軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

強欲

アルベルクが執務室で報告を受けていた。

「セルジュが兵を連れて出ていっただと?」

部下が青い顔をしている。

「は、はい! 友人を連れ戻してくると言っておられました」

アルベルクが拳を振り下ろす。

大きな音が執務室に響き、アルベルクの苛立ちが大きいことを知らせていた。

「愚かな。今更レスピナス家を復興したところで意味などないというのに――。すぐに連れ戻せ! 王国とこれ以上揉めることは出来ない」

部下が執務室を飛び出していくと、アルベルクは頭を抱えた。

「セルジュ、何故理解しない」

上空からライトで照らされていた。

ルクシオンが俺に報告してくる。

『マスター、上空にイデアルの本体が待機しています』

見上げれば、夜空に溶け込むような色合いをしていた。

青く、四角い箱型の輸送船は、ルクシオンと同じ宇宙船だ。

その巨大な船体を隠そうともしていない。

「隠すつもりはないってことか」

俺の呟きに答えるのはセルジュだった。

「お前みたいに隠れてチマチマやるのは好きじゃないんだ。それにしても、聞いていたとおりの機体だな。アロガンツだったか? 七つの大罪がモチーフなんて、中二病でもこじらせたんじゃないか?」

七つの大罪?

何を言っているのかと、ルクシオンを見ると――。

『アロガンツは傲慢という意味です。七つの大罪の一つですよ』

「お前、もっと早く意味を教えろよ!」

――そんな意味があるなど知らなかった。

でも、ちょっと心惹かれる自分がいる。

アロガンツ――かっこよくない?

『聞かれなかったので』

周囲を警戒しつつ、ノエルを背中に庇っているとイデアル本体から何かが射出され地面に降りてきた。

青い機体は高機動のスリムタイプながら、通常の鎧よりも一回り大きい。

槍を持ったその姿――似ていないはずのアロガンツと共通点が多かった。

同じ人工知能により作り出された機体だからだろうか?

「分かりやすくこいつには【ギーア】と名前を付けてやった。この意味が分かるか?」

チラリとルクシオンを見れば、

『強欲です』

「人のことは中二病扱いで、自分も同じじゃねーか!」

セルジュが両手を広げた。

「お前のためにわざわざ用意してやったんだ。お前の自慢の機体をぶちのめすためだよ。ほら、さっさと乗り込め。――格の違いってやつを見せてやる」

ノエルが俺の前に出た。

「セルジュ待って! リオンは悪い人じゃないわ。どうしてこんなことをするのよ」

「お前は黙っていろよ。それにな、お前は騙されているんだよ。そいつ、お前が思っているような善人じゃないぜ。そうだよな――成り上がりの伯爵様よ」

ノエルが振り返って俺を見る。

俺は何も答えなかった。

「う、嘘よ。リオンは優しくて、それで――」

ご丁寧に俺のことを説明してくれるのは、ギーアのコックピットから出てきたイデアルの子機だ。

『――外道騎士。それが彼の二つ名ですよ。調べてみれば、外道の名に恥じぬ行いがゴロゴロと出てきましたね』

「嘘よ、そんなの嘘!」

ルクシオンがイデアルを見ている。

『王国の情報を調べたと?』

『王国が混乱しているときに、共和国に逃げ延びた方たちがいましてね。彼女たちから色々と聞けましたよ』

彼女たち――王国から逃げた貴族。

俺を恨んでいてもおかしくない連中は沢山いる。

ノエルが俺を見る目は、少し震えていた。

「リオン、答えてよ。あんたは口が少し悪いだけで、本当は優しい人よね?」

素直に「はい」と言えればいいのだろうが、俺はためらった。

――俺が善人? 笑わせる。

善人は人を殺したりしない。

戦争で人を殺した俺は――外道で間違いない。

善人面してこの場を乗り切るのがベストなのだろうが――ここで嘘は言いたくなかった。

「言っただろ。俺は――嘘は言わない男だ。そこの青いのが言う通りだ。俺は外道だよ。善人じゃない」

ノエルが俯くと、ルクシオンがイデアルに赤い一つ目を向けていた。

『随分と汚い真似をしますね』

『汚い? それは、他国に入り込み、自国の利益を優先した貴方たちのことでは? 最初から、レスピナス家の巫女に近付くのが目的だったのでしょう?』

ノエルが悲しそうな顔をしていた。

「そっか。――リオンも巫女の力が欲しかったんだ」

俺は目を閉じる。

ルクシオンが俺を庇おうとしていた。

『違います。マスターは――』

セルジュが乱暴に髪をかいていた。

「イデアル、話していても意味がない相手だと言ったのはお前だろ? それよりも、その外道がどれだけ強いのか確認してやるよ。名のある騎士を倒したんだって? なら、その実力を見せてみろよ」

セルジュが鎧に乗り込むと、ルクシオンが俺に進言してくる。

『マスター、あれから逃げるのは困難です。時間を稼いでください。私の本体が救援に駆けつけます。本体さえ到着すれば――』

アロガンツに乗り込みつつ、俺はその意見を却下する。

「――駄目だ。お前とイデアルが戦えばこの辺りが吹き飛ぶだろうが」

『アロガンツとギーアには性能差があると判断します。シュヴェールトを背負っていないアロガンツでは、性能的に負けています』

腹の立つことに、この世界の技術レベルを無視して作られている。

俺やルクシオンは、その辺りの事情――技術レベルのこともあって加減したのに、こいつらはそれを無視していた。

「腕でカバーする」

『相手の力量の方が上だと予想します』

「嘘でも自分の主人は褒めろよ」

『そのような機能を期待されているのなら、諦めてください。不要な機能です』

こいつ、本当に俺のことが嫌いすぎじゃない?

イデアル君を少し見習ったら良いのにね。

俺が上空に飛び上がると、ギーアも上がってくる。

セルジュの声が聞こえてきた。

『さぁ、はじめようぜ!』

俺は眉間に 皺(しわ) を寄せるのだった。

「――糞ガキが」

二体の鎧が空へと舞い上がり、互いに激しくぶつかり合っていた。

その場に座り込むノエルに近付くのは――レリアだった。

「レリア、どうしてここに?」

「これで分かったでしょう。あの男に騙されていたのよ。あいつ、王国ではとんでもない外道じゃない。噂だけでも反吐が出てくるわ。イデアルが用意した資料や、聞き取りをした兵士の話には酷すぎて言葉もなかったわよ」

俯くノエルは紙袋を抱きしめた。

串焼きが入っており、ほんのりと暖かい。

「でも、これで王国に行かなくてすむわ。姉貴もセルジュに助けてもらえば良いのよ。あいつがいれば、問題なんて全部片付けてくれるわ」

ノエルは首を横に振るのだった。

「分かっているの? ラウルト家はうちを恨んでいる家よ。そんな家を頼るなんておかしいわよ。だって、今のラウルト家の当主と母さんは――」

「えぇ、そうよ。母さんとアルベルクは婚約者だったわ。それを、母さんが守護者として別の人を選んだ。だから恨んでいるのよね? でも、セルジュが守ってくれるわ」

「――何でそんなにセルジュを信用するの? レリア、あんたにはエミールがいるじゃない。どうしてエミールを頼らないの?」

ここでエミールの名前が出たことに、レリアは不快感を示した。

「はぁ? 全部色恋に繋げないでよ。エミールとは関係のない話よ。まだ立ち直ってないの? だから、あの男に騙されるのよ」

ノエルは首を横に振る。

「そうじゃない。そうじゃないのよ。リオンは本当に優しい人なのよ。レリアの方がおかしいよ。だって、あたしたちの家を滅ぼしたのは、セルジュの実家じゃない!」

リオンはジャンが入院中に飼い犬の面倒を見ていた。

本当に酷ければ見捨てているはずだ。

対して、セルジュの実家はかつて自分たちを殺そうとした家だった。

ノエルには、レリアの判断の方が信じられなかった。

これがまだ、エミールなら理解できたのに。

「それに、あの人たちは酷い人たちじゃない。あんただって、一緒にいたから分かるでしょ?」

レリアは右手を振り上げ、そしてノエルの頬を叩く。

平手打ちが綺麗に決まり、ノエルは吹き飛んで持っていた紙袋を落とした。

頬を押さえレリアの顔を見た。

「――レリア」

「苛々するのよ。何も知らない癖に、そうやってかき乱して! あんたのせいでこんなことになったのよ!」

ノエルが俯く。

「あ、あたしの?」

「苗木と巫女のあんたがいれば、共和国は何の問題もないわ。それを奪おうとするあいつらが善人のわけがない!」

「あんたこそ、何を言っているのよ。あたしは苗木には選ばれたわ。けど、聖樹には選ばれない。そんなあたしが共和国に残って何の意味が――待って、あんた今!」

苗木と巫女がいれば――それはつまり、苗木も回収しに向かったということだ。

その会話を聞いていた上空のアロガンツの動きが変わった。

「――お前、アンジェやリビアのところにも!」

『それがどうした? アレは元々俺たちのものだ。お前が奪ったんだろうが!』

セルジュの言葉に奥歯を噛みしめる。

――またやってしまった。

また油断した。

傷だらけのアロガンツの腕を、ギーアの槍が貫いた。

コックピット内はアラートが鳴り続けている。

『性能、更に五パーセント低下。更に下降しています』

ルクシオンの報告が嫌になってくる。

「なりふり構わないってこういうことかよ」

『イデアル――アレはただの補給艦ではありません。アレは、いくつかの艦を吸収しています』

「寄せ集めか? ――っ!」

操縦桿を握りしめ、蹴りを放ってきたギーアの一撃を受け止める。

衝撃が今まで戦ってきた鎧とは違いすぎる。

「黒騎士の爺さん以来だぞ、こんなのと戦うなんて」

――思えば、チートを持っているはずなのに苦労させられてきた。

俺の油断が生んだ結果だろうか?

傲慢――確かにその通りだ。

俺にピッタリの機体名だ。

アロガンツの左腕を、ギーアが握りつぶした。

『弱い。弱すぎるぞ! この程度で粋がりやがって!』

蹴り飛ばされ、地面に落とされた俺は踏みつけられる。

ルクシオンの赤い目が俺を見ていた。

『マスター、額に傷が』

「これくらいどうってことない。それよりもちゃんとデータを取れ――」

落ちた俺をサッカーボールでも蹴るみたいにギーアが蹴る。

アロガンツがぶつかった建物の壁が崩れ、そしてセルジュの声が聞こえてきた。

『どうした、この程度か? 人を糞ガキ呼ばわりしておいて、お前はこの程度の雑魚だったわけだ。警戒するだけ損したな。敵もいない王国で、一人好き勝手に暴れたお前は猿山の大将と同じだな!』

踏みつけられ、揺れるコックピット内で――。

『マスター、攻撃許可を』

「駄目だ。何度も言わせるな」

ルクシオンを呼べば、イデアルと激しく戦うことになるだろう。

負けるとは思わない。

ただ、この辺りにいる人たちはどうなる?

様子を見た限り、避難などさせていなかった。

「準備不足にも程があるだろうが。もっとやり方を考えろ、この糞ガキが」

セルジュが槍を振り上げ、コックピットを狙っていた。

「容赦ないな」

荒々しく、そして俺のように悩まないこいつは羨ましい。

それよりも、だ。

「――何で」

槍が振り下ろされようとすると、地面に転がるアロガンツの前に両手を広げたノエルが立っていた。

ギーアが槍を肩に担いだ。

『何のつもりだ、ノエル?』

『この人にこれ以上、酷いことをしないで。あたしがあんたたちについていけば文句ないのよね?』

『そいつがどれだけの外道か知っているのか? イデアルが調べたが、こいつは生きていちゃいけない人間だぞ』

言われたい放題だ。

ルクシオンが低い電子音声で呟いていた。

『――やってくれましたね、イデアル』

ノエルに駆け寄るのはレリアだ。

俺の方をとても冷たい目で見ている。

『姉貴、いい加減にしてよ! 怪我をしたらどうするつもりよ!』

『セルジュ――この人をここで殺したら、あたしもここで死ぬわ。あんたたちにとって、それは困るのよね?』

ノエルの表情は見えない。

外道と言われ、否定しなかった俺をどうして庇うのか?

これも主人公の勘というやつだろうか?

まったく――何度も助けられて情けない限りだ。

『――勝手にしろ。どうなっても知らないからな』

セルジュがそう言うと空へと舞い上がり、イデアル本体へと帰還していった。

俺の方は、頭を打ったのか意識が薄れていく。

「ルクシオン、痛み止めか意識を失わない薬を頼む。もう限界だ。ないならアレを使え。このまま意識を手放したくない」

『体に負担がかかるので認めません。そのまま意識を失ってください』

「お前は本当に腹立たしい奴だよ」

すると、コックピット内のモニターに、振り返ったノエルの顔が見えた。

アロガンツの頭部に近付き額を寄せている。

『いままでありがとう。あの二人を大事にしてね』

集まってきた兵士たちに連れて行かれるノエルを見ていると、残った兵士たちがアロガンツを蹴り始めた。

『やっぱり王国の騎士はたいしたことがなかったな』

『セルジュ様がいれば共和国は最強だ。分かったか、このゴミ屑が!』

『おい、あっちに生ゴミがあるぞ。ゴミに相応しい飾り付けをしてやろうぜ』

やりたい放題の兵士たち。

一瞬――ユリウスたちをボコボコにしたときの光景が目の前に浮かんだ。

あいつらもこんな気持ちだったのかな、と。

「ルクシオン、屋敷のみんなは何としても守れ。これは命令――だ」

ルクシオンの返事がとても遠くから聞こえてくる気がした。

『あちらにはクレアーレがいます。何とかしているはずです』

ラウルト家の兵士や飛行船に囲まれたマリエの屋敷。

ガタガタと震えているマリエは――。

「こんな時に限って男手が足りない!」

――泣いていた。

自分であの五人を追い出したのも原因だが、リオンもこの場にいないのが心細かった。

隣でマリエを慰めるのはエリクだ。

「姉御、心配しないでください。もしもの時は、俺が姉御を守ります!」

「あんた廃嫡されて家を追い出されたじゃない。私、そういう男は信用しないの。無理しないで自分の身の安全を優先しなさい」

「――う、うっす」

エリクが自分の情けなさに肩を落とすと、アンジェがクレアーレを見た。

「屋敷にいる者たちはほとんどが非戦闘員だ。多少は戦えるが、勝てる見込みがない。リオンが来ればどうにでもなるだろうが、それまでしのげるかどうか」

そんなアンジェの考えに、クレアーレは賛同しなかった。

『駄目ね。この調子なら、マスターも後手に回っているわよ。それより、相手の要求ってアレよね?』

リビアが手紙を持っている。

兵士たちが投げ込んだ要求が書かれた紙だ。

そこには、苗木を差し出せとあった。

「差し出せば命の保証はするそうです。手荒なまねはしない、と。ただ、渡さないならこちらも相応の対処をすると書かれています」

アンジェが目を細める。

「不意打ちのような真似をする。貴族の誇りはないらしい」

『勝つための戦い方よね? 誇りとか私にはよく分からないわ』

「そうだな。勝つための戦い方だ。だが、それだけだな」

クレアーレが苗木を見つつ、

『なら、これをさっさと壁の外に投げちゃいましょうか』

「え!?」

マリエが驚いた声を上げた。