軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44.ミア様の訪問⑤

「…………」

私はどんな魔力空気清浄機にしてほしいのかを聞いたつもりだった。

けれど、全く想像していなかった答えに息を呑む。

確かに、アカデミーに転入してきたミア様は平民出身でマナーがなっていないと噂されているのを聞いたことがある。

まさか、ミア様がこんな境遇だなんて。

私は思いっきり動揺してしまったけれど、レイナルド様とクライド様は特に動じてはいなかった。まるでずっとさっきからそうだったみたいに、冷静な顔をしてコーヒーを飲んでいる。

ミア様はキッ、と私を睨むとそのまま続けた。

「アナタねえ。せっかく錬金術っていう武器があるんだから、安売りするんじゃないわよ。私だって、そんな武器があったらとっくにあの工房を牛耳ってるわよ! 王宮勤めでしかも実力者だなんて言ったら、馬鹿じゃない貴族子息との縁談があるかもしれないじゃない!」

それなら、もっと勉強をして宮廷錬金術師を目指せばいいのに……! と思った私の思考をミア様は読んだらしい。

「いい? 私はどんなに勉強したって覚えられないし、薬草や素材を見分けることもできないし、面倒なことは大嫌いだわ」

「そ、そんなこと」

「あーやっぱり。アンタもやっぱりそうなのね。そんなことない、頑張ればできるって言いたいんでしょう? ところがどっこい、努力してもできない人間もいるのよ! 私みたいにね!」

「は……はい?」

お話している内容は自分を卑下するもののはずなのに、ミア様はあまりにも得意げでいらっしゃる。

「魔力量が豊富で貴族の養子になれたし、箔をつけるための王宮への就職も決まったし、この先の人生安泰? って思ったけどそうは行かないのよね。私は魔力量だけなんだもの。ここで働くようになって、すぐにわかったわ。それなのに、玉の輿に乗るはずだった相手はいなくなっちゃうし……。あんなくだらない人間だなんて思わなかったわ! ねえ?」

「は……はい?」

エイベル様を『あんな人』と呼ぶのは納得だけれど、『フィオナ』にとってはミア様も同じ存在だ。でも、フィーネとしては口を挟むわけにいかない。大人しく聞くことにする。

そして、ミア様がこんな考え方をするようになったのは、きっとお金が原因なのだろう。

相槌しか打てない私に、ミア様は顔をずいと近づけた。

「……ねえ。さっき、アンタ『魔力空気清浄機は人の命を救うものだからレシピを提供した』って言ったでしょう?」

「は、はい」

「なんか、本当にいいとこのお嬢様っぽいこと言うんだなって思った」

そう言い放って、ミア様はシナモンロールにナイフを差し入れた。ザクザクと切って、細かくしていく。マナー違反だと注意してほしいみたいに、大胆に。

そして小さくなりすぎたそれをまとめてフォークで刺すと、一気に口に放り込んだ。

「うっ」

「ミアさん⁉︎ 大丈夫ですか⁉︎」

「は、はいほうふほ。……むぐっ……、シナモンロールにはあまりいい思い出がないだけ……」

そうして、また無残にシナモンロールのかけらをザクザクザクッと集めて口に放り込む。

やっと飲み込んだのに、さらに口に詰め込んでいくミア様には違和感しかない。

こんなにしてまでどうして食べるのだろう。

私に凝視されながらなんとかシナモンロールを涙目で飲み込んだミア様は、ごくごくとコーヒーで流し込んでからポツリと呟いた。

「……木工職人だったパパが死んだのは私が八歳の頃よ。そして、私に上位貴族並みの魔力があるのがわかってアドラム男爵家にお世話になるようになったのが十五歳。今でこそこんなにかわいくて人気者だけど、それまでの人生はなかなかハードだったわ」