軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

早馬!

サティスフォード子爵の早馬に、私達も簡単な手紙を各家に届けて貰った。

「弟達が心配しなければ良いのだけど」

父親も少しは心配するだろうけど、普段通りの生活をしてそう。

でも、二人は……それにお土産も買っていないんだよ! 約束したのに!

「ペイシェンス様、大丈夫ですか?」

ひと汗かいた3人とドロースス船長は、風呂に入ってスッキリした顔をしている。

「弟達が心配するのではと思うと……」

パーシバルが、ああって顔をしたよ。ブラコンなのは熟知しているからね。

「手紙を読めば、安心しますよ。昼前に出たから、もうすぐ着くでしょう」

だよね! では、私は弟達へのお土産作りに励もう。上級回復薬も作るけどね!

サティスフォード子爵に使っても良い部屋を訊ねる。

「上級回復薬を作りたいのです。瓶も作りますし、大きな鍋と水と火が使える場所が良いのですが」

一瞬驚いたサティスフォード子爵だけど、下級薬師の資格を持っていると言うと、手を掴んで感謝された。

「カルディナ帝国の船が流行病でなくても、もう発生しているのだ。いつ、ローレンス王国にも広がるか分からない。私も、上級回復薬を少しは備蓄しているが、領民全員、そして船乗り達に配る程は無いのです。上級薬草もある限り渡します!」

えええ、私は屋敷の人達程度の考えだったんだけど……まぁ、良いか!

サティスフォード子爵の古い屋敷には大きな染め場があった。

長年使って無かったから、埃が積もっているけど「綺麗になれ!」で浄化する。

メアリーも今回は積極的に手伝ってくれるし、サティスフォード子爵の使用人達も動員している。

「先ずは、上級薬草を綺麗に洗ってね!」

少しだけなら、私が洗うけど……この量はね!

「最終的には、ここの浄水で洗うのよ!」

大きな甕にたっぷりと浄水を用意しておく。

皆が上級薬草を洗っている間に、私は瓶を作るよ。

「メアリーは私を手伝って!」

大きな鍋に珪砂を溶かす。私のアイディアで少しスライム粉も混ぜるよ。落としても割れにくくなる気がするんだ。

「重いわね!」と愚痴っていたら、パーシバル達も手伝いに来てくれた。

重い物は持ってくれるから、助かるよ!

「回復薬の瓶になれ!」

一気に作るよ! はぁ、少し疲れた。

「えええ、錬金術ってこんな感じなのか?」

ラッセル、うるさい! 鍋から溢れる程の瓶だ。

「さぁ、瓶を箱に詰めて下さい。次の瓶を作らなきゃいけませんからね!」

ラッセルも慌てて、鍋から瓶を出して箱に詰めていく。フィリップスとパーシバルは、私に言われる前からやっているよ。

鍋に珪砂とスライム粉を少し入れて貰い、熱している間に、上級回復薬を作る。

「上級回復薬になれ!」

出来上がったばかりの瓶だけど「綺麗になれ!」と浄化する。

漉すのは、浄化した鍋と濾し器を用意して召使い達にやって貰う。

「皆様、この瓶に上級回復薬を詰めていって下さい」

オタマもジョウゴも浄化して渡すよ。

私が、瓶を作って、上級回復薬を作ってと、何回か繰り返したら、もう上級薬草が切れた。

「今日はここまでですわ。お手伝いありがとうございます」

1回で100本、それを5回したから500本!

「未だ、足りないかも……でも上級薬草が無いのよ。栽培すれば良いのよね!」

まだ暖かい季節だ。庭でも栽培できるよ!

サティスフォード子爵に許可をもらおうとしたら、パーシバルに止められた。

「ペイシェンス様、私達ですらクタクタです。どうか、休憩して下さい」

ハイになっていたみたいだ。気がつくとフラフラとパーシバルに支えられてやっと立っている状態だった。

「お嬢様、お部屋で休みましょう。お茶と甘い物を持っていきますわ」

お茶とクッキーを数枚食べて人心地ついたよ。

「夕食までお休み下さい」

メアリーに言われるまでもなく、バタンキューだ。

何だか階下が騒がしい! ハッと目が覚めたら、夕闇が部屋に迫っている。日が短くなって、秋だと感じるよ。

「お嬢様、もう大丈夫ですか?」

メアリーが心配しているけど、寝て回復した。

「あの上級回復薬を 美麗(メイリン) 様と 明明(メイメイ) にあげてね。それにしてもうるさいわね? ああああ……」

頭が痛くなったよ。あの傲慢な声は、ゲイツ様だ。

「ゲイツ様がいらしたのね? 王都に早馬は着いたとは思うけど、こちらに来れるものかしら?」

早馬のスピードはわからない。早馬の小屋は、街道に設置されていて、馬を変えながら走るのだという知識はあるけどね。

元ペイシェンスも早馬を見た事はないみたいだもん。

「ああ、騒ぎが大きくなる前に鎮めなくては!」

ここには、得体の知れないドロースス船長や、バラク王国のアルーシュ王子、そして何故カルディナ帝国から来たのか依然と謎の 王(ワン) 様一行がいるのだ。

「ああ、やはりペイシェンス様がいらしたではないですか!」

サティスフォード子爵家の執事は、王宮魔法師がこんなに若いとは知らなかったのかな?

「ゲイツ様、どうしてここに? 兎も角、ホールで騒いでいては、病人にも障ります。さぁ、サロンへ」

メアリーに目配せして、お茶とクッキーの手配をして貰う。メアリーは執事に頼んだら、私と一緒にサロンへ来る。

ゲイツ様はまだ独身だから、二人っきりにはできないみたい。

「ペイシェンス様の誕生日だから、屋敷に時計を持って行ったのにお留守だなんて! それに、何かとっても美味しい香りがします」

海老カレーの匂いかな? 浄化しておこう!

「ゲイツ様、私の誕生日は明々後日ですわ」

流石の私でも誕生日は忘れないよ。

「でも、会える木曜日では遅いではないですか!」

差し出された細長い小箱を受け取る。

「開けて下さい!」

リボンを解いて、中を見ると!

「まぁ、とても綺麗な時計ですね!」

こちらの時計は、置き時計か、懐中時計だ。男の人は内ポケットに入れて、鎖で留めているけど、女の人は不便なんだよね。

裁縫のキャメロン先生は、ブローチタイプにして胸につけているけど、少し見難い感じだ。

「腕につければ、見やすいと思ったのです」

銀の華奢な腕輪に時計が付いている。前世の腕時計に似ているけど、こちらの方が豪華かも?

「ありがとうございます!」

これは、本当に嬉しいよ。

「それに、これはタイマー付きなのです。ペイシェンス様が授業に遅れないようにね」

ええ、私の生活を見ているの? タイマーなんてあったんだね。

「ふふふ、これは私が考えたのですよ」

やはり、ゲイツ様は天才だ!

「試してみて下さい! 横の 竜頭(リュウズ) を引っ張ってタイマーをセットするのですよ」

それは分かるよ! 私が間違わないのが少し悔しいみたい。

少し先の時間にセットして、何故来たのか質問する。

「どうして、サティスフォードだと分かったのですか?」

あああ、この疚しそうな顔は!

「弟達に聞いたのですね! それも緊急だとか嘘をついて!」

ゲイツ様は「でも、緊急事態でしょ」とシラを切る。

むっかぁ! サリンジャーさんにビシッと叱って貰いたいよ。

「あああ、もしかして早馬を使ったんじゃ無いでしょうね!」

口笛なんか吹いているけど、ゲイツ様が王都からの早馬を乗り潰していたら、こちらからの早馬が着くのが遅くなるじゃん!

『ピピピピピ……』タイマーの音で怒りが少しおさまった。来たからには働いてもらおう!

「わかりました! 仰る通り、緊急事態なのです」

私がカルディナ帝国で流行病が発生した件を話すと、フンと鼻を鳴らした。

「いつも偉そうに皇帝のご威光だとか言っている癖に、養鶏場を清潔に保つ事もしていなかったのですね! それは自業自得ですが、カルディナ帝国からの船便、そして他の船便も検疫を厳しくしなくてはいけません!」

まぁ、言っている通りだよね! それは正しいと思うけどさぁ、何故、鼻をクンクンしているの?

「上級回復薬の香りで誤魔化そうとしても、何かとても美味しそうな香りがしています」

いや、誤魔化してなんかいないよ。

「先ほどまで、本当に上級回復薬を作っていたのです」

そう素気なく返すけど、こんな時のゲイツ様はしつこい。

そんな馬鹿げた会話をしていたら、サティスフォード子爵が港の検疫を厳しくしろと命じて帰宅した。

「ゲイツ様! もうお聞きになったのですか?」

そんなわけ無いじゃん! でも、今のサティスフォード子爵にはゲイツ様は救いの主に見えたみたい。

「サティスフォードの教会に派遣されている司祭は、もうかなりの高齢で、養鶏場の浄化は真面目にしてくれていますが、こんな時には役に立たないのです」

ゲイツ様は、何を言い出すのだ! と逃げ腰だよ。

「ドロースス船長がコルドバ王国の商船隊の船長達を宥めていますが、食料品を積んでいる船は出航を急いでいます。検疫にご協力下さい」

嫌そうな顔のゲイツ様だけど、私には切り札がある。

「ゲイツ様、サティスフォード子爵家の料理人は、とっても美味しい料理を作りますのよ。協力されたら、昨夜いただいた絶品料理を振る舞って下さいますわ」

銀色の目がキラリンと光った。

「ペイシェンス様がそこまで言われるなら、協力しなくてはいけませんね。お友達の助けを求める声には応じましょう」

やれやれ、これで弟達のお土産を作ることに集中できるよ! なんて考えていたけど、ゲイツ様ときたらサティスフォード子爵に「黒いマントを2枚用意しなさい」なんて命じている。

自分は着ているから、私とメアリー用だよね!

「ゲイツ様だけでも十分でしょう。王宮魔法師なのですから!」

本気で褒めているのに、全く無反応だ。やはり仕事関係の褒め言葉は飽きているみたい。

「日曜なのに仕事なんかしたくないですよ。せめて友達と一緒なら気が紛れる気がするのです」

ああ、サティスフォード子爵の懇願する目に負けたよ!

「仕方ないですわ」と頷いた。