軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 それは確かに

昂ぶっていた。

自分がこんなに動けるなんて信じられなかった。

考えてみれば今まで大物と戦うなんてことはしてこなかったし、 階層主(ボス) とやったときは無我夢中だったのでさておいて、ここまでできる覚えがまったくなかった。

なんだこの全能感。

強化(バフ) で回った血液が頭の中でグルグルして、物がよく考えられないのに、気持ちだけが昂ぶっている。

地面を大きく蹴って少し浮遊して、それから切り返して遠心力で体が揺すられるあの感覚。

落下の衝撃をすべて剣に伝えきった爽快感。

ありありと浮かぶ。

視界の中に見えないものが何もなくて、隔絶された世界で全部が自分の思い通りになって、時間の感覚すらなくなって、何も意識しなくていいような、余計なことは考えなくていい、ただただ気持ちの良い、そんな時間。

泥人形(ゴーレム) を単独撃破は、結構凄いんじゃないだろうか?

立派にBランク相当の冒険者くらいは名乗っても……

「あれ?」

いやそんなわけないだろう。

我に返った。

転送陣が目の前にあって、前衛部隊から順にフィールブロンに帰還していっている。

その様を眺めていたらちょっと落ち着いてきて、記憶を辿ってみる。

「ねえ、ハイデマリー」

隣のハイデマリーの方を見る。

「なんだい。落ち着いたかい」

「俺、もしかしてテンション上がってた?」

「うん」

「カミラさんと話したよね」

「うん」

「何言ってた」

「上の空でいろいろ。ぐわーっとか言ってた」

あー。

やらかした。

強化(バフ) で血流が良くなると予期せぬ影響が出たりする。

三倍(ドライマール) をちゃんと使ったのは初めてだったから。

「何か、失礼なことは……」

「大丈夫だよ。それよりカミラさんたちにとっては、ヴィムが 泥人形(ゴーレム) を単独撃破した事実の方が大きい」

「あ、まあ、これで気を使わせずに済む……のか。気楽だけど、うん、頑張るか」

「気?」

「ほら、次の 迷宮潜(ラビリンス・ダイブ) のために、現状では俺を丁重に扱いすぎて動きにくかったらしくて、ある程度戦えたら楽だったみたいで」

「……まあ、そうだね。これで 迷宮潜(ラビリンス・ダイブ) の成功率は上がったと思うけど」

何か言いたげだ。やっぱりハイデマリーも気を使ってくれていたんだな。

さすがに冷静になってきた。

自分一人で 泥人形(ゴーレム) を倒せたことは手放しに誇っていい気がするが、後ろにみんながいてのことだ。

付与術は戦闘の効率が良くない。無理して体を動かしたから、恐らく帰ったら当分は動けなくなることだろう。

現にもう筋肉にガタがきて──

「あれ?」

──きて、ない?

腕の筋肉を伸び縮みさせても、痛みがない。

いや、まあ鍛えて強くはなっているから、成果が出たのかな。

問題は魔力だ。

三倍(ドライマール) まで使った以上大幅に消費しきって、もうほとんどすっからかんに──

「あれれ?」

──なって、ない?

実感と完全に乖離する事実。

感じてはいけないとわかっていながらも、否定しきれない手応え。

調子に乗るなと自制して、それでも多少は考えていいんじゃないかって緩めたくて、結局思ってしまった。

もしかして、俺、ちょっと強くなってる?

夜。

盗聴石(アブホレン) からヴィムの寝息が聞こえ始め、しばらくして規則的なものに変わると、私は屋敷の外にあるゲストハウスに足を向けた。

ヴィムはまだ【 夜蜻蛉(ナキリベラ) 】の正式な団員になると決めたわけではないので、屋敷の中にある団員の寝室ではなくゲストハウスに泊まってもらうことになっている。

合鍵は拝借してある。

部屋の扉を開けた。

ヴィムが起きる様子はない。安心して眠っているようだ。

【 竜の翼(ドラハンフルーグ) 】を追われてしばらくは不安で眠ることもままならなかったみたいだから、ここでの暮らしはそう悪いものではないのだろう。

足音を立てないようにしてベッドまで歩いて、寝顔を覗き込む。

やっぱり、可愛らしい寝顔だった。

迷宮(ラビリンス) にいるときみたいな、張り詰めた顔じゃない。あれはあれで好きだけど、こっちはこっちで愛らしい。

今日のヴィムの活躍で、【 夜蜻蛉(ナキリベラ) 】のヴィムを見る目はさらに一段変わった。

すでに付与術師としての腕が外部にもある程度広まり始めている以上、戦えるという話もすぐに広まるに違いない。

想像が働く人なら、【 竜の翼(ドラハンフルーグ) 】というパーティーの実態まで考えが及ぶだろう。

カミラさんは次の大規模 迷宮潜(ラビリンス・ダイブ) の計画を完全に固めきった。

ヴィムはまだ直接戦闘で起用はされないみたいだけど、あらゆる行動に関わって、総合的に言えばもはや中核みたいな立ち位置にいる。

仮団員でこれだから、所属禁止期間がすぎればすぐに採用する気に違いない。

話の広がり方によっては他の大手も参加して、オークションみたいに給与の吊り上げ合戦に発展するかもしれない。

「世界が君に気付き始めてるんだぜ、ヴィム」

私の声に応えるように、ちょっとうめき声みたいな呼吸が一回あった。少し焦る。

まあ最悪起きたって構いやしない。

今まで何度かバレかけたことがあったけど、寝ぼけているのか何なのか、あんまり言及されたことがないからきっと大丈夫。

……いつまでこんなことしてるんだろうなぁ、私も。

別に部屋に押しかけて怒られるわけじゃないし、本音をぶつけられないわけじゃないけど。

でも、ヴィムが私の言葉で変わったことはあんまりなくて。自信なさげなくせに妙なところで信じられないくらい頑固というか。

まあ、一貫性はあるんだけどさ。

結局、ヴィムの中で私が占める割合が、そんなに大きくないんだろうなって。

そう思うと、やっぱり悲しかった。