作品タイトル不明
討伐は終わり!
木の蛇(ヴィゾーヴニル) をパーシバルが討伐してから、ビッグバードも段々と少なくなっていった。
月曜日、最後のポン酢タレを掛けて昼食を2人で仲良く食べる。
いつもはゲイツ様や他の人が一緒なのに、タイミングよく2人きりだ。
とはいえ、メアリーと従者はいるのだけど、そのうち他の人達が合流するだろうと、隣のテーブルに初めから座っている。
「ふぅ、やはり彼奴が呼び寄せていたのですね」
木の蛇(ヴィゾーヴニル) は、見た目は醜いけど、皮はとても魔法防衛が高いみたいで、パーシバルは革鎧を作ると喜んでいる。
「守護魔法のマント、役に立ちませんでしたわ」
がっかりだよ!
「それは、顔はマントにカバーされていませんでしたから仕方ありませんよ。それに、このマントを着て無かったら、何回、攻撃をうけていたことか! ほら、魔石も消耗しています」
ロケットの中の魔石が灰色になっている。取り替えなきゃね!
「危険だったのですね! 私が 馬の王(メアラス) の上で、あちこち飛んで避けている間も!」
ぐずぐず泣きそうだよ。あのままパーシバルの眼が治らなかったと思うと、今でも心臓がギュンとする。
「いえ、ペイシェンスが 馬の王(メアラス) に乗っているから、そちらは心配しないで 木の蛇(ヴィゾーヴニル) と戦えたのです」
そうなの? ああ、こうしてパーシバルの無事な姿を見れて良かったよ。
「ロマノに帰ったら、乗馬の訓練をしますわ。せめて、自分で降りられる様にならなくては!」
すごく低い目標に、パーシバルが笑いを噛み殺している。
「ペイシェンス、でも治療ができるのは内緒にしておきましょう。それに、欠損修復なんて教会に知られたら、エステナ聖皇国に強制的に連れて行かれて、聖女認定されるかもしれません」
それは、嫌だ! 多分、パーシバルについていた 木の蛇(ヴィゾーヴニル) の血とパーシバルの血は綺麗にしていたから、誰にもバレていない。
「ペイシェンスより、パティの方が可愛いのに……」
木の蛇(ヴィゾーヴニル) を討伐して、パーシバルの眼を治した時は『パティ!』と呼んでくれたのに、またペイシェンスに戻っている。
「それは、2人きりの時に……」
濃紺の煌めく瞳でウィンクされると、まぁ、良いかと思っちゃう。
「それよりゲイツ様は、 馬の王(メアラス) をデーン王国の大使館で飼って貰うと言われていたけど、あの子が大人しくしているかしら?」
馬の王(メアラス) は、やっと夜は別の場所に寝る事を納得してくれたけど、凄く束縛が厳しい。
「あの時は、そう言わないとモーガン大使が納得しませんでしたからね。でも、ペイシェンスが、デーン王国の大使館にずっと居ないといけないのは困ります」
だよね! 今度の日曜はルシウスの結婚式だもの。
それにすき焼きパーティもしなきゃね!
「ペイシェンス、なにか呑気な事を考えているみたいですが、オーディン王子は 馬の王(メアラス) を手に入れる為なら、何をするか分かりません。気をつけて下さい」
ああ、私と結婚しても良いとか言っていたけど、パーシバルと婚約しているもんね!
「えっ、オーディン王子はそんな事をされるとは思いませんけど?」
パーシバルが溜息をつく。
「デーン王国の大使館で 馬の王(メアラス) が飼われるなら、行く時は私もついて行きます」
これから収穫祭で忙しそうだけど、大丈夫かしら?
「ああ、それは 馬の王(メアラス) がペイシェンス様から離れても平気になってからの話です。当分は無理ですね!」
ゲイツ様は、お偉いさんのテントで何か話し合ってから、食事場に来たみたい。
山盛りのビッグボアの焼肉の上に、私の最後のポン酢タレをどっさり掛ける。
「まだソースが残っていたのですね! 私のは、サリンジャーが他の魔法使いにも使わせたりするから、とっくに無くなったのです。来年は、私に直接渡して下さい」
いや、サリンジャーさんに渡して良かったよ。
「私のもこれで最後ですわ」
たっぷり掛けすぎだと非難を込めた。
「まぁ、明日で終わりますから、良いではないですか? 夜は、またあのキャベツスープを作って下さい」
えっ、明日で終わるの! やったね!
「決まったのですか?」
パーシバルも初耳みたい。
「騎士団の一部と冒険者達は残って討伐を続けますが、魔法使いチームと学生チームは、火曜に王都に帰ります。と言うか、スレイプニルを早く王都に連れて来いとの命令がきたのです。でも、 馬の王(メアラス) が動かないと暴れそうですからね」
土曜にスレイプニルを運ぶ為の応援隊も着いたのに、移動しなかったのは 馬の王(メアラス) がここに残っているからなんだ。
「では、スレイプニルは王宮とデーン王国の大使館で飼われるのですね?」
ゲイツ様がクスクス笑う。
「まだ野生のままのスレイプニルを 馬の王(メアラス) から離したら、大暴れしますよ! 一応、2つに分けましたけど、人間に慣れるまでは王立学園に新しく作った特別馬房で群れごと保護します。慣れてから、半分はデーン王国の大使館に移動ですね」
あれ? 馬の王(メアラス) は?
私が疑問に思っていたら、パーシバルが先に質問する。
「でも、ゲイツ様はモーガン大使に、 馬の王(メアラス) はデーン王国の大使館で飼って貰うと言われたのに、良いのですか?」
だよね? だから、モーガン大使は 馬の王(メアラス) の所有権を諦めた感じだったけど?
「あれは、ペイシェンス様は 馬の王(メアラス) を飼ったりできないでしょうからとの前提条件があったのです。飼えれば問題ないでしょう」
えええ、それで良いの?
「いえ、私は飼えませんわ! それにグレンジャー家には世話をする使用人もいません」
ゲイツ様がクスクス笑う。
「ペイシェンス様は 馬の王(メアラス) の価値を全くご存知ありませんね。王家の厩番が世話を担当しますから、グレンジャー家には負担は一切掛かりません」
えええ、良いの?
「王立学園の特別馬房にも派遣されますし、冬休みになる前には、スレイプニル達も落ち着いて貰い手が決まるでしょう。それからは、ペイシェンス様がいる所に 馬の王(メアラス) が付いて来ますよ」
ストーカーみたい! あああ、それってまずくない?
「冬休みは、パーシバル様と旅行なのに!」
ハハハ……とゲイツ様は笑う。
「 馬の王(メアラス) は遠乗りができて、喜びそうですね。厩番も一緒に連れて行ったら良いだけですよ。モラン伯爵家は、数人滞在する人が増えても大丈夫でしょう」
パーシバルは、愉快そうに笑う。
「 馬の王(メアラス) と遠乗りですか! それは楽しみです」
えええ、馬車で2人で一緒に行きたかったよ。ぐっすん!
「兎に角、昼からはビッグボアかビッグエルクを一頭でも多く討伐します。それと、明日の朝一は、いつものビッグバード狩りですからね!」
ゲイツ様にしては、さっさと立ち上がったなと思っていたら、パリス王子やアルーシュ王子や他の学生メンバーがやって来た。
「パーシバル! 凄いじゃないか! 木の蛇(ヴィゾーヴニル) といえば、ソニア王国では準ドラゴン扱いなのだ!」
パリス王子が、パーシバルの肩をバンバン叩いて褒めている。
「ゲイツ様! そんなの聞いていませんよ!」
私が叫ぶと、全員がゲラゲラ笑う。ゲイツ様は聞こえない振りをして、食事場から足早に逃げ出した。
「ペイシェンスは、フェンリルを追い返すし、 馬の王(メアラス) を捕まえた。そして、パーシバルは 木の蛇(ヴィゾーヴニル) の討伐か! 凄い活躍だな」
アルーシュ王子も褒めてくれたけど、ここまでは良かったのだ。ゲイツ様が逃げたのは 木の蛇(ヴィゾーヴニル) だけが原因ではなかった。
「 馬の王(メアラス) は見事だが、あれはペイシェンスにしか懐かないだろう。だが、スレイプニルはローレンス王国だけでも15頭いる!」
あああ、ゲイツ様が逃げ出した理由が分かったよ。王子達だけでなく、国内の貴族もスレイプニルを欲しがるだろう。
「それは、リチャード王子がロマノで話し合うと言われました」
パーシバルがキッパリと断ってくれた。
「ああ、そう聞いているが、 馬の王(メアラス) の所有者はペイシェンスだろう? スレイプニルと交配させるだけでなく、戦馬や優れた馬と交配させる権利は、ペイシェンスが持っているのだ。私の 赤い風(レッドヴェントゥス) は、素晴らしい戦馬なのだ」
ゲッ、馬の売り込み合戦になって来た。
「私の 白銀号(シルバー) も賢くて美しい戦馬なのですよ!」
パリス王子だけでなく、見知らぬ騎士まで口々に自分の愛馬をお勧めだ。
「ふう、 疾風号(ヴェント) は雄馬だから、 馬の王(メアラス) の子は産めませんね」
ええええ、パーシバルまで!
「何を言っているのだ! 馬の王(メアラス) には8本脚のスレイプニルを増やす使命があるのです。あの群れのスレイプニルでも良いが、血が近いかも知れない。デーン王国から立派なスレイプニルのお嫁さんを連れて来ます!」
やれやれ、バレオスはうるさいお爺さんだね。
「そうだ、こんなことをしている暇はないのです。ペイシェンス様、 馬の王(メアラス) が呼んでいますよ」
私は、デザート代わりのピクルスを食べていたのに、バレオスにパーシバルとドナドナだよ。
「皆様、ピクルスは食べて良いですわ!」
戻った時には、ピクルスは食べきられているだろうけど、明日、帰るなら良いよね!