軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十一話 常識

本隊も大広間に到着し、数多くの感嘆が木霊した。

すぐに詳細の調査が進められ、まずは当面の安全が確認された。

加えて鉱脈も見つかり、もう今回の大規模調査は大儲けが確約されていた。

すっかり空気も弛緩して、見張りの人以外は談笑さえ始めている。

【 夜蜻蛉(ナキリベラ) 】全体として、ここを中継地点と位置付けるという決断が下された。

今日は早めにここで一泊して、残り一泊もここを拠点として周辺を探索する。

この開けて足場も悪くない状況で一致団結すれば、たとえ 階層主(ボス) の襲撃に遭っても全滅するとは思えなかった。

杞憂だったのか、と思う。

自分としては不必要な心配をしていたとは思わないが、きっと俺は怖がりすぎなのだ。

【 竜の翼(ドラハンフルーグ) 】のときもそうだった。

心配性どころか不安症の域にまで達している俺と、常に前進のことしか考えないクロノスで結果的に良いバランスになるくらい。

十分慎重なこのパーティーでは、もはや不要の警戒かもしれない。

「おい功労者、何を複雑な顔をしてるんだい」

手持ち無沙汰で大広間をうろうろしていると、ハイデマリーが声をかけてくれた。

この大規模調査が始まってからは軽いやり取りしかしていなかったので、久しぶりな感じだ。

「いいパーティーだな、と思って、へへ」

「そりゃフィールブロンのAランクパーティーだからね。ここがダメなら良いパーティーなんてないさ。というかヴィム、そればっかり言ってる」

「まあそりゃ、ありがたいからなぁ」

「 夜蜻蛉(ナキリベラ) が良いパーティーであるからってヴィムがダメなんてことには繋がらないぜ?」

図星だった。さすがである。

「なんで君はそんなに能動的に自己評価を下げたがるんだか」

「自己評価というか、ほんと、俺なんかが」

「はいはい、ヴィム君は落ちこぼれですが私がたまたま目をかけてコネでAランクパーティーに誘ってやっただけですよーだ私は職権乱用で自分が所属する組織に被害を与える低能ですよーだ」

「そういうつもりじゃ」

挑発なんだか自虐なんだかよくわからない。

励ましてくれてるってことはわかるけど。

「別に好きにやっていいと思うよ、ヴィムは。心配ならいくらでも心配すればいい。周りを煩わせるのが嫌だってなら一人で準備して予備計画でもあっためときなよ」

「心が読める!?」

「長い付き合いだからね。……でもちゃんと寝なよ」

穏やかな空気と美しい夜空の下、休息に入った。

四方を囲むように見張りの人がちゃんと見張ってくれているおかげで安心感がある。

だけど俺はまだ 地図(マップ) とにらめっこをすることをやめられなかった。

迷宮(ラビリンス) 内でもしっかり方角は存在し、方位磁針が有効である。

地図(マップ) と照らし合わせるに今回の道中は綺麗に北上している形になっていた。

そしてこの道程においては全体的に斜度が一度下がって、それから上がってこの大広間に辿り着いた。

憂慮すべきはなんらかの手段で大量に水が南に流れ込んだときだ。

元来た道が水に浸って引き返せなくなる。

大広間からの通路は多少調べた。

元来た南側と、これから調べる北側の通路が複数。

もしも南が塞がれた場合は北側のどこかを退路にしないといけない。

予想される経路を一通り書き出す。

各通路の高低差からみれば、全体として水関係のトラップが無さそうな退路は一応わかる。

書いて、ようやく落ち着いた。

いつまでこんなに気を張っているんだろうかと考えながら、目を閉じて横になる。

我ながら気苦労が絶えない。

そもそも大量に流れ込む水なんてないんだから想定すること自体が非効率だ。

自分でもなぜこんなに徹底してしまうのかわからない。

自分でもわかっている。

これ以上は無意味。しっかり休んで体力を保つことの方が優先だ。

そう言い聞かせながら寝転がり、目をつむって開けないようにした。

とん、と頭を指でつつかれた気がした。

遅れて冷たさがやってきた。

意識が浮上して、反応と思った次の瞬間、次々に顔に何かが当たった。

頭の中の信号が一気に危機を知らせる。跳ね起きる。

周りが濡れていた。

そして今こうしている間にも頭から濡れていく。

全身を刺すような、降り注ぐ小石を受けたような痛み。

確認しようにも暗い。

いつもの薄暗い 迷宮(ラビリンス) が輪を掛けて暗い。視界が異様に悪い。

確信するまでに時間がかかった。

それはあまりに 迷宮(ラビリンス) の常識とかけ離れていたから。

迷宮(ラビリンス) に常識なんかないはずなのに、それでも決めつけてかかってしまっていた。

雨だ。 迷宮(ラビリンス) に、雨が降っている。

『みなさん! 起きてください! 雨です! 雨が降っています!』

全体伝達が聞こえた。

ようやく目が慣れて、みんなが起き出して右往左往しているのがわかった。

「……こんなの読めるか、馬鹿野郎」

“空”を仰ぎ見て、そう愚痴垂れた。