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作品タイトル不明

第五十六話 掘り出し物

第五十六話 掘り出し物

「我こそはフォーク伯爵の軍にて3つの騎士首を獲った豪傑!是非ともストラトス家にて、この槍を振らせていただきたく!」

「あ、紹介状をお持ちの方は明後日の試験にご参加ください。こちらにお名前とご出身をお願いします」

「わかりました。すみません、使用人のどなたかに代筆をお願いできますか?」

男爵に就任して数日。帝都にいる他の貴族達にひーこら言いながら挨拶回りを済ませた後も、休む暇はない。

既に他の貴族の大半はそれぞれの領地に帰ったが、自分は今も例の宿にいる。元々、父上とクリス様の協議で決まっていた事だから仕方がない。

だが、その結果こうして仕官してくる人が後を絶たないのが問題だった。

こちらとしても、人材はほしい。帝国内でストラトス家がそれだけ人気なのも嬉しい事だ。

しかし、それはそれとして。

「疲れる……!」

机にべったりと突っ伏しながら、うめくように呟く。

「お疲れ様です、若様」

ケネスもいるのでこちらの言語を使うグリンダが、机にお茶を置いてくれる。

小さく礼を言ってから、喉を潤した。

「いやはや。よもや、ストラトス家にこれほど人がやってくるとは……これも若様とお館様の頑張りの結果ですな!」

「それは良いんですけどね……」

老騎士の言葉に、小さくため息をつく。

「だとしても多すぎるんですよ……明後日の試験、参加者がとうとう50人を越えましたよ。これで3回目なのに」

「……大変ですな、若様!」

「他人事だと思って……」

「なにせ私、ほとんど読み書きできませんからな!筆記試験当日は警備をするだけです」

自信満々に言うな。

仕官してもらえるのは嬉しいが、今は新人の育成をする余裕はない。なんせ、ストラトス家は慢性的な人手不足である。

そうなった原因は自分とグリンダと父上が、色々と前世知識を領地運営に使ったせいだが……それがなかったら帝国ごと我が家が危なかったので、しょうがない。

兎に角、ほしいのは即戦力だ。若手の育成は、姉上が運営している学校でやる。

「それで、ケネス。この前頼んだ分の紹介状はどうでした?」

「はっ。字が読める騎士を連れて調べてきましたが、どれも本物で間違いありませんな。ただ、書いてある内容までは確証を得られませんでした」

「全部?」

「はい」

「ですよねー……」

他の貴族からの紹介状を持参してくる、傭兵や騎士家の次男三男達。

しかし、彼らがその紹介通りの実力を持っているかは疑問がある。というか、基本的に信用してはならない。

ギルバート侯爵に男爵就任後の、各家への挨拶回りに持って行くお土産の相談をした時に聞いたのだが……。

『クロノ殿。これから貴殿の所へ仕官しに大勢の若者がやって来るだろうが、あまり期待しない方が良いぞ。7割が凡骨。2割が落ちこぼれ。1割がならず者かスパイだ』

そう、笑顔で言われたのを覚えている。

どこの家も、本当に優秀な傭兵や騎士なら手放そうとは思わない。特に、この大陸なら。

優秀な戦士という事は、優秀な魔法使いであるという事。その血を政略結婚ならともかく、戦力として他家に送るなどありえない。

一応、我が家では純粋な戦闘能力だけではなく、知能面で掘り出し物がいないか調べるのと、なおかつ紹介状を書いた貴族への配慮として試験は行っている。

だが、未だに合格者はいない。

「せめて……槍働きはできなくても他の事で働ける人材とか来てくれませんかね……」

「まあ、若様が求めている基準が高いのもありますがな!」

「そうかもしれませんが……しかし、必要ですので」

試験内容は単純。

まず、こちらで用意したマークシート方式の筆記試験。内容は簡単な足し算引き算といった前世なら小学生でも解ける問題ばかり。

読み書きできない者への配慮として、当日は一定間隔でレオ達うちの騎士が読み上げる予定だ。

選択肢の1から5の数字もわからない奴がいた場合?流石にそれはこの世界基準でもあかん奴なので、その時点で不採用である。

次に、筆記をクリアした者への面接。ここでは『こういう状況なら隊の指揮官としてどうする?』という質問や、礼儀作法を見る。ついでに、勝手にどこぞの村で略奪しないか倫理面のチェックも。

最後に体力試験。まあ、試験と言っても先の2つをクリアしたのなら後は配属決めの参考程度の意味しかないので、うちの騎士達と一緒に訓練し、その様子を見るだけである。

ただまあ……筆記試験の合格者がここまで1人もいないのは、驚いたが。

舐めていた。まさか、両手の指以上の数は計算できない……というか計算する気のない者がこれ程いるとは、思っていなかった……!

「いっそ、武官ではなく文官志望の人とか来てくれませんかね」

「若様……流石にそれは、自分で『どこかの密偵です!』と言っているようなものなので……」

「ですよねー」

困った顔をするケネスに、冗談だと苦笑いで小さく手を振る。

この世界、読み書き計算ができるのにフリーなのは商人達ぐらいだ。それも、一定の場所に店をもたない流れ者の。

そういった人達への信用は、かなり低い。それは流れ者に対する偏見だけが理由ではなく、彼らの処世術も影響していた。

旅商人達の運んでくる情報は、各領地にとって重要なものである。故に、ある程度大きなキャラバンとかは、現地の騎士が笑顔で世間話をしにいくのだ。

結果、彼らの口から国中に各地の情報が流れていく。そんな相手に書類仕事を任せるのは、誰だって警戒するものだ。たとえ、自分の土地に定住させるとしても。

……でも、個人的にはその内、一部の商人達を文官に引き入れられないかなー。とも、考えているけど。

流石に父上の許可なしではできないので、自重している。

「忙しいと言えば」

明後日もまた、必死に採点作業かという考えを振り切り、視線をグリンダに向ける。

「グリンダは大丈夫ですか?ケネス達同様休みは与えましたし、帝都の火事を防いだ分の褒美とかは出しましたが……なんか、ずっと宿にいません?」

「私は帝都に慣れていませんから、どこに何があるのかわからず……街へ出ても楽しめないと思うので」

そう言って、彼女が苦笑する。

それなら、ケネスが案内できるはずだ。彼はグリンダの養父であり、なおかつ帝都に来てからずっと外回りをしている。適役のはずだ。

しかし、彼女が素を出せるかと言うと……うん。

「なら、色々と片付いたら僕が1度街を案内しましょうか?」

「!?」

「よろしいのですか?若様」

「はい。と言っても、そこまで詳しくはありませんが……」

視界の端でなにやらケネスが目を見開いているが、スルーして続ける。

こちらの言葉に、グリンダがふわりと笑顔を浮かべた。

「メイド兼騎士である身で、若様にエスコートして頂けるとは。光栄の極みです。その日を楽しみに待っております」

「あまり期待しないでくださいね?」

ケネスに見えないように、軽くウインクして舌をチロリと出すグリンダ。それだけで、『へー。君のデートプランに期待しようじゃないか』と言いたいのだとわかる。

この中身40代のオッサンは、若者を揶揄うのがそんなに楽しいか。いや、もしも前世と今生を合算するのなら、自分もオッサンだけど……。

でも、こう、人生とは経験だから、その辺りの年齢は別に考えるべきだし。

そう誰に言い訳するでもなく考えていると、突然ケネスが涙を流し始めた。

「け、ケネス?」

「これでまだ……ストラトス家は、10年は戦える……!」

何言ってんだこいつ。

思わずそう思いながらグリンダへ視線を向けるも、仮にも養父の様子がおかしいのに、さっと目を逸らしてきた。

……こいつ。

それはそうとケネス。どれだけ街の噂を真に受けているのだ。自分とクリス様の間に、ラブロマンスじみた事などありはしないのに。

我が領自慢の騎士達の様子に、思わずため息をついた。

* * *

数日後。遂に、筆記試験の合格者が出た。

ケネスや比較的古株の騎士達が『バカな!?』『さてはどこかの密偵!?』『怪しいですな。殺しましょう』と騒ぐ中、件の相手を呼び出して面接をする事になった。

宿屋の1階の部屋を借り、そこで自分と仕官してきた人物が向かい合う。

他にもケネスとグリンダが同席しており、3人で1人を見る形だ。

「それでは、改めて自己紹介をお願いします」

「はい!」

元気よく返事をする、金髪碧眼の青年。

キッチリと撫でつけられた髪に、鷹のように鋭い瞳。自信をあらわす笑顔。服の上からでもわかる鍛え抜かれた筋肉と、均整の取れたスタイル。

絵に描いたようなナイスガイである。心なしか、その立ち振る舞いから高貴さ……いや。教養の高さを窺えた。

「自分は『イーサン』と申します!サルバトーレ傭兵団にて、団長を務めております!」

ハキハキとした声で、彼はそう名乗った。

サルバトーレ傭兵団に、イーサン団長。彼は『潔癖』というあだ名で、他の傭兵や騎士家から煙たがられている。

彼の傭兵団は全員よく水浴びをし、服もきちんと洗濯するのだ。21世紀の人間からすると普通だが、傭兵としてはありえない事である。

だがそう言った物理的な事だけではなく、精神面でも潔癖と言われていた。

『貧しても高潔であれ』

それを団のスローガンとして掲げており、平時でも野盗とはならず、戦時でも略奪に消極的。村や街などの非戦闘員を巻き込む戦いにも否定的だとか。

傭兵どころかこの世界の貴族達の価値観にも沿わない、物語に出てくる騎士を真似ているとしか思えない考え方。それに、団員達も従っている。

ハッキリ言って、うちにピッタリ過ぎて疑ってしまうレベルだ。

予定通り質問をしていくのだが、やはり教養のレベルが傭兵のそれではない。そして、指揮官としても優秀に思える。

父上と共に幾つもの戦場を越えてきたケネスの問いかけにも、必ず最適解とはいかないが及第点レベルの答えを出すのだ。

それでいて、モラルも高い。略奪に関する話をふると、顔をしかめてできるだけ被害の少ない選択をとる。

何度も『実は転生者では?』と考え軽く鎌をかけるのだが、特に引っかかる様子はなかった。

演技だったら脱帽ものだが、どうにも嘘がつけるタイプに見えない。なにより、転生者というには魔力量が少なかった。

だが───騎士というにも、普通の貴族というにも、多い。

高貴さを感じるのは言動だけではなく、その魔力量もである。それこそ、シャルロット嬢や親衛隊に匹敵するのではないか。ただの傭兵というより、高位貴族のご落胤と言われた方がしっくりくる。

用意していた質問は終わり、ここからは個人的な質問だ。

「それで、イーサン。貴方はなぜ、ストラトス家に仕官なさったのですか?他の貴族から、誘いは多かったはず。それも、先帝陛下が亡くなる前から幾つもの勧誘があったでしょうに。なぜ、今我が家に?」

この問いかけに、彼は数秒程沈黙した後。

「……2つの夢を、叶える為です」

「夢?」

「はい」

イーサンが、その碧眼で真っすぐこちらを見つめ返してくる。

「私は───私達は、スネイル公国に滅ぼされた祖国を取り戻したいのです」

……噂では、聞いていた。

彼らサルバトーレ傭兵団は、かつてあった『サルバトーレ王国』の生き残りが興した傭兵団であると。

そして。

「私のかつての名は、『イーサン・フォン・サルバトーレ』。もはや国も民も失い、家名を名乗る事は許されませんが……この名を忘れた事はありません」

彼は自分の事を、サルバトーレ王国の元王子だとあちこちで名乗っている。

スネイル公国は、元々は帝国相手に戦争できる規模を持っていなかった。

あの国がまだ公爵家であった頃、祖国が帝国に飲み込まれるも独立を決意。その際、幾つかの小国を攻め滅ぼして領土にしたのである。

その1つが、サルバトーレだ。

「これまで、この家名を残せる手段をずっと探しておりました……そして、ストラトス家に希望を見いだしたのです」

イーサンが、力強く拳を握る。

「ストラトス家は立地的に、必ずスネイル公国と戦うはず。その際に私達が土地を頂ける程の武功を上げれば、お家の再興も可能なのではと。私がまだ幼い頃から付き従い、傭兵にまでなって共にいてくれた家臣達に報いる事ができる。そのチャンスを、逃したくないのです」

……嘘とは思えない。

あの噂、もしやと思っていたが本当だったか。

「一応お伝えしておきますが、我が家は貴方をサルバトーレ王家の人間とは扱いません。もしも雇用するとしても、あくまで傭兵団として使いますが?」

「構いません。今の立場は、わきまえているつもりです。それに、王国の再建までは望んでおりません」

……ふむ。

ケネスやグリンダとも視線を合わせるが、今の所採用しない理由がない。

彼の言う通り、スネイル公国とは必ず槍を交えるだろう。帝国の現状を思えば、軽く一当て……程度では済まない。

そして、旧サルバトーレ領は国境から近かったはずだ。そこまで攻め込む場合、彼の存在は正統性の主張に使える。

この魔力の質と量を見せ、そのうえで伯爵となったストラトス家が後援するのなら他の帝国貴族も文句は言えない。実際、似たような前例はある。

もしもかの国と戦うとしても、滅ぼすまではいかないはずだ。そうなれば、サルバトーレの土地はよい盾……緩衝地帯になってくれるかもしれない。

もっとも、全て『上手くいったら』の話。もしかしたらスネイル公国とはどこかで和睦を結ぶかもしれないし、なんなら国境の向こうまで手を伸ばせない可能性もある。

そうなった場合イーサン達が納得するかだが……まあ、そこまで考えてはキリがないな。

「1つめの夢はわかりました。では、もう1つは?」

「結婚です」

キッパリと、彼はそう答えた。

……けっこん?

「えっと……?」

「恐れながら、クロノ様は生粋の巨乳好きと聞き及んでおります」

「は、はあ。い、いや!別に胸の大きさで人を判断とかしませんけどね?」

一瞬グリンダの爆乳に視線がいってしまうも、慌てて首を横に振る。

「そして、私の好みは───地平線です」

「ちへいせん」

これまた力強く、イーサンは断言した。

それはもう、真っすぐな眼で。先程の家名を残すとか、土地を取り戻すとか言っていた時と同じぐらい純粋な瞳である。

「私は妻を得たら、その者のみを愛し生涯を共にしたいと考えています。子供は3人ほしいです」

「は、はあ」

……この人の言動、どこか覚えがある。

あれだ。さっきも思ったが、巷で流行っている架空の騎士や貴族を題材にした小説に似ているのだ。

え、もしかしてサルバトーレの生き残り達。それを参考にこの人を育てた?なんなら、傭兵団全員が土地を追われた分、プライドを維持する為に貴族より貴族らしく振舞おうとしている?

……どうしよう。自分の直感が、ピンポーン!って正解音を鳴らした気がした。

「叶うのなら気立てのよい、心清らかな妻を得たいと思っています。しかし、そういった女性を欲するのは男なら当然。主と仰ぐ方と、争いたくはありません」

なるほど。好みが違うから、大丈夫だろうと。

……待てよ?

「以上が、私の志望動機です。ご納得頂けたでしょうか」

イーサンの顔を改めて見る。

高貴さがありながら、戦場を知る精悍な顔つきだ。『戦う王子様』という印象を受ける。

そして実際、数々の修羅場を潜ってきた猛者だ。この魔力量を考えると、経歴全てがホラという事はあるまい。

知識や頭の回転も、即戦力として申し分なしだ。なんなら、今すぐ村を幾つか任せたいぐらいである。嘘が苦手そうなのは、玉に瑕だが。そのぐらいは許容範囲内。

そして何より───彼は貧乳好きだ。

ケネスへと顔を向ければ、バッチリ目が合った。

そして、無言で頷き合う。

立ち上がった老騎士がスタスタと扉に向かい、ガチャリと鍵を閉めた。

そして、自分は机に両肘を置き口の前で指を組む。

「……なにか、お気に触ったでしょうか」

たらりと、冷や汗を流すイーサン。

そんな彼に、心配ないと笑顔を浮かべる。

「はっはっは。そんな事はありません。ただ、もう少しだけ質問したい事があるのです」

「そうですぞ、イーサン殿。どうぞ肩の力を抜いてくだされ」

今、ストラトス家最古参とも言える騎士と自分の心が1つになった。

絶対に……絶対に逃がさんぞ、イーサン・フォン・サルバトーレ……!!

視界の端で、グリンダが『やれやれ』と首を振った。

待っていてください、姉上。もしかしたら、最高のお土産を用意できるかもしれません。