軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48.帰還へ②

後ろの船を見ると、軍用船から花火のような火の玉が上がったのが見えた。

それは一直線にこちらへと飛んできて、上空で弾けた。空気自体を燃やすような熱風が船の上にいる私たちを襲う。

「あつっ……なんだこれ⁉︎」

「威嚇だろう。もしくは距離がありすぎてまだ届かないかのどちらかだ」

クライド様とレイナルド様の声色にも焦りが滲む。

たぶん、これは弱い攻撃魔法だと思う。向こうが使う魔法がこれぐらいのものなら、最悪船に当たったとしても墜落することはなく乗り切れる気がする。

これを振り切れるような魔法……。たとえば船のスピードを上げられるような呪文はないかな……!

思わず周囲を見回した私の視界に、『ベンヤミン・ボルストと魔法の国』が入ったバスケットが映る。

そうだ、この本はリトゥス語の古語で書かれていた。リトゥス語の古語といえば、魔法の呪文に近い響きのものだったはず…!私はバスケットをひっくり返すようにして絵本を取り出し、パラパラとページをめくる。

「あった! 船を加速させるページ!」

『ベンヤミン・ボルストと魔法の国』の中で、空を飛ぶ魔物に追われるクライマックス。魔物が放った『精霊を混乱させる特殊魔法』のせいで魔法がうまく発動しない中、主人公は内なる特別な力を目覚めさせて船を加速させ、魔物を撃退することに成功するのだ。

絵本には呪文自体は書いていないけれど、リトゥス語の古語を理解し、魔法書に載っている呪文の読み方を知っていれば、呪文は自ずとわかる。

そう、この船を加速させるのに必要な言葉は。

《 空を飛べ(ボラレ イン カエロ) 》

口にした瞬間、体がふわりと浮くような感覚があった。それが急加速したことによる浮遊感だと気がついたのはミア様の叫び声を聞いた後だった。

「きゃあああ! なんっ……何なのよぉ!?」

船がギュンっと一気に加速し、私はあわてて船の甲板にある帆柱に掴まる。

「あっ!? 申し訳ありません、スピードを上げますので、どこかに掴まってください……!」

「あんたね、こういうことする前に言いなさいよ⁉︎ それに、今日まで魔法なんて使ったことなかったくせに、余計な呪文を唱えるんじゃないわよ!」

「でも、ルカーシュ殿下が乗っている船が追いつきそうになっていたので」

船が加速したことで、さっきまでどんどん大きくなっていた軍用船の姿はまた徐々に小さくなっていく。私がどうやって魔法を使ったのかを理解したらしいレイナルド様が感心したように頷いてくださる。

「……リトゥス語の古語を呪文に応用したんだね」

「も、申し訳ありません。でも……その、理由は言えないのですが、絶対に安全面は大丈夫ですので……信じてください」

「フィーネの魔法に関する知識や技術は信じてるよ。魔法を使わないでと言ったのは、もうこれ以上フィーネの印象を向こうに残したくないからだ」

「……はい……」

この船には、レイナルド様とクライド様とミア様、そして騎士の皆さん。たくさんの命を乗せている。それなのに、魔法という生まれてこの方使ったことがなかった未知の力を使った私に怒ってもいいようなものなのに。

レイナルド様の、落ち着いた言い方に違和感をもって仕方がなかった。

船が加速したことで、私たちは無事に塔へと辿り着くことができた。

「……誰もいないな」

「ラッキーって話ならいいけど……今それをここで議論する時間はないよね。とにかく下りてこの国を出よう」

レイナルド様とクライド様の言葉に頷くと、私たちは急いで船を降りるとエレベーターの前まで急いで向かう。

塔の天辺はとても静か。衛兵がいてもおかしくないと思っていたのに、まさかの状況にホッとするとともに不気味さを感じてしまう。

ルカーシュ殿下は軍用船を出してまで私たちを追ってきているのに、こんなことあるのかな……?

けれどとにかく、考えている時間はない。全員がエレベーターに乗り込むと、クライド様が魔力を注いでレバーを引く。来たときと同じようにエレベーターが動き始めて安心した。

後少し。もう少しで、下の形ばかりのリトゥス王国で待機していた皆さんと合流できる。味方が増えると思うと、それだけで心強かった。

「昨日、塔の上に行った時点で知らせは出してある。いつでも出発できる状態になっているはずだ」

レイナルド様の言葉に安心しつつあったところで、エレベーターが下についた。そこから階段をさらに下っていく。

石でできた塔の中に、コツコツという私たちの靴音が響く。外では雨が降っているようで、さぁぁぁという水の音が聞こえていた。

「雨? 雲の上は晴れていたのに、不思議ね」

「そんなこともあるものですね」

ミア様と首を傾げつつ、レイナルド様とクライド様に続いて塔を出ようとすると、ばしんとお二人の背中にぶつかってしまった。

「…!?」

顔を上げると、そこには剣を構えたリトゥス王国の兵士の皆さんがいたのだった。