軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

どれを優先するべきか?

サリエス卿とユージーヌ卿は、これから指輪を買いに行くそうだ。

「本当は、プロポーズの時に用意しなくてはいけなかったのだな。だが、ユージーヌ卿の好みの指輪を選んで貰った方が良いだろう」

まぁ、そうとも言えるけど、サリエス卿は少し気が利かないのかも?

「指輪より、武具の方が買いたいのだが……母が叱るから、今日は指輪だな!」

ユージーヌ卿のお母様は、かなり大変そうだ。パーシバルは賢いから、ノーコメントだよ。

2人を見送って、パーシバルと少しだけ話す。

「やはり、冬の魔物討伐に参加される事になったのですね」

そうなんだよね。初め、ゲイツ様に言われた時は、絶対に無理だと思ったんだけどさ。

「今でも迷っていますが、私の心の弱さを鍛えないといけないとも感じているのです。いざという時、自分と周りの人を護りたいから。今の私は、攻撃魔法を放つのを躊躇しちゃうので」

パーシバルはソッと抱きしめてくれた。

「ペイシェンス様の側に常にいられたら良いのですが……優しいペイシェンス様も好きですが、少しだけ強くなるのも必要かもしれませんね。でも、本当にゲイツ様から離れないと約束して下さい」

また指切りだよ。頬にキスをして、パーシバルは帰っていった。

「ああああ、ゲイツ様から離れないって事は、ビッグボアの惨殺現場にいるって事なのね!」

かなりヤバそうな光景が広がっている気がする。今更、気づいた。

ドヨドヨな気分だけど、バーンズ公爵家に向かう。

「ペイシェンス様、婚約おめでとうございます」

相変わらず美しいバーンズ公爵夫人に祝福されたよ。

「ありがとうございます」と答えると、バーンズ公爵が苦笑した。

「うちの娘になって欲しかったのだが、こればかりは仕方ないな」

横で、カエサルが肩を竦めている。

この優雅なサロンに相応しくないけど、グレアムが箱を運んでくる。

「もしかして、新商品の見本なのか?」

バーンズ公爵の目が輝いているけど、先ずはお茶をしてお話が貴族のマナーみたい。

「このチョコレート、評判が高くなり過ぎて困っていましたの。それでバーンズ商会で、板チョコを販売したのですが、あっという間に売り切れてしまって、私に苦情を言われる貴婦人も出てくる始末なのですよ」

ひとしきり、秋になって急に寒くなったとか、流行病が今回は上手く抑え込めたとかの話をしてから、バーンズ公爵夫人が珍しく商売の話に加わった。

「ペイシェンス、悪いが当分の間は、もう少し多くのカカオ豆を滑らかにして欲しい」

それは構わない。

「ええ、わかりました」

えええ、執事がこのサロンに相応しくない樽を台車に載せて運び込む。

「緊急事態なのよ。私も苦情を言われるほどなの」

確かに、華麗な公爵夫人に文句を言うなんて、かなりフィーバーしているのだろう。

「いえ、かまいませんわ」

でも、ここでやったら問題になりそうだけど?

「ペイシェンス、もうバレているのだ。店員が、クラブハウスに君が入ったらすぐにできたと報告してしまったからね。私のミスだよ」

まぁ、外に待たせておくのも悪いから、先に帰したいと思うよね。

「良いのです。チョコレートの加工代で弟達に馬を買えましたから」

樽の前に立って「滑らかになれ!」と唱える。

「えええ、そんなに簡単なのか?」

バーンズ公爵に呆れられたよ。

「ええ、だから大丈夫ですよ」と当分は引き受ける事にした。

「父上、これはペイシェンスだからできるのです。ちゃんと代価を支払って下さいね」

カエサルが釘を刺してくれたよ。まぁ、言わなくても、バーンズ公爵はちゃんと支払ってくれそうだけどね。

ディスク型オルゴールの販売は決まった。もう注文が殺到しているみたい。

「あのう、冬の魔物討伐までに作りたい物があるのですが、そちらを先に説明した方が良いのでしょうか?」

カエサルは、心配そうな顔をしている。

「やはり参加するのか?」

バーンズ公爵夫妻が驚いている。

「ペイシェンス様は、お淑やかな令嬢なのに、無理ではないでしょうか?」

お淑やかなのかは、疑問だけどね。

「もしかして、陛下に命じられたのか?」

バーンズ公爵は、かなり私のやらかした事を知っているみたい。

「ええ、初めは断るつもりでしたが、強くならないと自分と周りを護れないと思うようになったのです」

「ペイシェンス、ベンジャミンが気絶したのは、油断していたからで、君の責任では無いよ。気に病んで参加するなら、不必要だ」

バーンズ公爵は、甥のベンジャミンが気絶したと聞いて、詳細の説明を求めた。

「ペイシェンスがゲイツ様から拘束魔法を習っていると聞いたベンジャミンが、自分に掛けてみてくれと頼んだのです。そしたら気絶してしまって、ペイシェンスはショックを受けてしまった」

バーンズ公爵は「それはベンジャミンが悪い! あの子こそ、冬の魔物討伐で鍛えなおさないといけない」と怒った。

カエサルは少し考えて「私も参加します」と言った。

「そうすれば良い。今年の冬は厳しくなりそうだから、北部にはデーン王国から魔物が流れ込んでいると報告があった。 黒の森(シュヴァルツヴァルト) は北部からの山脈が切れた辺りに広がっている。あそこに魔物が棲み着いたら、王都との街道が危険になるからな」

それは大変そうだけど、まだビビっている自分がいる。

「ペイシェンス様? 怖いなら行かなくても良いのですよ。こんな荒事は殿方に任せておけば良いのです」

私の弱さをバーンズ公爵夫人は見抜いたみたい。

「ありがとうございます。でも、行ってみます」

私がそう決めたのなら、仕方ないと皆は思ったみたい。

「このマットレスを使用したら、キャンプでも寝やすいかと考えたのです。サリエス卿やユージーヌ卿も、絶対に欲しいと言われました」

カエサルもバーンズ公爵も筏型のフロートを知っているから、なるほどと頷いている。

ベルを鳴らして従僕を呼ぶと、マットレスを膨らまさせる。

「初めは、薄いのと、中位のと、厚いのを考えていましたが、萎んだ時の嵩はさほど変わりませんから、寝心地の良さで分厚いのに統一しました」

力強い従僕は、あっという間に膨らませたよ。

「寝てみても良いだろうか?」

カエサルが、マットレスの上に横たわる。

「うん、これなら熟睡できそうだ。去年、参加したのだが、雨で毛布が濡れてしまって不快だったのだ」

バーンズ公爵も、横になって、寝返りをしたりして確かめる。

「これは便利だな! うちの領の兵達にも配布してやりたい。遊び道具のフロートから、こんな便利な物ができるとはな!」

それに空気を抜いたら、嵩が低いのも高評価だ。

「あのう、冬の魔物討伐にまでに間に合うでしょうか? パーシバル様に学生チームの分を約束してしまったのです」

少し考えて、バーンズ公爵は「大丈夫だろう」と笑った。

「フロートは作り慣れているからな」

やったね! これで学生チームは少しだけ有利になるよ。

「でも、騎士団チームと魔法使いチームも欲しがるのは目に見えていますよ」

だよね! バーンズ公爵も難しい顔をしている。

「サリエス卿とユージーヌ卿には、騎士団チームの分は間に合わないかもと言ってあります。早い者勝ちになりそうですわ」

それは壮絶な争いになりそうだと、バーンズ公爵は笑った。

「今年は、どのチームも撥水加工した布でテントを注文している。それだけでも、去年よりは楽に過ごせるだろう」

カエサルが、ハッとした顔をした。

「ペイシェンスは、ゲイツ様から誘われたのだな? なら、魔法使いチームに属するのでは無いのか? そちらを優先しなくても良いのだろうか?」

ああ、忘れていたよ。

「どうなのかしら? 一度、ゲイツ様に聞いてみますわ」

兎に角、増産を急がせるとバーンズ公爵は引き受けてくれた。

次はシュラフだ。でも、バーンズ公爵はジッパーに夢中になっちゃった。

「これは画期的な発明だよ! ボタン無しで、脱ぎ着できるようになる」

確かに、ボタンを何個も止めなくちゃいけないから、侍女がいないとドレスが着にくいんだよね。

それと、ズボンもボタンより、ジッパーの方が便利そう。

「これはエクセルシウス・ファブリカ案件だな。シュラフだけなら、まぁ似た物もあるけど、ここまで暖かくは無い」

カエサルはぬくぬくだと喜んでいるよ。

「それと、これは小さく纏められるのです」

くるくると巻いて、小さな袋に詰め込む。

「おお、これなら毛布よりも小さいから、皆も欲しがるだろう!」

カエサルは考え込んでいる。

「ペイシェンス、これはミシンが有れば簡単に作れるのでは?」

「ええ、そうなのです。これは見本だから手縫ですが、ミシンなら楽に作れます」

バーンズ公爵の目が光る!

「ミシンとやらは、布を縫う魔道具なのか?」

ああ、バレた! カエサルは肩を竦める。

「いえ、ペイシェンスが考えているミシンは、魔石を使わずに、脚で踏んで布を縫う機械なのです。後、もう少しなのですが、糸が絡まってしまうのです」

そうなんだよね! 上糸と下糸がゴチャッとしてしまうのだ。これって前世でもよくあるトラブルだったよ。調節が難しいんだ。

「それができたら、産業が一新するぞ! なぁ、ペイシェンス、布を織る機械を考えてくれないか?」

織機かぁ、それは私の手に余るよ。

「ペイシェンスは織物の授業も取っていたな。織り機は詳しいのでは?」

ああ、目から鱗だよ! 前世では知らなかったけど、こちらでは学習しているじゃん!

「ああ、何とかなりそうな気がします。ミハイル様に相談しなくては!」

バーンズ公爵夫人に呆れられたよ。

「その箱の中には、まだまだありそうですわね」

そうなんだよ! 横道に逸れている場合じゃなかった。