軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15.瞳の奥に

王都を出発してから三週間ほど。私たちは順調に旅路を進んでいた。

「あー。こんなに毎日座ってばかりで、お尻が痛くなっちゃうわよ!」

「これ、どうぞ。お尻の負担を軽減するクッションです。こう見えて小さな魔石が埋め込まれていて、座面にかかる圧をうまく分散し、」

「そんなうんちく聞いてないわよ!」

ミア様は怒鳴りながらも私の手からクッションを持っていき、自分の座席に敷いた。座り心地は結構いいみたい。長い旅が少しでも過ごしやすくなるようにと思って作ったものだったから、よかった。

ちなみに、この馬車には私とミア様だけではない。他にも人が乗っていた。それは。

「フィーネもそろそろ疲れてきたんじゃない? 大丈夫?」

「私は大丈夫です。レイナルド様もこのクッションをお使いになりますか?」

「うーん。それよりもどうやって作ったのか聞いても?」

「はい! これは中に詰める中綿に錬金術で生成した綿を採用したんです! ですから魔石の魔力がなくなっても座り心地が良くて」

レイナルド様からの質問に私は嬉々として答える。つい数秒前に話し損ねたこの新しい魔法道具の作りについて元気いっぱいに説明すると、レイナルド様の隣に座っていたクライド様が苦笑する。

「フィーネちゃんさ、せっかくいつもと違う任務なのに、ずっと錬金術のことばかり考えてるんだね」

「……一応、この旅が少しでも快適に過ごせるように研究をしてきましたので。まだ改良できるところがあればしたいなと」

「クライドは黙れ」

ぺこりと頭を下げた私の前、レイナルド様がクライド様をでこぴんして、クライド様が「うっ」と鈍い声を漏らす。大丈夫ですか……!

というか、王族の人もでこぴんするんですね……?

今日、私たちは国境の町に入った。ここから先はリトゥス王国の国土になり、険しい山になる。馬車で移動できるのもあとわずか。

普段はレイナルド様とクライド様は別の馬車に乗っていらっしゃるけれど、レイナルド様が「飽きた」とおっしゃったせいで、いつもは余裕を持って乗っているはずの私とミア様の馬車は満員だった。

私が作ったクッションを興味深そうに鑑定して椅子の上に敷いたレイナルド様は、一冊の本を取り出した。

それは、王立図書館の王妃陛下の収集品が置いてある小部屋で見た手記だった。

「フィーネ、見て。この前、ページ同士がくっついていたせいで見逃してたんだけど、ここに興味深い記述がある」

「! どこですか?」

「ここ。リトゥス王国の王族の外見の特徴について、一部黒塗りされていない絵がある」

レイナルド様が指差した先には、人の顔の絵がある。輪郭に、髪の毛に目に鼻に口。相変わらず、そこから伸びた線の先――特徴を文章で説明してあるような場所は黒塗りになっているけれど、絵自体はそのままだった。

「これ、目が……」

「そうなんだよね」

気になったのは、顔に描かれている目。私と同じ碧い瞳なのはわかるけれど、目の中に宝石のような絵が描かれている。それも両目に。つまり、リトゥス王国の王族なら、目の中にこんな感じのものがあるってこと……?

「これが特徴、ということでしょうか。そうだとしたら、私の目にはこういうものはありません。つまり、私の外見的な特徴はリトゥス王国の王族のものと一致しないことになります」

「本当? 自分で見てもわからないだけじゃない? 見せて」

言い終えないうちに、ぐい、と顔を両手で支えられた。そうして、レイナルド様は私の顔を覗き込んだ。

……待ってください。

私の視界いっぱいにレイナルド様の青みを帯びる艶々とした黒髪と、空色の瞳が広がった。真剣に私の瞳を見つめている。ち、近いです……!? 突然のことに息をするのも忘れてしまいそうになる。

けれど、レイナルド様は私の様子に気がついていないみたいで。

「うーん……フィーネの瞳はすごく綺麗だけど、宝石のようなものは見えないか……もう少し近づいたら……見えないか」

これ以上近づく? 気絶しそうになった私の耳に、天の助けにも思える声が届く。

「……二人とも、なにやってんの?」

呆れたような、少し焦ったような。そんなクライド様の声。助かりましたありがとうございます……!

「!?」

クライド様の声に、レイナルド様も我に返ったようだった。あわてて私の顔から両手を離し、飛び退いて馬車の座席の背もたれに背中がぶつかった気配がする。

「うわっ、ごめん。つい」

「いいえ……特別な意味がないのはわかっていたので大丈夫です……!」

レイナルド様は、この手記に書いてあるリトゥス王国の王族の特徴が私にないか確かめようとしてくださったのだ。それはわかっているけれど、私の鼓動は早いまま。動揺しているのをできるだけ悟られないように、ゆっくりと深呼吸をする。

私とレイナルド様を見ていたクライド様とミア様も気まずそうだ。

「あのさ……いま目がすごく綺麗だとか言ってたけど、ここで口説くのやめよっか? これから伝説の国を訪問するとこなんよ?」

「アンタ、玉の輿に乗ったら私を話し相手に任命するのよ? 工房なんてやめて、毎日隣でお姫様ごっこしてあげる」

……ミア様は気まずそうではなかったかな、うん。

クライド様とミア様は私が“お母様”のことを知りたい、魔法が消えた謎を知りたい、という理由でこの使節団に加わっていることを知らない。ただ錬金術オタクだから加わったのだと思っている。それはあっているから、別に否定はしないのだけれど。

だから、私とレイナルド様のこの会話もいつもの魔法と錬金術オタクの会話としか思っていない気がする。でも、私も工房の代表で来たのだから自分のことだけにかまけてはいられない。

「フィーネ、これ貸すから時間がある時に見るといいよ」

「そうします。ありがとうございます、レイナルド様」

私はレイナルド様からぎこちなく手記を受け取ったのだった。