日も守るし、性格を除けば優秀ね」

すると、ミランダの声に反応したのか。

「性格が問題ありで悪かったな。なんだ? 今日は男連れなのか」

上半身を起こし、欠伸をしながら背伸びをする男性がラウノさんなのだろう。俺が挨拶をすると、テーブルの上を乱暴に片付けて座るように言ってくる。

ドアを開けてイニスが入ってきて、慌ててテーブルの上を拭いてお茶を用意した。

その間、ラウノさんは資料を持ってくる。

ミランダが資料を受け取るのだが、それを俺に手渡してきた。

「中身を見なくていいの?」

「ライエルが見た後に読むわ。先に読んで」

言われて資料を開くと、ラウノさんは眠そうにソファーに座って俺とミランダを交互に見ていた。

そして――。

「噂の冒険者がお客様か」

ミランダは目を細め、足を組んでラウノさんを見ていた。

「何か不満でも?」

「いや、不満なんかない。金払いの良い客は大事だからな。できれば、イニスにじゃなくて、俺に依頼料を払ってくれると助かるが」

ミランダは笑顔で首をかしげ。

「残念。イニスに渡す、って言ったわ」

「そうかい」

ラウノさんが少し残念そうにする中で、俺は資料に目を通して頷く。

(正確な情報を書き出している。不確定な情報は別で載っているな)

宝玉内からは、五代目が俺を通して資料見て。

『ロルフィスもザインも小さいな。というか、俺の時代の領地よりも小さいんだが?』

六代目は。

『この規模で万の軍勢を動かすとなると……厳しいはずです。何か画期的な方法でもあるのか?』

俺も資料を見るが、万の軍勢を動かす規模の領地には見えない。総力戦――男手を集めるだけ集めれば可能だろうが、それをすれば問題も出てくるはずだ。

(ザインはロルフィスよりも大きいが、ザインも万の軍勢を動かせるようには見えないな)

そして、資料は他の国の事も書かれている。

ベイム周辺の国は、どこもバンセイムに比べて小さい。小国が小競り合いをしながら、何百年も戦っている状況らしい。

すると、三代目が。

『……あ~、そうか。ベイムがあるからだ。冒険者の都、ここなら普段から傭兵や冒険者が大量に存在している。何か問題が起きれば、ベイムから傭兵団や冒険者が集まるんだよ』

七代目は、それを聞いて。

『意外とギルドが裏で手を引いて、上手くやっている可能性もありますね。それに、どこかが極端に大きくなるのを周辺も黙っては見ていない感じでしょうか』

この辺の国々には、そういった事情があると考えられた。

(なら、今度の戦争も茶番なのか?)

そう思って資料を見ていると、頭が痛くなってきた。

書かれていた内容は、想像していたよりも酷かった。

俺の表情を見て、ラウノさんが面白そうにしている。

「なんだ、ザインの内情でも知ってガッカリしたか? 世の中、そんな話がゴロゴロしているぞ」

俺は資料から、ラウノさんに視線を移す。

「ザインだけなら良いんですけどね。ロルフィスも酷ければ、周辺国の【セルバ】も怪しい。女傑のいる【ガレリア】に【ルソワース】……どこも戦争ばかりじゃないですか」

ラウノさんは笑いながら。

「大国バンセイムの元伯爵家の跡取りからすれば、こんなのは小競り合いだろうけどな。ま、大国とは違った事情があるんだよ。それに、ここは冒険者と商人の都だ。戦争で成り上がる奴も多いって事は、それだけ戦争がある、って事だ」

嫌な話を聞いたと思いながら、俺は資料をミランダに手渡した。ミランダが中身を確認するが、表情は変わらない。

衝撃を受けていないようだ。

ただ、宝玉内では、一気に歴代当主たちが騒ぎ始めている。

『何これ……酷すぎ』

『酷いというか、何をやっているのか』

『これ、一つか二つをまとめてもバンセイムに勝てないぞ。というか、戦える規模にもなってない』

『まとめ上げたとして、どれだけの兵が出せるか……どこか一つを手に入れ、周辺を平定するには時間がかかりますな』

『やるなら一気に治めてしまわないと駄目ですな。だが、それでも足りないとなると……やはり、バンセイムの周辺国にも動いて貰う必要がありますね』

確かにバンセイムは大国なのだが、俺の実家と比べても小さい上に発展していない。

戦争ばかりしており、発展が遅れている。

それと、何気にラウノさんが俺の事情を知っているような発言をした。

俺はミランダに視線を向けるが、ミランダは首を横に振った。

(俺の事を調べたのか)

噂の冒険者。俺たちの事をそう言った。つまり、既にある程度の情報は、出回っていると見るべきだろう。

七代目は。

『性格は問題だが、腕は悪くないと。繋がりを持っておいて損はないか』

俺は少し思案して。

「……追加でザインとロルフィスに関して調べて貰えますか?」

ラウノさんが真剣な表情で。

「何が知りたい? それ以上の情報となると、直接乗り込んで調べる事になる。依頼料だって高いぞ」

ミランダは、隣にいるが俺に意見をしてこない。全面的に任せるつもりなのだろう。

(それだけの腕がある情報屋、という感じかな。集めるだけではなくて、自分から仕入れにいける実力もあるみたいだ)

「自分で乗り込むんですか?」

俺がそうたずねると。肩を上下させたラウノさんは、冗談を言うように。

「ここには俺とイニスしかいないからな。ま、時間と金を貰えれば、それなりの情報は調べられるぜ」

宝玉内から、俺に調べて欲しいことを言ってくる。

俺はそれを聞きながら、ラウノさんに言うのだ。

「ならば、ザインの目的、それから備蓄や軍勢の規模、そして参加する傭兵団に冒険者の事を確認して貰います。同時に、ロルフィスに関しても同じです。それから、周辺国の様子も調べて貰えますか?」

ラウノさんが口を開け、しばらくすると首を横に振った。

「おい、まさか戦争に参加するつもりか? できなくはないが、それなりの大金を要求するぞ。それこそ、傭兵として参加しても、報酬より依頼料の方が高くなるぜ」

情報の質、そして量……それだけの価値がある事になる。

「出来ませんか?」

すると、ラウノさんは頭をかく。

「期間は?」

「しばらくはギルドで依頼をこなしていくつもりです。ここには人を残しておきますけど、一ヶ月でどこまで調べられますか?」

ラウノさんは一ヶ月と聞いて、難しい表情をした。物理的に不可能だが、それだけの期間でどれだけの事が出来るのか知りたくもある。

宝玉内から、六代目の声が聞こえてきた。

『ライエル、分かっていると思うが……こいつを信用するな。他の情報屋からも情報を集めるのを忘れるなよ』

宝玉を握ると、ラウノさんが口を開いた。

「備蓄や国内の状況を調べるのは出来る。だが、傭兵団や冒険者の集まりはすぐに変わる。俺が調べても、伝えたときには増えることもあれば減ることもあるぞ。ついでに、周辺国の状況までは無理だ」

俺は頷くと、依頼料を確認する。

移動費、その場所での宿泊費に食費といった必要経費と、報酬がラウノさんから提示される。

四代目が。

『う~ん、やっぱり少し高いな。でも、腕は良さそうだが、どこまでか分からないね』

俺は頷くと、ラウノさんに正式に依頼をする事にした。前金を払い、書類の手続きをした。俺とミランダはイニスに報酬を支払うと、建物を出るのだった。

宝玉内。

六代目に呼び出された俺は、戦斧――ハルバードを持たされていた。

「あの、俺の武器はサーベルなんですが?」

そう言って困っている俺に、六代目は呆れた様子で。

『アホか。戦場でサーベルを使い続けるつもりか? いや、お前は出来そうだな……だが、戦場で活躍する武器も必要だろうが』

戦場で活躍する。つまり、戦場で記憶に残る戦いをしなければいけない。

金属の全身鎧を身に纏った相手に、俺は数打ち品のサーベルで太刀打ち出来ない場合もあるだろう。

「そこは、初代の大剣とか、二代目の弓で」

六代目は「悪くない」と言いながらも、俺に戦斧を勧めてきた。

『初代の大剣もいいが、あれは魔力の消費が大きすぎる。二代目の弓は……なんというか、戦場の華ではないからな』

「あ~、確かに」

戦場では弓や魔法が活躍するが、防ぐ手段は当然だが用意されている。そして、活躍する時に目立つのは、やはり武器を持って直接戦う事だ。

矢で五人を仕留めるよりも、剣や槍で五人仕留めた方が記憶に残るのだ。

『選択肢を増やしておくのもいいだろう。扱いは分かるな?』

「基本は教えて貰っていますから」

そう言って構えると、六代目が俺の構えを見てアゴに手を当てる。

『様になっているな。さて、では突きから見せてくれ』

言われた通りにハルバードで突きを繰り出し、そして次には斧の部分で斬る動きをした。

他の動きも六代目が見ていた。一通りの動きが終わると、六代目は。

『悪くはない。だが、余裕がないな。型通りの動きだ。ま、少し経験を積めばそれなりになりそうだな』

経験と聞いて、俺は微妙な表情をした。

「まさか、このままいつものように戦うんですか? 手加減無しで?」

サーベルを持っているならまだしも、ハルバードではどうにも不安だった。

六代目は笑う。

『なんだ、不安か? 長物は悪くないぞ。リーチもあるからな。それに、ハルバードは突きも出来て斬ることもできる。馬上からでも使えるからな』

俺は構えると、六代目も構えた。

ハルバードを持って構えると、普段のサーベルとは違って違和感がある。六代目が突きを繰り出してくると、それを防ぐために払う。すると、次の瞬間には斧の部分が俺の腹に迫ってきた。

横に一閃。

飛び退くと距離を詰められ、防戦一方になる。

『どうした! サーベルのように器用に振り回してみないか!』

「流石にいきなりは――」

六代目の記憶の部屋。そこは屋敷の庭であった。地面を蹴る六代目によって、俺の顔には土がかかる。

目つぶしをされ、距離を取ると後ろに噴水があるのを、二代目のスキル【オール】で感知して止まる。

すると、六代目が問答無用で俺の顔目がけてハルバードを振り下ろしてきた。

――目を開けると、ハルバードの槍の部分が俺の目の前にある。

六代目がニヤリとすると。

『まだまだだな、ライエル』

ハルバードを引いて、片手で持って肩に担ぐ六代目は嬉しそうだった。

(得意なハルバードを教えているのが楽しいのかな? そう言えば、七代目が持っている武器は銃だもんな)

何度も蜂の巣にされたが、七代目は使う者が極端に少ない銃を好んで使用していた。

(というか、ウォルト家はなんでこんなに歴代当主の武器が違うんだ? 俺もサーベルだし)

父の影響でサーベルを扱っているが、初代から七代目まで武器は自由に選んでいる。代々受け継ぐ戦い方もなかった。

初代は大剣だ。

二代目は弓。

三代目が無難に剣。

四代目は短剣の二刀流。

五代目は蛇腹剣。

六代目はハルバード。

七代目は銃。

バリエーションにとんでいる。

『もう終わりか?』

そう聞いてくる六代目に、俺はハルバードを構えた。

「まだです。六代目からせめて一本は取らないと」

笑顔で言うと、六代目は最初は驚いたが、すぐに大笑いをしてハルバードを構えるのだった。

『その意気や良し! 気がすむまで相手をしてやろう!』

俺は、六代目に向かってハルバードを突き出した。