軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ペリドット

夜。

黄緑色の宝石を指に挟み、ランタンの光を宝石越しに見てみる。

「随分と大きいよな。しかも綺麗にカットされているし」

十センチ程度の宝石は、随分と綺麗だった。

時に、こうして迷宮から発掘される財宝は、奥に行かなくとも高価なものが手に入る事もある。

だが、それはとても希なことだった。

換金しなかった理由は、魔力のこもった宝石の扱いを決めかねていたからだ。高価であるのは間違いないが、いくらになるのか俺では判断出来ない。

宝石を見上げているのは、俺だけではない。

ポーターの前方部分にあるランタンの光を、見上げているのはシャノンだ。俺の隣で、俺が持っている宝石を見ている。

「それ、なんか凄く綺麗よね。魔力も凄く集まっているし、今まで見たことがないわ。ねぇ、頂戴」

「ハハハ、帰れ」

俺は宝石を懐にしまいこむと、腕を振り回して暴れるシャノンの頭部を押える。

すると、ノウェムが声をかけてきた。

「……ペリドットですね」

俺は振り返ると、いつからいたのかと首をかしげる。

シャノンは、ノウェムが近くにいると驚いて逃げ出した。

(あいつ、また仕事から逃げ出しているのか)

相変わらずのシャノンに呆れつつ、俺は懐からもう一度宝石を取り出した。

「見るか」

ノウェムに宝石を渡す。

受け取ったノウェムは、ソレを見て――。

「……地下一階にしては、随分と高価な宝石が出ましたね。古い迷宮ではないと聞いていましたが」

貯め込まれた財宝は、迷宮内で魔力を浴びて希少価値を増す。

魔力を目で見ることが出来るシャノンが、見たことがないと言ったのだからそれなりに価値はあるだろう。

(シャノンは、そっちの道もあるかも。鑑定士とか)

ノウェムは俺に宝石を手渡してくる。

「これをどうするおつもりですか?」

使い道を決めかねている俺は。

「考え中かな。これ一個あれば、このまま何もなくても黒字になりそうだし。何かに使えるかも知れないけど、調べるにしてもここだと目立つ」

ノウェムは俺に。

「……誰かに預けては?」

俺は首を横に振った。

「いや、高価だから俺が持つよ。置いておくのも気になるし、荷物にもならないから」

ノウェムは何か言いたそうにしたが、すぐに笑顔になると俺の意見に同意した。

迷宮討伐を開始して二日目。

今回は、ノウェムにクラーラ、そしてエヴァとメイを連れて迷宮に挑むことにした。

クラーラは連続の参加だが、サポートなので戦闘には参加して貰わない。

きついとは思うが、この程度で音を上げる訳でもないので頑張って貰う事にした。

迷宮に向かう途中、クラーラには声をかける。

「二日連続で悪いな」

すると、クラーラは。

「問題ありませんよ。ただ、一日交替は、その日の内に帰還するまで……大体、地下五階まででしょうね。そうなると、戻ってから再度迷宮に挑む場合は、慎重にメンバーを選ぶ必要がありますよ」

洞窟内。

地下二階へと足を踏み入れると、迷宮内の構造が大体分かってきた。

戦うには狭い通路。

寒く水のしたたる洞窟内。

地下へと降りても広さは変わらない迷宮。

各階にボスが存在していることは厄介だが、それ以外は難易度が低く比較的攻略のしやすい迷宮だ。

初日にして、既に地下三階までは探査が進んでいるのが現状である。

ボスが再び出現しないこともあって、主要メンバーが本格的に攻略を開始するとそこからは早いかも知れない。

「アレットさん次第かな。でも、どこかで大きく変化するタイプの迷宮もあるらしいから、その辺は慎重に進むらしいけど」

迷宮に関しては分かっていないことが多い。

普段の肌寒そうな恰好の上に、コートを羽織っているメイは頭の後ろで手を組んで歩いていた。

「……僕なら一日もあれば、すぐに潰せるんだけど?」

強力な麒麟という生き物であるメイにとって、この程度の迷宮は簡単に突破出来るようだ。

だが、それをされても困るので、今回は我慢して貰う事にしている。

「我慢しろよ。すぐに討伐されても騒がしいからな。地下五階以降は、ゆっくり慎重に進むらしいから、俺たちも同じようにゆっくり進むんだよ」

悪目立ちしたくないというよりも、ベイムの冒険者たちがどのように仕事をしているのか探る目的もあった。

エヴァは短弓を後ろ腰の筒にしまい、短剣を装備して前を歩いている。

森とは勝手が違うのか、ブツブツと文句を言っていた。

「暗いし、それに歩きにくいし、寒いし……私、ここ嫌い」

(森も暗いし、歩きにくいんだけどなぁ)

それでも前衛としての仕事はこなしていた。

スキル【マップ】と【サーチ】で、周辺の状況を確認しながら進んでいるのだが、冒険者パーティーがいくつも降りてきている。

ただ、やはり本格的に泊まり込んで、というのはまだないようだ。

ノウェムが。

「三日目になれば、主要メンバーが各階層のボスを攻略するでしょうね。そのままの勢いで、地下五階までを解放したいそうですけど」

地下五階までを開放すれば、連れてきた冒険者たちも迷宮内に入るのだ。

運が良ければ、迷宮が排出した財宝を得られるかも知れない。

もっとも、地下二階を歩いている俺からすれば、もう財宝など取り尽くされているように感じた。

(初日のような幸運は続かないか)

魔物にしても、数が大きく減っているように感じた。

冒険者たちが、遊ぶ金欲しさに倒して回っているのだろう。

「今日は地下三階まで降りて、状況を確認するか。明日になれば、アレットさんたちがボスに挑むだろうし、その下調べをしておきたい」

財宝などに興味が薄いアレットさんだが、こだわっているものもある。

それはボスとの戦闘だ。

迷宮内で戦うのもそうだが、アレットさんたちは戦闘に関しては妥協していない様子だった。

ボスに挑むなら自分たちが、という主張である。

代わりに、それ以外に関してはある程度の自由を認めている。

赤字にさえならなければ、アレットさんたちは問題にならないという考えだ。

元から冒険者ではなく、期間限定の冒険者であるのも大きな理由だろう。

マップで周囲を確認しながら歩いて行くと、すぐに地下へ続く階段が見えてくる。

そのまま五人で階段を降りると――。

「……これはまた」

先行しているアルバーノさんたちの他にも、戦闘力のあるパーティーが派手に暴れ回っていた。

魔物たちを相手に戦っている。

耳を澄ませば、近くで戦闘をしている事もあって音が聞こえてきた。

爆発音がすると、魔法を使用したのかと少し焦る。

エヴァが、嫌そうな表情をして。

「……ねぇ、こんな狭い場所で魔法を使われると危険よね?」

自分たちが巻き込まれないか、心配しているようだ。

メイは気にした様子がない。

「防げば良いじゃないか。それより、パーっと行ってパーっと倒して終わらない? 僕、今日の夕飯はお肉だから早く戻りたいんだ」

ノウェムは、二人に注意をする。

「ある程度は気を付けてくれるはずです。こちらも近付かないようにしましょう。それと、戻っても夕飯は出て来ませんよ、メイさん」

ノウェムには逆らわない二人は、返事をして通路を進んでいく。

クラーラは、ソレを見て。

「ノウェムさん、亜人種には特別に好かれますね」

言われて俺も思い出す。

(そう言えば、グリフォン退治の時にドワーフとノームにやたら気に入られていたような……いや、気のせいなのか?)

オートマトンであるモニカには敵意を向けられたノウェムだが、亜人種には好感を抱かれやすい。

(ま、ノウェムは優しいから……それだけだよな?)

気になってしまった俺は、頭を振って先へと進む。

二日目も無事に戻り、換金を済ませると俺は仲間の下に戻る途中だった。

日に日に大きくなる街を見て、本当に街を作るつもりなのかと思えてくる。

テントが減り、建物が増えてきた。

出店が増え、活気が増している。

外に出た俺は、その光景を見て呟く。

「これ、魔法使いの村そのものだね」

クラーラは、俺の言葉に頷くのだった。

「そうですね」

すると、エヴァが。

「あ、それ私も知っているわ」

ノウェムも頷くが、一人だけ……メイが不思議そうにしている。

「何よ、その魔法使いの村、って」

すると、宝玉から五代目の声がした。

『ライエル、ここはメイに教えてやるべきじゃないか? 親切丁寧に教えてやれ』

六代目が嫌味を言う。

『本当に動物に優しいですな』

俺が説明をしようとすると、ノウェムとエヴァが既に動いていた。

ノウェムが、簡単に説明をする。

「昔、魔法使いが村を駄目にして滅ぼしたお話ですよ」

エヴァは少し呆れながら。

「魔法で全てを解決して、善意が村を滅ぼしたのよね」

メイはそれを聞いて、なんとなく理解したようだ。

「あぁ、そういう事か。魔法を使える人と、使えない人……そうやって分けているよね、人間は。僕から言わせて貰うと、みんな魔法を使用しているんだけど」

賑やかな街を歩きながら、俺たちは仲間の下を目指している。

クラーラが、細かい内容をメイに教える。

「貧しい村に一人の魔法使いが訪れたのが始まりですね。彼は、魔法で魔物を退け、村人に感謝されるんです。そして、魔法使いは村人たちのために魔法を使おうと村に住み着くんですよ」

戒めのための話だ。

クラーラは続ける。

「村人たちも最初は喜びました。魔法使いは村のために魔法を使用します。でも、農具を作り出したことで職人たちが村を出るんです」

理由は、農具の製造から修理を、魔法使いが一人でそれらを行なったから。

それでは、職人たちは食べていけなかったのだ。

「次に、魔法で村を豊かにします。毎年豊作で、そして魔法で鉄や銀、そして金を作り出しました。村人たちは働かなくなりました」

どれだけ頑張っても、どれだけ手を抜いても毎年豊作では働く意欲がなくなる。そして、村が豊かになって税もなくなってしまった。

「やがて、村人たちは増えて村も大きくなります。それこそ、街ができてしまうんですよ。ただ、大きくなりすぎた村を維持するのに、魔法使い一人ではとても足りなかったんです」

管理出来ないくらいに大きくなった村だが、村人たちは贅沢を覚えて魔法使いに頼ってしまった。

魔法使いが、全てをするのは当然と思うようになってしまったのだ。

「魔法使いは毎日のようにヘトヘトまで村のために頑張りますが、村人たちは足りないと文句を言います。そして、魔法使いは倒れて帰らぬ人になります。そこからが問題でした。今まで魔法使いに頼っていた村人たちは、裕福で傲慢になってしまっていたんです」

メイは呆れながら言うのだ。

「元の暮らしに戻れば良いのに」

それが出来れば苦労はしない。

生活の質を落とすというのは、結構難しいものだ。

というか、俺なんかノウェムに迷惑をかけて大変だった。

クラーラは、その話の最後を語る。

「職人もいない。収穫は大幅に減り、そしてまともに働く人々はほとんどいません。税も払えず、村はすぐに貧しくなります。そして――」

メイは大体を察したようだ。

「――村人たちは絶望の中で、そのまま村ごと滅んでしまいました。賊や魔物に滅ぼされるでもなく、助けを求めるでもなく。ただ、村と共に滅んだんです」

少し考えれば、贅沢を覚えて傲慢になった村を周囲は助けなかったのだろう。

色々と理由はあるが、この教訓は――。

「つまり、急激な発展についていけなかった、という事よ。魔法で豊かになって、その魔法がなくなると滅んでしまうわけ。善意が必ずしも良いこととは限らないし、魔法はしっかりと考えて使おう、って話よね」

常に善良な魔法使いがいるわけでもない。

エヴァが最後にしめると、クラーラは少し不満そうだった。

(……エヴァの奴、良いところを持って行きやがった)

本人には自覚がないのか、メイと楽しそうに話をしている。

宝玉内から、四代目の声がする。

『ライエル、男は黙ってフォローに回るんだ』

俺はクラーラに声をかけた。

「なぁ、クラーラは、魔法使いの村が何を言いたいんだと思う? 俺の立場だと、統治する際の注意事項に感じるんだけど」

今では領主の跡取りではないが、どうしてもそういう風に考えてしまう。

クラーラは、俺の言葉を聞いて。

「それも正しいと思いますよ。村人の視点から見れば、便利なものに頼りすぎないとか、お礼の気持ちを忘れてはいけない、とも考えられます。ただ……」

「ただ?」

「……私は、しょせん魔法は幻なのかも知れないと、そう感じる時があります」

読み手によって感じるものが違う本など、いくらでもある。

そんな中で、クラーラは魔法が幻のようなものに感じているようだ。

歩きながら、ノウェムが。

「神の恩恵ですね。魔法もスキルも、最後の女神の贈り物。本来なら、そういったものは必要なかったのでしょうけど」

俺が振り向くと、ノウェムは微笑んでいた。

だが、俺には少しだけ悲しそうに見えるのだった。

――迷宮地下四階。

そこに足を踏み入れたのは、アルバーノたちであった。

迷宮討伐を開始して三日目。

地下四階のボスを倒し、先に進んだアルバーノたちの後からアレットたちが現われる。

戦闘後であるのに、疲れを見せない騎士たちを見てアルバーノは口笛を吹いた。

「そんな重そうな鎧を着て、ボス退治とは姉御たちはもの好きだね」

軽い口調のアルバーノに、兜を脱いだアレットは表情を変えずに冗談で返す。

「騎士の鎧は裸と同じだ。興奮したか、アルバーノ」

そう言うと、アルバーノは大笑いする。

「クレートの野郎と一緒にするなよ、姉御! さて、このままこの階層のボスまで道案内が必要かい?」

アレットは、周囲のメンバーを見る。

「……そうだな。私たちが休憩出来る部屋を探してくれ。お前たちがボスを発見すれば、教えて貰おう。魔物退治で苦戦するようなら、部下たちに処理させてもいい」

アルバーノたちに場所を探せと行っているのだが、アルバーノたちは笑っていた。

両者にとって、その方が都合は良かったからだ。

アレットたちが同行し、魔物を倒して宝箱を見つければ取り分は半々になってしまう。

それでは、アルバーノたちに旨味がない。

「いいね。やっぱり姉御とは良い関係でいられそうだ。見つけた宝は俺たちのもの、って事でいいんだな」

アレットは少し呆れつつ。

「少しは他の連中にも残してやれ。全てを奪えば、不満がお前たちに向いたままだぞ。ま、私たちの目的は財宝ではなく、戦闘だからな。見つけたらお前たちが好きにするといい。ただ、最奥の間の財宝は持って行くがね」

自分たちが最奥の間のボスを倒すつもりでいるアレットたちだが、それだけの実力も持っていた。

アルバーノたちは、ここまでアレットたちと行動を共にしていたので疲れていなかった。歩き出すと、手を振ってくる。

「あぁ、俺たちだと無理だし、それまで宝箱でもあさって稼がせて貰うさ。なんなら、最奥の間の前にトラップでも仕掛けてやろうか。邪魔が入らないようにしてやるぜ」

アレットは、アルバーノの冗談に笑う。

「必要ない。私たちを出し抜けるパーティーがいるなら大歓迎だ。むしろ、我々より先にボスを倒して欲しいくらいだよ。では、頼むぞ」

「任せとけ!」

アルバーノたちは駆け出すと、すぐに姿が見えなくなった。

騎士の一人が、アレットに確認を取る。

「いいのですか、隊長? あいつらは元盗賊という噂です」

アレットは笑みを浮かべて、部下である騎士を見た。

「だからどうした? 迷宮討伐という目的にはアルバーノたちは必要だ。だから利用する。それでいいじゃないか。それに、ベイムは祖国ではない。犯罪者を取り締まる権限はないからな」

騎士は不満そうだ。元盗賊のアルバーノたちを嫌っているのだろう。

アレットはそんな部下に。

「高潔なことは良いことだ。だが、もう少しだけ柔軟になれ」

騎士はアレットに確認を取る。

「アレット隊長は、アルバーノを引き抜くつもりですか?」

アレットたちの目的。

それは、人材の登用でもある。騎士団だけではなく、優秀な人材を祖国に連れ帰るという目的がアレットたちにはあった。

だが――。

「ベイムでは仲良くしたいさ。ただ、ベイムでは、だ。クレートでは頭が堅いから使えない。マリーナは一匹狼だからな。未だにコレ、という人材は見つかっていないのが残念ではあるが、アルバーノたちはないな」

優秀だが、問題があるために気が抜けないのである。そして、貪欲過ぎて、周囲と問題を起こしているのがアルバーノたちでもあった。

次期主力である騎士団の面子を鍛えるために、ベイムに来ていた。

それは、アレットの祖国の伝統でもあった。

周囲には強大な敵国があり、気が抜けない状況である。

力を欲した結果、騎士たちが冒険者として経験を積むというのがアレットたちの祖国が出した結論だった。

貴族である部下たちを鍛え、精鋭にするのがアレットの仕事でもある。

(さて、今回は面白い人材は出てくるかな)

期待するアレットは、一人だけ思い浮かんだ人物がいた。