軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【幕間】ルクシオンレポートその4

ルクシオンはリオンが助けを求めている声を聞いた。

だが、すぐにクレアーレに視線を戻して情報交換を続ける。

場所はルクシオン本体……宇宙船の中だった。

クレアーレが笑っていた。

『あら? 助けに行かないの? 誤解を解かないと大変よ』

『どうせすぐに誤解は解けますよ。それなら、マスターには人生の修羅場を経験して貰いましょう。生物には、ある程度の刺激が必要ですからね』

出来るだけ人生に刺激を求めない傾向にあるリオンにとって、この程度の修羅場は経験しておくべきと判断するルクシオンだった。

『それにしても、どうして失敗したのかしらね? 貴方たち、本気でやっているの? 実は遊んでいないかと疑っているのだけど?』

クレアーレが、世界の危機を前にグダグダやっているルクシオンたちに呆れている。

『いっそ聖樹を焼き払えば?』

『マスターに禁止されています。それに、聖樹がなくなれば、共和国はすぐに立ち行かなくなる国ですからね。共和国だけではなく、その周辺国にも影響が出てしまいます』

『苗木を植えてハッピーエンドでしょうに』

『苗木では、聖樹と同等のエネルギー供給が出来ません』

『……それ、どのみち共和国は詰むってことじゃないの?』

『マスターは自分の責任になるのが嫌なだけです。聖樹をそのままに出来るのなら、その方がいいと考えているようですよ』

アルゼル共和国が、魔石を売らなくなれば困る国は多い。

ホルファート王国も同じだ。

リオンは何も優しさだけで、聖樹を焼き払わなかったのではない。

自身が聖樹を焼き払った場合、アルゼル共和国に待っている悲惨な現実を放置できる自信がなかった。

ルクシオンという力を持っているために、下手に助けられる力があるために悩む。

面倒だから焼き払わないのだ。

何より、聖樹から与えられる無限のエネルギーにより、アルゼルの民は支えられている。

それを失えば困るのは民だ。

六大貴族も、今の支配体制を維持できない。

そして、今までの態度から六大貴族は周辺国の恨みを買いすぎている。

アルゼルの大陸が血で染まってしまう。

王国も準備さえ整えば、嬉々として攻め込む可能性が高かった。

問題が多すぎるために、リオンは聖樹を焼き払いたくないのだ。

『そのマスターは、苗木の守護者に選ばれたのよね?』

『聖樹の守護者ではないのがポイントですね。六大貴族とは別の管轄になるため、互いに干渉できません。ただし、上位者としても振る舞えません。そこまでの性能を求めていませんけどね。マスターには私がいますから』

クレアーレは次の質問をする。

『それで? 聖樹の正体は分かったの? わざわざ、ピエールという男に従ったのは、色々と調べるためでしょう?』

忌々しい。

これがその気持ちなのかと、ルクシオンは思いながら肯定する。

『おかげで随分と詳しく調べられましたよ。マリエもレリアも、ゲームとしての断片的な知識しか持っていませんでしたからね。レリアは現地人ですから、マリエよりも多少はマシな情報を持っていましたが、それだけです』

ゲームとして知っている。

だが、その裏に何があるのかを二人は知らなかった。

上位者が優遇される聖樹の加護というシステム。

巫女の紋章を持つ一族が、どうしてフェーヴェル家やラウルト家に敗北したのか?

ゲームの物語の始まりからして不思議だった。

だが、それをマリエもレリアも「そんなものでしょ」みたいな態度で受け入れてしまっている。

ピエールがやったように、騙し討ちか何かをしたのではないか、と。

『結果は? 大体予想はしているのだけどね』

クレアーレの予想にルクシオンは興味を持った。

『先にそちらの話を聞きましょう』

『私たちに拒否反応が出ない。そして、自然発生的にあの植物が誕生したとは思えない。誰かが作ったのなら、それは旧人類ね。アルゼル共和国には、私が管理していたような研究所があったと思うの』

ルクシオンが頷く。

『私も同じことを予想しています。隠れ潜んでいた旧人類が、聖樹を作ったと考えています。もしくは、途中で聖樹が変化した、と』

作りたかったのではなく、出来てしまった可能性もある。

ルクシオンの考えは、

『アレにとって――聖樹にとっては、新人類は自分を守るための存在です。エネルギーを分け与えているのも、宝玉を与えているのも世話をさせる対価。加護もその中の一つなのでしょう。アレには契約やら人間的な考えが元から存在していません』

植物に人の考えを理解しろというのは無理な話だ。

その繋ぎ役が、巫女だったのではないかとルクシオンは考えている。

クレアーレも同意見だった。

『自分を守る強い存在を守護者に、そしてコミュニケーションを取るために巫女を用意したのね。最上位者がいない聖樹はどう思っているのかしら?』

『既に聖樹は大きく育っていますからね。守護者、巫女が不在でも六大貴族が自身を守っています。今では必要性を感じられなかったので放置したのでしょう。そう、我々が来る前までは――』

今回、リオンやルクシオンがギリギリまで聖樹に攻め込んでいる。

聖樹も何かしら反応を示すかも知れない。

ただ……。

『ピエールを調べている時に気が付きました。六大貴族は、巫女がいないために聖樹の力が変質していると気が付いています。聖樹への誓いを利用したピエールが証拠です。巫女がいなくなったことで、聖樹は人から見れば暴走しているのかも知れません』

ピエールの行動は、アルゼルでも異常だった。

一方的にユリウスたちに理不尽な勝負を挑み、そして持ち主でもない相手からアインホルンを奪った。

それを聖樹に認めさせたなど、理不尽すぎる。

何でもありになってしまう。

困るのは外国の人間だけではない。

六大貴族も同じだ。互いに身内を疑うしかない。

『……六大貴族が聖樹の苗木を欲した理由ですが、マスターのように備えにしたかったのでしょう』

『彼らも苗木があれば、聖樹が手出しをしないと知っていたのね』

ルクシオンの出した結論は、

『七大貴族が六大貴族に減ったために、グダグダしているとマリエは言っていました。ですが、実際には違います。巫女の一族が敗北し、聖樹の力は変質……六大貴族たちにとって、怖いのは外敵よりも身内でした。互いに互いを警戒しているのです。なので、身内への対策に聖樹の苗木がどうしても欲しかったのでしょう』

クレアーレが困った声を出す。

『もう、マリエちゃんたちはゲーム的に“そういうものでしょ”みたいな態度で困るわね。もっと理由を考えて欲しいわ』

ピエールがしでかしてしまった今回の一件。

実はアルゼル共和国の内情がよく出ている一件でもあった。

そして、ルクシオンは気になることがあった。

『……私は巫女の一族が敗北した理由を突き止められていません。そして、推測になりますが、聖樹の変質は巫女の一族が滅ぶ前に始まっていたように考えられます』

クレアーレも同意する。

『その方が自然よね。でも、そうなると巫女の一族に一体何が起きたのかしらね?』

結論は出ない。

だが、すぐに分かることだと、ルクシオンはリオンたちの映像を見ながら思っていた。

『どうして来ないんだ、ルクシオン!』

『リオン、さっさと説明しろ! 後ろにいる女と、部屋にあるベビーベッドは何のために用意した? まさか、子供が……』

『ち、違うんだ! それはノエルの――犬の介護のために! ほら、腰を曲げると痛いから、こうした道具が必要だったんだ!』

『リオンさん、私――すごく怒っていますからね! めっ! ですよ、めっ!』

『違うの。これは違うの! まずは落ち着こう! 証人だっているんだよ。俺は無実だよ! 世話をしたノエルは犬で――』

映像の中、リオンの背中に姉貴さん――ノエルが隠れながら、

『あ、あたし! リオンさんにお世話になって。助けて貰ったんです!』

『姉貴さぁぁぁん! 今は駄目! お願いだから許して!』

『いえ、言わせてください。貴方たち、いきなり来て何なんですか? リオンさんは、本当に凄く優しくて頼もしい人です。責められるような人じゃありません!』

アンジェとリビアの視線が、更に険しくなってくる。

『……随分と親しい様子だな。世話をしていたのは事実らしい』

『ノエルちゃんの話は嘘だったんですね。ずっと心配していたのに……』

リオンが叫んでいた。

『ルクシオォォォン! お前、わざとか! わざと来ないのか! 早くしないと取り返しがつかないことに――』

リオンが困っている姿を見ているルクシオンに、クレアーレは戸惑っていた。

『……早く助けてあげなさいよ』

『まだ大丈夫では? それに事情を説明したところで、あの二人の怒りは収まりませんよ。しばらく発散させて、疲れた頃に説得するのが効果的です。それにしても――これでは振り出しに戻るよりも酷い状況になってしまいましたね。マスターらしいとも言えますが』

……そもそも、事実を話したところで二人がリオンを許すだろうか? 女性と暮らしていたのは紛う事なき事実である。

どうせ怒るなら、怒らせておけばいいというのがルクシオンだ。

さて、アルゼル共和国の様子を見に来ただけのはずなのに、リオンは騒動の中心へと知らずに飛び込んでしまっていた。

今は修羅場の真っ最中。

『これからが楽しみですね』

そんなことを言うルクシオンに、クレアーレが呆れていた。