軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十五話 爆弾

第九十五話 爆弾

トンチキ案件の翌日。

どうにかシリアスを取り戻し……もとい、長旅の疲れをとった後、ストラトス家居館の一室にて軍議が開かれた。

「つまり、シャルロット様の部隊は義勇軍……ということですな?」

「ええ。その通りですわ」

将軍の1人がした質問に、赤髪の令嬢が頷く。

「グランドフリ―ト侯爵家も、自領の管理をしなければなりません。その為お爺様の率いる本隊を動かすことはできませんが、お国の大事に何もしないなど、帝国貴族の名折れ。ですので、有志を集め馳せ参じた次第ですわ」

配られたリストに視線を落とせば、義勇軍とやらのメンバーは主にグランドフリート侯爵家に仕える若手騎士達。その中に、チラホラと子爵や男爵位の貴族達が手勢を連れて混ざっている。

総数、約1千人。

「グランドフリート侯爵家だけではなく、イゼル子爵、オーガス子爵、エンディ男爵、カーマイン男爵、ウルフステン男爵の5家がワタクシと共に来てくださいました。クリス様。どうか御身の槍として、存分に振るってくださいませ」

優雅に一礼する彼女は、まさしく侯爵令嬢に相応しい風格を放っていた。

シャルロット嬢の傍にいる5人の貴族が、帝国式の敬礼をする。彼らが、例の義勇軍の指揮官達なのだろう。

それに対しクリス様も敬礼を返し、力強く頷いた。

「うん。貴殿らの勇気に、心から感謝する。帝国の窮地に1千人もの勇者が戦列に加わってくれたのは、万の援軍を得たに等しい」

「光栄ですわ、クリス様。それと、お爺様から本隊を動かすことはできないものの、物資面での援護は任せてほしい、と」

「ありがたい。グランドフリート家が銃後の守りをしてくれるのなら、この戦いは勝ったも同然だ」

そう笑みを浮かべるクリス様だが、その顔は若干硬い。

無理もない。なんせ……。

「しかし、本当に助かりましたな」

「然り。1千人の援軍。これでどうにか……」

そう呟く将軍達。彼らの視線は、机に広げられた戦地となる場所の地図に向けられていた。

そこに置かれた駒と、書き込まれた文字。それらが表すのは、予想される両軍の配置と兵数である。

『帝国軍:約4千人』

『連合軍:約2万5千人』

6倍以上の戦力差。ハッキリ言って、まともに戦えば勝ち目など皆無に等しい。

その上、連合軍と言っているが大半はスネイル公国の部隊だ。アナスタシア女王がオールダー王国から引っ張ってこられた戦力は、1千人いるかどうか。

スネイル公王。たった1代で、小国の公爵家から帝国と戦える国を作った男。

2万を越える大軍勢ともなれば、帝国が万全であっても簡単に倒せる数ではない。しかも、彼の国とて帝国以外とも国境は接している。これでも、全身全霊の戦力というわけではないのだ。

彼もまた、歴史に名を遺しうる英雄の1人である。

「将軍。我々は、どうすれば勝てる?」

「はっ!」

クリス様の問いに、将軍の1人が答える。

「敵はたしかに大軍。しかし、ほとんどが寄せ集めです」

彼は、敵方の駒に視線を向けた。

「スネイル公国は、元々複数の小国を強引に吸収した国家。その為、結束はあまり硬くありません。横の繋がりは薄く、交渉次第では寝返る者も出てくるかと。また、友軍であっても全力で助けに行く……ということは、これまでの記録から可能性が低いでしょう」

そこで一旦区切り、一呼吸おいてから将軍が続ける。

「そして、スネイル公国軍は練度が低いことで有名です。先程も申しましたが、彼の国は強引に吸収された国々の寄せ集め。士気は低く、兵士達の訓練内容もバラバラ。兵種の偏りもあり、実際の戦力差は兵数程離れてはいないでしょう」

その将軍の言葉に、集まった貴族達の空気が若干柔らかくなる。

しかし、当の将軍は眉間に深い皺を寄せていた。

「ですが……オールダー王国のアナスタシア女王が総大将として前線に立つ。これが、どう影響するか未知数です。場合によっては、少なくとも士気の面ではこちらに匹敵する可能性も……」

そう。アナスタシア・フォン・オールダー。

スネイル公王が老齢の為前線から退いて久しい公国に、彼女が立つのだ。

脳裏に、オールダー戦争の撤退戦が浮かび上がる。実質4つの国の軍隊で構成された、多国籍軍。それをまるで古くから自分が指揮している部隊のように扱った、ノリス国王。

兄と妹が同じ能力を持っているわけではない。しかしそれでも、彼女のカリスマは本物だろう。

あるいは、スネイル公国軍を完全に掌握している可能性すら……。

「彼女の能力は不明ですが、総大将が前線に立つ効果は大きい。外様であることも、場合によっては利点となる可能性があります」

「スネイル公王は、嫌われているからな……」

ぼそりと、別の将軍が呟く。

帝国の侵略に対抗する為だったとは言え、彼は別の国々を侵略し、征服した。当然ながら、それに恨みを持つ者は多い。

実際、うちのイーサンもスネイル公王にはあまり良い印象を持っていないそうだ。

公王は強い国を作ったが、たった1代では掌握することなどできなかったのだ。当たり前と言えば、当たり前かもしれないが。

その点、アナスタシア女王は吸収された国々との間に確執などない。公王本人ではないからこそ、配下の者達も従いやすくなる。

「そして、質の面でもオールダー王国軍は油断できません。彼らは幾度も帝国軍と矛を交えてきた歴戦揃い。中でもガルデン将軍は、50年以上戦場にいる大ベテラン。猪武者として有名な彼ですが、その経験値はこの場にいるどの貴族より豊富と言えるでしょう」

続けざまに不安となる情報を告げられ、会議室の空気が重くなる。

そんな中、将軍はむしろ快活な声で続けた。

「だからこそ、我らがやるべきは首狩り。全軍でまともにぶつかれば、すり潰されるだけです。故に、精鋭部隊による奇襲でもって、アナスタシア女王の首を獲る!」

彼は駒の1つを手に取り、それを敵軍の左翼へと置いた。

そのまま敵の駒を軽く倒して、奥へ。敵方の本陣側面へと配置する。

「ストラトス男爵。彼とその配下ならば、見事アナスタシア女王を討ち取ってくれることでしょう」

「おおお!」

歓声の上がる会議室で、将軍達の内半分が一瞬だけ苦虫を噛み潰したような顔をした。

これでまた、ストラトス家の武門における地位が上がると考えたのだろう。あるいは、戦術と呼ぶにはあまりに大雑把な作戦内容に、プライドが傷ついたか。

どちらにせよ、自分としてはあまり喜べる話ではない。

この将軍の作戦で最も危険なポジションは、言うまでもなくストラトス家の部隊である。

オールダー戦争における殿。帝都奪還作戦。戴冠式での帝都防衛戦。ホーロス戦争。

家臣達に無茶をさせ過ぎた。ここまで、2名の死者しか出なかったのは奇跡とすら言える。

しかし、今回も無事に乗り切れるとは限らない。

「クロノ殿」

クリス様が、口を開く。

彼女は申し訳なさそうに眉を歪めた後、真剣な面持ちでこちらを見つめてきた。

「……此度も大変な役目を押し付けてしまう。それでも、お願いできるだろうか」

「───無論です」

しかし、やらねばならないのだ。

帝国という『屋敷』を守る為に、貴族という『柱』が奮戦する。そうしなければ、共倒れだ。

柱があるから屋敷はあるが、屋敷そのものがなければ柱は別の柱と力を合わせる術もなく、壁は倒れ屋根が崩れ落ち、風雨を直に浴びることとなる。

そう、父上に教えられてきた。

皇帝一族は色々と問題が発生しているが、それでも彼ら彼女らは帝国の統治をしていきたのである。それがいなくなれば、ストラトス家とて危うい。

というか、そもそも最前線だからね。うち。帝国負けて真っ先に被害受けるのストラトス家なのよ。

アナスタシア女王から誘いこそあったが、それは蹴ったし。裏切り者として家名に泥を塗りたくもない。クリス様を、戦友を悲しませたくないという、個人的な感傷もある。

なので、自分達が1番きつい役目をするのは問題ない。

しかし、それだけではまずいのだ。『全員』が。

「ですがお言葉ながら、先の作戦について意見を述べてもよろしいでしょうか?」

「構わないよ。将軍も、良い?」

「勿論です。アレはあくまで1つの案。この場は、皆が意見を言い合う場ですので」

クリス様が頷き、先程作戦を話していた将軍も笑みを浮かべる。

自分達が頑張るだけでは、他の面子がたたない。1本だけ大きすぎる柱があっては、屋敷が崩れてしまう。

なので。

「此度の戦は、言うなれば先帝、コーネリアス陛下の弔い合戦でもあります。これは、皆が真に一致団結し、勝利すべき戦いかと思います。その為、少々提案がございます」

満面の笑みで、『お前らも血ぃ流せや』と言うことにした。

それから約2時間。会議室に、笑顔と賛辞が飛び交う。机の下で互いの脛を蹴り合うなんて、勿論ない。ちょっとだけ、言葉の裏側に棘があるだけ。

頼もしい家臣達にクリス様が目をキラキラとさせ、こちらに笑いかけてくる。

その隣で、貴族達の言葉の裏に気づいたのか、シャルロット嬢が胃壁を削られたような顔をしていたが。

何にせよ、会議は進んでいく。アナスタシア女王がとるであろう戦術の予想や、それへの対抗策。そして、うちの『新兵器』とそれに関する戦術の解説など。

恙なくとはいかないまでも、一応形にはなってきた頃。

少し遠くから、鐘の音が聞こえてくる。気が付けば、太陽もだいぶ傾いてきていた。

「……陛下。今日の軍議はここまでにすべきかと。皆の集中力にも、限度がありますので」

「左様。一旦脳を休めねば、妙案も中々浮かびませぬ」

将軍達の言葉に、クリス様が頷く。

「うん。皆、今日はここまで。ゆっくり休んでくれ。そして、改めて感謝を。貴殿らがいてくれて、本当に良かった。この会議で、そう再認識したよ」

「はっ!勿体なきお言葉……」

「我らは帝国貴族として、当たり前のことをしているだけでございます」

彼女の言葉に、貴族達がそれぞれ営業スマイルで頭を下げる。

「それでも、ありがとう。……あ、そうだ」

ぽん、と。クリス様が何かを思い出したように手を叩く。

「言い忘れていた。クロノ殿に、子供ができたらしい。それも5人も。ストラトス家はこれで安泰だね!それにしても、クロノ殿の子供かぁ……きっと、格好よく育つんだろうなぁ。それとも、可愛らしく?凄く、楽しみだよ」

それはもう満面の笑みで、我がことのように喜んでくださるクリス様。

だが彼女とは逆に、貴族達の顔に緊張が走るのを見逃さなかった。

「……それは、おめでとうございます。ストラトス男爵」

「ありがとうございます」

「実に目出度い。次代のストラトス家も、貴殿のように強壮な戦士がいるのならば安心ですな」

「その通り。しかし5人ですか。なんとも、若いとは良いですなぁ」

「しかし、無理をしていないと良いのですが……ストラトス男爵は家臣達を大事にするとは聞いていますが、体を壊してまで彼らの思いに答える必要はありませんぞ?」

口々に祝福と、心配の声を上げる貴族達。その内心が、自分にも何となくわかった。

警戒されている。それも、かなり。

元々、ストラトス家は急成長している家として古い家々から危険視されている節があった。そこに、『繁殖力の強い貴族』……それも、自分のような魔力が多い人間が加わると、余計に勢力の拡大が心配なのだろう。たとえ、こちらに過度な野心がなかったとしても。

ストラトス家は、既存の領地の開拓と、この戦争で勝利した場合に領土として加わるオールダー王国の開発で、他所へ手を回す余裕はない。うちの主力は経済であり、技術力。それを支える民の底上げこそ重要だ。

だが必要とあれば、戦力の拡充も視野に入れている。警戒されたからと言って、簡単に引き下がることはしない。

そんな表面上はにこやかな会話が繰り広げられる室内で、シャルロット嬢が会議中とは似て非なる、悲しそうな顔を浮かべた。

だがすぐに、いつものお嬢様ポーズをとって高笑いをする。

「おめでとうございますわ、クロノ様!これはワタクシ達も負けていられませんわね、クリス様!先帝陛下の仇を討ちとった暁には、ワタクシ達も正式に結婚いたしませんこと!?」

ピシリ、と。クリス様の笑みが固まる。

「おお!その通りですな、シャルロット様!」

「然り!そろそろ、クリス陛下も身を固めた方がよろしいかと」

「次代の帝国の為にも、励んでいただかなくては!」

「まあまあ。皆さん。子は天からの授かりもの。気長にいかなくては。しかし、お二人の結婚には大いに賛成ですな」

「はっはっは!クリス様とシャルロット様の結婚となれば、民も喜びますぞ!」

等々、貴族達もシャルロット嬢の言葉に頷く。

笑顔のまま硬直したクリス様に代わり、小さく咳払いをした。

「あの、皆様……私もまだ子供ができたばかりの身ですので、こういう話は少し恥ずかしいと言いますか……できれば、その辺の話も後日に……」

本心ではある。少し照れながらそう告げれば、彼らもわかってくれたようで、表向きは和やかな空気で今日は解散となった。

ちらりと『やはり『真実の愛』の相手だから……』『愛憎の果てに、帝国が割れなければ良いが……』とか聞こえたが、今は無視する。

「それではクリス陛下。シャルロット様。私もこれにて……」

「ま、待って!」

一礼した自分に、クリス様が慌てて立ち上がる。

「その、ちょっとこの後話したいことがあって……」

「あら。では、ワタクシも同席してもよろしいでしょうか。クリス様」

「え゛っ」

シャルロット嬢の提案に、クリス様が肩をびくりと跳ねさせる。

「実は、お爺様からお二人に言伝を預かっておりますの。そのことも含めて、お時間よろしいかしら?……それに、改めてお伝えしたいことがあります」

真剣な面持ちの彼女に、クリス様と一瞬だけ視線を交わす。

そして、ほぼ同時に頷いた。

「……勿論だよ!」

「はい。問題ありません」

クリス様と、シャルロット嬢の結婚話。

連合との戦も控える中、爆弾のタイマーは『0』へと近づいていた。