軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ドキドキのダンス会場

裁縫室ではパーティションの後ろでお着替えの最中だった。マーガレット王女はもう着替えていたが、髪の毛が少しドレスに合っていない。

「マーガレット様、髪の毛をセットしますわ。髪飾りは持って来ておられますね」

いつもは片流しにしているが、ダンスには不向きだ。一度、解いて、綺麗に結い上げてドレスと同じ色の若草色のリボンを付ける。

「まぁ、素敵ですわ」

「本当にペイシェンスは髪を結うのが上手いわ」

薄い若草色のドレスを着たマーガレット王女は本当に綺麗だ。さて、私も着替えよう。

水玉模様のドレスを着て、今日はハーフアップにした後、髪の毛をクルクルにカールさせる。そして小さな水玉模様の紺色のリボンを付けたらお終いだ。

パーティションから出たら、何故か皆の視線が集まった。

「ペイシェンス、とても素敵だわ」

マーガレット王女に褒められた。柄物は私だけだから目立っているね。しまったなぁ。

他の女学生のドレスもパッと見た目はちゃんと縫えている。近くで見たらアラが見えるかもしれないけどね。

ダンス会場は華やかなドレス姿の中等科の学生を、初等科の制服の学生が羨ましそうに眺めていた。

何か騒めくと思ったら、パーシバルだ。うん、やはりハンサムだよね。

「今年の騎士クラブの試合ではパーシバルが優勝したそうよ」

成る程ね、女学生の視線を独占している筈だ。

「ねぇ、パーシバルに盾役をお願いしてみたら?」

それは無理だ。釣り合わないよ。ちょっと、マーガレット王女、扇子で手招きしないで!

「何か御用でしょうか?」

わっ、来ちゃったよ。近くで見ると、よりハンサムだね。

「パーシバルはペイシェンスの再従兄弟になるのよね。この子を音楽馬鹿のラフォーレ公爵から護って欲しいの」

だから、それはマーガレット王女の想像だと思うよ。いくらなんでも歳が離れすぎてる。えっ、パーシバル本気に取らないでよ。

「それは困りますね。ラフォーレ公爵は独身ですから、断るのが難しいでしょう。私で良ければ虫除け役を勤めましょう。ペイシェンス様には御恩がありますから」

マーガレット王女は満足そうに微笑むけど、私は針の筵に座らされた気分だ。

「さぁ、2人で踊っていらっしゃい。私も踊るわ」

美人なマーガレット王女はダンスの相手に困らない。私は嫉妬の視線を浴びながら、パーシバルとダンスする。

「パーシバル様、マーガレット王女は大袈裟に言われているだけですわ」

でも、パーシバルは頷かない。

「この件が無くても、私はペイシェンス様との縁談を進めて欲しいと願っていたのですよ」

えっ、驚いたよ! モンテラシード伯母様が持ってきた縁談はパーシバルだったの?

「ええっ、私なんかよりもっと美人で家柄も良い令嬢がいらっしゃるでしょう」

謙遜じゃ無くて、本当の事だよ。ペイシェンスもガリガリじゃ無くなって、可愛くはなったけど、貴族の令嬢には美人が多い。性格は悪かったけど、マーガレット王女の学友とか、前世では見たことない程の美人だよ。スーパーモデルやアイドル並みだもん。

パーシバルはクスッと笑う。あっ、ハンサムって反則だよね。近くで見ていると、好きで無くてもドキドキしちゃうよ。

「ペイシェンス様の素直なところが好きなのです」

わっ、低音ボイスに顔が赤くなっちゃう。

「それに打算もあります。外交官の妻がパートナーとして信頼できないとやっていけませんからね」

成る程ね、打算と言われてドキッとしたけど、グレンジャー家に持参金を期待しているわけないね。

「外交官に興味はありませんか?」

それは興味はある。前世でなりたかったけど、外交官試験が難し過ぎて、初めから諦めたんだもん。挑戦したら良かったかもと、就職しても後悔していた。

色恋ではなく、パートナーとして口説かれると弱い。色恋ならドストライクはクラウスだけど、ラフォーレ公爵よりパーシバルは百万倍マシだもん。ただ、パーシバルの横にいると常に『なんでお前が?』って視線に晒されるのが欠点だよね。今もビシバシ感じるよ。

「まだ結婚など考えていません。外交官は選択肢の1つですわ。ロマノ大学でゆっくり考えたら良いと父にも言われています」

断ったのにパーシバルは満足そうに微笑む。

「それで結構ですよ。私との結婚も選択肢の1つに加えて下さい」

あっ、パーシバルは優れた外交官になりそうだ。笑うけど引く気は無いと分かったもん。押しに弱い私には強敵だ。

曲が終わった時、キース王子がダンスに誘ってきた。

「では、ペイシェンス様、また踊りましょう」

パーシバルって引き際も格好良いんだよね。キース王子もダンスは上手いよ。

「パーシバル先輩と何を話していたのだ?」

そんな事を聞かなければ良いのにね。お子ちゃまなんだから。

「外交官にならないかと誘われていました」

キース王子は驚いたようだ。

「そうか、ペイシェンスは文官コースも取っていたのだな。えっ、パーシバル先輩は外交官になるのか?」

驚いているよ、知らなかった様だ。

「ええ、春学期で騎士コースは修了するそうですから、秋学期からは文官コースを選択されるようですよ」

キース王子はショックを受けたみたい。

「パーシバル先輩は試合で優勝されたのに……だから部長になられなかったのか」

騎士クラブには打撃だろうけど、優れた外交官になりそうだよね。まぁ、お陰で色々と聞かれなくて良かった。キース王子は考え込んでいたからね。

やれやれ、やっと椅子で休憩だと思ったら、アルバート部長がやってきた。

「ペイシェンス、踊りながら話そう」

椅子の周りには女学生が座っているから、ダンスしながらの方が話しやすいかもね。きっとラフォーレ公爵の件だと思うし。

「ペイシェンス、父上の件は心配しなくて良い。私が結婚したい相手だと伝えたら、喜んで譲って下さったから」

げげげ……それは新たな問題では? 確かにラフォーレ公爵よりアルバートの方が百倍マシだけど、音楽漬けの人生は遠慮したい気分だ。

「アルバート部長、まだ結婚なんて考えていません。それに卒業したらロマノ大学で学ぶつもりです」

アルバート部長もまだ結婚などしないと頷いたが、ロマノ大学で学ぶと聞くと変な顔をした。

「ロマノ大学で何を学ぶのだ?」

どうやらロマノ大学には音楽科は無いようだ。アルバート部長に言わせると時間の無駄らしい。駄目だ、アルバート部長とは無理だよ。音楽以外の選択肢が潰されるもの。

「私は何がしたいか分からないのでロマノ大学で学んで選びたいと思っているのです」

「馬鹿な、そんなに素晴らしい音楽の才能を授かっているのに!」

わぁ、逃げ出したいよ。丁度、曲が終わった。

「ペイシェンス、踊ろう!」

キース王子が白馬に乗った王子に見えたよ。

「ありがとうございます。ラフォーレ公爵の件は大丈夫だそうです」

午後から付き添いして貰ったので、結果は教えておく。

「それはアルバートと結婚するから大丈夫なのか?」

「まさか、有り得ませんわ」

キース王子が機嫌良さそうに笑う。でも、ふと真剣な顔になった。

「ラフォーレ公爵家からの縁談を断れるのか?」

あっ、それは考えていなかった。確かにグレンジャー家が断れるとは思えないよ。だから、マーガレット王女はパーシバル推しなんだ。婚約者がいるなら断れるからね。

「まだ先の話ですわ」と誤魔化しておく。本当にまだ先だと良いな。

こんな場所には来そうにないカエサル部長とも踊ったよ。

「後片付けを手伝えなくてすみません」

謝っておく。でも、大丈夫だと上機嫌だ。初等科3年の男子学生が1人入部してくれそうだからだ。

「自転車に興味を持ったそうだ。錬金術とは少し違うが、機械いじりが好きだと言っている」

あっ、それは嬉しい!

「なら、ミシンの製作を手伝って貰えますね!」

あっ、しまった。カエサル部長に新しい道具は禁句だよ。ダンスを中断してミシンの話になっちゃった。

「そうか、布を縫う機械か! それとマギウスのマントも作らなくてはな!」

錬金術の話で盛り上がっていたら、ベンジャミンやブライスやアーサーもやってきて、ダンスどころでは無くなった。

「マントは刺繍の糸が肝だと思います。魔石から魔法を通して、守護の魔法陣を活性化させる必要がありますもの」

全員で、あーだ、こーだと激論になった。

「ペイシェンス、踊りなさい」

マーガレット王女に呆れられたけど、ダンスよりこっちの方が楽しいんだ。

でも、同じクラスの文官コースの男子とも踊ったよ。フィリップスもラッセルもダンス上手いね。外交官はダンスも必須なのかな?

意外だけど、ベンジャミンもダンスが上手かった。ブライスとも踊ったけど、1番踊りやすかったね。やはり優しいからかも?

体力無いので疲れたから、マーガレット王女と裁縫室で制服に着替えて寮に帰ったよ。わっ、マーガレット王女の目がキラキラしている。自分の恋は政略結婚だから諦めているけど、恋バナ好きだからね。これから紅茶を飲みながら結果報告だ。

アルバート部長の話に爆笑されたけど、やはり心配そうだった。免職中の子爵家が断れる相手じゃないからね。

「やはり、パーシバルが良いわ。ペイシェンスの能力を認めてくれているもの。アルバートもある意味では認めてくれているし、音楽サロンは私的には評価高いけど……ペイシェンスは未だ決めて無いのでしょう」

そう選択肢が広いのはパーシバルなのだ。きっと錬金術も薬学もさせてくれる。

「でも、カエサルもあるかもね」

それは無いと思うけど、マーガレット王女は本当に恋バナ好きだね。