軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11.魔法道具の改良①

ローナさんが考えた『空飛ぶ絨毯』は、使用する素材の全てのランクがほぼ最上位のもので構成されていた。開発時にローナさんが困っていたのは『不安定さ』。

もともと、工房の梯子がわりに使うために考えたものなので、ふわふわと飛び回るよりは上下左右に安定して移動できることが重要だった。

だけど、今回は不安定でもいいから長時間使用できるように改良する必要がある。それから、険しい道や崖、川なんかを移動するときに乗れたらいいのだけれど……さすがに無理ですよね。

「素材のランクをこれ以上上げるのは無理かも。あと、使節団にこの魔法道具がたくさん必要になることを考えたら、希少価値の高いシルバーウルフの爪は使えない。設計図に手を加えるしかないのかな……」

ぶつぶつと呟いていると、ミア様はあきれたように肩をすくめる。

「だから、それもレイナルド殿下にお願いすればいいじゃないの」

「で、ですから、これは使節団に選ばれるかの評価にも関わるので、」

「あら。レイナルド殿下だって使節団に同行するんじゃないの? ていうかさっきも似たようなこと言ってたけど、使節団で使うなら国益に関わる魔法道具よね? クオリティ重視でしょ! そんなクソ真面目にいぶし銀のおじいちゃんみたいなこと言ってる場合じゃなくない?」

「いぶし銀?」と首を傾げた私の前、ミア様は身軽に立ち上がる。

「やっぱり手伝ってもらいなさいよ! じゃあ、呼んできてあげるわ」

「あっ……ミア様!?」

私が止めるのも聞かず、ミア様は個室を出て行ってしまった。レイナルド様にもご公務があるのに……

数秒後、ガチャッと音がして、個室の扉が開いた。

「連れてきたわよ!」

「フィーネ、何か困ってるんだって?」

そこには爽やかな笑みを浮かべたレイナルド様がいらっしゃった。どう考えても早すぎますどういうことですか。

全身で困惑している私の疑問に答えるように、レイナルド様は微笑んだ。

「ちょうど、鑑定を頼まれて工房に来たところだったんだよ。フィーネは何に困ってるのかな」

レイナルド様の後ろには『頼られたい』オーラが全開で見えます……! さすがに、ここまで来てもらって断ることはできなくて。というか、できることなら私もレイナルド様に頼りたい。

レイナルド様は設計図を描くのがとても得意なのだ。普段、アトリエでの様子を見ていて思うのは、もしレイナルド様が宮廷錬金術師だったら、設計図を描く技術だけでトップに上り詰めていたかもしれないな、ということ。

工房で皆から尊敬し慕われるローナさんに匹敵するぐらい、お得意だと思う。

「実は『空飛ぶ絨毯』の改良を始めたのですが、設計図のどこを触ろうか悩んでいたんです」

「これは従来品の設計図だよね」

「はい。ローナさんが描いたものです」

そうして、私はレイナルド様に机の前を譲る。レイナルド様は設計図をじっと眺めると頷いた。

「フィーネはどう思う?」

「ここの線を見てください。安定感を増すために、一度に動かせる範囲に制限が加えられています。ですが、これを削除しなくてはいけません。ですが、そうするとふわふわしてコントロールしにくくなります」

「だね。長距離移動のためのものだから、動力としてはたくさんの魔力を溜め込める魔石を使うことになるけど、おそらくこの線を削除したらその魔力に耐えられない。暴走する」

「そうですよね……」

レイナルド様は私と同じ懸念をお持ちのようだった。しばらく真剣に考えてから、机の上からペンを選んで設計図に書き足す。

「魔石から魔力を供給する魔力回路に一定の条件で制限を加えよう。ただ、このタイプの魔法道具に制限をかけた魔力回路を使用した例はない。一応文献は調べておくけど、それよりもいくつか試作品を作って実験した方が早いかもしれないな」

レイナルド様が設計図に書き足したのは、いくつかの複雑な数式だった。魔力をどれぐらい供給するのか、細かい条件が書いてある。

「ん……なにこれ。こんなの見たことないんだけど」

ずいと覗き込んできたミア様のつぶやきを拾った私のスイッチが入る。

「錬金術に使用する、生成数式について書かれた書物は工房の書棚にたくさんあります。レイナルド様が描かれているものはその中でも特に難しい公式を応用した複雑なものです。ですが工房で使用するものよりももっとわかりやすい、教本レベルの数式を解説したものもありますがご紹介しましょうか……!」

「…………。遠慮しとくわ。あんたって本当に錬金術オタクね」

すでに本性がバレているミア様は、レイナルド様の前でも容赦ない。けれど、レイナルド様もミア様には気を遣うつもりはないみたいだった。

「フィーネ。ミア嬢をこの部屋から追い出したらいいんじゃないかな?」

「いっ……いえ、ミア様はこうみえてもお手伝いをがんばってくださっていて……!」

「本当の本当の本当に? フィーネをいじめてない?」

「はっ、はい! 本当の本当の本当です……!」

「ミア嬢を追い出せ」とぐいぐいくるレイナルド様に、私は苦笑いをしたのだった。