軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十一話 提案

第六十一話 提案

とんでもない事をシルベスタ卿が言い出したわけだが、彼女の事だ。言い方がアレなだけで、別の意味があるのだろう。

「そんな、リゼ!」

「落ち着いてください、クリスさ」

「戴冠式での事に力不足を感じ、今までのバトルスタイルを捨て新しい戦い方を知りたいと、銃器に詳しいクロノ殿の力を借りたいだなんて!そこまで思い詰めていたのか……」

「圧縮言語すぎません?」

え、もしかして今ので伝わるの?おかしいのは僕なの?

「……事前に打ち合わせとかしていました?」

「ううん。今初めて聞いたけど、なんとなく」

「親衛隊とクリス様って、ほぼ幼馴染っすからねー」

「全員、それぞれが何歳までおねしょしていたかまで知っていますよ」

なんだろう、この疎外感。

まあ、それはともかく。

「つまり、銃を使いたい……という事でよろしいのでしょうか」

「はい。剣と銃を同時に使うクロノ殿。そして、銃で剣や槍を相手に戦うストラトス家の兵士達。そこに、新しい可能性を感じました。ついでに、銃を使った戦い方を知ればそれ用の警備も考えられるので一石二鳥です」

拳をぐっと握り、無表情ながら力説するシルベスタ卿。

「……一応お聞きしますが、銃を使う事にプライドが傷ついたりは?」

「……?いえ。近衛騎士のプライドとは、護衛対象に危険を近づかせない事です。クロノ殿は、銃を使うとプライドが傷つくのですか?」

「いいえ。僕も貴女と同意見です。護衛対象ではなく、領地と領民の為ですが」

銃と言っても、所詮は武器の1つ。その本質は剣となんら変わらない。銃を卑怯と言う剣士がいたのなら、それはただの負け惜しみか精神攻撃したいかのどちらかだ。

親衛隊の、いいや近衛騎士の価値観を再認識し、小さく頷く。

「リゼが銃を使う事に抵抗がないのはわかったよ。でも本当に、あの時の事は気にしなくて良いんだからね?ボクは無事だったんだし……」

クリス様の言葉に、シルベスタ卿が首を横に振る。

「いいえ、クリス様。先程も言いましたが、我らの誇りは護衛対象に危険を近づかせない事。それが、あの時はできませんでした。クロノ殿に頼らなければ、御身をお守りする事もできなかった」

「リゼ……」

「ですが、ただ悔やんでいる暇はありません。私とあの場にいた他2名の親衛隊と反省会をして考えたのですが……あの時、我らも銃を持っていれば勝っていたのでは?と」

「まあ、でしょうね」

シルベスタ卿の言葉に、頷いて同意する。

カーラさんは強い。だが、その肉体強度は騎士レベルだ。

銃は絶対の武器ではないが、人が人を殺すのにこれ程適した武器はそうそうないだろう。

例えば散弾銃。純粋な破壊力なら自分の場合殴った方が強い。しかし、射程と速度は段違いである。特に速度は比べるのも馬鹿馬鹿しい。

音速の領域には、貴族でも反応しきれないのである。せいぜい、射手の手元や銃口を見るか、シンプルに頑丈さで耐えるしかできない。

その点、カーラさんにとって散弾銃は天敵とさえ言える。彼は暗殺者故か、まともな防具を身に着けていなかった。そして、手元や銃口を見て避けようにも散弾では逃げ場がない。

あの時は戴冠式だったし、今も公式の会議があったばかりなので携帯していないが……もしもあの日自分が銃を持っていたら、『例の注射』を使われる前に彼を殺せていただろう。

「私はあの時、初めての外側より内側が痛い打撃に動揺し、太刀筋が単純になっていました。それも並行して改善していくのは当たり前ですが、早急に他の手札も用意しなければなりません」

「あーしらが鍛えている間、敵が待ってくれるわけないっすからねー」

今度は、アリシアさんが深く頷く。

「その点、手っ取り早く強くなるならやっぱ銃っすね。城を奪還する時、驚いたっすよ。その辺の平民が、手持ちの武器で鎧を着た近衛騎士を殺せるんすもん。内心『マッジで~?』って思っていたっす」

彼女が、呆れの混じった笑顔で肩をすくめた。

訓練の時も思ったが、近衛の鎧は分厚く頑丈だ。クロスボウでも、平民が手で持って運べるサイズなら貫通する事はない。

まあ、実際はアリシアさんが言う程簡単ではなかったというか……ライフル弾を何発も食らってようやく倒れる近衛騎士の頑丈さには、驚かされたものである。

まあ、単純な話。

「あーしも思ったんすよ、『強い奴が強い武器を持ったらもっと強い』って。じゃあ近衛騎士が銃を装備して戦ったら、マジヤバじゃないっすか?」

「そういう事ですね。なので、お願いします。クロノ殿」

シルベスタ卿が、こちらに向き直り頭を下げてくる。

「顔を上げてください。僕としては特に断る理由もありません。元々、クリス様派閥の方々には銃を販売する予定でしたので」

「感謝します」

「ただ……どういう武器にしましょうか」

問題はそこである。

「シルベスタ卿は、どういう武器が得意とかってありますか?」

「片手剣、両手剣、片手棍、短槍ですね。一応、普通の槍やクロスボウも嗜んではいますが」

「主に室内で使いやすい武器ですか……」

「近衛騎士はだいたいそんな感じっすね!帝都守備隊の一部では、攻城兵器に詳しかったりするっすけど」

「短槍……銃剣?いや、それはちょっと……」

「銃剣?銃に剣を付けるのか?」

クリス様が、こちらの言葉に首を傾げる。

「いえ。剣というより、ナイフですね。ライフルの銃口の下に、ナイフを固定して槍の代わりにするんです」

「ああ、城の奪還の時にストラトス家の兵士達がやっていたな!アレがあれば、銃を撃った後も騎兵の突撃にある程度対応できると思ったんだ。……魔法騎兵以外は」

「はい。ただ、近衛騎士の膂力で銃剣は……」

「ライフル?とかいう銃が壊れるっすね!銃を持つ意味が即消えるっす!」

そうなのだ。親衛隊は精鋭揃い。素手でクマを殴殺できる帝国淑女達である。

淑女の概念が壊れそうだが、それは置いておくとして。彼女達が銃を欲するような相手となると、かなりの手練れだろう。

当然思いっきり武器を振るうわけだから……銃身が確実に歪むな。なんなら、握力だけで筒部分が潰れる。

「では、クロノ殿のように片手に剣。片手に銃をというスタイルでしょうか?」

「ですかね。ソードオフショットガンなら、携帯も比較的簡単でしょうし、拳銃よりは火力があります」

というか、拳銃だと貴族同士の殺し合いでは牽制ぐらいにしかならない。

一応、我が領で主に作っている拳銃はリボルバーなので、各種部品を大型化し火薬を増やすという手もあるが……技術力の問題で、安全性に不安があった。

やはり、銃身はある程度長い方が良い。短い銃身で無理矢理威力を引き上げるのは危険だ。ソードオフショットガンでも、普通の拳銃よりは長い。

「しかし、アレって2発しか弾が入らないのが……」

「それでもかなり心強いですが、あくまで『切り札』や『隠し玉』としての用途になりそうですね……」

4人揃って、首を捻った後。

「あっ」

とある銃を思い出す。

「何か思いついたのですか?」

「実は、試作品を作ったものの、コストの問題で開発が停止した銃が……」

何発も撃てて、膂力と技術さえあれば片手でも扱う事ができ、それでいて近衛騎士にも通用するような火力の武器。

このセミオート銃すら作れていない中、それが可能な銃は存在する。

「レバーアクション式ショットガン……かなり癖は有りますが、試してみます?」

かなりお高い武器だけど。

* * *

ホーロスとの戦も近づき、誰も彼もが慌ただしく動いている。

戦争とは、兎に角人と物が『消費』されるものだ。武器や防具だけではない。兵士の食べ物、着る物、寝床、その他諸々。色んな物が必要になる。

移動する軍隊の後ろには商人達がついてくるので、彼らは彼らで物資をかき集めに動いていた。

幸いなのは、帝都の住民達がこの出陣をいつもの事としか考えておらず、パニックにはなっていない事だろう。

この大陸の夏は、戦争のシーズン。クロステルマン帝国は毎年のように敵国へと出陣している。

だから、彼らはこれを日常の一部としていた。

しかし、今回の戦争は今までと大きく違う。なんせ周辺国全てが敵であり、内2カ国が矛をひくのはたった2カ月。

ハッキリ言って、これまで帝国が経験してきたどの苦境よりも厳しい状況である。

である、のだが。

「あの……今、なんと?」

自分の耳がおかしくなったのかと、頬を引きつらせながら問いかける。

それに対し、わざわざ宿にまでやってきた親衛隊副隊長こと、アリシア・フォン・シュヴァルツ準男爵は横ピースしながらこう言った。

「息抜きにクリス様と海に行こうZE☆クロノっち!」

それはもう、満面の笑顔で。

あ、廊下を歩いていたケネスがぶっ倒れた音が。