軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12.謎の依頼と魔力空気清浄機②

「ど、どうして……こんなものを……」

完全に挙動不審になってしまった私だったけれど、なぜかレイナルド様まで歯切れが悪い。

「このポーションはある人が遊びでよく使っているんだけど……いつも生成をお願いしている錬金術師が休暇中なんだよね。俺も前に作ってみたことがあるんだけど、効果がいまいちだったみたいで、俺のじゃ嫌だって」

「えっ? レイナルド様が生成したポーションがご不満だなんて……私が生成するポーションでも自信がないです……と、とと、というか、味の方は大丈夫なのでしょうか!?」

レベルアップした喜びで最近忘れてはいるものの、私が作るポーションの味は『2』だ。しかも調子が悪いと1に戻ったりするし、何よりレベルが上がっても味2は2に違いない。

ポーションの効果自体は10段階中の4ぐらいから中級ポーションとして認められるそうなのだけれど、味に関しては大体が8か9らしい。そんなの聞いた事がなかったし、そこまで客観的な数値でまずいと言われると悲しい。

ちなみに、私の名を伏せて流通する特効薬はよその国の言葉を使って『良薬は口に苦し』と言われているようで。でもこれはただ単に生成者の技量と経験が不足しているせいなのがつらい。もっと頑張りたい……!

味を懸念する私に、レイナルド様はにっこりと微笑んだ。

「あ、そこは大丈夫。飲むのは、変わった味に魔法や錬金術の面白さとかロマンを感じるタイプの人だから」

「面白さとかロマン」

その方とは少し気が合いそうな気がする……、じゃなかった。このアトリエを使わせてもらっている以上、レイナルド様に頼みごとをされたら断ることはしたくない。

「レイナルド様、そのご依頼、謹んでお受けいたします」

「本当に? ありがとう。助かるよ」

私がぴしっと背筋を伸ばして答えると、レイナルド様は申し訳なさそうに頷いてくれたのだった。

それから、私たちは少し早い夕食にした。

今日、クライド様が持ってきてくださったのはお肉ゴロゴロのビーフシチュー。お肉とスパイスの香りで、このアトリエはあったかくておいしい匂いに包まれている。

「ところで、魔力を使った空気清浄機の試作品を作るにあたって、魔石の生成と加工はフィーネに任せるとして……外側はどうしようか」

「恐らく、レイナルド様が設計図を描けば一瞬でできてしまいますよね」

「ああ。でも、その前に魔石の性能を見ておきたいかな」

「わかりました。では食事を終えたらすぐに生成します……!」

そう言いながら、私は目の前のお皿に視線を落とす。ビーフシチューとパン、リンゴのサラダ。研究も好きだけれど、レイナルド様やクライド様と一緒にこうして食事をする時間が楽しい。

でも今日は空気清浄機に使う魔石の生成のことで頭がいっぱいだった。

「そんなに急がなくてもいいよ、フィーネ」

「あの……私が急ぎたくって。誰かのためになることを考えたら、わくわくするんです」

「そっか」

なぜか目を細めたレイナルド様に首を傾げた私は、スプーンだけでほろほろとほどけていくお肉の塊を口に運んだ。あ、おいしい……!

「このお肉……やわらかくてとろけます……! 家のビーフシチューもおいしかった気はするのですが……細かい味まで思い出せません……」

どうして、私は食に興味を持たなかったんだろう。スウィントン魔法伯家のシェフは料理上手だったと思う、……たぶん。前にジュリア様とドロシー様を家に招待したとき、二人は夕食をとてもおいしいとおっしゃってくださった。

「もう少し早く気がついていれば、私が作るポーションの味は今頃4ぐらいには……!」

私が悔しがると、レイナルド様がぷっと笑う気配がする。

「もしかして、フィーネはさっきお願いしたポーションのことを考えてる? 大丈夫だよ。飲むのは味とか気にしないタイプの人だから。仕事としてじゃなくて、友人にポーションを作るぐらいの感覚で考えてほしいな」

「……ですが、レイナルド様……」

困惑した私に、斜め向かいからクライド様も声をかけてくれる。

「レイナルドが言う通りだよ? 俺も依頼人を知ってるけど、ほんとに面白い人だから? フィーネちゃんがちょっと変わった味のポーションを渡しても興味深く飲むと思うよ、あの方は」

「クライド。余計なことは言わなくていい」

「いいじゃん、このぐらい。どうせフィーネちゃんは会ったことないんだし」

何だか私にはわからない話題を話し始めたレイナルド様とクライド様は本当に仲がいい。いいな、とお二人を眺めながら、私はあることを思い出した。

「そういえば、私にも最近お友達ができたんです……!」

「友達? そっか、よかったね。どんな人なの?」

「はい、図書館で仲良くなったのですが。お名前はリズさんといって、」

「ブッ」

「……」

リズさんのことをお話した途端、クライド様はビーフシチューを噴き出し、レイナルド様は笑顔のまま固まってしまった。

「だ、大丈夫でしょうか、お二人とも……!」

なにかおかしなことを言ったかなと困惑していると、怖いぐらいに完璧な笑顔でレイナルド様が聞いてくる。

「フィーネ。その人にどこで出会ったんだっけ?」

「王宮図書館の魔法書のコーナーです」

数秒の沈黙の後。

「あってんね」

「……間違いないな」

二人のこそこそ話がまたはじまった、と思ったらレイナルド様は焦ったように私に向けておっしゃった。

「フィーネ。さっきのポーションの依頼はなかったことにしてくれるか」

「? え、あの、私引き受けましたしきちんと作ります……!」

「いい。フィーネの身の安全のほうが大事だ」

「み、身の安全……でしょうか!?」

「ああ。その友人ともあまり関わらないほうがいい」

「!」

急に風向きが変わったことに私は目を瞬いで、困惑を隠せない。

「あの。でもそのお友達にはもうお茶に誘われてしまって」

「!」

その瞬間、顔を引き攣らせるレイナルド様の向こうで、涙を流して笑い転げるクライド様の姿が見えた。

「やばい、まじ面白いんだけど。いや、あの方はフィーネちゃんのこと絶対好きだろうなって思ったよ? でも知らないとこで仲良くなるとかほんと面白すぎ」

「クライド、それ以上笑うな。……フィーネはこの会話のことは忘れて? 食事を終えたら、一緒に魔力空気清浄機の研究をしようか」

「……は、はい……?」

様子がおかしいお二人のことが気になったけれど、早く研究に移りたかった私はレイナルド様の言葉に頷いたのだった。