軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キャシディ伯爵家、訪問!

お昼を食べたら、メアリーに捕まっておめかしだ。

「秋物のドレスを作るのを急がせますわ」

まだ暑いから夏物でも良いんじゃないかな? って思うけど、前世でもお洒落女子は季節を先取りしていたよね。

「今年はいつまでも暑いわね」

ふと溢した言葉で、メアリーが青褪めた。

「先代の子爵夫妻が亡くなられた年もいつまでも夏が続くような暑さで、急に寒波が来たのです。そして流行病も!」

それはヤバそう! 流行病は心配だ。それに急に寒波が来るのもね。薪は十分かしら?

「寒波には備えておきましょう。流行病は上級回復薬をいっぱい作っておきますわ。早めに飲めば悪化しなくて良いかもしれないから」

でも、お祖母様は優れた薬師だったのに亡くなったのよね? 回復薬は対症療法にしかならないのかも? 不安だから、マキアス先生に質問しに行こう! 家族や使用人、そして知り合いが流行病になったら大変だもの。

ちょっと不安になったけど、着替えて、髪に新しく半貴石をあしらったリボンを付ける。

「まぁ、とても綺麗ですわ!」

相変わらずメアリーは身贔屓だと思うけど、鏡に映った私は、なかなか可愛いんじゃないかな?

「背も少し伸びられたし、どんどん美しくなられますね」

ああ、だと良いのだけど。パーシバルの横に並ぶと月とスッポンなんだもの。

「まぁ、ナシウス、素敵だわ!」

袖を直したジャケットはナシウスによく似合っている。でも、やはり少し古いデザインなんだよね。サミュエルのとは少し襟の形が違うんだ。でも、クラシックなのもナシウスには似合う気もするよ。

「ノースコート伯爵も今日は一緒だから、馬車は二台で行くわ」

他家にはナシウスは、招待されていないし、ノースコート伯爵が来られない事も多いから一台だ。

「ああ、もう準備できているわね! ペイシェンスはこちらに乗りなさい。サミュエルは、ナシウスと一緒が良いそうよ」

私もナシウスとサミュエルと一緒の馬車が良いけど、リリアナ伯母様に逆らわないよ。それに、ロマノ内だから十数分にすぎないからね。

ノースコート伯爵夫妻と、伯母様の侍女と私だ。こんな時も侍女の付き添いは必要なんだね。

「まぁ、ペイシェンス! とても素敵な髪飾りだわ。もしかして、バザールで買っていた半貴石なのかしら?」

リリアナ伯母様は目ざといね。

「ええ、半貴石を加工してリボン飾りに付けましたの」

あっ、それと一応は相談しておこう!

「キャシディ伯爵家に手土産を用意しているのです。伯母様にも差し上げますわ」

キャシディ伯爵家に渡すのはメアリーが持っているけど、こちらは馬車を移動する時に私が手に持ってきたんだ。それを侍女に渡す。

「まぁ、何かしら? 私が手土産は用意すると言ったのに……開けてみても良いかしら?」

変な物だと失礼だからね。伯母様はチェックしたいみたい。

「まぁ、変わった物ね?」

茶色のハート型や星型や花型のミルクチョコレートとオレンジピールが半分見えているダークチョコ掛けだ。前世の板チョコ風の小さいのは、溶かして食べても良いね。

「とても美味しいのです。サティスフォードのバザールで手に入れたカカオ豆で作るチョコレートですわ。バーンズ公爵夫人もお気に召されたようです」

社交界の華のバーンズ公爵夫人の名前が効いたのか、リリアナ伯母様はハート型のチョコレートを一つ摘んで口に入れた。

「まぁ、まぁ、まぁ! なんて美味しいの! ペイシェンス、これは何というスイーツなのですか?」

さっき言ったのに!

「チョコレートですわ。未だ発売前ですのよ」

ええっと、伯父様も欲しそうなんだけど、リリアナ伯母様は小箱を抱え込んでいる。

「そちらのオレンジピールの方もお勧めですわ。ダークチョコレートですから、男の方にも召し上がり易いと思いますわ」

仕方なさそうに小箱を伯父様の方に差し出したので、オレンジピールのチョコ掛けを一本摘んで口に入れた。

「うむ、これはブランデーにも合いそうだ!」

伯母様もオレンジピールのチョコ掛けを一本食べて「むふふふふ……」と変な笑いが込み上げている。

「ペイシェンス、この箱がもう一つあるのよね! キャシディ伯爵家には私の用意した手土産があるから……いえ、それはいけないわよね」

いつも伯母様には甘い伯父様が睨んだので、リリアナ伯母様も諦めたみたいだ。

「これもバーンズ商会で売り出すのか? 商売繁盛だな」

少し羨ましそうな声だ。

「いえ、それが難航しているのです。このチョコレートはなかなか作るのが難しいので、これから魔道具の作製をしなくてはいけませんの」

リリアナ伯母様は、ガッカリしたようだ。

「では、チョコレートはなかなか手に入らないのですね……でも、これは?」

やはり、リリアナ伯母様は目の付け所が鋭いよ。

「これは、エバに作らせましたの。少ししか作れませんわ」

ああ、リリアナ伯母様にロックオンされちゃったよ。

「チョコレートを作った時は、リリアナ伯母様にも差し上げますわ」

はぁ、何箇所に配れば良いのかな?

「材料費も高いのではないか?」

伯父様に心配されたけど、それは大丈夫なんだ。バーンズ公爵家が材料はバンバン送って来るからね。

「大丈夫ですわ。試作品の材料はバーンズ商会が用意して下さいますから。それに半分は私が食べて良いと言われているのです」

伯父様は少し考えて「カカオ豆を仕入れた方が良いのだろうか?」と質問した。

「まだ作る機械ができていませんが、とても好評ですわ」

後はノースコート伯爵の判断に任せるよ。

キャシディ伯爵家もロマノの貴族街にあるから、すぐに着いたよ。立派なお屋敷だけど、落ち着いた雰囲気だ。庭にはバラが咲いている。

「ようこそ、いらっしゃいませ」

フィリップスが出迎えてくれる。

「ご招待、ありがとうございます」

ノースコート伯爵が代表で挨拶して、屋敷に入る。ああ、やはり落ち着く。グレンジャー家よりも少し豪華だけど、雰囲気が似ているのだ。

「素敵なお屋敷ですね」

リリアナ伯母様もグレンジャー家出身だから、落ち着いた文官の屋敷は居心地が良く感じるのだろう。

「ノースコート伯爵夫妻、夏休みは息子が長期にわたりお世話になりました。さぁ、お掛けください」

わっ、フィリップスにそっくりな伯爵とおっとりとした雰囲気の伯爵夫人に歓迎された。

「いえ、フィリップス様はとても優秀で、うちのサミュエルにも良い影響を与えて下さいました」

お互いに褒め合うのは社交の基礎だね。私とサミュエルとナシウスは黙って座っているのもマナーだ。大人達から質問されたら、それに短く答えるだけだよ。少し退屈。

「子供達は退屈そうだ。フィリップス、図書室を案内しなさい」

おお、キャシディ伯爵は気が利くよ! それに他所のお屋敷の図書室なんて興味深いもん。

「こちらです。でも、グレンジャー家の図書室ほどの蔵書は無いかもしれませんけどね」

フィリップスが案内してくれた図書室で、やっとホッとして皆で話す。特にナシウスは緊張していたみたいで、肩に力が入っていたようだからね。

「歴史研究クラブでは、来年の青葉祭は何を発表するのですか?」

ナシウスの目がキラキラしている。嫌がらなければキスしちゃうんだけど、我慢しておこう。

フィリップスとナシウスは、歴史クラブの話に夢中になっているから、私はサミュエルに乗馬クラブの質問をする。

「オーディン王子は乗馬クラブと騎士クラブに入られたそうだけど、大丈夫かしら?」

サミュエルは、何故そんな質問を私がするのかと不思議そうな顔をする。

「オーディン王子は、細かい事など気にしないタイプだし、乗馬技術は素晴らしい。それに、馬の手入れや馬房の掃除も嫌がらないから、乗馬クラブのメンバーは喜んで受け入れている。騎士クラブの方は分からないけど、キース王子がおられるから大丈夫じゃないかな?」

まぁ、そうだと思っていたけど、聞いてホッとするよ。

「やはり文官の家系の図書室は凄いな。グレンジャー家も凄いし、うちも少しずつ蔵書を増やしていきたい」

どちらかと言うとサミュエルは文官向きなのかもしれない。でも、ノースコートは防衛拠点の意味合いもある地形だし、いずれは伯爵として治めていかないといけないのだ。

「それにしてもペイシェンスの新しい曲は素晴らしかったな。こんなに忙しくしているのに、何処に作曲する暇があるのか不思議だ」

ほほほ……と笑って誤魔化しておく。前世の天才作曲家のパクリだよ。

「もう少ししたら、ディスク型のオルゴールができるわ。ディスクを交換したら、色々な曲が楽しめるのよ。体操の曲の他に何がいいかしら?」

彼方は、歴史的な話で盛り上がっているので、こちらは音楽だよ。それにサミュエルは、本当に音楽センスが良いんだ。

「やはり『メヌエット』『別れの曲』は外せないだろう!」

「私は『キラキラ星』『トロイメライ』『エリーゼのために』かしら?」と二人で曲を挙げては、どの曲にするか話す。

「あっ、グリークラブに提供した『エリザのアリア』も良いな!」

あれも名曲だよね。なんて話していたけど、侍女が呼びに来た。お茶の用意ができたみたいだ。

サロンにはアイスクリームがガラスの器にちょこんと載っているのが並んでいた。

「アイスクリームだ!」ナシウスとサミュエルの嬉しそうな声に、大人達は笑う。

「さぁ、溶けないうちに召し上がれ」

おっとりとしたキャシディ伯爵夫人に勧められて、全員がアイスクリームを食べる。

「美味しいですわ!」

本当にアイスクリームは美味しいね!

「今年はいつまでも涼しくなりませんね。このまま暖かい冬になると良いのですが……」

あっ、メアリーの他にも、あの流行病の年を思い出している人がいるんだね。これは、本当にマキアス先生に質問しに行かなきゃ!

その後、お持たせのチョコレートが銀の皿に綺麗に並べられて出てきた。

「まぁ、これは?」

キャシディ伯爵夫人は、甘い物に目がないようだ。見たこともないのに、スイーツだと分かったみたい。

「こちらは、ペイシェンス様がお持ち下さったチョコレートという新しいスイーツです」

執事が恭しく捧げる銀の皿から、先ずはキャシディ伯爵夫人とリリアナ伯母様が一つずつ取る。

「キャシディ伯爵夫人、これはとても美味しいのよ」

リリアナ伯母様に勧められて、キャシディ伯爵夫人も、口に入れる。

「まぁ、まぁ、まぁ! とっても美味しいわ! 是非、皆様もどうぞ」

皆が一つずつ取って口に入れる。私は、オレンジピールのにした。ナシウスは星型のミルクチョコレート。

「美味しいな!」

フィリップスが驚いて大きな声を出した。やはり、王立学園と家とでは少し違って見える。学園では優等生の顔だけど、家の方がリラックスしている。やはり、おっとりした伯爵夫人のお陰かもね。

「ペイシェンス、これはまだあるのか?」

サミュエルは食いしん坊だね!

「ええ、ノースコート伯爵家にもチョコレートの小箱を渡しましたわ」

にっこりと笑うサミュエルは、なかなか可愛い。

「このチョコレートを湯煎して溶かして、アイスクリームに掛けても美味しいのですよ」

キャシディ伯爵夫人の顔が今すぐ食べたいと告げているけど、お客様の前だから我慢したみたい。

「ペイシェンス嬢、素敵なお土産をありがとう。母も大喜びです」

フィリップスが喜んでくれて良かったよ。その後は、ほぼ大人達が話すのを聞いているだけだったけど、やはり皆が心配しているのは、十数年前の気候と似ている事だった。

「まぁ、このまま暖冬になるかもしれませんし、寒くなったとしても流行病なんか無いかもしれません。ただ、準備だけはしておかないといけません」

キャシディ伯爵の言葉に、ノースコート伯爵も同意している。

「そうですね。常に冬と病には備えておかないといけません。ノースコートは南部ですが、海風がきついのです。湯たんぽをもっと購入して運ばせましょう。それと、流行病でなくても風邪も増えますから、薬師達に回復薬を備蓄させておきます」

領地の経営も大変そうだよ。領民の生活を守らなくてはいけないのだからね。

「エステナ神に暖かい冬を願うのは間違いかもしれませんが、流行病だけは阻止していただきたいです」

皆も同じ気持ちだ。私は、マキアス先生に絶対に会いに行こうと決めた。