軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

昼食会

食卓には父親が座っていたが、立ってゲストを出迎える。マナーはちゃんとしているんだよね。生活能力だけが欠如しているの不思議。

「サリエス卿、パーシバル様、息子達の剣術指南、ありがとうございます。少しですが、感謝の気持ちです」

席に着いたら、ワイヤットが食事を運んでくる。いつもは、昼食はメアリーが給仕しているけど、今日はお客様がいるからね。あっ、ジョージやマシューも従僕の服を着てお手伝いだ。

マシューは従僕としての練習だね。来年、ナシウスが寮に入るなら、マシューが荷物の整理とかするんだもん。ちゃんと習って欲しいな。

今日の昼食会のメニューは、鳥と野菜のテリーヌ、コンソメスープ、スパイシー風味の鳥の焼き物をサラダの上に乗せた物。お口直しに梨のシャーベット、ステーキの温野菜添え、そしてメロンボールだよ。

メロンをくり抜いて、生クリームを泡立てたのを詰め、そこにフルーツボーラーでくり抜いたメロンの果肉を埋めて、冷やし固めたデザート。へへへ、グレンジャー家にも冷蔵庫があるんだ。バーンズ商会で買ったんだよ。デザートは冷やす必要があるものが多いからね。

テリーヌはよく前菜にでるから、皆、美味しそうに食べていた。コンソメスープもね。

問題は私がサティスフォード子爵家で食べたスパイシーチキンをサラダの上に乗せた物だよ。前世ではよく食べていたけど、こちらではサラダはサラダだけで食べるのが一般的みたい。

ドレッシングはレモンを効かせてあっさりと仕上げている。スパイシーチキンだけでも、味が濃いからね。

「ああ、これは美味しいですね!」

サリエス卿には少し大盛にしてあるけど、あっという間に消えちゃったよ。やはり騎士団では食事のスピードも早いのかな?

「もしかして、ペイシェンス様が考えられたレシピですか? スパイシーなチキンは食べた事がありますが、サラダの上に乗せたのは初めてです。とても美味しいですね」

外交官一家のモラン伯爵家では、色々な新しい料理が出るんだろうね。

ナシウスとヘンリーは黙って完食だ。この子達は成長期の食欲魔人だからね。

「お父様、これを教授達を招いた時にも出そうかと思っているのですが、お年を召した方でも大丈夫でしょうか?」

父親は、嬉しそうに笑う。

「ああ、カレーは少し苦手に思う人もいるかもしれないが、これなら軽くて食べやすいだろう。ペイシェンスは、料理の本を全て読んでいるのか? 私は、そちら方面の本は読んでいないのだが、今度からは読んでみよう」

梨の季節は少し早いけど、生活魔法で2つ先に実らせたんだ。スパイスが残った口の中がさっぱりしたよ。本当なら魚料理だけど、内陸のロマノでは手に入り難いし、嫌いな人が多いからね。

ステーキは定番の美味しさ。私のは小さいのをサーブして貰う。デザートを食べたいからね。

あっ、ちゃんとデザートをサーブできるかな? ちょっと演出をしたのだけど、台所で切ってからの方が良かったかな? なんて心配したけど、ワイヤットは優雅な手つきで、丸いメロンをワゴンで切り分けてサーブしたよ。

「おお、変わっているな!」

メロンだけでも、ロマノでは珍しいご馳走なんだ。父親が驚いている。

「お姉様が温室で栽培されたのです」

子供はテーブルで口を開いたりしないのがマナーだけど、ほぼ身内だけだから、ナシウスが説明した。

「メロンは、コルドバ王国の南部でも栽培するのが難しいと聞きましたが、ペイシェンス様はやり遂げられたのですね」

やはり、パーシバルは各国の事情に詳しいね。

「中に生クリームと果肉がはいっているのですね。こんなデザートは王宮でも食べた事がありません」

第一騎士団は王宮での晩餐会とかもあるみたい。親睦を図るのが目的なのかな?

「さぁ、召し上がって下さい」

甘い生クリームと美味しいメロン、絶対に美味しいよね!

「ああ、これはとても贅沢なデザートだ」

父親も感動しているみたい。丸くて可愛いメロンについては、残念な事にパーシバルさえコメントが無かったよ。皆、食べる事に集中していたみたい。パリス王子なら見逃さないかもね。

タイミングを見計らったメアリーがマントが入った桐の箱を持ってきた。

「サリエス卿にはとても感謝しています。マントに守護魔法の刺繍をしました。どうぞお使い下さい」

サリエス卿は、メアリーから箱を受け取って、膝の上に置き、蓋を取ってマントを取り出した。

「これは……もしかして マギウス(ドラゴンスレイヤー) のマントですか? こんな国宝級のマントなど……」

ああ、やはり魔石が入っているから気づいたみたい。遠慮なく受け取って欲しいのに。

「いえ、それが悪いのですが、マギウスのマントとは呼べませんの。少し魔法を弾く程度ですわ。それと撥水加工をしていますから、雨や雪は弾けます」

あれれ、まだサリエス卿の顔が固い。

「それと、ゲイツ様が考えられたより強力な守護魔法陣を刺繍したマントを陛下に献上するつもりです。試作品で申し訳ありません」

ああ、やっとサリエス卿の顔がほころぶ。やはり陛下より上等なマントは駄目だったんだね。

「陛下のマントの試作品なら、ありがたく頂きます。冬の魔物討伐の時は、雨や雪も多いので助かります」

やれやれ、やっと貰ってくれたよ。パーシバルもサリエス卿が貰ったのを喜んでいる。

「撥水加工は素晴らしいですね。皆が欲しがるでしょう」

宣伝しておこう。

「バーンズ商会で、マントの撥水加工も引き受けていますわ。冬前に済ませた方が良いかもしれません。混んでくると待ち時間が長くなりそうですからね」

撥水加工される毎にお金がこちらにも入るからね!

「第一騎士団の皆に話しておきます。私だけ濡れないと恨まれそうですからね」

ハハハと笑うサリエス卿は、とても好青年だ。何故、独身なんだろう? ラシーヌ様がアラサー、跡取りのルシウス様が27歳ぐらい? サリエス卿は25歳ぐらいかな? モテそうだけど?

「恨まれるのは第一騎士団だけではないでしょう。ユージーヌ卿にも教えて差し上げなくてはいけませんよ」

ええええ、パーシバルの揶揄いにサリエス卿の顔が赤くなったよ。ユージーヌ卿って近衛隊の女性騎士だよね。あの格好良い!

「ユージーヌ卿にも教えます」と普通の同僚に教えるだけだという風に答えているけど、顔が真っ赤のままだよ。

「ルシウス様もこの秋には婚礼ですし、モンテラシード伯爵家はめでたい事続きですね」

ラシーヌ様の弟のルシウス様は、男の人としても適齢期を外れているんじゃないかな? もしかして……

「ええ、やっと領地も赤字でなくなったので、兄も結婚する気になったのです。婚約者のサマンサ様をかなり待たせてしまいましたからね」

やはり、借金をしたままでは、結婚する気にならなかったんだね。それにしても婚約者のサマンサ様ってよく待っていたね。異世界の女の子の適齢期は短いのに。真面目に領地管理しているルシウスに惚れていたんだろうな。

「でも、ユージーヌ卿は近衛隊に必要な人材ですから、サリエス卿は皆から睨まれますね」

あっ、そうだよ! ユージーヌ卿に憧れている女の人は多いからね。私も結婚して辞めるのは惜しいと思うもの。

「いや、ユージーヌ卿は近衛隊を辞めたりはしないでしょう。それに自分に続く女性騎士の指導を続けたいと考えています。私もそれを手助けしたいのだ」

異世界では、結婚したら女性は職を辞めるのが一般的だ。女官も一度は辞める。でも、子育てが終わったら復帰する人もいる。この前の年配の女官が結婚したかどうかは分からないけどね。

「とても素敵な考え方ですね。私も出来ることが有ればお手伝いしたいです」

サリエス卿がパッと顔を明るくした。えええ、何かあるの?

「ペイシェンス、母を説得してくれないか? 母は古い考え方なのだ。ユージーヌ卿を素敵だと認めているが、騎士を続けるなんてと結婚に難色を示している。貴女の事はとても評価しているから、その言葉なら耳を貸してくれるかもしれない」

そ、それは……父親も困った顔をしている。父親の姉の中でもアマリア伯母様は一番頑固そうだもんね。

「私の意見など聞いて下さるかわかりませんが、これから社交界での立ち振る舞いやドレスについて教えて頂く機会が増えますから、少し話してみますわ」

サリエス卿も「それで十分です」と喜ぶ。それにしても、ユージーヌ卿といつの間にそんな仲に? 女性の王族の警護とかで忙しそうなんだけど?

「これで、ユージーヌ卿にプロポーズできる!」

えええ、まだなの? それに承諾されてないの?

「サリエス卿、先にそちらを済ませた方が良いと思いますよ」

パーシバルも呆れている。父親は賢く無言で頷いている。甥の結婚話だけど、一歩引いた態度だ。この点は、異世界の貴族としては変わっているのかな? こちらにはプライバシーの尊重なんかないからね。