作品タイトル不明
やはりコーラスクラブはダメだね!
四時間目にはミハイルも錬金術クラブに来た。待っていました!
「ペイシェンス様、夏休みはお世話になりました! 再来週は楽しみにしています!」
うん、招待状ラッシュだけど、リリアナ伯母様に任せて乗り切るよ。
「ミハイル様、ミシンを早く作らないと家政コースの女学生は毎日裁縫の授業ばかりですの」
私の思い出した足踏みミシンの構造を描いた紙をミハイルに見せて、二人で考える。
「うん、この上糸と下糸をクロスさせるシステムが難しいですね」
うん、そこらへんの構造は曖昧にしか覚えていないんだよ。でも、ミハイルが集中して、あれこれ設計図を描きまくっている中で、前世のミシンの構造に近いのがあった。
「これだわ! 上糸を通した針が下降し、布地を貫くと、針の先に上糸の輪ができるでしょ。この糸輪を中がまの先端がひっかける。その糸の輪をひっかけた中がまは、そのまま半回転する。それにつれ上糸も送られる。糸輪が中がまの真下を過ぎると、中がまの先端を外れ、糸輪はドライバーとボビンの間を通り、下糸と交差する。天秤により、この上糸と下糸の交差を引き上げ、縫い目を引き締めたら、縫えるのよ!」
図を書きながら、上糸の針の先端の輪っかが、中がまの先端に引っかかって半回転して、下糸と交差する仕組みを説明する。
「ペイシェンス様、素晴らしいです!」
ミハイルは、私の簡単な説明で理解したみたいだ。
「この中がまの回転が上糸と下糸を交差させるのですね!」
凄いよ! ミハイルは天才だね! 前世のエジソンみたいだ。
横で見ていたカエサル部長が、うんうん唸っている。
「錬金術クラブの部則を少し変えなくてはいけないな。今は、アイデアと魔法陣とそれを作るのに協力したメンバーになっているが、機械の設計図を描いた者の取り分を考えないとダメだ」
あっ、そうだよね! カエサル部長を尊敬するのは、公平な考え方ができるからだ!
「良い考えだな! 他のメンバーも文句は無いと思うが、部則を変更するのなら、一応は決を取っておいた方が良い。ペイシェンス、金曜の放課後は来られそうか?」
王宮には呼ばれていないけど、リュミエラ王女やパリス王子の件があるから、王妃様が急に話を聞きたいと思われるかもしれない。
「私は、変更に賛同する委任状を書いておきますわ」
カエサル部長は、少し複雑な顔をしたけど、ささっと書いた委任状を受け取ってくれた。
「自分の自由にできないなんて、困るな」
ベンジャミンが私の代わりに怒ってくれているけど、然程は気にならないんだ。
「秋学期になって、色々とありますから」
ミハイルは、そんなのを貰っていいのでしょうか? なんて恐縮しているけど、一番の功労者だよ。
「ミハイル様がいなかったら、ミシンの構造はわかりませんでしたわ」
もっと、ミシンや綿飴機についてメンバーと話していたいけど、無情にも四時間目の終わりの鐘がなる。
「魔法実技室まで、マーガレット王女とリュミエラ王女とパリス王子をお迎えに行かないといけませんわ」
慌てて、クラブハウスを出る。幸いな事に、魔法実技室はクラブハウスに近かった。
「ペイシェンス、私もリュミエラ様もパリス様も魔法実技の修了証書が頂けたのよ!」
わぁ、良かったよ! マーガレット王女はあと一歩だったから、秋学期には取れると思っていたんだ。ご機嫌なマーガレット王女をパリス王子がエスコートする。私はリュミエラ王女と一緒だよ。
「三時間目の裁縫の授業で、危うく間違った所を切る寸前で、キャメロン先生に注意されたの。あそこで切っていたら、膝上になっていたわ」
キャメロン先生が気がついてくれて良かったね!
「初めてですから、ゆっくりと進めたら宜しいのですよ」
私の言葉で、パッと笑顔になるリュミエラ王女が可愛いよ。
「ありがとう! 少し自信が無くなっていたけど、そう言われると元気になるわ」
良い子だね! なんて、呑気にしていたけど、コーラスクラブはアゲインストの風が吹いていた。
「まぁ、マーガレット王女がわざわざコーラスクラブにお越し下さるなんて、冬の到来が早まらないと宜しいのですが」
わっ、エミリア部長の嫌味が炸裂しているよ。あれっ、そういえば引退の時期じゃ無いのかな? 普通は秋学期になったら、交代するよね? コーラスクラブの部長は5年生だけど、家政コースの女学生は6年生はほとんど学園に来ないから、変わるのかと思っていたよ。
「あら、新部長さんはいらっしゃらないのかしら?」
マーガレット王女が腹を立てている。笑顔が怖いよ。
「どこかのクラブのお陰で、4年生がいないのです」
わぁ、全面戦争じゃん!
「このクラブの活動を見学したいと思っていましたが、その価値は無さそうですね。マーガレット様、リュミエラ様、行きましょう!」
パリス王子も不愉快だと思ったみたい。エミリア部長が慌てて引き留めようとしたけど、最初から感じ良くしなきゃね!
「ペイシェンス様!」ルイーズが声を掛けたけど「行くわよ!」とマーガレット王女に言われたから、そちらに従うよ。
一週間だけクラスメイトだったルイーズより、一年半も側仕えしているマーガレット王女の方を優先するのは当たり前だ。
「ルイーズがコーラスクラブに残るか、グリークラブに変わるかは本人の決める事よ。ああ、くさくさするわ。リュミエラ様には悪い事をしてしまいましたわ」
マーガレット王女が謝るけど、リュミエラ王女は笑って許す。
「あのコーラスクラブに入らなくて良かったですわ。あれでは改善案を提示しても聞く耳は持たないでしょう。大使夫人には私から説明しておくわ」
これは、金曜は王宮へ呼び出しかもしれないな。委任状を書いておいて良かったよ!
「これからグリークラブに行かれますか?」
おや、音楽クラブの日なのに、マーガレット王女もグリークラブに行く様に聞こえたよ。
「ええ、私はグリークラブに入る事に決めましたわ」
キッパリと言い切ったリュミエラ王女に、マーガレット王女も微笑み返す。
「私もグリークラブに入ろうと思います」
わっ、リュミエラ王女が満面の笑みになると、片えくぼが出て可愛いさMAXだ。
「嬉しいですわ!」
二人が手を取り合って喜んでいる。パリス王子はどうするのだろう?
「では、私もグリークラブに入りましょう。リュミエラ王女の付き添いですからね」
ああ、それは大人達も頭が痛いだろうね。リュミエラ王女がリチャード王子の婚約者になるという面では、パリス王子の付き添いがあるなら男子学生がいるグリークラブに入っても安心だけど……マーガレット王女と一緒の時間が増える点ではねぇ。まぁ、音楽クラブでもパリス王子と一緒だけど……私は、グリークラブには絶対に入らないよ! いくら王妃様に微笑まれても拒否するからね。そのくらいなら料理クラブと手芸クラブに入りたいんだから!
「では、私は音楽クラブにまいりますわ」
グリークラブに入らない決意表明をしておくよ。マークス部長は、エミリア部長みたいな無礼な真似はしないだろうから、三人で大丈夫でしょ!
「あら、パーシバルがペイシェンスに案内を頼んでいたと思うけど?」
マーガレット王女、その手には乗りません。
「パーシバル様は、コーラスクラブに案内して欲しいと言われたのですわ。それは終わりました」
少し、マーガレット王女の片眉が上がったけど、無視して音楽クラブに向かう。
「おや、ペイシェンス? コーラスクラブの見学だと思っていたけど?」
アルバート部長に経緯を話すと、怒りだしたよ!
「なんて無礼な女なのだ! 自国の王女に対しても失礼だが、他国の王族の前だと言うのに! エミリア部長は退学にさせるべきだな!」
これは、コーラスクラブとの合奏は無しだな。私も、ベートーヴェンの『歓喜の歌』なんか歌わせたくないよ。
「ペイシェンス、他のクラブメンバーにも『歓喜の歌』を聴かせてくれ」
くさくさしていたけど、第九は気分転換に良いね!
「素晴らしい!」
サミュエルに拍手して貰ったよ。他のメンバーも大喜びだ。
「コーラスクラブとの合奏はないが、グリークラブと合奏しよう。あちらは『アレクとエリザ』のダイジェストもする予定みたいだけど、大丈夫だろう」
それより、これをオーケストラ部分の楽譜と歌詞を考えなくてはいけないんだよ。
「ペイシェンス、夏休みに屋敷で兄が話していたが、楽譜を売り出したいと思っている。それで、この書類にサインをしてきて欲しい。グレンジャー子爵のサインも必要だし、弁護士に相談して貰っても良い」
それはワイヤットに要相談だ。でも、私もアルバート部長に相談があるんだ。
「錬金術クラブでオルゴールを作ろうとしているのです。そのオルゴールは、ディスクを交換したら、色々な曲が楽しめます。その曲の何曲かは私が作曲した物になりそうなのですが、この楽譜を売る契約と重なる事になりませんか?」
アルバート部長は、目を見開いた!
「いつでも音楽を聴けるのか? 素晴らしい発明だけど、オルゴールは短い曲しか使えないのでは無いのか?」
わぁ、凄い食いつきだよ。蓄音機、できたら良いんだけどなぁ! ミハイルならできるかな? 私は、どういった物か知らないんだよ!
「今、作っているオルゴールの曲は7分ですわ。それにディスクなら、もう少し長い曲でも良いかもしれません」
「7分か!」とアルバート部長は、ぶつぶつ曲名を呟きだした。
「あのう、それで……」と声をかけると、パンと手を打った。
「そうだ! 魔道具に特許があるように、音楽にも何か作家に報酬が入る制度が必要なのだ。そうすれば、優れた音楽家をエステナ聖皇国に取られなくて済む!」
おお、アルバート部長は、良い事を言っているね! 前世では楽曲の使用料を払うシステムがあったんだ。
「それは素晴らしいですわ。音楽著作権を保護すれば、音楽家は自立できます」
わっ、アルバート部長に抱きしめられたよ!
「ペイシェンス、やはりお前は天才だよ。本を書いたら著作権があるように、楽曲を作った作曲家や作詞家にも著作権が与えられるべきなのだ! 兄に話さなくては!」
ここにはマーガレット王女がいないから、アルバート部長を止めてくれるのは、ルパート副部長だけだ。
「アルバート部長、ペイシェンスを離しなさい。クラブメンバーを抱きしめたりしてはいけない!」
やれやれ、助かったよ! 本当にルパート副部長は、音楽クラブの良心だ。