軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話 当然の選択

──状況と選択肢は整理されて疑いようがなかった。

パァン! という破裂音が聞こえて、その方向に駆け出した。すぐに見えたのは、彼女が 魔猪(ボア) と相対している光景だった。

端的に、何もかもマズい。

彼女──ハイデマリーは殺されてしまう、下手をすればそのあと俺もやられてしまう。

人はもう呼んだ。けど来るかわからないし来るとしてもすぐには来ない。

俺の背中には 山刀(マチェット) 。でも俺の筋力じゃ斬りかかっていったところで知れている。そもそも狩りなんてしたことがないから可能性もない。

「くそがっ! くそがくそがくそがっ!」

ボロボロの彼女は幾ばくももたない。

だから、まず最初の正解の選択肢。

指笛を鳴らし、小石を投げて、 魔猪(ボア) の注意を引いた。

それは成功する。標的が俺に移る。

とりあえずこれで怒られることはなくなった。やれることを最大限やったのでお付きの義理は果たした。怒られるとしても死んだあとではさすがに俺も怖くない。

近づいてくる二つ牙を見て、次の選択肢はないかなと考えた。

ここで俺が一時的に囮に成れても彼女が助かる可能性は低い。だから、もうちょっと何かをやっておきたいのだけれど。

にしても、怖い。怖すぎる。

すると思いついた。 山刀(マチェット) の刃渡り自体は十分で、使えるカードとしては唯一ちゃんとしていたのである。

──俺の力で斬ったり刺したりする必要、なくない?

考え方はそう、刃先を上に向けた包丁に、果物を落とす感じで。ほら、もしかするとうまくいくかもしれないからさ。

突進が、為された。

私がさっき大木を盾にしたときのような轟音はしなかった。 魔猪(ボア) はヴィム=シュトラウスに衝突する前に停止したらしかった。

それから 魔猪(ボア) は、低い唸り声を上げ、転がるように横に倒れた。

何が、どうなった?

「……ご無事でしたか」

私が立ち尽くしていると、死体の陰からヴィム=シュトラウスがぬっと出てきた。

「……おまえ、何をしたんだ?」

「……あの」

「無事なの?」

「……はい。お嬢さまこそ」

「で、何をしたの」

「そ、その……」

私は言葉を待った。彼に対してはそうすべきだと。

頭をポリポリとかいて、キョロキョロして、顔をぺたぺた触って、ぼそぼそとつぶやき始めた。

「その……あの 魔猪(ボア) の鼻頭から脳までの距離が刃渡りで十分足りてて、僕の体の厚みも考えたらですね、その、ああするのが一番可能性があるかなと」

「は?」

「ですから、その、説明が悪くて、へへへ……」

こいつは私と目を合わせようとしなかった。

「おまえ、わかってるのか。 魔猪(ボア) を倒したんだぞ」

「……はい。その、運がよかったです。へへへ」

会話を試みて思った。

違う。

こいつ、笑ってる?

「おい、おまえ、何がそんなに面白いんだ?」

「へ? ……あっ……その、緊張しちゃって、気が抜けて」

何が起こったか、私の方で整理されてきた。

こいつ、 魔猪(ボア) の突進を利用して串刺しにしたんだ。

子供の筋力で迎え撃ってとできるわけがない。だから、柄を木に当てて 魔猪(ボア) が剣尖に飛び込んでくるような形を狙った。

垂直に立てた 山刀(マチェット) を木と 魔猪(ボア) で挟んだんだ。

「……その、あの、お嬢様……ご無事でしょうか……?」

「おまえ、頭おかしいんじゃないの」

「……そうかも、しれないです」

「ちなみに私は無事だぜ。くそ痛えけどな。あと口の中は血と土の味がする」

「それは……大変です」

会話が噛み合っているが、テンションが全然合わない。

私はなんだかおかしくなってしまっていた。

なんだなんだ、これは。私は何をしてるんだ。

そしてこいつは、何をしているんだ。

むらむらした怒りが肩透かしになっていた。

「すげえよ、おまえ」

「……へへへ」

私が 魔猪(ボア) が死んだことを確認するために歩み寄ると、ヴィム=シュトラウスもとてとてとついてくる。

「おーおー、ほんとに死んでる」

おそるおそる閉じた瞼を触って、めくる。

毛むくじゃらの膜の向こうにあった目は真っ黒。その奥の瞳は開ききっている。

ふう。

私は飛ばされた鞄と鉈を回収して背負いなおし、全身についた土を一通り払った。

体調と痛みと相談。当然回答は「まだ行ける」。

「ついてこいって言ったら、来るかい」

「……はい」

彼は首を強めにこくこく振った。

私は 魔猪(ボア) がやってきた方向を見定めて、足跡を辿ることにする。

「あの、お嬢様」

「なんだい」

「その、あの、目的地とかを言ってもらえると……」

ああそうか。

まあ、連れていくんだから隠すことでもないか。

「…… 魔力薔薇(アイソローズ) を取りに行くんだよ」