軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お針子生活3……マリー視点

お嬢様の部屋を出た後、メアリーさんが困った感じで呟いた。

「執事のワイヤットさんに言わなくてはいけないわ」

メアリーさんも苦手な人がいるのかしら? 執事のワイヤットさんは、私たちを雇った経緯を聞いて「お嬢様らしい」と笑った。

「明日、下宿の引き上げをしなさい。荷物が多い様なら、馬車を回すが?」

「いえ、鞄に入る程度です」

モリーが答えると、ワイヤットさんは頷いた。

「お嬢様は、とてもお優しい方ですが、ちゃんとお仕えしなければいけませんよ」

厳しい口調で言われたので、私達は「ちゃんとお仕えします」と答える。

その夜、食べたご馳走を私とモリーは一生忘れないだろう。

「さぁ、ご主人様方の食事が終わったから、夕食にしましょう」

このグレンジャー家には、召使いは多くないみたい。気が楽で良かったよ。

料理人のエバさんのスープ、なんでこんなに美味しいの!

「ふふふ、お嬢様のレシピの料理を食べたら、ほっぺたが落ちるわよ」

ミミという小さな女の子は、調理助手をしているみたい。

パンはふかふかで柔らかいし、お肉も薄いけどついている。それに、なんとデザート! ご主人様方が残されたパイを薄く切って貰ったんだ。

「甘いわ!」

思わず泣きそうになった。

「あの子たちにも食べさせてあげたいな」

モリーが涙を拭いて、ポツリと呟いた。

このグレンジャー子爵家は、学問の家系で、子爵様はロマノ大学の学長をされている。

キャリーとミミ、そしてルーツも、暇な時間は女中部屋で文字や計算を習っている。

「私とマリーも習いたいです!」

メアリーさんは、それは良い事だと許可をくれた。一応、孤児院でも文字と計算は習ったけど、人手が足りないから赤ちゃんの世話や掃除や調理の手伝いが多かったんだ。

縫い物やこういった学習の時間にお嬢様の話になる事が多い。

「こんな優しい雇い主なんて、何処にもいませんよね」

キャリーとミミが溜息混じりに言っていた。二人も孤児院育ちだと聞いて、驚いた。自分達だけ幸せなのが、後めたいのだろう。私も一緒だよ。

今年の秋はいつまでも暑かったのに急に寒くなった。流行病の噂が流れ、パーティも無くなったりしたのでドレスを作る人も少ないとマダムは愚痴っていたな。

「お嬢様は、あの頃、温室で薬草を育てて、上級回復薬を作っていたの」

へぇ、すごいね! 私とモリーは雇われる前の話をキャリーとミミから聞く。

「回復薬の値段も上がっているとお嬢様とメアリーさんが話しているのを聞いてから、私とミミは心配していたの。孤児院には赤ちゃんや子どもが多いから、回復薬が必要なんですもの」

聞いていて、孤児院の生活を思い出して頷いた。私たちは、下宿代を稼ぐのに必死で、そんな事は考えてもいなかったな。

「私が心配していると、メアリーさんがお嬢様に言って下さり、孤児院に上級回復薬を寄付することになったの」

私の孤児院にも寄付されたみたいなので、ホッとしたよ。

「今年の冬は厳しいから、食料品も値上がりしているみたい」

調理助手のミミが勉強の時間に話していた。

私とモリーは、下宿の女の子達が心配だったけど、習うことがいっぱいで、外に出る機会はない。

掃除の仕方、それに話し方やマナー、縫い物も全員の服を縫うのだから忙しかったのだ。

「エバさんは、普段着に他所行きの服、それに温かなコートまで支給されるのよ。羨ましいわ」

モリーと縫い物をしながら、話す。時々、キャリーも縫い物を練習する。キャリーの目標は、メイドから侍女になる事なのだ。

メアリーさんみたいな侍女になるには、裁縫もできないと駄目なんだってさ。

「私も服が支給されるのよ! それに制服の着替えも!」

「では、自分のは自分で縫ってみますか?」

キャリーは、首を横に振る。

「折角、お古じゃない服なのに、ガタガタの縫い目なんて嫌だわ!」

メアリーさんに聞こえて、キャリーが叱られたのは仕方ないよね。

冬の魔物討伐にお嬢様が行かれる! 屋敷は大騒動になった。

「お嬢様が? 危険でしょう!」

皆が顔を合わせると、わいわい騒いで、ワイヤットさんとメアリーさんに叱られた。

「ご主人様方の事を色々と取り沙汰してはいけません!」

そうだよね! それに、急にあれこれ忙しくなって、私とモリーもそれどころではなくなった。

「この布を縫う機械は、ミシンと言うのよ。これがあれば早く縫えるわ」

使い方はすぐにわかったけど、お嬢様は次々と作るものを考えられるから、ついて行くのに必死だった。

「このジッパーをシュラフにつけて欲しいの」

初めて目にする物ばかり、私もモリーも驚いてばかりだよ。

でも、それは私たちだけではなかった。

台所も大騒ぎなのだ。エバさんとミミだけでなく、お嬢様の親戚や知り合いの家から調理助手がやってきて、討伐に持って行くソースをいっぱい作っていた。

そのソースはとても美味しくて、前にミミが「お嬢様のレシピで作られた料理を食べたら、ほっぺたが落ちる」と言っていた訳がわかったよ。でも、本当はもっと、もっと美味しいんだと私は知らなかったんだよね。

お嬢様とメアリーさんが、冬の討伐に行かれたので、少し屋敷の中は静かになった。お嬢様は、いつもは王立学園の寮にいらっしゃるのに、不思議だね?

ナシウス様とヘンリー様は、午前中は家庭教師とお勉強だし、子爵様はロマノ大学に行かれている。

まだ、私達は子爵様や若君達の前にはあまり出ない。マナーを覚えていないからだ。

でも、時々、お見かけするナシウス様は、とてもお嬢様の事を心配なさっている様子なの。

「ヘンリー、お姉様が無事に帰って来られる様に、一緒にお祈りしよう」

そう話しておられるのを、子ども部屋に暖炉の薪を持って行った時に聞いたんだよね。

やっとお嬢様が帰って来られた! お風呂に入って寛いでおられるけど、少しドレスのお直しに付き合って頂きたいなぁ。だって、結婚式まで時間がないんだもん。

キャリーにメアリーさんへ、モンテラシード伯爵夫人から、ブライズメイドのドレスが届いていると伝えて貰った。

キャリーがドレスを持って、その後ろからモリーと一緒に裁縫道具を持ってついていったよ。

「ああ、やっぱりピンクのフリフリなのね!」

凄く嫌そうな顔をお嬢様はされている。可愛いドレスだけど駄目なのかな?

「でも、お嬢様にはお似合いかもしれませんわ」

メアリーさんは、テキパキと着付ている。この技術も見習わなきゃね。わっ、可愛い! お人形さんみたい。

「まぁ、とても可愛いですわ」

メアリーさんが言っても、お嬢様は不機嫌なままだ。訳がわからない。

「パーシー様も招待されているのよ! こんなお子様ドレスでは、横に並んだら婚約者というより幼い親戚の子に見えるわ」

メアリーさんも、ハッとしたみたい。そうだよね! あのハンサムなお方の横に立つには子供っぽいドレスかも?

「モリー、マリー、この生地で、もう少し年齢に相応しいドレスにできるかしら?」

お嬢様の質問に、モリーが色々なアイデアを振り絞る。

「何段ものフリルを取って、スッキリさせれば良いですわ」

メアリーさんが別の提案をした。

「お嬢様、あの銀ビーズを使われたらどうでしょう?」

ここの屋敷で銀ビーズを初めて見たけど、とても素敵で、良いと私は思った。でも、お嬢様は首を横に振られる。

「ブライズメイドのドレスは難しいわね」

花嫁様より豪華なドレスは駄目みたい。

「スカート丈は……長くしないといけないのだわ。それに、こんなにスカートを膨らませたくないけど、少しはボリュームも必要なのかも? 胸の部分にはレースのリボンをつけたら可愛いかも?」

お嬢様がデザインされたドレスを縫う事になった。

メアリーさんの監督の元、レースをアップタウンの裁縫用品店に買いに行ったり、夢みたいに楽しい時間を過ごしていても、心の奥にはあの下宿に置いて来た子達がいた。

ちゃんと下宿代を払えているかしら? 食事は食べれているかしら?