軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

執政官の館の地下道を見つけよう!

昼食後、ノースコート伯爵も一緒に遺跡に行く事になった。勿論、ヘンリーとサミュエルも一緒だから同じ馬車だよ。

「ふむ、長年ここに住んでいて地下道があるとは噂にも聞いていない。何か遺物が見つかるかもしれないな」

その前に、ナシウスが落ちた仕組みを解明しないといけないと思う。力 尽(づ) くで穴を掘る方法もあるけど、それだと地下通路が崩れてしまうかもしれない。

「ナシウス、落ちる前に何をしたのか思い出してね。そして、絶対に近づかないのよ」

カエサル達は、この点は信用できないんだ。地下道の先に魔道船があるのでは無いかと無茶をさせそうなんだもん。

「これまでも、あの館跡に入った人間は数知れずいた筈だ。何故、今回に限って床が開いたのか? それが判明すれば、良い状態の地下道を調査できるのだが……」

あっ、伯父様もナシウスに鍵があるのだと思っているのかしら? 万が一、カザリア帝国に個体識別コードのシステムがあったとしても、ナシウスが鍵になるとは思えない。だって、その当時はローレンス王国はバーバリアンと蔑まれていたんだもんね。今のエステナ聖皇国の貴族には、カザリア帝国から続く血を誇る人達もいるそうだけど、そんなの眉唾だよ。

「何か触ったとかは無いかしら?」

ナシウスも考え込んでいる。

「落ちる前、私はフィリップス様の後ろにいて、従僕がランチボックスが来るからと遺跡の入り口に向かったので、私もそろそろ帰らなくてはいけないなと思って……あっ、そうだ! その時によろけてしまって壁に手をついたんです。そしたら床が開いて落ちたんだ!」

ノースコート伯爵は、手を叩いて喜んだ。

「そうか、その壁に仕組みがあるのだな! それを解明できれば、地下道へ行けるのだ」

いや、それでは地下道に落ちるだけで、上に上がれない。ヘタをすると遭難事件になるよ。

「伯父様、地下道に閉じ込められたら困りますわ」

ハッと顔を引き締めて「うむ、その通りだ」と頷く。

バーンズ公爵家や侯爵家や伯爵家の子息達が自分の領地で遭難するのは拙いとノースコート伯爵は考え込んでしまった。

「でも、地下に降りる方法が分かったなら、上がり方も分かるんじゃないかな?」

それまで黙って聞いていたサミュエルが我慢できなくなって口を挟む。

「それは、そうだと思うが……地下に降りるときの遣り方と違っていたら、上がれなくなって困るだろう」

うん、そうなんだよね。

「ペイシェンスはナシウスを上にあげられたのだろう? どうやったのだ?」

サミュエル、そんな事は聞いて欲しくなかったよ。

「さぁ、無我夢中で覚えていませんわ。でも、私は他の方を引き寄せられるとは思いません」

あっ、だからってナシウスを地下通路に落としたりしたら、暴れちゃうよ。きっと理性が吹っ飛んじゃうからね。

「ふむ、ペイシェンスは本当に生活魔法だけしか使えないのか? 物を引き寄せるだなんて、昔の賢者が使ったと伝わる大魔法だぞ」

そう、ペイシェンスも子供の頃に読んだことがある賢者クロムエルの逸話にある転移魔法だ。それより、アイテムボックスが使えたら良いのにね。だって、ナシウスとヘンリー限定でしか使えそうにないもの。

「きっと、私は弟達しか呼び寄せられないですわ」

ヘンリーが目を輝かせているけど、わざといなくなったりしたら叱るからね!

「お姉様はクロムエルのような賢者になられるのですか?」

ナシウスは本の虫だったから『賢者クロムエル』を読んだんだね。ヘンリーは知らないみたいだけど、屋敷に帰ったら絶対に読みそうだ。

「ヘンリーとナシウスしか探せないから賢者にはなれませんよ。それに、私は賢者より2人のお姉様である方が大事です」

ナシウスとヘンリーは笑って頷いたが、伯父様とサミュエルは少し引いたみたい。私の弟達への愛情は異世界でも少し過剰なのかも。

そんな話をしているうちにカザリア帝国の遺跡に着いた。

カエサル達は壁画が残っていた南の兵舎跡を調査していた筈だったけど、今は全員が北の執政官の館跡に集まってワイワイやっている。

「ナシウス、よく来た! それで何か思い出したか?」

ベンジャミンが私達に駆け寄ってくる。皆、ランチボックスをちゃんと食べたかな?

「私が落ちる前に、壁に手をついたのです!」

わっ、全員の目が壁に集中したよ。

「ナシウス、壁のどの辺に手をついたのだ? 全員、下がった方が良い」

流石にカエサルも何も対策も取らずに下に落ちる気は無いようだ。少しホッとしたよ。

「棒を持って来たぞ!」

従僕が渡した棒で、ベンジャミンがナシウスが指差す壁を突っつく。

「ナシウス、どのくらいの高さだったのだ?」

闇雲に壁を棒で突いても、床はビクともしない。ベンジャミンはナシウスに棒を渡す。

「私は振り返ろうとして、バランスを崩し、壁に手をついたのですから、この辺りでしょうか?」

ナシウスは思い出しながら、自分が手をついた壁を棒で思いっきり突く。

「開け!」とナシウスが叫ぶから、私も「開け!」と一緒に叫んじゃった。

「あっ、床が!」

本当に床が一瞬開いて、すぐに閉まった。

「凄いぞ! これは床に魔法陣が隠されていたのだ」

カエサルが興奮して騒いでいるけど、これでは地下通路に降りられない。いや、降りられるけど、落ちるだけで上がれないかもしれない。本当に一瞬だけだもの。

「だけど、カザリア帝国の執政官が床に落ちていたとは思えない。これは罠なのでは無いだろうか? 他にも地下通路に続く道があると思う」

フィリップスの言葉に、全員が色々な意見を返す。

「罠にしては、壁に近すぎる。前は階段が出るシステムだったのでは無いか? それにもっと長い間、開いていたとか?」

ベンジャミンが一番にクラスメイトの気安さで噛み付いた。

「そうだな! こんな場所に罠は無いのでは? 失われた技術が目の前にあるのに、もどかしい」

ブライスが苛立ちを隠せないなんて、初めて見たよ。いつも優しいけど、やはり錬金術クラブのメンバーだね。 失われた技術(ロストテクノロジー) を追い求める熱意が溢れている。

まぁ、カザリア帝国が滅びてから千年以上も経っているからね。床が開く魔法陣が動くだけでも驚きだよ。

「魔法陣が動くには、魔石が必要だが……こんなに長期間、魔石が保つものだろうか? あの魔道船といい、カザリア帝国の文明が暗黒の戦国時代に失われてしまったのが悔しい。何か私達が知っている魔法陣とは別な物があったのかもしれない」

アーサーは冷静に分析している。私も色々と考えちゃうよ。下に落ちる以外なら、前世の自動ドアの機能に似ている。階段は壁から踏板が出てくるとかだったのかな? そちらのシステムは壊れちゃったから、ナシウスは落ちたのかな?

あれこれ考えてみるが、やはり推測の域を出ない。

「降りてみたら、何か見つかるかもしれない。地上は破壊され尽くされているが、ナシウス、地下は手付かずなのでは?」

カエサルがナシウスに質問しているけど、私は弟を危険な目には遭わさないよ。ナシウスを自分の方に引き寄せる。

「天井が閉じたら真っ暗になりましたが、薄ぼんやりとした魔法灯がポツポツと続いていたので、地下通路があるのだと思いました。私が落ちた所は破壊された様子はありませんでしたが、他がどうかは分かりません」

新メンバーのミハイルは、真剣な顔でナシウスの言葉をメモしていた。

「ナシウス君、魔法灯が薄ぼんやりとでも灯っていたのだね。それは魔石を使っている今の錬金術では実現不可能だ。つまり、私達が知らない原理の灯があったのだ」

ミハイルは興奮して、赤い髪を振り乱し、ぴょんぴょん跳ねている。

「それはこの床の開閉にも言えるな。魔石で魔法陣を動かす錬金術とは違う物があったのだ!」

カエサルも大興奮だよ。でも、私は真っ暗な地下で、薄ぼんやりとした魔法灯が続くのを冷静に観察していたナシウスの勇敢さに感動する。

「ナシウス、怖かったでしょう。よく頑張りましたね」

サミュエルの前だから、サッと抱きしめて放したよ。

「地下道へ降りてみたいな!」

サミュエルは簡単に言うよね! まぁ、降りるのは簡単だけど、それは落ちるだよ。

「私も降りてみたいです!」

「ヘンリー、駄目です。危険な真似はさせません!」

咄嗟にヘンリーを引き寄せちゃった。ナシウスがいなくなった時のショックで、かなり過敏に反応するようになったよ。

全員の目が床に集中する。地下道は探索してみたいのだけど……

「だが、この床の開閉システムは壊したく無い。既存の魔法陣とは違うと推察できるからだ」

カエサルの言葉に全員が同意する。カザリア帝国の優れた技術を地下通路の為だとはいえ破壊したく無いのだ。

「他にも地下通路への道があった筈だ」

ノースコート伯爵も失われた技術を得るチャンスを捨てたく無いと考えて、全員で執政官の館跡を調べ直す事になった。

「もし、これが敵に攻められた時の避難路だったとしたら、カザリア帝国の執政官はどちらに逃げたのかしら?」

今のノースコート館は海からの攻撃を主に警戒している造りだけど、この遺跡の防御壁は南も北も残っている。そして、南は帝国の支配下だとすると、北のバーバリアンの襲撃を想定して造られたのでは無いだろうか?

「ペイシェンス嬢、なかなか鋭い指摘ですね。それにあの壁画に残っていた海に浮かぶ魔道船で脱出するなら、地下通路は港へと続いていた可能性があります」

私とフィリップスの会話を聞いていたノースコート伯爵が考え込む。

「だが、ここは港よりかなり高い位置にある。地下通路が段々と深くなるように掘られたのは想定できるとしても、港までは……ふむ、ノースコート館までならあり得るな!」

あっ、そうだよね。ノースコート館は小高い丘の上に建っている。そこまでなら、徐々に深いところを掘ればなんとか辿り着きそうだ。

「えっ、館の下に地下通路があるのですか?」

サミュエルが驚いている。

「いや、館の下にあるかは分からないが、丘まで通じていたのでは無いかと考えたのだ」

もし、丘に出口があるとしたら、何処だろ? ノースコート館は堀に囲まれている。堀を作る時、出口は破壊されていないのかな? 何か地下通路が有れば、堀を作った人達も気付くよね? という事は、館が建っている場所より上が怪しいのかな?

まぁ、私が考えつく事なんか、そこの領主であるノースコート伯爵も考えつく。

「そうか! 出口があるとすればガイウスの丘だ! この地名は確か……」

「ガイウス・マリウス!」これは、世界史で習った名前だよ。

「ガイウス・マリウス! カザリア帝国のノースコート最後の執政官の名前ですね! そのような曰くありげな地名が残っているなんて、素晴らしい」

歴史愛の深いフィリップスが私と同時に叫ぶ。私達が合点しているのを、サミュエルとナシウスとヘンリーが驚いて見ている。

「ペイシェンスとフィリップス様はよく学んでおられる。サミュエルも見習いなさい。ガイウス・マリウスは、この地を治めた最後のカザリア帝国の執政官なのだ」

ノースコート伯爵は、折にふれてサミュエルを教育している。まぁ、教育は父親も専門分野だけど、少し違うんだよね。羨ましいよ!

私達の話を聞きつけたカエサルとアーサーも「そうか!」と驚いていたが、ベンジャミンとミハイルはピンときていなかった。

「ベンジャミン、お前は秋学期から文官コースも履修しろ。世界史ぐらい頭に入れていないと駄目だぞ!」

初等科のミハイルは習っていないから仕方ないけど……まぁ、ベンジャミンも習っていないのだけどね。あれだけ暇そうなら、習った方が良いよ。従兄弟のカエサルに叱られているベンジャミンは、ショタコンの私的には可愛く見える。まぁ、ライオン丸は少し好みとしては成長しすぎだけどね。