軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

清貧に甘んずることなかれ

ガタガタと北風が窓ガラスを揺する。ヒューと冷たい風が部屋に入ってきた。

「寒い……」

夜中にガタガタ震えながら、目が覚めた。

「ペイシェンスの寝方では凍えてしまうわ」

つい数日前まで私は日本のOLをしていた筈なのに、何故か目が覚めたらペイシェンス・グレンジャーになっていた。

このペイシェンス・グレンジャーはどうやら貴族みたいなのだが、実に貧乏というか、赤貧洗うが如しというか、生活改善をしなくては生死に関わるレベルの低さだ。

初めてペイシェンスとして目覚めた時、衰弱激しく『このままじゃ、死んじゃう。助けて!』と救急車を呼ぼうとした。でも、周りを見渡すと自分の部屋ではないし、電話もない。

「ペイシェンス様、お気がつかれましたか?」

赤毛のメイドが嬉しそうに声を掛けてきた。そのメイドの名前がメアリーというのが、何故か分かり、自分がペイシェンス・グレンジャーなのも何故だか分かった。

「凄く弱っているみたい。お医者様を呼んで」

メイドのメアリーに頼んだが、困ったような顔をされた。

『私のためにお医者様を呼ぶなんてできないわ』

私の中のペイシェンスが『とんでもない!』と抗議する。

「お医者様は昨日呼びましたし……もう、お熱も引いたみたいですので……」

メアリーに吸飲みでお水を飲ませてもらい、少し人心地ついた。

ペイシェンスの記憶からお医者様を呼ぶのはとても贅沢な事であり、生きるか死ぬかの重病でなければあり得ないのだと知った。つまり、昨日の 私(ペイシェンス) は生きるか死ぬかの状態であり、どうやら私は憑依したのか転生したのか不明だけど、このペイシェンス・グレンジャーになったようだ。

『私は死んだの? ペイシェンスは死んだみたいだけど、この記憶は何なの?』それが問題だ。

私は青山薫、大学を出て一人暮らしでOLをしている25歳で健康に問題もなく、普通に暮らしていた。転生物によくあるトラックに轢かれた記憶はないし、真っ白な部屋で女神様からチートな能力ももらってない。

会社から帰り、簡単な食事をして、お風呂に入って、パソコンで少し遊んでベッドに入っただけなのに、何故、こんな事に? 夜中に火事でもあったのか、地震でもあったのだろうかと首を捻る。

それより変なのはペイシェンスの記憶が非常にはっきりとある事だ。そのおかげで、ここの言葉も話せるし理解できるのは有難いが、ペイシェンスの常識が私の行動を支配するのは困ったものだ。

ペイシェンスは貴族として誇り高く、その上、犠牲精神に溢れている。

どうやらペイシェンスの母親もその犠牲精神で肺炎になり亡くなったようだ。

このグレンジャー家には父親の子爵であるウィリアム卿と跡取りになる8歳のナシウスと6歳のヘンリーがいる。

記憶にある弟達はマジ天使で、ペイシェンスは貧しい食卓に上がる薄い肉片を譲ってやっていた。そのせいかガリガリで抵抗力も無く、冬の寒さで肺炎をおこして亡くなったのだろう。多分ね。

記憶が鮮明なのはまだしも、行儀良くさせようとするのが難点だ。

『貴族の令嬢は掛け布団の上に手を乗せて指を組んでお上品に寝るのよ』

亡くなった母親からの教えを守り、こんな暖房も無く、薄っぺらい掛け布団で寝ていたから死んだんじゃない? って呆れちゃうけど、どうも身体はまだペイシェンスの習慣どおりに眠っていたようだ。子供の頃に見た眠れる森の美女みたいにお行儀良く寝るのは、暖房の利いた部屋にかぎるよ。

「寒い! お母様もこんな寝方してたから肺炎で亡くなったのでは? こんな薄っぺらい布団しかないのか、朝になったら調べなくてはいけないわ」

それまでは、ペイシェンスの母親の教えには背く事になるが、頭から布団を被り、猫のように丸まって寝よう。

「少しは暖かくなったかも…… 弟達(エンジェル) は大丈夫なのかしら?」

私は少しショタコン気味だ。ああ、日本に残したパソコンのショタコン漫画、削除したい……なんて考えても仕方ない。

ペイシェンスの記憶では十歳以下の弟達は子供部屋で二人で寝ているようなので、少しは暖かいだろう。

兎も角、寝て体力を少しでも回復し、お湯のようなお粥よりマシなものを口にしないと、転生か憑依か知らないけど、私の人生は終わっちゃう。

それと、このグレンジャー子爵家をどうにかしないと、弟達が不憫でならない。これはショタコンの私と弟思いのペイシェンス二人の同意だ。