作品タイトル不明
醤油と味噌
昨日は、一日中グレンジャー領で過ごした。
ライトマン教授と助手達に生活魔法で水田の作り方を教えたのだけど、水田のイメージが私の中で曖昧で、少し手間取ったよ。
日本の田舎の風景だけど、田植えをしてあるか、稲が実っている方に注目していたから、水田自体がどんな物なのか、いまいちわからない。
生活科で、米を作る学校もあったそうだけど、私の所はさつまいもだった。多分、田植えとかして泥だらけになったら、保護者から電話が掛かってくるからかもね。
さつまいもでも、体操服に泥はついたけど、田んぼよりはマシだったと思う。
実は、前世で苦手な物があったんだ。普段は、そう潔癖症でも無いのだけど、ぬりゅとした泥とかに裸足なんて無理! だから、田植えとかの授業じゃなくて良かったよ。
だから、潮干狩りも砂浜っぽい所なら大丈夫だけど、泥っぽいぬりゃぬりゃな場所は、パスだな。長靴履いてならできるかもね。
ライトマン教授と助手達も、水田は初めてで、リンネル教授から説明を受けていた。
「水田は、水を張った状態ばかりでは無いのです。時々は、水を抜く必要があると書いてありました」
ええっ、そうなの? 知らなかったよ。これは、リンネル教授達に任せよう。
「それなら、用水路を仕切って水位を高くして、水を入れる。水を抜く時は、仕切り板を外して用水路の水位を低くすれば良いのですね」
畑も、水やりが必要な作物もあれば、雨だけで大丈夫なのもあるそうで、これから勉強する事が多いよ。
「長粒種の米は、畑で作ると書いてありましたから、そちらも隣に用意したいですね」
畑栽培といっても、米を作るにはかなり水が必要みたい。
「グレンジャー領でも、ハープシャー領でも、小麦がメイン作物ですが、芋や豆と輪作なのでしょうか?」
芋は、小麦が不作の時の為だと思う。豆は、多分、モンテス氏が作らせているんだろう。
「豆は、これからハープシャーで作る調味料の材料になりますから。麦や米も材料ですけどね」
今年は、米と豆は買う必要があるけど、来年からは自領で賄いたい。
ハープシャー領は、ライナ川の上流で、扇状地になっている。果樹栽培に適した土地が多い。
葡萄畑が広がっているけど、今年はまだ手入れの最中だ。
グレンジャーは、ライナ川の下流で海がある土地だ。
ライナ川沿いに三角州が広がっていて、グレンジャー湾を土で埋めたのは痛いけど、この土には栄養があるんだよね。
この三角州に水田を広げたい。今は、放置されているから、開発し放題だよ。
ハープシャー館に戻った時は、お茶の時間を過ぎていた。貧乏時代には、グレンジャー家にはお茶の時間なんてなかったけどね。
パーシバルとクラリッサと私でお茶を飲みながら、これからの予定を話し合う。
「明日から、醤油と味噌の仕込みをしたいのです。モンテス氏に、手伝いの人を頼んでいます」
パーシバルは、味噌や醤油の作り方なんて知らない。クラリッサには、作業の監督をして貰うから、一緒に説明をする。
「味噌は、茹でた豆と塩と麹で作ります。白味噌は、炊いたお米に麹を混ぜる工程が増えますが、基本は同じです」
クラリッサが「麹?」と首を傾げている。
「麹は、大豆を発酵させて味噌や醤油にする大切な菌なのよ。これを先ず作っておかなくてはね」
領地にも麹菌は持って来ているけど、増やさなきゃいけない。
「夕食までに作業をするから、クラリッサも手伝ってね」
米は炊いておくように言ってある。大量に作るのは初めてだから、頑張ろう。
「ペイシェンス、醤油は味噌とは違う作り方なのですか?」
醤油は、工場見学だけで、実際には作った事はない。ただ、家で味噌を作っていたから、違いは覚えている。
「醤油の材料は、豆と麦と塩と麹なの。麦を炒って、それを砕くのが作る工程の違いの一つですね。後は、茹でた豆と砕いた小麦と麹を混ぜて、発酵させます。この工程後が、全く違うの。塩水を混ぜて、樽に入れて毎日撹拌させて熟成させるの」
船の櫂みたいな棒で毎日撹拌させて、空気を樽に送り込まないといけないのだ。
「醤油は、三ヶ月攪拌しなくてはいけないのだけど、夏休み中にソース作りもしたいから、今回は半分は魔法で早く仕上げるつもりよ」
これも、魔法なしでできるか、ちゃんと検証してみないとね。醤油を作るのは初めてだからさ。
クラリッサとパーシバルと私は、麹菌を増やす室に向かう。途中で、ミッチャム夫人とリラをキャリーに呼びに行かす。
「これを着てね!」
白の上着を全員に渡す。パーシバルのは、男の手伝いの人用の大きなサイズだ。
「綺麗になれ!」も掛けておく。
「麹菌以外を繁殖させたら大変だから、清潔を保たなくてはいけないの」
前から作業しているエバ達にも白の上着を渡してある。中では、大量の米が炊かれていた。
「お嬢様、これで良いのでしょうか?」
「ええ、十分よ! メアリー、キャリー、リラも手伝って、箱に並べて下さい」
木箱の下には簀子が敷いてある。そこに薄く炊いたお米を広げていく。あまり熱いと、麹菌が死んじゃうから、広げて熱を少し冷ますのだ。
「クラリッサ、パーシー様、この上に麹菌を満遍なく撒いていくのよ」
王都で作っておいた麹菌を、三人で撒いていく。
「後は、この布を掛けて、一晩寝かせます」
この室の中は蒸し暑い。出た途端、全員で息を吐いた。
「明日は、大量の豆を茹でて潰すのと、小麦を炒って砕く作業があります。モンテス氏が手伝いの人を手配してくれていますが、初めてなのでエバにも見て欲しいのです」
これ、誰か責任者が必要だ。モンテス氏に、推薦して貰おう。
「リラに責任者になって貰ったら良いと思います。今は、大勢のお客様が滞在されているから、忙しいですが、普段は時間がありますから」
それと、醤油は毎日撹拌する必要があるのだ。専任の従業員がいる。
「明日は、力仕事も多いので、女の人だけでなく、男達も雇っています。その中から、一人雇いますよ」
真面目で、力仕事も厭わない人にして欲しい。醤油の樽を毎日撹拌してもらわないといけないのだから。
「味噌と醤油の一部は、少し魔法で後押しします。夏休み中に、製品をつくりあげたいのと、ソース作りをしたいからです」
ソース作りは、女の人を雇用したい。
「これは、責任者にケリーさんになって貰ったら良いのではないでしょうか? 彼女は、料理のセンスがありますし、今はエバさんの下で修業していますから」
それは、ちょっと考えなきゃね。
「ケリーは、麹菌を扱うけど、葡萄酒作りには関わるのかしら?」
二つの発酵を一緒に扱わない方が良いと思うんだ。
「どういう意味でしょう」
「味噌と醤油は、麹菌で作るのです。葡萄酒とは違う発酵なの。特に、麹菌は繊細だから、室や蔵に入る時は、清潔を心掛けて欲しいのです」
それは、ケリーに厳重に注意するとモンテス氏は約束してくれた。
「雇う人にも清潔を心がけて欲しいの。兵舎にあるシャワーと使用人のシャワーを使わせてね」
夏場だから、領民達も井戸端や川で身体を洗っているみたいだけど、私的には不十分に感じる。
「それと、白い上着は毎日洗濯して下さい。これは、ミッチャム夫人とリラに言っておくけど、私が不在の時も気をつけてね」
今回のお手伝いの人には、お金と共に古着を賃金として渡すつもり。
少しずつ、服装も変えていきたいからね。