軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24.弱肉強食⑤

「本当だ。開かないな」

レイナルド様は扉に手をかけて確認してくださったけれど、扉はやっぱり開かなかった。この保管庫は作りが古い。中に鍵はなく、外からしか開かない仕組みになっているみたい。

どうしよう。私だけがここにいるのなら問題ないけれど、レイナルド様も一緒だなんて……!

「フィーネ、そんなに心配することないよ。俺が戻らなかったらクライドが血相を変えて呼びにくるだろう。居場所は伝えてある」

「そ、そうでしょうか……」

「それよりも、何か用があってここに来たんだろう? 気にしないで仕事をしたほうがいい」

「は……い……」

確かにおっしゃる通りだった。私は棚に向き直って、紙に書かれた素材を集め始める。けれど……クライド様が呼びにいらっしゃるとはいえ、夕方の生成には間に合うのかな。

せっかく頼られたのに期待に応えられないかもしれないという気持ちと、さっきのあの突き刺さるような視線から逃れられるという安心感の二つが交錯する。

私が浮かない顔をしていることに気がついたのか、レイナルド様は悪戯っぽい笑みを見せてくださった。

「まだ心配? 朝と夜以外にフィーネと二人で話せるなんて、俺は楽しいけど?」

「あ……! あの、それではまた違った心配も出てきますね……! ごめんなさい、気がつかなくて……!」

そうだった。皆様が心配するのはもちろんだけれど、変な噂が立ってしまう可能性があることももちろん問題で。

アトリエには大体クライド様が一緒に来てくださっているけれど、今はこの人目につかない保管庫に二人きりだ。人が滅多に来ないことも皆が知っている。

この状況は絶対に良くなかった……!

さっきの工房の雰囲気を思い返すと身震いがして、私は手に持っていた薬草を地面に落としてしまう。すると、レイナルド様がそれを拾って渡してくれる。

「大丈夫。今鍵をかけた人物には何か理由がありそうだから、ここから出してくれるのがクライドなら変な噂は立たない。まぁ、フィーネが嫌がらなければ俺は浮名も悪くないけど」

「な、な、な……」

なんてことを……! と思ったけれど、冗談にして笑ってくれるレイナルド様を見ていると、冷たくなっていた指先の感覚が戻る気がする。

――私が不安になっていることをわかって、笑いに変えてくれようとする優しい人。

ゆっくりと息を吐いて、落ち着きを取り戻した私にレイナルド様は聞いてくる。

「手伝おうか。この紙に書いてあるものを集めればいい?」

「あっ……いえ、私が自分で……! 鑑定スキル持ちのレイナルド様にお任せしては、私の仕事になりませんから……!」

「そう? じゃあ俺は見ていようかな」

レイナルド様は端に置いてあった箱の上に腰を下ろすと、じっとこちらを見つめてくる。少しだけ薄暗いけれど、明かりを灯すほどでもない保管庫の中。

心を落ち着けてくれる薬草の香りと、カラフルな石と、さまざまな素材が入って鎮座する小瓶。私がカゴに葉っぱや石を入れていく小さな音。ここは、まるでいつものアトリエみたい。

そんなことを考えていると、ふとレイナルド様が呟いた。

「……アカデミーで、こんな風に一緒に学べたら楽しかっただろうな」

「……!? えっと、わ、私はアカデミーに通いませんでしたから」

「うん、わかってる。実習とかいろいろあるんだ。あそこは」

「……“実習”。と、とても……楽しそうですね」

レイナルド様の言葉に苦い思い出が蘇る。アカデミーでの実習は、外では魔力を使わないことに決めていた私にとって苦手な時間だった。

でも、たとえ魔力が使えなくても、今のこのレイナルド様と一緒だったらきっとわくわくする時間のひとつだった気がする。

内気で引っ込み思案で、外の世界を知らなかったことがもったいない。そう思うと、そんなつもりはないのに笑ってしまう。

すると、レイナルド様も笑みを返してくれた。

「今度、ある人の結婚式に行くんだけど」

「け、結婚式、でしょうか……!」

これは間違いなくお兄様の結婚式の件で。『フィーネ』と『フィオナ』は遠縁ということになっているから、私が結婚式のことを知らないのもおかしい気がする。

どうしたらいいの……! と内心焦り始めた私だったけれど、レイナルド様がお話ししたいのは違う話題のようだった。

「その場所が少し懐かしい場所で」

「懐かしい場所」

お兄様が結婚式の地に選んだのは、昔、スウィントン魔法伯家の別邸があった湖畔の別荘地だった。景色がとても綺麗なこともあるけれど、何より婿入り先のモーガン子爵家が没落した我が家のことを気遣ってくださったらしい。

「そう。俺が、魔法や錬金術に興味を持つようになったきっかけの場所」

「そんなところが……あるのですね……?」

「スティナの街。湖畔の別荘地なんだが……フィーネも知っているかな」

「……スティナ」

「そう。俺が最初で最後の、魔法を見た場所だ」

――湖畔の別荘地、スティナ。胸の奥が、ざわりとした。