軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

教会訪問

土曜は、朝から小雨だった。

「浚渫工事も今日はお休みかしら?」

雪よりも雨の方が濡れるし、嫌だよね。

「この程度の小雨ならするのでは?」

ゲイツ様は、相変わらず他人には厳しいね。

「今日は、教会に行こうと思うのです」

あまり気乗りはしないけど、一応は挨拶しておかないといけないし、あまりボロくなっていたら、領主として修理もしないといけないみたい。

「ハープシャーとグレンジャーの司祭は、前からずっと赴任している年配の方だと聞きました。だから、そんなに野心的だとは思えませんが、一応は気をつけておきましょう」

パーシバルは、先に簡単に調査してくれていた。ありがたいね。

リリアナ伯母様に訪問する際の注意点を聞いておこう。

「放置されていた領地の教会は、多分、補修しないと困る状態だと思うわ。それと、学習面も遅れているかも?」

溜息が出そうだ。養鶏場どころじゃなさそう。

「領都の子どもの勉強は、教会でするのが普通なのですか?」

王都は、学習塾があったけど?

「そうだと思うわ。小さな村の子は、親や暇な老人が教える程度なの」

それは、要改善だけど……先ずは訪問して話を聞いてみよう。

「教会に行かれるのなら、ついて行きます」

えっ、王宮魔法師のゲイツ様なんか連れて行ったら、変な注目をされるんじゃないかな?

「でも……」と断ろうとしたけど、ニッコリと笑われる。

「どうせ、王都のモンタギュー司教から、何か言って来ていますよ」

ゲッ、それは嫌だな。

「だから、手出し無用だと分からせた方が良いのです」

ゲイツ様の教会嫌いは凄いね。

「ゲイツ様の領地にも教会はあるのでしょう?」

私の所より大きな領地だし、栄えている気がする。

「ええ、仕方ないのですが、私に手出しするのは諦めていますよ。お仕置きされない様に、行儀良くしています」

何だか闇が透けて見えたよ。

「もっと友好的な関係は望めないのでしょうか?」

ゲイツ様は、腕を組んで考える。

「ううむ、よほど無能か、よほど骨がある司祭なら、なんとかなるかもしれませんね」

つまり、王都から見放される程の無能な司祭か、何を言われても無視する気骨のある司祭ならって事かな?

「基本は、あんな寂れた領地に派遣されるのは、無能な司祭が多いですけどね」

それは、それで嫌かもしれない。

行く前から、行きたくなくなったけど、パーシバルと一緒に行こう。ゲイツ様もついてくるけど……。

「メアリーは、ケープコットで教会とはどんな関係だったの?」

「私が生まれた村は田舎でしたし、教会はありませんでしたわ。お屋敷に勤めだしてからも、教会に行く暇なんかありませんでした」

そんなもんなの?

「うちの村は、あまり信心深くなかったのです。それに孤児院もありませんでした。領都にはあったのかもしれません」

サティスフォード子爵領とは違う感じだね。港とか漁師の方が信心深いのかも?

「田舎なら、親が亡くなっても、親戚が育てる事も多いからね。まぁ、食べていけないなら、孤児院に連れて行くだろうが……」

それでも、王都よりは教会は身近な存在だと聞いたけど?

「まぁ、病気になったら、教会に行く事もありますし、真面目な司祭なら村も巡回したりしますからね」

つまり、何もかも教会任せなのが原因なのかもね。

先ずは、グレンジャーの教会に行く。はぁ、これは壊れかけなのでは? 教会の横の孤児院もかなりボロい。

「ペイシェンス様、行くのやめますか? かなり金を無心されそうな予感がします」

ゲイツ様の言う通りだけど、避けては通れないよね。こんな荒れ果てた教会でも司祭が派遣されるのって、ある意味で凄いな。

「さぁ、行きましょう!」

パーシバルにエスコートされて、教会の中に入る。これで、私は二度目の教会訪問だ。元ペイシェンスは、母親の葬儀に来ているけどね。

「どちら様でしょう」

年配の司祭が声を掛ける。どうやら、子ども達とお掃除中だったみたい。

「この度、グレンジャーを拝領したペイシェンス・グレンジャーです」

司祭は、私の若さに驚いたみたいだが、掃除をやめて、司祭の部屋に案内してくれた。

「私は、グレンジャー教区を任されているジョナサン・ライトと申します」

かなり古い応接室だけど、掃除は行き届いている。

「孤児院も運営されているのですね」

さっきも子どもがいたからね。

「ええ、今は十人ほど預かっています」

それって、多いのか少ないのか判断できない。

「司祭様の奥様はいらっしゃらないのですか?」

パーシバルが質問してくれた。

「ああ、私はずっと独身なのです。子ども達の世話は、年上の子が手伝ってくれています」

エステナ教会は、司祭の婚姻は認めている。じゃないと聖皇とか困るもんね。

「何かして欲しい事はありますか?」

ゲイツ様は、金の無心をされるぞ! っと目配せするけど、このまま放置はできないよ。

「教会の雨漏りと孤児院の壁をなおして欲しいです」

それは、しなくてはいけないだろうね。

孤児院を視察した。10歳ぐらいの女の子が幼児達の面倒を見ていた。さっきの男の子といい、司祭も全員が痩せすぎだ。

エステナ教会とは、少し距離を置きたいけど、目の前の栄養が足りていない子どもはほっておけない。

「ライト司祭、教会の屋根と孤児院の壁の修復は致しますわ。それと、このお金で子ども達に食べさせてやって下さい」

メアリーに目配せすると、金貨を数枚渡す。

「こんなに! 宜しいのでしょうか?」

「ええ、それと領地の子の勉強もみて欲しいのです」

司祭は、難しい顔をした。

「親達は、働き手の子を勉強に来させません」

ふぅ、溜息が出そうだ。

「それは、これから考えましょう」

ライト司祭に見送られて、グレンジャーの教会から去る。

「ペイシェンス様、あの教会の屋根を葺きなおすのを魔法でしてはいけませんよ」

それができたら、簡単なんだけどさ。

「ええ、わかっていますわ」

なるべく、エステナ教会に私の能力は知られたくないのだ。

「あの金貨の三分の一はエステナ教会にいってしまいます」

はぁ、今度からは現物支給を多めにしよう。

「でも、少しは現金も必要ですから、ペイシェンス様がされた事も間違いではありません」

パーシバルに庇って貰ったけど、上納金を払うとしても、必要だと思ったんだ。

「お腹が空くのって、本当に辛いから……」

ゲイツ様とパーシバルが驚いているけど、メアリーがぎゅっと抱きしめてくれた。

「やはり、彼奴らをもっと懲らしめた方が良いですね!」

いや、ゲイツ様! これ以上は良いから。

「一昨年は厳冬だった上に、年末に私が病気になって治療費が掛かったから、食費を切り詰めたようですわ」

薄いスープと薄くて固いパン、あちらが透けそうな薄いハム! 思い出したくないよ。

気まずい沈黙の中、ハープシャーの教会に着いた。こちらは、まだグレンジャーの教会よりはマシだね。

「こちらも、絶対に金を無心されますよ」

ゲイツ様、入る前から嫌な事を言わないでよ!

「ペイシェンス、さぁ、行きましょう」

しなきゃいけない事は、さっさと済まそう! パーシバルと教会の中に入る。ここは、掃除中じゃなかったから、司祭の部屋をパーシバルがノックしてくれた。

「もしかして、訪問すると伝えた方がよかったのでしょうか?」

ゲイツ様に小声で質問するけど、肩を竦めている。

「まぁ、居なかったら、今度来たら良いだけですよ」

ノックに返事がないから、帰ろうかと思ったが、ガタガタと裏から音がする。

「はぁい! どなたでしょう?」

呑気そうな声で返事をしながら、エプロン姿の司祭の夫人らしき人が出てきた。

「今度、ハープシャーの領主になったペイシェンス・グレンジャーです。ご挨拶にまいりました」

夫人は、慌てて「ご領主様がいらっしゃいましたよ」と裏に向かって大声をあげる。少しマナー違反だけど、悪い人ではなさそう。

ガタガタと扉が開く音がしたら、司祭が塵避けの頭巾を取りながら出て来た。

「こんな格好で失礼します。イーディオ・ヨハンセンです」

確かに大掃除中だったみたい。

こちらは、司祭夫人がいるから、応接室でお茶が出た。薄くて、前のグレンジャー家を思い出す味だよ。

「お若い方だと噂で聞いていましたが、本当にお若いのですね」

まぁ、12歳だからね。若いよ!

「こんな時期に大掃除ですか?」

ゲイツ様が怪訝な顔をする。

「それが、急に他の教区にと異動命令があったのです。今度、来られる方にあまりに汚いままでは恥ずかしいと妻に言われて……」

あっ、これは嫌な予感がするよ。この老司祭夫婦は、のんびりとした感じだけど……。

「そうなのですか? 何か困った事があればとお伺いしたかったのですが」

ヨハンセン司祭も、急な転勤に困惑しているみたい。

「お恥ずかしい話ですが、私は信仰心はありますが、然程、能力がなく、治療や浄化もあまりできないのです。だから、若い頃から田舎を転々としまして、妻と結婚してからはずっとハープシャー教区でした。多分、このまま骨を埋めるのだと思っていましたが、エステナ神の思召しのままにお仕えします」

「こんな歳になって、生まれ故郷を離れるのは心細いですわ」

どうやら、司祭夫人はハープシャーの出身みたいで、ここを離れるのに動揺しているみたい。司祭は、夫人を宥めている。

「ヨハンセン司祭、ここを離れたくないなら、そう嘆願書を出しても良いのですよ」

ゲイツ様の言葉に驚いている。

「でも、そんなことをしても良いのでしょうか?」

ニッコリと笑うゲイツ様が怖い。私も、モンタギュー司教の紐付きの司祭なんかお断りしたいけど、大丈夫なのかな?

「ええ、領主がこのままヨハンセン司祭に教区を任せたいと添え書きしますから、大丈夫ですよ」

二人がホッと息を吐く。

「こんなに急に見知らぬ教区に行けと言われて、困っていたのです。それに、ここで面倒を見ている子ども達とも別れがたいし」

こちらには三人程の子どもがいるみたい。孤児というより、片親で出稼ぎに行っている期間、面倒を見ている感じだ。

こちらにも、メアリーに寄付させて、馬車に乗る。

「露骨な手を打ってきましたね」

ゲイツ様が笑みを深くする。こちらの貴族の笑顔って怖いんだよ!

「でも、司祭が無能で良いのでしょうか?」

治療も養鶏場もあまり期待できないと、パーシバルが首を傾げる。

「悪辣で有能な司祭より、無能な司祭の方が害が無いですよ。でも、ペイシェンス様、気をつけて接して下さいね」

どうやって異動命令を撤回させるのかは知らないけど、ゲイツ様ならなんとかしそう。そちらは、任せよう!