軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

姉御

リオンが修羅場に遭遇していた頃。

マリエ――前世のリオンの妹にして、逆ハーレムを完成させた悪女は困り果てていた。

屋敷の玄関。

そこには、土下座をしているエリクの姿があった。

赤髪の美青年は、マリエと同じ学生だ。

同級生で、ミディアムの髪がツンツンしている赤毛をしている。

ノエルに異様に執着し、リオンの屋敷を襲撃して廃嫡された男でもある。

そんな男子を前にして、マリエは引きつった顔をしていた。

(これ、どういうことよぉぉぉ!)

マリエもマリエで、修羅場だった。

エリク――【エリク・レタ・バリエル】は声を張り上げていた。

「貴女に惚れました。俺を――貴女の側に置いてください!」

そんなことを言うエリクだが、元は大貴族のお坊ちゃまだ。

アルゼル共和国を代表する七大貴族――今は六大貴族の一角であるバリエル家の元跡取り息子が、マリエに土下座をして側に置いて欲しいと頼み込んでいる。

以前はノエルに執着していたエリクが、今はマリエに執着していた。

マリエはエリクの熱意に引いている。

(こいつがなんで私の方に来るのよ! 私はイベントなんて起こしていないわ。そもそも、あんたの相手は私じゃないのよ!)

あの乙女ゲーの攻略対象であるエリクは、本来なら二作目の主人公であるノエルと結ばれるべき存在だ。

結ばれなければ世界が危ない。

マリエに惚れてしまったエリクを囲んでいるのは、五色の髪色をした――ユリウスたちだった。

「少し前まで違う女を愛していると言っておいて、マリエに乗り換えるとはいい度胸だ」

五人が五人とも怒っている。

「教育が必要ですね」

静かに怒っているジルク。

「お前に怪我させられたことは忘れていないからな」

エリクと戦い怪我をしたグレッグは、指を鳴らして威嚇している。

「覚悟は出来ているんだろうな? 私たちのマリエに近付くなど――ただでは帰さないぞ」

同じく、怪我をさせられたクリスは木刀を肩に担いでいた。

「僕たちが君たちをどう思っているか分かっているのかな? 散々やらかしておいて、虫が良すぎるよね」

エリクにではないが、同じ共和国の貴族に大怪我をさせられたブラッドも本気で怒っていた。

そんな五人を前にして、エリクは太々しい態度を見せている。

「お前らには関係ない。俺はマリエさん――いや、姉御の生き様に惚れたんだ。姉御、俺を側に置いてください!」

まさかの姉御呼び。

マリエは頭を抱えたくなった。

(何なのよ、この状況はぁぁぁ! 助けて、おにいちゃぁぁぁん!)

イケメンを脅したら、舎弟にしてくれとやって来た。

マリエは心の中でリオンに助けを求める。

その後ろでは、カイルが肩を落としていた。

「また面倒を見ないといけない人が増えますね」

カーラも同意している。

「五人だけでも大変なのに、また人が増えるなんて――」

ホルファート王国の使節団と一緒にやって来た使用人もいるが、面倒ごとが増えることに変わりはない。

マリエはエリクに言う。

「家に帰りなさい」

エリクは答えるのだが――。

「もう、帰る家もありません」

俯き、実家を追い出されるように出てきたとマリエに説明する。

ピエールの一件から慌ただしくなったホルファート王国と、アルゼル共和国の関係。

ようやく交渉がまとまりかけたところで、エリクがリオンを襲撃してしまい面倒なことになってしまった。

エリクは廃嫡。

バリエル家に戻っても、明るい未来はない。

それに気が付いてしまったマリエは、内心で――。

(捨てられた子犬みたいな顔をするなぁぁぁ! 私が悪いみたいじゃない。くそっ! ここで追い出しても気分が悪いし、兄貴に押しつけようにも――)

――今はアンジェたちがリオンの側にいる。

アンジェから婚約者であるユリウスを奪った過去もあり、マリエはリオンに助けを求められない。

アンジェと出会うのが怖かった。

ユリウスがマリエに助言する。

「大使館を通して共和国に抗議をしよう。マリエ、お前が気にすることじゃない」

正しい対応だ。

だが、マリエは駄目な五人組の面倒を見るくらいには、情もある女性だった。

「――お客様じゃないのよ。住み込みで働くなら認めてあげるわ」

「マリエ!」

「いいのよ。その代わり、泣き言なんか口にしたら叩き出すからね」

ユリウスがマリエを止めようとするが、エリクは笑顔になった。

「はい、姉御! 俺、一生懸命頑張ります!」

何もかも失ってしまったエリクは、こうしてマリエの所で世話になるのだった。

リオンの家。

リビアはアンジェの言葉に混乱していた。

「アンジェ、リオンさんにノエルさんと結婚しろ、なんて――本気ですか?」

リオンも放心状態だ。

まさか、結婚しろと言われると思わなかったのだろう。

だが、ルクシオンだけは納得している。

『――聖樹が与える利益を優先ですか。正しい判断ですね』

「皮肉か? だが、それだけの価値はある」

アルゼル共和国を支えてきた聖樹。

その力が手に入るのなら、アンジェはノエルを受け入れると言った。

リビアが止める。

「待ってください。お互いの気持ちはどうするんですか? それに、アンジェはそれでいいんですか!?」

自分の婚約者に他の女を近付ける。

どう考えても異常だった。

ノエルも驚いていた。

「それっておかしいわよ。あんたたち、婚約しているのよね?」

聖樹の苗木が入ったケースを抱きしめ、オロオロとしている。

「将来的なエネルギー問題が解決できるのなら安いものだ」

リビアはすぐに反論する。

「け、けど、すぐには聖樹のようなことはしてくれない、ってルク君が言っていましたよ」

聖樹の苗木。

まだ苗木であるため、今の聖樹と同じ事は出来ない。

魔石を大量に用意することも、宝玉を生み出すことも――加護すらも、聖樹と同等レベルの恩恵を与えられない。

ルクシオンが補足する。

『現状の聖樹と同じレベルで恩恵を受けられるようになるには、最短でも三百年はかかると判断します』

それを聞いても、アンジェは動じなかった。

「時間はかかるだろうな。だが、将来のホルファート王国――いや、私たちの子孫の宝になる。未来への財産だ。是が非でも欲しい」

リビアは両手を握りしめ俯いてしまう。

「そんなの――間違っています」

リビアの言葉にアンジェは同意するが、少しだけ悲しそうだった。

「――私もそう思うよ」

夜。

アンジェに呼び出された俺は、二人きりで話をすることになった。

今はルクシオンも側にいない。

あいつは、クレアーレと一緒に何か仕事をするらしい。

部屋の中で俺は、アンジェに昼間のことについて尋ねた。

「――結婚しろって本気?」

アンジェは少し困ったように笑い、視線を俺から外していた。

「怒ったか? だが、それだけ魅力的な話だ。聞けば巫女の一族としてレスピナス家は存在していた。ならば、巫女という役割に適性がある血筋ということになる。聖樹の苗木だけでは片手落ちだ」

ルクシオンの話を聞いて、将来のためになると判断した。

そのためには、ノエルの力や血筋が必要と判断したのだろう。

聖樹が魅力的なのは分かる。

実際、アルゼル共和国は聖樹の力で繁栄してきた。

ホルファート王国だって、手に入るなら聖樹が欲しい。

分かっているが――。

「リオン、私やお前は貴族だ。国のため、領地のため、領民のため――私たちには将来への責任がある。だからこそ貴族だ」

将来のために我慢しろと言っている。

婚約者にこんなことを言われるとは思わなかった。

俺、実はあまり好かれていないのか?

不安になっていると、アンジェが視線を下げた。

「ノエルが嫌いか?」

「嫌いじゃないけど、結婚は違うと思う」

「婚姻はもっとも分かりやすい結びつきだ。それに、他の家や男に渡すことは出来ない。そもそも、お前のもとでなければ苗木は枯れてしまうのだろう?」

ルクシオンが管理してどうにか、という感じだ。

余所に放り出して育つかは分からない。

育ちそうな気もするが、管理するとなると別問題だ。

あの苗木、また勝手に面倒な人間を守護者に選ぶかもしれない。

持ち帰り、ホルファート王国の誰かに苗木とノエルを奪われでもしたら――また面倒なことになる。

だが、それでも聖樹は欲しい。

――アンジェの考えも間違ってはいない。

個人的な考えを無視すれば、だが。

「俺には三人と結婚なんて無理だよ」

俺が泣き言を口にすると、アンジェは俺に笑顔を向けてくれる。

「分かっている。ノエルとリビアを気にかけてやれ。私は――二人のついででいい。無理なら婚約破棄をしてもいいぞ」

「え?」

何を言っているのか?

「私が提案したんだ。責任は私にある。それに、女三人の相手をするのは大変だ。お前の場合は事情もあるからな。だから、負担なら私を捨てて――」

そこまで言われて俺は、

「断る! No! いいえ! 嫌です!」

即答すると、アンジェが少し驚いていた。

「リオン、お前――」

アンジェは元婚約者であるユリウスに婚約破棄されている。

その後の 憔悴(しょうすい) した姿を見ている俺に、婚約破棄は無理だった。

俺はアンジェに謝罪をする。

「絶対にノゥ! 婚約破棄なんてしません!」

わがままを言ってみたら、アンジェがクスクスと笑っていた。

「お前は本当に――いや、私もお前も馬鹿だな」

婚約者二人に困っていたら、いきなりもう一人と結婚する流れになってしまった。

俺の第二の人生、いったいどうなっているのだろう?

「そんなに聖樹の苗木が欲しいの?」

「知ればほとんどの者が欲しがるだろうさ。どんな手を使っても、な。アルゼル共和国も諦めたわけではないはずだ」

聖樹の苗木の巫女。

知られれば、そこからノエルの出自も知られるかもしれない。

次から次に厄介なことが舞い込んでくる。

アンジェは俺に提案する。

「リオン、お前は私たちと一緒に帰るぞ。聖樹の苗木とノエルは、絶対に連れて帰る。共和国は対外戦に弱いからな。逃げてしまえば我々の勝ちだ」

将来のため――アンジェは、そのために自分を犠牲にしようとした。

それだけの価値があると判断したのは分かる。

だが――あの苗木にそれだけの価値があるのか?

あいつポンコツ臭がするんだけど?

しかし、だ。

「いや、まだやることがある。俺だけは残るよ」

「やること? ――次は何をするつもりだ?」

アンジェの疑った視線に、実は世界の危機を止めるために頑張っています! とは言えなかった。

俺が言うと嘘くさすぎてビックリだ。

冗談にしか聞こえない。

困っていると、部屋にノック音がした。

返事をすると入ってきたのはリビアだ。

寝間着で枕を持っている。

「どうした、リビア?」

アンジェが尋ねると、

「――今日は三人で一緒に寝ませんか?」

ラッキースケベを超えた何か。

それ以上の幸運が俺に訪れたと思った。

よく考えてみれば、二人は俺の婚約者だ。

手を出しちゃってもいいよね!

アンジェが笑顔で頷く。

「私は構わない。リオン、お前はどうする?」

「いつでも準備は出来ている!」

意気込む俺にアンジェが若干引いていた。

「そ、そうか。それは良かった」

神様、この幸運をありがとう!

神よ――どうして俺にこんなにも辛い試練を与えるのですか?

ベッドで寝ている俺たち三人。

俺を中心に両隣にリビアとアンジェが眠っている。

その寝顔は実に安らかで――信頼されている気がする。

ただ、問題はそこではない。

そんな二人に手を出すのか?

出すに決まっているだろ!

この二人に手を出さないで、一体誰に手を出すんだ?

しかし、だ。

ここでよく考えて欲しい。

「俺は一体――どちらから手を出せばいい?」

俺の体は一つしかないのだ。

二人を同時に相手に出来るだけの技量がない。

というか、物理的に不可能だ。

小さな問題に思われるかもしれないが、どちらから手を出したかで将来的に揉めることにならないか?

そして俺の気持ちだ。

――どちらにも手を出したい。

だが、どちらから手を出せば良いのか分からない。

社会的な立場やら色々と考えるとアンジェだが、それだけでリビアを後回しにしていいものだろうか?

そんなことばかり考えて、まったく眠れない。

すると、姿を見せる二つの球体。

赤い瞳のルクシオンと、青い瞳のクレアーレだった。

『ヘタレですね』

『あら、でもどちらから手を出すかは重要よ。もしかしたら、一生根に持たれるかもしれないわ。女って嫉妬深いのよ』

「お前らなんで寝室にいるんだ?」

尋ねると、

『マスターが失敗しないか心配でした』

『失敗したときのアドバイスは任せて』

「覗いてんじゃねーよ!」

こいつら、俺が失敗することを前提に動くとか――お前ら、俺のことを本当はマスターとか思ってないだろ!