軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖樹の巫女ノエル

アルバイト先の飲食店。

店の準備が進む中、俺はノエルと話をしていた。

「マリエの件は触れないで欲しい?」

「そう。妹云々ってやつ。ほら、色々と事情があるから」

まさか、ノエルが俺とマリエとのやり取りを聞いて、兄妹だと思っていたとは――迂闊だった。

外国だからと気を抜きすぎていたな。

ノエルは俯き、

「そっか――色々と事情があるのね」

「う、うん。でも、暗い話じゃないよ!」

前世で兄妹でしたとか、言っても誰にも信じて貰えない。

信じる奴がいたら、俺の方が距離を置きたいくらいだ。

「分かった。黙っておくね」

「よろしく」

これでノエルから、マリエの件が漏れることはない。

安堵していると、ジャンが近付いてくる。

「は――リオンさん、それからノエルさん、準備が終わったら少し休憩しておくように、って店長が言っていましたよ」

店の中は俺たちだけだった。

「その店長は?」

「家に戻って娘さんを見てくるそうです」

「――またかよ」

少し余裕が出来れば、すぐに娘に会いにいってしまう。

親馬鹿というか、何というか――。

「ノエルさん、実はここなんですけど」

ジャンが仕事のことでノエルに話しかけていた。

「え、何?」

ノエルが顔を寄せ、二人は肩が触れあっていた。

そんな二人の様子を見ている俺は、小さく息を吐く。

あの二人、随分と仲が良い。

犬の名前の件もあり、二人は互いに意識しているのかもしれない。

「今の内に休憩しておくか」

今日も忙しくなりそうだ。

仕事が終わると、俺はノエルをマリエの屋敷に送り届けた。

屋敷に来ると、遠くからドアを開けマリエが俺を見ている。

「何だよ」

「恨むわよ。あに――リオン。あの二人が私にプレッシャーをかけてくるの。食事とか生きた心地がしないわ」

「自業自得だろ」

マリエがアンジェとリビアにしたことを考えれば、許されないのは仕方がない。

リビアは特に何をされた、とは思っていないだろう。

しかし、マリエは本来リビアが手にする全てを奪ったのだ。

マリエには負い目があるらしい。

そんな三人が一緒に生活していて、問題がないなどあり得ない。

「何とかしてよ!」

「大使館に言え。もしくは、二人のための屋敷を用意しろ」

「絶対無理!」

マリエに他の屋敷を用意するなど無理である。

ユリウス達が騒ぐので、マリエだけを追い出すわけにもいかない。

マリエと言い合いをしていると、ノエルが俺たちを見ていた。

マリエが小声になる。

「ねぇ、なんで少し悲しそうに見ているの? もしかして、私は同情されているの?」

「お前のどこに同情する余地があるんだよ。実は、前世の兄妹というのを聞かれてしまって、言い訳をしておいた」

マリエがギョッとしていた。

驚くのは分かる。

こいつも無警戒だからな。

「どうするのよ! アンジェリカたちに知られたら大変じゃない!」

前世云々の話を信じないばかりか、俺とマリエの間に何かあると勘ぐってしまうだろう。

こいつとどうにかなるなど、絶対にありえないというのに、だ。

二人して困っていると、ノエルが俺たちに言う。

「あ、あの! ――誰にも喋らないから。二人とも、本当は色々とあって大変なんだよね?」

俺もマリエもチラリと視線を交わし、

「そうなんだ。大変なんだ――色々と」

「そうなのよ。大変なのよ。色々と!」

二人揃ってごまかせたと思っていると、クレアーレが階段を転がって俺たちの前に現れた。

「何をしているんだ、お前?」

屈み込んで聞くと、クレアーレが俺にだけ聞き取れるような声で――。

『マスター注意して。二人がもうすぐ来るわ。というか、屋敷で面倒な話をしないで頂戴。みんなの気をそらすのも大変なのよ』

――こいつ、俺の見ていないところで頑張っているようだ。

マリエに目で合図を送ると、察したのか口を閉じていた。

ノエルが首をかしげると――。

「クレアーレはどこだ!」

「アーレちゃん、これはどういうことなの!」

「出てきなさい、丸いの!」

アンジェを筆頭に、リビア――続いてメイド長までもが出てきた。

クレアーレは空中に浮かぶと、俺の後ろに隠れるのだった。

『マスター、助けて!』

「え? いったい何を言って――」

階段を降りてきたアンジェは、顔を真っ赤にしていた。

リビアも同様だ。

涙目になっている。

「どうしたんだ、二人とも!」

慌てて何があったのかを聞けば、アンジェが手に握りしめた紙を突き出してきた。握りしめているので見ることが出来ない。

「え、これを見れば良いの?」

「だ、駄目だ! リオンは見るな」

「――ん?」

何に対して怒っているのかとリビアの方を見れば、スカートを気にしている様子だった。

「アーレちゃんが――アーレちゃんが!」

振り返ってクレアーレを見れば、

『てへ、バレちゃった』

などと可愛い音声を出しているのだが、こいつは一体何をしたのか?

メイド長が俺の前に出て、眼鏡を震える指で押し上げ位置を正していた。

「リオン様、これはもしや――リオン様のご命令でしょうか?」

「え?」

メイド長が俺につきだした紙には、カラープリントがされていた。

ただ、その内容が酷い。

どう見てもかなり低いアングルから、メイドたちの様子を見ているような写真だった。

とても際どい角度である。

「お前、これはどういうことだ?」

『ごめんなさい。マスターのために写真を用意していたら、見つかってしまったの』

ワナワナと震えているアンジェが俺を見ている。

「リオン、お前という男は!」

「ち、違う! 俺はこんな写真を頼んでいない!」

誤解を解こうとするが、アンジェの顔は真っ赤で興奮しているのがすぐに分かった。

「なら、こいつが勝手に用意したとでも言うつもりか? わ、私やリビアならともかく、私の世話をする者たちにも手を出すとはどういうつもりだ!」

これは完全に誤解されている。

「違うんだ! 俺はこんな命令はしていないんだ!」

しかし、ここでクレアーレが言うのだ。

『でも、私が前に送った写真は大事に持っているわよね』

「何を言って――あ!?」

思い出したのは、財布に入れている二人の写真だった。

下着姿の写真が入っている。

メイド長が素早い動きで俺の財布を奪うと、

「失礼いたします。――アンジェリカ様、写真を確認いたしました!」

財布に入れていたのでヨレヨレになっていた写真が二人の手に渡ってしまった。

リビアが震えながら俺に、

「リオンさん、メッ!」

――怒られてしまった。

「違うんだ。これはクレアーレが勝手にしたことなんだ」

肩を落とす俺を、アンジェは腕を組んでみていた。

「言い訳はそれだけか? まったく、お前という男は――」

そこで、

『あら? 私は一度もマスターの命令だなんて言っていないわよ』

「な、何?」

「え?」

アンジェとリビアがクレアーレの方を見る。

『だって、本来なら一年は離ればなれだったのよ。マスターだって寂しいでしょうし、自分を慰めるためには写真くらいあった方がいいわ。下手に色々と溜め込むと、本当に現地で女を作るかもしれないのよ。そこの貴女は分かっているのではなくて?』

メイド長がしどろもどろになる。

「そ、それは理解していますが――た、確かにリオン様も男性ですからね」

チラチラ俺を見ているが、俺はそんなに下半身に信用のない男だろうか?

クレアーレに文句を言ってやろうと口を開きかけると、

『マスターったら、二人の写真を受け取ったら大喜びしたのよ。単純で可愛いじゃない』

リビアが俯いて顔を赤らめている。

「そ、そう言われると――何とも言えないですね。リオンさん、もしかして私たちがいなくて寂しかったんですか?」

クレアーレが俺を見た。

そのレンズの青い一つ目が、何が言いたいのか察してしまった。

――お前、俺のためにこの状況を作ったのか!

「そうなんだ! 二人がいないから、せめて写真だけでも持っておきたかったんだ!」

ここは、猛烈に二人と会えなくて寂しかったことをアピールしておこう。

アンジェが先程とは違い、恥ずかしそうにしていた。

「それは仕方がないな。だが、写真が欲しいなら先に言ってくれ。こちらでもっとマシな写真を用意したかった」

流石に下着姿は駄目らしい。

「は、反省しています」

ただ、ここでメイド長が気付く。

「お待ちください。それでは、我々の写真はどういう意味でしょうか? お二人だけなら理解できますが、我々の写真もありましたよね?」

『あ、それはついでよ。マスターが喜ぶかな、って。ほら、男は制服とか好きだから、メイド服に興奮すると思ったの』

クレアーレの言い訳は酷かった。

マリエが俺に冷たい目を向けている。

「最低ね。ま、待って。そう言えば、こいつ日頃から転がっていたわ! もしかして、私も――」

『貴女はマスターのストライクゾーンに入っていないの。可哀想だけど対象外よ』

マリエが頬を引きつらせながら「こいつムカつく」などと言っていた。

俺もマリエの写真はいらない。

ノエルの方は、色つきの写真を見て「王国って進んでいるのね」などと言っていた。

そうして一段落すると、アンジェがクレアーレを片手で掴んだ。

「さて、写真の件については今後話すとして、お前とはゆっくり話をするべきだな――なぁ、クレアーレ」

リビアもプンプンという感じで怒っている。

「アーレちゃん、今日という今日は許しませんよ」

『え!? 何でよ!』

俺もかばえないな。クレアーレは酷すぎる。盗撮とか駄目に決まっているだろ。

「自業自得だ」

『二人はもっとマスターと話をするべきよ! 私にだって仕事があるのよ!』

メイド長がアンジェからクレアーレを受け取ると、両手でがっちり掴んで逃がさないようにしていた。

「余罪がないか徹底的に調べ上げましょう」

『マスタ~、助けて』

「クレアーレ、お前の 犠牲(ぎせい) は忘れないぞ」

『酷い。いつか復讐してやるんだから!』

「お、反抗期か。三人とも、きっちり絞り上げてね」

サムズアップをして見送ると、メイド長が俺に振り返った。

「リオン様も後でお話をしましょう。それはもう、きっちりと」

「――はい」

どうやら怒られることに変わりはないらしい。

三人がクレアーレを連れて去って行く。

クレアーレのおかげで良い感じにまとまった。

額の冷や汗を拭うと、ノエルが少し寂しそうに俺を見ていた。

「二人と仲が良いんだね」

「まぁ、婚約者だからね」

二度目の人生だが、俺は二人と出会えたのは幸運だと思っている。

「そっか」

ノエルがそう言うと、俺に笑顔を見せるのだった。

マリエは何か言いたそうにして、そして俺から顔をそらして何も言わなかった。

共和国の某所。

そこにはイデアルの姿があった。

狭い取調室には、イデアルの他に何人かの兵士と――女性の姿がある。

その女性は元王国貴族――の関係者だった。

「酷い話だと思いませんか? あの男は、私たちから地位も財産も奪って今の地位を得たのです。私たちが一体何をしたというのか!」

女性は元“淑女の森”のメンバーで、四十代の中年女性だった。

着ている服はボロボロで、以前は肥え太っていたが今はいくらか痩せている。

むしろ今の方が健康そうに見える。

『なるほど、それは何とも酷い話ですね』

イデアルは女性の話を頷くように一つ目を動かし聞いていた。

「本当に外道のような、いえ――外道そのもののような男です。あの憎きリオンのせいで、私たち家族は家から追い出されて共和国に逃げ延びました。専属使用人にも捨てられ、家族にも辛い生活をさせています。こんなことが許されますか!」

元は豪華な屋敷で贅沢な暮らしをしていた女性だ。

共和国に逃げ延び、色々な物を売り払いどうにか生活しているような状況だった。

『貴女のお気持ちはよく理解できます。リオンについて情報を提供してくれるのなら、もっと報酬をお支払いましょう。同じ境遇の方たちがいれば、こちらに紹介して欲しいですね。是非とも王国の状況をお聞きしたい』

「もちろんです! 今の王宮はどうかしています。あのような男を取り立てて私たちを追い出すなど、正気ではありません。あ、そう言えば――」

女性の話を聞いている兵士たちは、何とも微妙な表情をしていた。

だが、イデアルは違う。

『素晴らしい情報です』

言葉では褒めていても、内心では――。

(個人的な主観が強すぎますね。ですが、マスターを納得させる資料程度にはなるでしょう。リオン・フォウ・バルトファルト――貴方には外道になってもらいます)

「聞いているの! せめて専属使用人を用意できるお金が欲しいの。あと、住まいよ。今の馬小屋のような家では満足に休むことも出来ないわ。すぐに用意して!」

『は、はい。考えておきましょう』

女性の勢いに、イデアルはマスターには会わせられないと判断するのだった。