軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29.婚約破棄の秘密と魔石の加工⑤

「我がスウィントン魔法伯家が没落する前に話を進めたいのだろうな」

「は……話を進めたい、って」

「貴族令嬢なら、フィオナにだってわかるだろう。これは縁談に繋がるものだ」

「え……えええ縁談。縁談、縁談……」

何度か言葉をくり返してみたものの、全然意味がわからない。

私は『フィーネ』としてレイナルド様と仲良くさせてもらっている。いつも気遣ってくれてお優しいレイナルド様だけれど、フィーネに対する思いやりはやっぱり錬金術を扱う同士の延長のようなものなのだろう。

うれしいような、少しもやっとするような、不思議な気持ち。ううん、もやもやなんてしていない。

私にアトリエを使わせてくださって、錬金術の話し相手になってくださって、外の世界を見せてくださるレイナルド様には、本当に心から感謝しているのだから。

「フィオナに王太子妃は務まらない」

「わ、わわわ私だってそう思います!」

そうだった。どう考えても無理。ついこの間まで引きこもっていて、今もちょっとしたことで視界が白くなる私には絶対に無理。

気の弱い自分をやめたいとは思うけれど、一国の王位継承者の配偶者だなんて、そもそもの資質の話だ。ここ最近で一番大きな声を出した私に、お兄様は力強く頷く。

「何とか断りたい。だが、今回は無理だ」

「……! そ、そんな、どうして……」

「私はまもなくモーガン子爵家の入り婿になる。ここで殿下からの要求を突っぱねることは、我がスウィントン魔法伯家だけではなくモーガン子爵家のことにもかかわる」

「……た、確かにその通りですわ……」

お兄様に心配や迷惑をかけずに自立したい、これが薬草園つきのメイドとして働くようになったきっかけで。ここだけは、絶対にぶれたくない。

レイナルド殿下からの面会の要請を断ることでお兄様の人生が危うくなるくらいなら、このお話を受ける以外の選択肢はない。

……途中、嘘をつき通せなくなって気絶するかもしれないけれど。

「しかし、レイナルド殿下から頻繁に書簡が届いていたのはアカデミーを辞めて直後の話だったはずだ。諦めてくれたと思っていたが、なんだってこんな急にまた」

「レイナルド様は私と『フィーネ』が同一人物なんて思いもしてないはずです。本当に不思議……」

そこまで話して、私はある可能性に思い至った。もしかして、フィーネとフィオナが遠縁だということも関係している……?

そういえば、レイナルド様はクライド様から「お兄様に取次をお願いするよりも女の子同士のほうがスムーズ」とかなんとかアドバイスを受けていたような。

「とにかく、王宮へは面会を受けるとの返事を出しておく。もうこうなったら仕方がない。万一気絶しても、きっとレイナルド殿下がお姫様抱っこで医務室に運んでくれるから安心しろ」

ちっとも冗談にならなそうなのが怖いですお兄様……。

でも本当に、嘘がばれるぐらいなら気絶してしまいたいところで。

レイナルド様は、私が『フィーネ』だと信じているからこそあんなに気遣ってお優しくしてくださる。それが、実際に中身は『フィオナ』で自分を欺いていたと知ったらどうお思いになるのだろう。

せっかくできた、私に居場所を与えてくれる大切な友人。その人を失いたくない。

「ま……まままま魔石の加工、できました……」

「鑑定させてもらってもいい?」

「も、もももちろんです……」

数日後、早朝のアトリエに私とレイナルド様とクライド様は集まっていた。目の前にはクライド様が淹れてくださったコーヒーがある。

王太子殿下が自分でコーヒーを淹れられるのだから、伯爵家嫡男のクライド様にもできるのは納得のいく話で。これは味いくつなのか聞きたかったけれど、私にその勇気はまだない。ちなみに、ミルクたっぷりで淹れてくださったこのコーヒーはとてもおいしい。

私がスウィントン魔法伯家に戻って加工してきた魔石は5個。本当はもっとつくりたかったけれど、体力が足りなかった。

もう少し草むしりを頑張ろう、肥料もたくさん運ぼう、ネイトさんに呼ばれたらもっと速く走って行こう。そんな決意をこっそり固めた私の前で、レイナルド様は目を輝かせた。

「……すごい。前のものに比べて倍以上の効果になってる」

「は……はい、あの、状況に応じて使用者がさらに魔力を足せるよう、遊びも多めにしてみました……その方によって使い方は異なると思いますので……」

「確かにその発想大事だよね。カスタマイズして使えるようにするべきだと俺も思う。そしてやっぱり、以前錬金術師ギルトに頼んだものと『色』が同じだね」

「!」

私は何も答えなかったけれど、レイナルド様は柔らかく微笑んでくれた。そして、あらかじめ書き上げていたらしい設計図を作業机の上に広げる。

私は上質な素材と魔力を使った錬金術が得意だけれど、レイナルド様は設計図と魔力を使った魔法道具作りが得意な様子だった。

設計図を使った錬金術は才能だけではできない。緻密な計算が必要になるから、相当な勉強が必要になる。

「フィーネ、これ確認してくれる?」

「も、もちろんです……」

設計図を確認していると、レイナルド様のほうから鼻歌が聞こえてきた。

「今日、フィーネは薬草園の仕事も工房の手伝いもお休みなんだっけ?」

「は、はい……あの、家に戻る予定で……」

「そっか。馬車は手配した? 俺がやろうか?」

「い、いいいいいいえ! まさかそんな! あの、大丈夫……、です」

今日のレイナルド様はとてもそわそわしていらっしゃる。そして、いつもよりさらに優しくてニコニコ笑っている気がする。

ちなみに、その後ろに見えるクライド様は、このアトリエに来たときからとても心配そうな視線を私にくださっていた。

なぜなら、今日この後。

私は『フィオナ』に戻ってレイナルド殿下とお茶の時間を持たなくてはいけないのだ。