軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53.世界に魔法が戻るまで③

時は経ち、それから一年後、アルヴェール王国の王都ユーリス。

私は、レイナルド様と一緒に商業ギルドを訪れていた。

昼間の商業ギルドはとっても賑やか。扉を入ってすぐに声をかけてきたのは、以前『魔力空気清浄機』のときにも力になってくださったジャン・ハンフリーさんだった。

「レイ、……と フ(・) ィ(・) オ(・) ナ(・) 嬢。上階の個室が空いている」

「いい。そんなに難しい話じゃない。ただ、錬金術師ギルドに話を通してもらうだけでいいんだ」

「……だから、そのための書類を作成するために別室へだな。ここは目立つ。お前もフィオナ嬢も有名人だろう」

「書類、書類、って。本当にここは面倒ばかりだな」

はー、とため息をつくレイナルド様を見ていると、思わず頬が緩んでしまう。

錬金術が大好きでいろいろな魔法道具をここで商品として登録しているレイナルド様にとっては、ジャンさんはクライド様と同じように心を許せる人なのだと思う。

「書類はすでに作成してまいりました。以前、同じような手続きをしたときと同じ書式で」

「うわ、助かる」

一枚の紙を取り出してカウンターの上に置いた私は、合わせて小さな瓶を隣に並べた。

「これは……?」

「この世界に魔法を取り戻すためのポーションです」

「はっ?」

ジャンさんは口をぽかんと開けて驚いている。

それはそうだと思う。

私はこのポーションをずっと秘密裏に開発してきた。開発を知っているのは、アルヴェール王国でも中枢に近い一部の方々だけ。

国王陛下や王妃陛下、レイナルド様、『空の上』へ行った皆さん、工房ではローナさん。たくさんの人に助けていただいて『魔法を取り戻す』ポーションを安定して生成するレシピの開発に成功したのだ。

それはもう、これまでの研究とは比べ物にならないほどに大変だった。

魔法を取り戻すためのヒントになったのは、『ひどく不味い、味のレベルが1や2のポーション』。鑑定スキルをお持ちのレイナルド様によると、『味1や2』のポーションや飲み物はまず存在しないみたい。

だから、私が生成したり作ったものが不味くなるのは、もともと体質が異質なせいだと予想がついた。

この世界の精霊は、二百年前の魔法による不具合のせいで魔力を受け取ることができない。だから魔法にならない。私の異質な魔力なら受け取れるのだから、皆の魔力も異質なものにしてしまえばいいのだ。

すぐにそのことを思いついたのだったけれど、何の自覚もなかった頃に『味1』を『味2』へ上げることに苦労した私だ。そんな簡単なものではなかったし、そもそも過去に同じようなポーションの開発事例もなくて大変だった。

幸い、この世界で人が持つ魔力に属性はない。精霊が受け取れる――『不味い』魔力にする。そう決めて開発を進め、やっと形になったのが半年前。

そこからは大勢の方々に協力していただいた。何百種類ものポーションを試してもらい、改良を重ねて出来上がったのが今日ここへ持ってきた完成品だった。

心底わけがわからないという表情のジャンさんの前、レイナルド様が説明してくださる。

「このポーションの効果は、鑑定スキルを持ち、かつこの国の王太子でもあるレイナルド・クリス・ファルネーゼの名誉をかけて保証する。流通させることでこの国……いや世界の歴史は変わるんだ」

私たちを遠巻きに見ていた、商業ギルドを訪れていた人たちがざわざわと騒ぎ始めた。私たちが魔法を取り戻すための研究をしていたことはずっと秘密だった。けれど、今日、このポーションを登録することで新しい歴史が始まるのかもしれない。きっと。

「……マジかよ」

「ああ。それで、前回と同じようにレシピを登録し、誰でも生成できるようにしたい。ただし、今回はレシピを購入した錬金術師が生成したポーションのクオリティをチェックしたい。それでお墨付きを与え、販売の許可を出す」

「……マジかよ」

同じ言葉で相槌を打ち続けるジャンさんは信じられないという表情で固まっている。商業ギルドへの商品の登録は、職員に受理してもらえないとはじまらない。

前回も、流通のさせ方――レシピ自体を売りたいという申請に難色を示されてしまったのだ。それを思い出した私はぐっと拳を握りしめた。

「これは、世界に魔法を戻すためのポーションです。たとえレシピが無償で流通したとしても、錬金術師の価値の低下には繋がらない……いいえ、むしろ高めることになるのではないでしょうか……っ」

勇気を出して付け足すと、ジャンさんは私の顔をまじまじと見た後、真剣な表情で聞いてくる。

「フィオナ嬢、だったよね。君は何者なんだい?」

「……少し前までは、人に会うのが怖くて……。王都の外れにある森に囲まれた屋敷のアトリエに引きこもって特別なポーションを作っていました。そのポーションは、幾人もの商人を介して流通していたと聞いています。珍しい魔石の加工をしたりもしていました」

懐かしい思い出を語れば、ジャンさんの目が驚きに見開かれる。

「君があの特効薬の――!」