軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話 冒険心

びっくりするほど順調に進んでいた。

大規模戦闘は一度もなく、みんなの体力にも余裕がある。

金鉱脈も複数見つかった。

まだ道半ばだというのにすでに今回の 迷宮潜(ラビリンス・ダイブ) の黒字は確定している。

うまくいきすぎだった。

神経質になりすぎるくらい万端の準備をしても不測に陥るのが 迷宮(ラビリンス) 。

誘い込まれている?

確かに 迷宮(ラビリンス) はときおり、意思を持っているとしか思えない挙動をする。

トラップにかけるような仕組みを持つ階層も存在する。

周りを見る。

不自然なところはないか?

迷宮(ラビリンス) だ、そんなのあるに決まっている。

空がある。洞窟型で草木は一本も生えてない、半水生型のモンスターが増えてきて、そろそろ多数。

斜度も上がってきた。きっと水脈が近い。

トラップがあるとしたらなんだ、このタイミングでどこかから水が溢れ出してきて全員溺れ死ぬとか?

ダメだいくらでも疑える。考えれば考えるほど不安が大きくなっていく。

「あ、やばいかも」

脚が震えてきた。我ながら肝が小さい。

昼の休憩に入り、また会議が招集された。

カミラさんも含め、幹部のみなさんの面持ちは似たり寄ったり。

議題の想像はついていた。

「諸君、問いたい。我々はどう進むべきだ?」

その問いの意図はみんなが理解していた。

漠然と感じている不安はみんな同じ。しかし引き返すほどの理由はない。

仮にトラップが存在したとして、その存在を最初に解き明かすのは我々【 夜蜻蛉(ナキリベラ) 】でなければならない。

「一応言っておくが、状況的に誘い込まれているとは言えない」

索敵班総括のジーモンさんが口を開く。

「一度も大型と戦闘していないのは、幸運もあるがそれ以上に我々の陣形が機能しているからだ。現に観測した大型は四十三体で、そのうち種類が断定できたのは二十五体。残り十八体は恐らく新種で、もしかすると 階層主(ボス) が紛れていたかもしれない」

みんなが頷く。

そう、俺たちはやるべきことをやって、その結果うまくいっている。

何か異常なほどうまく行きすぎていると感じるのはいつもより準備が入念だから。

それ以上の感覚はない。

「その通りだが、ジーモン、この階層は明らかに不自然だ」

ハンスさんが言う。

「わかっている。でもこの漠然とした不安だけで引き返せない。 地図(マップ) に『不自然ゆえに引き返した』と書いて撤退することはできない。俺たちは【 夜蜻蛉(ナキリベラ) 】だ」

「前線パーティーの大規模調査とはいえ引き返した例はいくらでもある。今回はむしろ、深奥にまでは至ってなくとも 地図(マップ) の開拓は上々だ。他パーティーを巻き込んで作戦を展開することもできる」

「いや、他パーティーを募るには情報が少なすぎるだろう。予感だけで何を対策するんだ」

「ここで帰ってみろ、闇地図がフィールブロンに溢れかえる羽目になるぞ」

「俺たちが全滅しても同じことだろう」

次々に意見が出て、話が進む。

そのどれもに一理があり、説得力がある。

【 夜蜻蛉(ナキリベラ) 】のような大きなパーティーには、誰よりも危険な場所に先陣を切って行く責務がある。

若い冒険者が金のために無理な 地図(マップ) 開拓に挑みかねない状態をそのまま置くなど、誇りにかけてあってはならない。

その一方で当然仲間の命が大事だ。パーティー全体の行く末も考えねばならない。

難しい判断だったけど、俺は一方でどこか安心していた。

【 竜の翼(ドラハンフルーグ) 】では全部クロノスが独断で何もかもを決めていて、こういった 危険(リスク) は俺一人が抱えていた苦悩だった。

不要なものだと思っていたけど、こうしてみんなで共有する場もあるのだと思うと、嬉しかった。

「諸君、出尽くしたかね」

ある程度意見が出て、話が硬直したとき、カミラさんが口を開いた。

「危険は承知した。全員が恐れを共有できた。そして恐れは覚悟へと昇華できる。覚悟はかえって生存率を上げる一因になる」

みんな、目端をちょっとずつ合わせあって、微笑んだように見えた。

誰かが小声で言った。

また大将のいつものが始まった、と。

「こんな馬鹿げた理屈が通じるのは、我々が愚かな冒険者であるからだ」

何を指しているか、俺にもわかった。

── 冒険心(アーベンティア) 。

冒険者という馬鹿者たちの、深奥への憧れ。

死ぬことを恐れるならそもそも 迷宮(ラビリンス) になんて立ち入らないことが一番だ。

「ヴィム少年、君が言いあぐねている、想定される最悪の状況は?」

突然名指しされる。

戸惑いそうになったけど、カミラさん相手には仕方がない。

覚悟を決めた。

「はい、枝分かれした道も含めて、昨日から斜度が上がっていて、ついに下りと差し引き零になりました」

「それは何を表している?」

「膨大な水量が存在し、流れ込んできた場合、我々の後方がすべて水で埋まります。つまり 迷宮(ラビリンス) に閉じ込められることになります。そこを 階層主(ボス) に襲撃された場合が、最悪の事態です」

「わかった」

カミラさんは一拍置いて、言った。

「まだしばらくは進もう。もしもの場合に備え 二又槍(バイデント) の陣形は解除。そのときは一致団結して 階層主(ボス) と対決する。心の準備をしておいてくれ」