軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三章 エピローグ 中

第三章 エピローグ 中

戴冠式、そしてホーロス王国の襲撃があった日から3日が経過した。

流石は帝都と言ったところか、グリンダや帝都守備隊が奮戦したとは言え、既に街としての機能は元通りとなっている。

……ホーロス王国が利用した、スラム街は別として。

小さく首を横に振って、失われた命の事を考えるのはやめておく。今は、弱気になっている場合ではない。

借りている宿の部屋で、父上への報告書を作成する。帝都についてから何度も定期報告を送っているが、今回は色々あって少し遅れてしまった。

ハーフトラックが全車オーバーホール中なのもあって、尚更予定通りとはいかない。事前に遅れる事は了承して頂いているので、叱られる事はないだろうが……。

パレードでの竜の運搬後は、元々グリンダが持ってきてくれた部品を使い本格的に整備する予定であった。やはりというか、重すぎたのである。あの怪物の死体は。

帝都から人と馬を借りて、手紙を送る予定である。ストラトス領に到着するのは、替え馬を使っても最短で一週間。

領内なら『腕木通信』などがあるが、やはり前世と比べて情報のラグが酷い。

───コンコン。

「若様、グリンダです」

「はい、どうぞ」

「失礼いたします」

グリンダが、サービングカートを押して部屋に入ってくる。

「お茶をお持ちしました」

「ありがとうございます」

『それで、一緒に飲んでもいいかな?』

扉を閉めるなり、メイドらしい無表情から一転、気安い笑みを浮かべた彼女が日本語で話しかけてくる。

部屋の周囲に魔力反応はない。こちらも、肩の力を抜いて日本語に切り替えた。

『どうぞ。僕の方も、一旦休憩にするとします』

『そっか。お館様への報告書?』

グリンダが、ティーカップにお茶を入れながら小さく首を傾げる。

『はい。電話やメールが恋しくなりますよ』

『はは、たしかに。手書きってところも大変だよね』

『ですね。せめて、タイプライターとか開発できたら良いんですけど……』

『できなくはないけど、かぁなり手間がかかるし、今からは無理かなー』

『だいぶ先になりそうですね……』

現在は急ピッチで戦争関連の工場を、帝都から少し離れた場所に建設中である。

書類の作成も戦には必要だが、優先順位的に後回しだ。

『本当に、早く平和になってほしいものです』

『だよねー。そうなれば、君もどこぞの世紀末覇者みたいな格好で気絶せずに済むし』

クスクスと笑うグリンダに、唇を尖らせる。

『しょうがなかったんですよ、あの時は。家のメンツを考えると』

『はいはい。でも、私が駆け付けた時本当に凄い格好だったよ。浮浪者でももう少しマシな服装だって断言できるね』

『大事な式典でも使える、一張羅だったんですけどねー……』

上半身はぼろ布同然。ズボンも膝から下がやぶけ、靴と靴下は弾け飛んで消えていた。

ホーロス王国に請求してやりたいところである。

『そうそう。君をそれだけ追い込んだ相手、まだ生きているかもって本当?』

『恐らくは。ただの勘ですけど』

『私達のこういう時の勘って、嫌になる程当たるんだよねぇ』

グリンダと揃って、ため息をつく。

カーラさんの死体は、未だ発見されていない。普通なら死ぬような重傷のはずだが、どうにも『仕留めた』という実感がわかなかった。

『なんにせよ、君は頑張ったよ。本来は帝都守備隊か、陛下の親衛隊の仕事だったんだから』

『それもそうですね』

彼女の言葉に、頷いて返す。

『もしも生きていたとしても、直接殴り合う様な事はないでしょう』

『おや。因縁の相手だとか、あの時の決着を~とか、ないんだ?』

『ありませんよ。僕はバトルジャンキーではありません』

必要なら戦うが、肉を斬る感触も、斬られる感触も嫌いだ。

こちらの言葉に、グリンダは笑みを浮かべて紅茶の入ったカップを、ソーサーと共に机へ置く。

『なんだ。こっちの世界に随分染まったなってー……って、思っていたけど、案外そうでもないみたい』

『はい?あー、まあ……どっちにしろ僕は僕ですよ』

変わらない人間などいない。地方から都会に引っ越して方言を忘れたり、その逆に方言が身についたりと、人は何かに染まるものだ。朱に交われば、とはよく言ったものである。

この世界の朱、だいぶ血生臭いけど。

『グリンダもお疲れ様でした。消火作業、大変だったでしょう』

『まーねー。まさか、お館様に散々やらされた治水工事の経験が生きるとは思わなかったよ』

『なんというか、そっちの方もお疲れ様です……』

遠い目をする同郷に、苦笑を浮かべる。

『他に行く当てもないし、ストラトス家以上に私が私として過ごせる場所はないけど、あの忙しさはもう勘弁だね』

『父上への報告書に、書いておきます』

『大丈夫?それ、私の評価落ちない?』

『これで評価を落とす程、父上の器も小さくないですよ』

本当に、親バカなところ以外は優秀な人なので。その1点が致命傷過ぎるけど。

『っと、もう少ししたら、城に行かないと』

『おやおや、大変だ。お互いを労うのは、後にしよう』

『ですね』

2人で苦笑を浮かべた後、彼女が淹れてくれた紅茶を飲む。

『いただきます。……おお。腕、上げました?』

『もちのろんだよ。ここの女将さんに、コツを聞いてねー』

* * *

外行き用の服を着て、帝城にやってきた。今回はグリンダの護衛はなし。1人である。

現在、帝都の防衛についている者達は誰も彼もがピリピリとしていた。当たり前である。

フリッツ皇子によりモルステッド王国が、サーシャ王妃によりホーロス王国が帝都内部で暴れたのだ。しかも、この2カ国のせいで城門が複数壊されている。無事な門は、帝城と街を繋ぐ第3の城門だけだ。

そんな厳戒態勢1歩手前の中に、護衛付きで自分が行くといらぬ警戒をされてしまいそうである。ただでさえ、帝都の住民から向けられる目が恐怖に染まっているのだ。この街出身の衛兵達も、自分の顔を見ると頬を引きつらせている。

若干の居心地の悪さを感じながら、城のメイドさんに案内されて陛下の執務室へと向かう。

その途中、見知った顔が廊下の向こうからやってきた。

「シャルロット様。お体はもうよろしいのですか?」

彼女の姿を見て、少し慌てて問いかける。

「問題ありませんわ!ワタクシ、怪我1つしておりませんもの!」

そう、シャルロット嬢は胸を張って笑みを浮かべる。

あの時、彼女には陛下を抱えて逃げてもらったのだが、普通侯爵令嬢にやってもらう事ではない。

一応短剣は1つも通さなかったつもりだが、心配にもなる。

「これもクロノ殿のおかげですわ。感謝いたします」

「いえ、自分は当然の事をしたまでで……」

「ならば、ワタクシもクリス様の婚約者として相応しい行いをしたまでです」

そう笑顔で言った後、彼女は心配そうにこちらを窺ってくる。

「ワタクシより、貴方の方こそ大丈夫なのですか?あの時はもう、生きているクロノ殿とはお会いできないと思いましたが」

「この通り、怪我1つ残っていません」

軽く両手を広げ、無事をアピールする。

確かに重傷を負ったし、その後もカーラさんの攻撃でボロボロにされたが、どちらもすぐに治った。気絶から3分ぐらいで復活し、5分後にはグリンダと合流し自力で城に帰れたぐらいである。

我ながら、今生の体は常識外れに頑丈だ。

「……本当に、聖書に描かれる勇者アーサーの様なお体ですわね」

「恐縮です」

「それでこそ───ワタクシのライバルですわ!」

「……はい?」

突然ビシィ!とこちらを指さしてくるシャルロット嬢に、首を傾げる。

何を言っているのだ、このレッドドリル令嬢。

「正直に言います。ワタクシ……もしもクリス様と出会う前に貴方とお会いしていたら、きっと恋におちていましたわ」

「は、はあ。恐縮です……?」

「しかぁし!ワタクシの身も心も既にあの方のもの!お二人の間で揺れる思いは、決着をつけなければなりませんの!」

まるで舞台女優にでもなったかの様に、大仰に腕を動かし身悶えする侯爵令嬢。

どうするのだ。案内のメイドさん困惑で固まって……あ、違う。菩薩みたいな顔で聞き流す姿勢に入っている。流石帝城のメイドさんだ。

「クロノ殿の事は好ましく思います。ですが、それは友情にすべき感情!なにより、陛下と貴方が『真実の愛』で結ばれている事は確定的に明らかっ!!」

「いや、それは……」

「皆まで言わないでくださいまし!沼に沈んでしまいますわ!!」

「沼て」

「ならば貴方とは、クリス様を取り合う好敵手……強敵と書いて、親友と読む存在!」

カッ!と目を見開き、シャルロット嬢がこちらへと手を差し出してきた。

「我が終生のライバァル……いずれ決着をつけるその時まで、ともにクリス様をお支えいたしましょう!」

「……あ、はい」

もう否定するのが面倒になり、握手に応じる。

まあ、『真実の愛』説が囁かれている内は、クリス様の性別バレが遠のくとポジティブに考えよう。

硬い握手をした後、レッドドリル令嬢は。

「さようなら……ワタクシの、2番目の恋……!」

ハラハラと涙を流しながら、廊下を爆走していった。

それを見送り、メイドさんが『それでは、ご案内いたします』と冷静に言ってくる。

やはり帝都は凄い。こういった光景にも、動じない心がここで住むのなら必要なのか。

……都会って、大変だなぁ。

そんなこんなで、クリス様の執務室へと通された。

「待っていたぞ、クロノ殿!さ、こっちに座ってくれ」

挨拶もそこそこに、彼女に手をひかれソファーに座らされた。そして何故か、対面でも上座でもなく、隣にクリス様が座ってくる。

同じ部屋にいるアリシアさんに視線を向けるも、何故か『自業自得っすー』とでも言いたげな目で半笑いをしてきた。

なぜだ。

「クロノ殿、本当に怪我とか大丈夫か?貴殿と別れた時、それはもう酷い有り様で……正直、もう会えないかと」

「ご心配をおかけしました。この通り、もう完治しております」

なんなら、城に一旦戻った後に街で治療活動に参加するぐらいには元気だ。

自分の戦いの余波で負傷者が出た可能性も考えると、それを放置して休むのも気が引けたので。

「そうか……クロノ殿は、強いな……」

「陛下?」

こちらの腕を両手で掴みながら、彼女が目を伏せる。

「……貴殿には、伝えておかないといけない。いや、知っていてほしい。これは、ボクのわがままだ」

「……聞きましょう」

何やら、随分と落ち込んでいる。恐らくサーシャ王妃関連だ。

腹違いとは言え、実の姉と殺し合わなければいけない。それも、1度は戦わなくて済むと思った後に。

これだけでも十分に心が痛むだろうが、どうにもそれだけではない気がする。彼女の顔を見ていると、そう思うのだ。

「実は……」

そして聞かされる、自分が到着するまでにされた、両者の会話。

サーシャ王妃の言葉から察するに、コーネリアス皇帝は噂以上の外道らしい。

「父上の事は、元々良い印象を抱いていなかった。でも、まさかここまでだなんて……」

「心中お察しします……」

真っ青な顔をするクリス様に、なんと声をかけて良いかわからない。

「だけど……だけど、立ち止まるわけにはいかない」

こちらの腕を掴んでいる手に、少しだけ力が籠められる。

「姉上にボクの性別を知られた以上、一刻も早くその口を塞がなければならない。帝国としても、戴冠式を台無しにされたあげく教会領のトップを殺された以上、報復しなければメンツが潰れる」

精一杯、眦をつり上げてそう告げるクリス様。

その内心が、どれ程の悲しみと怒りが渦巻いているのかは、自分にはわからない。

だとしても、こちらの右腕を握る彼女の手に、左手をそっと重ねる。小さく華奢な、少女の手に。

「帝国の一大事です。自分も、可能な範囲で協力させて頂きます」

「ありがとう、クロノ殿。ホーロス王国の次は、オールダー王国とも決着をつけなければならない。並行して、モルステッド王国との戦線に援軍を送らなければ。……貴殿の力を借りる事になる。軍役以上の事を、求めるかもしれない」

「ストラトス家ではなく、僕個人でしたら……可能な限り、貴女と共に戦います」

重ねた手に、少しだけ力を籠めて。

「だって僕達は、戦友ですから」

「クロノ殿……!」

無論、損得勘定はあるが……それと一致する内は、この小さな戦友と轡を並べても良いはずだ。

潤んだ瞳を向けてくるクリス様に、力強く頷いた。

なお。

「うわー……マジっすかこの2人」

なんかドン引きしている親衛隊副隊長がいるが、気にしない事にした。