軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

周囲

森の中を進む俺は、後ろにノウェムとエヴァを連れている。

ミランダとアリア、そしてクラーラのグループと別で動き、グレーウルフたちを仕留めて回っていた。

少数のグループが、森の中に点在しているのである。

もっとも、ミランダたちとはそこまで距離を取っている訳でもない。時々、魔法で光を発生させて互いに連絡を取り合っている。

簡単に自分たちと、相手の位置を確認し合っているだけだが。

(こういった手段でのやり取りは、もっと打ち合わせした方が良いかな)

敵に気づかれる場合もあるので、あまり使いたくなかった。だが、俺が率いれば、ミランダやアリアの成長を邪魔してしまう。

それに、少数で離れて行動するやり方も試しておきたかった。

森の中を歩くと、足元はデコボコしていた。木々の枝に腰まで伸びた草が邪魔である。

短剣を取り出して払いながら進むが、相手はその音を聞いて集まってくる。

楽は楽なのだが、場所が悪い。

以前は、絶対にこんな場所で戦おうとはしなかった。

「はぁ、休憩だ。ノウェム」

俺がノウェムを見ると、ノウェムが杖を掲げて魔法で光を作る。何度か点滅させると、クラーラがそれに反応して光を発して応えてきた。

ミランダたちが戻ってくると、俺は手頃な場所を探して休憩を取る事にした。

ミランダたちも、森の中で苦戦しているのか移動速度が遅い。

あえて森の中で戦う事を選択したのは、これが経験になると思ったからだ。同時に、エヴァの存在もある。

元は森で生活もしていたのか、エヴァは森に適正があったのだ。

俺たちが進みにくい森の中を、どんどん先に進める。周囲の音や臭いにも敏感で、敵の発見が早かった。

それに、魔法に加えて短剣や短弓を扱える。

それでも本人は「本当に森の中を移動して生活している同族と比べると、まだまだだけどね」などと言っていた。

(俺、森の中で絶対にエルフと喧嘩しないでおこう)

そう思いつつ、俺はエヴァを見た。

「どうだ。敵は見つかったか?」

グレーウルフの討伐を依頼されたが、見つかるのがグレーウルフだけとは限らない。

既に数回は、オークやゴブリンとも遭遇している。

近づいてきた敵に構えを取ると、エヴァが矢を放っていた事もある。

「いないけど、私に聞く必要あるの? ライエル、なんかどこに敵がいて、どこが危ないか分かってない?」

鋭い指摘であるが、俺は――。

「いや、俺はそういうスキルを持っている、って説明したぞ」

エヴァは納得がいかないようだ。

「じゃあ、なんでこんな意味のない行動をするのよ! さっさと見つけて倒して回ればいいじゃない! 常にスキルが使えないから、魔力でも節約しているかと思って損したわ」

無茶を言うなと思いながら、俺は説明する。

「お前と違って、俺たちは森になれてないの。この機会になれるために、二日は普通に入ろう、って話しただろうが」

エヴァのように普通に歩くこともできない。そんな状況で、俺がスキルを使用してさっさと依頼されたグレーウルフだけを倒しても勿体ない。

「それに、俺の目的はセレスを倒す事だ。今は少しでも経験が欲しい。同じ事を繰り返しても得られるが、環境の変化や新しい体験は経験の入手量が違うと聞いた」

もちろん、歴代当主に、である。

今は会えなくなった二代目が、こうした事に詳しかった。

俺はその時の知識を利用し、同じ事を繰り返すよりも様々な経験をした方が効率は良いと考えている。

むろん、迷宮に潜って魔物を倒し続けるのも手だ。

色んな経験はできるが、移動時間がもったいないというデメリットもある。

「エヴァさん、朝から眠そうにしていましたけど、聞いていませんでしたね?」

ノウェムが言うと、エヴァはノウェムにしがみついて。

「許してよ、ノウェム。それに、昨日は歌を歌ったら村の人が集まってくれたの。私の歌を聴いて貰えたの!」

甘えるようにノウェムに言うエヴァを見て、俺は溜息を吐いた。

夜更かしの原因は知っていたし、俺はその時には起きていた。

宝玉内で何度も七代目に蜂の巣にされていたからだ。孫に甘いと思っていたが、死にはしないと言って攻撃の手を緩めなかった。

どの歴代当主も、ハッキリ言って俺より強い。

単純な力だけではなく、自分のスタイルを持っているのだ。

剣もそうだ。三代目に勝てない。

三代目と比べ、剣術の技量差が劣っているとは思えない。だが、戦えば俺が負けるのは、それだけ積み上げてきた技量の差以上の何かを三代目が持っているからだ。

それに、やはりスキルの使い方が上手い。

自分で発現させたスキルを、十分に使いこなしている。

俺が周囲に近づく反応を察知し、立ち上がってサーベルの柄を握ると――。

「お、角付き兎ね。貰った!」

弓矢を構えたエヴァによって、角付き兎がこちらに近づいてこうようと顔を出したところで矢が急所に突き刺さる。

『……俺、エルフは嫌いだ』

宝玉内から五代目の恨めしい声が聞こえてくるが、無視してエヴァを見た。

森に入ってから、エヴァの動きが違って見える。

「森に入ると強くなるのか? というか、凄い腕だな」

小さな弓なのだが、威力もあってエヴァは使いこなしている。

「別に変わらないわよ。でも、森に入ることも多かったし、元は森から出たエルフの一族だからね。弓とか装備も、やっぱり特化しているのよ」

自慢気に言ってくるので、俺は――。

「その割に、歌を歌うときの衣装は薄着で派手だよな? 露出が趣味なのか?」

すると、ようやく近づいて来たミランダたちが合流したので、エヴァは俺に文句を言いながら仕留めた獲物の回収へと向かう。

「客入りが違うのよ! ライエルに言われたくはあ、り、ま、せ、ん!」

舌を出してヒョイヒョイと森の中を移動するエヴァを見て、泥だらけのアリアが。

「エルフ、って森に入ると元気よね。羨ましい」

どうやら、森の中に入ってから転んだようだ。

クラーラは、荷物からタオルを取り出して魔法で水を出して濡らすとアリアに手渡した。

受け取ったアリアは、装備を地面に置いて体を拭き始める。

ノウェムが周辺の警戒に当たっており、俺たちの輪から少し離れた位置にいた。

ミランダが、自分たちの成果を報告する。

「ゴブリンが三体、グレーウルフは六体ね。多いとは思うけど、やっぱり見つけるのも苦労するわ。急に襲われそうになった時は焦ったし」

慣れない環境には、流石のミランダも苦労していた。

現時点で目的は達成しているが、しばらくはこのまま森の中で経験を積むことにした。

角付き兎を手に持ったエヴァが近づいてくると、アリアを見て――。

「何、転んだの?」

クスクスと笑っていた。

「五月蝿いわね! 私はあんたと違って、森で育った訳じゃないのよ!」

俺はアリアの普段の振る舞い、そして裸を見られても気にしない精神。アリアは森の中でもすぐになれるのではないか? そう思えてきた。

エヴァは両肩を上下させ、少し呆れながら獲物を地面に置いて腰からナイフを取り出す。

「どうせエルフですよ。さて、ここでさばくわね」

鼻歌を歌いながら、角付き兎をさばき始めるエヴァ。

宝玉からは悲痛な五代目の叫び声と、呆れた三代目の声がする。

『この女嫌いだぁぁぁ!』

『僕は、角付き兎を可愛いとか言う五代目が嫌いだけどね。まったく、小さな子供みたいな麒麟に惚れられるだけあるよ』

皮肉がこもっている三代目の意見に頷きたいのを我慢して、俺はミランダたちの素材を見た。

はぎ取られた素材や魔石は、状態が良いものもあれば、悪いものもある。仕留めるときミスでもしたのだろう。

(ま、稼ぎの方は、今回はどうでもいいか。今は、少しでも経験を積めれば良いし)

休憩をこまめにとって、森の中を移動する俺たち。

すると。

「ねぇ、どうせ距離を取るなら、ライエルのスキルを試しましょうよ。コネクション、だったかしら? あれ、私に使ってみない?」

ミランダの急な意見に、アリアが噴き出した。

「な、何を言うのよ! キスよ、キス! しかも大人の!」

狼狽するアリアと、少し顔を赤くして眼鏡をかけ直すクラーラ。

ノウェムは、俺の方を気にしているのか何度か視線を向けている。

エヴァは、そんなノウェムを見て。

「……使う必要あるの? 試してないのに? あんまり森の中を舐めると、痛い目に遭うわよ」

ミランダに牽制していた。

宝玉から四代目が。

『ま、人間、三人以上いれば派閥ができるからね。いや~、ここからがライエルの腕の見せ所だよ。ガンバ!』

(アドバイス寄越せよ! なんだよ、こういう時に助言をくれよ!)

宝玉を握り、指先で転がして助言を催促すると三代目から順に。

『僕、奥さんは一人だったし、分かんないや』

『同じく。複数とか、ちょっと良く分からないです』

『何もするな、以上』

『……俺、上手くいかなかったし、助言は無理だな』

『わし、ゼノア一筋だったから』

役に立たない歴代当主たち。

その場の空気がギスギスすると、ミランダが笑顔で。

「じゃあ、戻ったら試しましょうよ。私ならいつでもいいわよ」

そう言ってきた。

座っている俺に視線を合わせるために、前屈みになり笑顔を向けてくる。

「い、いや、その! お、俺はあんまり経験がないし……」

視線を逸らして立ち上がって距離を取ると、クラーラが。

「麒麟にキスをしようとしたのに、ですか?」

数日過ぎたが、未だに仲間内で俺はキスをしようとして麒麟を怒らせた変態扱いを受けている。

そして、俺は――。

「……ノウェム、休憩に入れ。俺が見張りをする」

――その場から逃げ出した。

舌打ちと「逃げたわね」などという声が聞こえたが、無視してノウェムと見張りを交代した。

「では、お願いしますね」

「あぁ」

笑顔でお礼を言って、仲間の輪に戻るノウェム。だが、俺が離れると会話はポツポツと聞こえてくるだけだった。

宝玉内から、三代目のつまらなさそうな声がする。

『ちぇっ、もう少し粘って僕たちを楽しませてくれても良くない?』

(なんで俺が、お前らを楽しませる必要があるんだよ!)

腹立たしいのを我慢して、周囲の警戒にスキルを使用する。

練習のために、普段より遠くを確認する事に。

周囲の地図が頭に浮かび上がり、赤い光点がいくつも表示される。

(グレーウルフは、まだいるな。森の奥にいけば、少し大きな群れがいるみたいだ。こっちに来てくれると楽なんだけど)

そう思っていると、黄色や赤、そして時折青に点滅する複雑な点を発見する。

俺はそちらの方向に視線を向けると、相手はすぐに距離を取った。

背中を嫌な汗が流れ、俺は相手が離れたことに少しだけ安心する。

「……追いかけて来たのか」

その反応は、間違いなく麒麟――メイ――のものであった。

「今日の晩ご飯はチキン野郎が大好きな鶏肉を使用し、シチューにしようと思います。さて、助手のシャノンさん、材料をちゃんと切りましたか?」

村にある冒険者や旅人が寝泊まりする建物で、モニカはシャノンと共にライエルたちが戻ってくるまでに料理の支度をしていた。

シャノンが森に入れば、足手まといである。そして、本人もそれを理解し、入りたくないので言い訳に利用していた。

だが、何もしないという事にはならない。

モニカの下で、戻ってくる仲間のために掃除や料理の支度をするのだ。

「あんた、普段はシャノン、って呼び捨てか小娘扱いなのに、どうして助手になるとさんをつけるの?」

「ふっ、様式美という奴ですよ。さて、材料は……この小娘ぇぇぇ!!」

モニカは、シャノンが切った野菜などを見て、大声で怒鳴る。

「な、何よ! 良いじゃない! 可愛いじゃない!」

シャノンの切った野菜は、なんと大部分が失われて星やハート型になっていた。

だが、包丁で削るように形を作ったのか、歪な形になっている。

「いいですか、そういった形を作るときは型を使用するんです! 形はともかく、残った部分を捨てるなど……ま、細かく刻んで入れてしまいましょう。いいですか、せっかく作ったのですから、鍋に入れるときは優しくいれるのですよ」

ここでシャノンが作った星やハート型の野菜を壊さないのは、モニカなりの優しさだった。

「任せてよ。これ、食べた人は当たりよね」

「賞品がないのか、それともその形の野菜が当たりなのか……さて、では下準備を」

シャノンが材料を鍋に放り込もうとすると、またしてもモニカが。

「このドアホがぁぁぁ!! お前は料理をなんだと思っている!!」

「だって、私は普段は皿洗いとか、皮むきしかしてないもん! もう手伝ったから良いじゃない!」

ツインテールを振り乱し、シャノンに説教をするモニカは激怒していた。

「そんな貴方に料理を教えるのが、チキン野郎の命令です! このモニカ、チキン野郎の命令は最大限の努力と、そして最高の結果を用意するのが使命! 家事を叩き込んで、完璧になるまで鬼と呼ばれる覚悟で事に当たります」

決意表明をするモニカを見て、シャノンは嫌そうにしている。

そして、シャノンはモニカの後ろを見た。

そこには、村の若者――というよりも、十二歳か十三歳か。少年たちが、建物の横に止めてあるポーターを見ていた。

覗いているだけかと思ったが、どうやら違うらしい。

「あんたたち、何してんのよ!」

シャノンが大声を出すと、少年たちは驚いて逃げ出してしまう。

モニカは溜息を吐くと、料理を再開する。

「いいの? あいつら、なんか盗みに来てたわよ」

モニカは料理の下ごしらえをしながら、シャノンに言うのだ。

「ポーターの荷台のドアは閉めてあります。開けられませんよ。それにしても、いったい何を盗みに来たのか……まさか、私の自作中である目立たないメイド服!」

シャノンは、こいつ本気なのかと、ドン引きした表情で言った。

「いや、メイド服から離れればすぐに解決するじゃない。何よ、目立たないメイド服、って。メイド服が目立つから意味ないわよ」

手伝いを再開するシャノンだが、目で周囲を見るとまた近くに来た少年たちを見つける。

隠れているつもりだろうが、シャノンにはハッキリと見えていた。

そして、こちらにあまり宜しくない感情を抱いているのも理解する。

妬み、恐れ、そして侮り。

「なんか、歓迎されてないわね」

シャノンがそう言うと、モニカは――。

「手を止めている理由がソレですか? しっかり働かなければ、ミランダに報告させていただきます」

「あんた卑怯よ! オートマトン、ってなんでそんなに卑怯なのよ!」

モニカは鼻で笑う。

「はっ! チキン野郎以外にどう思われようと、私は構わないんですよ。卑怯? 褒め言葉ですがなにか?」

楽しそうに料理をするモニカとシャノンだが、時折モニカは周囲を警戒していた。