軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十三話 一泊

「ついたぞー!!!」

陽が落ちる前、じゃない。陽が落ちてしばらく。もう少しで野宿もやむを得ないというところ。

私たちは街に辿り着いた。

子供二人で都市の近くで野宿なんて自殺行為だから、なんとしても街の宿屋に辿り着かないといけなかった。

私もヴィムも、門をくぐってちょっとした広場に出たら、大きくへたり込んだ。

パンパンに張った脚を労わりつつ、元来た道を門を通して見る。

信じられない。

私たちは自分の足で、ここまで歩いてきたのだ。

リョーリフェルドにはあるわけがない石畳。家々の雨樋から道の側溝に張り巡らされた水道。同じ色の光が規則的に並んでいる。

王都やフィールブロンに比べたらまだまだ田舎に違いないけど、私たちにとってはようやくたどり着いた大都会、外の世界への扉なのである。

「やったな」

「……はい」

今日はここで一泊。明日一日で準備を整えて体力を回復して、明後日の夜明け前の便でフィールブロンに出発する。

とりあえず身の丈に合いそうな宿を探した。

時間が遅いし子供二人ということで渋られることも多かったけど、子供だけの旅ということを温かく受けとめてくれるような老夫婦の宿を見つけて、そこでお世話になることにした。

「じゃあ二号室ね。お姉ちゃんはしっかりしてるわねぇ」

受付のおばあさんは微笑みながら鍵を渡してくれた。

「はい、ありがとうございます」

私はちゃんと敬語も使えるのである。必要とあればちょっと姉弟っぽい雰囲気を出しつつ可愛らしい子供を装うのだってなんのその。

ほら見たまえ、おばあさんの何も疑っていない顔を。ヴィムも頼りになるお姉ちゃんに引っ張られてきた弟らしく借りてきた猫のように背中を丸めている。もともとである。

そんなヴィムの視線をすくうように、おばあさんは言った。

「たいへんねぇ、弟くんねぇ」

……なんのその。

部屋の扉を開けて、倒れ込むように入った。

「はぁ~! あー、疲れた!」

とんでもない長旅でくたくただ。

正直、これ以上はもたなかった。

屋根があって人目がない空間というのがとんでもなくありがたくて安心する。土足で踏みしめる木の床が柔らかくすら感じる。

そのままベッドに飛び込む。

まずはあおむけになって天井を含めた全体をボーっと見る。

良い部屋じゃないか。苦労して金を貯めた甲斐があるってものだ。

「ん? どうしたんだい、ヴィム」

「あ、いや……」

何やら、こいつは横でもじもじしてるけど。

……なんか余裕があって腹立つな。

「その、俺は、外行きますね」

「……は? なんで」

「いや、だって、その、一つ、なので」

じっと私が転がっているベッドを見る。

「その、そもそも同室というのも……」

「そういうの気にすんだね、ガキのくせに」

「うっ……」

変に躾けられてて困るな。

埒が明かないので、私はシーツを細長く畳んで、線を引くみたいにベッドの真ん中に置いた。

「ほれ、こっち側が私の寝るところ。そっち側がヴィムの寝るとこだ。床だの外だので寝やがったら明日ぶん殴るからな」

ハイデマリーがおもむろにくかーくかーと寝ているふりをしてくれたので、俺もおずおずとベッドの半分をお借りすることにした。

狭いベッドだったので、どうしても体が当たらざるを得なかった。

彼女が引いたシーツの線もあんまり意味がなかった。向き合うのはさすがに恥ずかしいので、結局はお互い反対を向いて背中合わせになるような形になった。

ドキドキする……体格差があるので。

ちょっと動かれたら前に飛ばされそう。

「私、たぶん寝相悪いんだよね。蹴飛ばしたらごめんよ」

「あっ……その、それでベッドから降りて寝てても怒りませんか?」

「てめぇ私をなんだと思ってんだ」

翌朝。

街はずれの川。上流の方は住民の占有する場所みたいで、主婦たちが集まって事務的に洗濯をこなしている。

俺たちがいるのはもうちょっと下流の方だ。周辺では俺たちより年齢がちょっと下くらいの子供たちが裸になって水遊びをしている。

ハイデマリーが「おい、洗濯に行くぞ」の一言で連れてきたのである。

「あのー……」

「ん?」

「洗濯なら、俺がしますから……」

「なんだいなんだい水臭い、自分の分は自分で面倒見るよ。っていうか着替えがないから、洗濯ものが乾くまでしばらく全裸だぜ?」

「……は?」

「わたしゃ汗で気持ち悪いったらありゃしないんだ。君も汚れているだろ?」

要領を得ない。

「なーに恥ずかしがってんだ! ほれ!」

あっという間に俺は担ぎ上げられて、川に放り込まれた。

「がふぉっ! な、なにを!」

ばっしゃーんと体全体が水に打ち付けられる。

びっくりしたけど、浅い川だから危機感はまったくない。

むしろ顔にへばりついていた汗と皮脂が一気に剥がれて冷たくて、とても気持ちがいい。

そうかそうか、洗濯するならこの悪戯は許容範囲だ。

やれやれ、と思いながらハイデマリーの方を向く。

「……ふぇ?」

俺は固まった。

全裸である。

彼女はいつの間に服を脱いでいた。

彼女は走り幅跳びの要領で、一番深いところをめがけて跳んだ。

俺のときとは比べものにならない水しぶきが上がる。俺の方にも波が伝わる。

白い泡が落ち着いて、彼女は水面にばっと顔を出した。

「っかーーー! 気持ちいいねえ!」

唖然としていた。

その笑顔があまりにも爽やかで、勝手に頬が釣り上がってしまった。