軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪手

応接間でマリエが騒いでいた。

「すぐにあの男から引き離して!」

レリアが困惑している。

「何でよ! エリクといい感じにするまで大変だったのに! 少し問題はあるけど、ゲーム通りの設定じゃない」

男のヤンデレとか誰得だよ。あ、この世界はあの乙女ゲーの世界だった。

野郎にとことん優しくないよね。

少しヤンデレの気質があるリビアに会いたい。

ルクシオンが空中に投影している映像を見ると、エリクの奴は彼女に首輪を付けて鎖にまで繋いでいる。

ノエルを思い出してしまった。

いや、別にこの光景云々じゃなくてね。

まさか主人公を犬扱いするとは思っていなかったし。

というか、共和国の野郎共って問題児ばかりだね。

安牌君、マジで安牌だったよ。

「てめぇの目は節穴か! あの野郎、あんたの姉貴に暴力を振るっていたのよ!」

「で、でも、ちゃんと後でフォローしていたし。アレがエリクだし、ちょっと病んで束縛が強いところが魅力で――」

「それ、DV野郎の典型じゃないの! あと、リアルで束縛が強いとか笑えないのよ!」

……あ、思い出した。

そう言えば、マリエは同じような男に騙されて酷い目に遭ったんだったか? こいつがかなり警戒しているのは、前世の経験もあるからだろう。

レリアが現実問題を口にする。

「無理よ。エリクは六大貴族の出身よ。ピエールと違ってバリエル家の跡取りだから、姉貴を取り返すために無理をしたら何をされるか分からないわ」

マリエが俺に泣きついてくる。

「兄貴、何とかして! アレは駄目よ。ゲームで失敗したとき、エリクがヤンデレで主人公を閉じ込める奴があったの! あいつ、下手をすると監禁バッドエンドをやらかす奴なのよ!」

「バッドエンド!? 嘘だろ!」

俺は当然驚くとして、何故かレリアも驚いていた。

「え? そんなの知らないわよ」

マリエがレリアとまた喧嘩を始める。

「あんた全クリしたんじゃないの! 複数の男に手を出したら、エリクが怒るイベントがあったでしょう!」

「鬱イベントとか見ないから知らないわよ! そもそも、私は純愛の方が好きだから、複数を攻略すること何てなかったもの!」

「あんたの姉貴だろうが! 少しは心配しなさいよ!」

「世界の危機がかかっているのよ! エリクをまともにするとか、そっちの方がよくない!」

「よくないわ、ボケェ! 簡単に治るなら苦労しないのよ!」

ルクシオンが俺に進言してくる。

『マリエとレリアの最低な発言は置いておくとして、現状で彼女を助けることが可能なのはマスターだけですよ』

何でこうなった? 大丈夫だと思ったらグダグダじゃないか。

「出来るのか?」

『宝玉の返還を交渉材料にしましょう。ドレイユ家のフェルナンに依頼し、バリエル家の当主と交渉すればいいのです。実際、彼女は精神的に危険な状況です。エリクという男も精神的に不安定ですよ』

俺は手に入れた宝玉を失うが、それも仕方がないと諦めることにした。

「フェルナンさんに連絡をするか」

外堀から埋めて確保するとしよう。

バリエル家の屋敷。

家臣たちに囲まれたエリクは、父【ベランジュ】からの手紙を見て肩を震わせていた。

「どういうことだ」

家臣たちがエリクに説明する。

「エリク様、これはバリエル家の未来のために必要な取引です」

「取引!? 人を取引に利用するのか!」

家臣の一人が淡々と告げる。

「……ピエールの件をお忘れですか? 共和国は、たった一隻の飛行船に聖樹神殿まで攻め込まれたのです。王国の伯爵は、たった一人の娘で当家所有だった宝玉全てを返還する用意があると言ってくれたのです。ベランジュ様は、拒否は許さぬと仰せでした」

エリクの表情が歪む。

「父上には俺から説明する。王国ごときに舐められて悔しくないのか!」

エリクの認識では、まだ王国は格下の扱いだった。

普段はそんなことを思わないが、好きな相手を奪われては黙っていられない。

家臣たちがエリクの顔を見ない。

「お前ら、それでも共和国の貴族か!」

「エリク様、公式ではフェーヴェル家の暴走となっておりますが、我々は王国の飛行船――たった一隻に敗北したのです」

エリクがその場に座り込み、両手で顔を覆い叫ぶ。

「うあぁぁぁぁあわあぁぁぁぁわああぁぁぁあ!!」

共和国が用意した新しい俺の屋敷。

マリエたちが使っている物よりも大きかった。

慌ただしい中、引っ越しを急かされたのは共和国の誠意らしい。

俺のためにわざわざ豪華な屋敷を用意してくれたそうだ。

でも、国同士の交渉の手は抜かないけどね!

「今日来る使節団の代表にこいつを売りつけて、交渉を王国有利に進めてやるぜ。俺を怒らせたことを後悔しろ」

ルクシオンが共和国の内情を調べた報告書がある。

これがあれば交渉は有利に進むし、六大貴族が何を考えているのかも書かれている。

王国の交渉役は喉から手が出るほどに欲しいはずだ。

『マスター、それを交渉役に売るのですか?』

「当たり前だ。俺は別に王国に忠誠心なんかないからな。これを機会に王国で失った財産をガッツリ取り戻してやる。ローランドの糞野郎の胃に穴を開けてやるんだ!」

きっと今頃は王宮も大変だろう。

戦後の復興やら、その他諸々と大忙しだ。

そこに外交問題をぶち込んで、ローランドが苦労する姿をクレアーレに録画させてやる。後で鑑賞しながら、俺はゆっくりとお茶を楽しむとしよう。

『それにしても、保護対象をバリエル家は簡単に手放しましたね。彼女、巫女なのに気が付いていないのでしょうか?』

「気付いていないらしいな。レリアの話だと、六代貴族的には今更出てきて貰っても困るとかなんかとか言っていたけどね」

『議長の一族。巫女を輩出するレスピナス家は邪魔だったのでしょうね』

俺が「酷い国だよね~」と同意したところで、屋敷に予定通り交渉役が訪れた。

俺は報告書を一体いくらの値で売ろうか考えて玄関に向かうと――。

唖然として報告書を落としそうになる。

「……し、師匠」

夏にスーツを着こなした紳士がそこにいた。

太陽よりも眩しい。

「ミスタリオン、数ヶ月ぶりですね。少し背が伸びたのでは?」

慌てて俺は師匠に挨拶をする。

「師匠! 来るならちゃんと言ってください。港まで迎えに行きましたよ!」

「心配いりません。外国を自分の目で見るのも楽しいものです。船旅で少し大地の上を歩きたかったのもありましてね」

俺は慌ててルクシオンに命令する。

「ルクシオン、お茶の用意だ。新鮮な水菓子があっただろ! アレも持って来い!」

「ミスタリオンのお茶も久しぶりですね」

俺はもう、大慌てでお茶の用意をした。

師匠にお茶を振る舞った。

緊張して喉がカラカラになってしまう。

報告書を渡したので、師匠は内容を確認していた。もちろん売っていないよ。師匠の足下を見て売るとかあり得ないし。

「どうして師匠が交渉役に? 外交官がいるのでは?」

師匠は笑顔だった。

「アルゼルばかりではなく、他の国に飛び回っていましてね。人手不足やら、色々ですよ」

ルクシオンの補足が入る。

『貴族の大半を処分しましたからね。今回の仕事は、完全に許容量を超えていたので、他から人を引っ張ったのでしょう』

師匠が報告書を読み終わる。

「これなら何とかなりそうですね。王国にとっても良い結果が期待できそうです」

それは良かった。

俺も報告書を準備した甲斐があったというものだ。

「それにしても、ミスタリオンは派手に暴れましたね。出世をしたくないのでは?」

今回は功績として考えられないだろう。

色々と王国に利益はもたらしたが、ユリウスたちが聖樹に呪われるという問題行動を起こした。

本人たちの責任もあるが、監視役でもある俺の責任もある。

まぁ、実際にあいつらが呪われるところを見ていたからね。ルクシオンとノエルの世話をしながら、ないわ~って言いながら見ていた。

ピエールが何かを企んでいたのも気になったし、とにかく下手に動かずじっくり仕返しをすることに決めたのはその時だ。

「今回は功績になりませんからね。それに、もう出世も頭打ちです。これ以上の出世はありませんよ」

伯爵で三位下――爵位、階位共に俺の出自で頭打ちだ。これより上は、王族との関係がないと無理だ。辺境伯という爵位もあるが、アレはホルファートでは少し特殊だ。

伯爵の地位にあって、国境を守る重要な家が辺境伯という爵位を与えられる。

階位は、俺より上の三位上となると、王族関係者ばかり。

公爵とか侯爵が就く地位である。

つまり、俺にこれ以上の出世はない。

むしろ、ローランドならこれを機会に俺を降格させるかも知れない。そんな淡い期待を抱いての行動だ。

「確かに短期間で上り詰めましたからね。これ以上はさすがに出世も難しいでしょう。ただ、一つだけ……いえ、これはあり得ませんね」

師匠が少し考え、懐中時計で時間を確認すると「そろそろ行かなければなりません」と言って立ち上がった。

「ミスタリオン、腕を上げましたね」

俺はその言葉で全てが報われた気がする。

師匠に認めて貰えて幸せだ。

聖樹神殿。

数日間にも及ぶ交渉の末に、六大貴族たちは疲れた顔をしていた。

ランベールはそれでも笑顔だ。

「アルベルク殿、王国の使者を相手に随分と譲歩を引き出せましたね。さすがですぞ」

褒められたアルベルクは笑顔だった。

「随分と苦労させられましたがね」

だが、内心では笑えなかった。

(あの王国の使者、こちらが用意できる物を全て把握していたな。それを知って、最後は譲る形で終わらせに来た)

最終的に、師匠が譲る形で交渉は終了した。

アルベルクとしても、最後にしてやった感じで終われたのは幸運だった。

六大貴族たちの間で面子も立つ。

だが、ランベールが笑顔なのは腹立たしい。

(お前の馬鹿息子が余計なことをしなければ!)

すると、フェルナンとベランジュの会話が聞こえてくる。

「例の物は予定通りに?」

「あぁ、おかげで助かったよ」

「伯爵が気にかけていた女子も?」

「いい機会だからな。息子の遊びも目に余っていたところだ」

アルベルクが二人の会話を聞いて苦々しく思っていた。

(フェルナンとベランジュのところには宝玉を返したか。どうにかして取り返したいところではあるな)

エネルギー問題のない共和国で、宝玉とは活躍の場が少なく見える。

だが、大陸の外に出た場合、聖樹からエネルギーを貰えない飛行船は性能が大きく落ちてしまう。

それを補うためには、宝玉が必要だった。

ホルファートが油断できないとなった今、宝玉を渡したくないというのがアルベルクの思いだ。

(伯爵が気にかける女子、か。ただの好みか? ……調べておくか)

新しい屋敷のベッドの上。

俺がダラダラしていると、ルクシオンが報告をしてくる。

『マスター、屋敷に存在していた怪しげな隠し部屋やら隠し通路は塞いでおきました。これで、侵入者対策は一段落です』

「そっか。ご苦労さん」

『やる気がありませんね』

「やる気なんか出るかよ。クレマン先生が、夏休みに遅れた分の授業をするとか張り切っているんだぞ。ありがたいけど迷惑だよ」

クレマン先生の優しさなのだろうが、俺からすれば迷惑だ。

夏休みに補習をする気分――というか、そのまま補習だな。

『本日はバリエル家から例の女性が送られてくる日ですよ』

「俺が面倒を見ないと駄目なの?」

『エリクは六大貴族の跡取りです。聖樹の力から彼女を守れるのは、苗木の守護者に選ばれたマスターだけですから』

部屋に置いてある苗木を見た。

ケースに入って元気に今日も輝いている。

俺は右手の甲を見て、

「……これ、お前が拒絶反応を示さない、ってことは新人類関係の代物じゃないんだよな?」

『はい。ただ、詳しい内容はまだ分かっていませんけどね。旧人類が手を加えた植物であると判断しています』

紋章をくれたのが苗木なので、大きな力は得られない。だが、六大貴族たちへの備えにはなる。

一方的な聖樹への誓いを拒否できるし、聖樹の力を使った魔法を防いでもくれる。

外すのは勿体ないが……これ、どうしたらいいの?

本当なら主人公の恋人が持つはずだったのに。

ルクシオンが俺に報告をしてきた。

『どうやら来たようですよ、マスター』

マリエとレリアにつれてこられた女子。

俯いて淀んだ瞳をしている。

照りつけるような日差しの中、その女子はブツブツと呟いている。

「戻らないと。エリクが怒る。エリク、寂しがり屋だから側にいないと……私がいないとエリクが……」

その姿に唖然とする。……俺はマリエに助けを求めるような視線を送る。

「何を言っても無駄よ。でも、だって、の繰り返しだからね。ちゃんと休息を取らせて、判断力を取り戻さないとどうにもならないわ」

変わり果てた姉の姿を見て、レリアが落ち込んでいた。

ここまで酷いとは思わなかったらしい。遠目には分からなかったが、顔以外に痣が出来ている。

「春休みまでは普通だったのよ。それなのに、どうしてこんなことに」

色々と裏で動いて二人をくっつけたレリアだったが、二人の愛が本物なら宝玉が手に入るとエリクに言ってしまう。

そこからエリクが宝玉にこだわり、一学期になっても聖樹に張り付いて戻ってこなかったらしい。

マリエがレリアを睨み付けている。

俺は溜息を吐き、レリアの姉貴さんの部屋を案内する。

「見張りはルクシオンに用意させたし、しばらく俺の屋敷で面倒を見るよ。何か気をつけた方がいいことってあるの?」

マリエがとにかく俺に注文を付けてくる。

「弱っているから、とにかく自分で決断させないで! 優しくも大事だけど、普通に接して!」

「普通!? お前、それがどれだけ難しいか分かっているの? そもそも初対面だよ。どうすればいいのか分からないよ!」

レリアまで俺に文句を言ってくる。

「あんたしかいないんだからちゃんと面倒見なさいよ!」

こいつ何なの? 何で上から目線なの?

「……ちょっと可愛いからって調子に乗るなよ。俺の婚約者たちの方が美人だからな。お前なんかのご機嫌取りをする必要なんか俺にはないからな。下心で下手に出ることを期待しているなら他を当たれ!」

レリアが黙ってしまうと、マリエが調子に乗る。

「これが兄貴よ! ちょっと可愛いからって優しくする男と一緒にしないのね。女だろうと容赦をしない男だからね! 分かったか、ば~か!」

それは言いすぎではないだろうか?

「いや、容赦をしないのはお前限定だ。俺だって普通に女性には優しいぞ」

「何でよ!」

「私には冷たいじゃない!」

マリエとレリアが俺に抗議してくるが無視した。

だってお前ら……俺に迷惑をかけるし。

「ほら、レリアの姉貴さんはこっちだ」

「……はい」

抵抗しても無駄だと思ったのか、抵抗する気力もないのかレリアの姉貴さんは静かだった。

これ、本当に大丈夫なのだろうか?