軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六大貴族

議会議事堂――聖樹神殿と呼ばれている高い塔。

そこにある六大貴族の会議室で、俺は聖樹の苗木を片手に持って交渉を行っている。

主に交渉相手は、アルベルクというナイスミドルだった。

会議に出席している六大貴族の面々は、とても苦々しい表情をしているのが俺は嬉しくてたまらない。

特に、フェーヴェル家の当主であるランベールは、俺を前にして激怒していた。

俺は苗木を見ながら彼らと話をしていた。

失礼な態度? 悪いが、こいつらにはこれで十分だと思っている。そもそも、俺って留学生で共和国にあまりいい感情もないからね。

「で、賠償はいかほどいただけるので?」

ランベールが叫んだ。

「ふ、ふざけるな! フェーヴェル家の領地にどれだけの被害が出たと思っている! 王国に抗議をしてやる!」

俺は笑う。

「お、強気ですね。陛下にはそう伝えておきますよ」

ニヤニヤしていると、ランベールが顔を真っ赤にしていた。

敗北したという事実を受け入れられないらしい。

正確には敗北ではない。

酔っ払ったピエールの取り巻きたちが、暴れただけ。

共和国はそれを押し通そうとしている。

理由は、対外的に身内同士の争いとして処理できるから。

「俺に責任を取れと? でも、そうなるとアインホルン一隻に聖樹の手前まで攻め込まれたということになりますよね? いいのかな~」

アルベルクさんが、ランベールを睨み付け黙らせていた。

「……今回の一件、確かにフェーヴェル家の無法は目に余る。共和国としても謝罪しよう。だが、賠償をするにも君の独断で決められるのかね?」

俺は聖樹の苗木を片手に、

「先に俺個人への賠償をして貰いましょう。今回は殿下を始め、こちらの留学生を呪うなんて真似をしたそちらに非がないとは言いませんよね? そちらは国に対応して貰います。ただ、俺個人への賠償は相応を覚悟して貰いましょうか」

額を提示する。

金塊やら、魔石とか資源とか、とにかく莫大な量を提示した。

ランベールが目を見開く。

「ば、馬鹿な! 貴様一人にこれを払えというのか!」

「当然だ。お前らがピエールを放置しなければ、こんなことにはならなかった。それに、俺にも立場がありましてね。あまり弱腰な対応をすれば、陛下に合わせる顔がない」

アルベルクさんがその額を見て、

「……いいだろう。支払おう」

随分とふっかけてみたが、流石に金持ちだけあって余裕があるな。

「だが、宝玉は返して貰う」

アルベルクさんの発言に、周囲も当然だという顔をしていた。

魔力を濃縮した宝玉は、共和国にとっても貴重な物だ。

ルクシオンが、共和国の飛行船を破壊して回りながら、回収していたので結構な量が積み込まれていた。

「お断りします」

六大貴族たちが「は?」と驚いた顔をしていた。

「いや、聖樹の誓いでね。アインホルンの中にある全てを差し出せ、って言ったんですよ。取り返す前にアインホルンが回収したんですし、俺の物でも良いよね? 酔っぱらいたちは引き渡したんだし、別に問題ないじゃん」

ランベールが立ち上がって俺を指さした。

右手の甲に紋章が浮かんでいる。

「図に乗るなよ、小僧!」

苗木を掲げてみせる。

ランベールの紋章は光を失い、そして俺は告げた。

「今度こそ本気で不敗を終わらせてみるか? アインホルンが一隻だと思うなよ」

全員が警戒しているのを見て満足する。

一隻しかないんだけどね。

はったりという奴だ。

その後も交渉は続いたが、ほとんど敗北していた共和国は俺の条件を飲んだよ。大体、事前にルクシオンがどれだけなら賠償金を用意できるのか調べていたからね。

交渉というか、恫喝?

そんな感じでした。

久しぶりに戻ってきた自宅。

俺はノエルの世話をしていた。

ルクシオンは、聖樹の苗木の観察ついでに水やりを行っている。

『それにしても滑稽ですね。聖樹の苗木を手に入れたい貴族たちですが、枯れる原因が聖樹だと知らないなんて』

ルクシオンの調べでは、聖樹の苗木が育たないのは聖樹に原因があるらしい。

この大地に聖樹は一本あればいいとのことだ。

……植物として間違っている気もするが、普通の木じゃないので気にしても駄目だろう。

そして、貴族たちが聖樹の苗木が欲しい理由も分かった。

俺のように聖樹の力への備えとして、苗木が欲しかったらしい。将来のためと言うよりも、ピエールがやったような卑怯な手段から身を守るため……何とも内輪的な理由だな。

そのために苗木が欲しかったようだが、調べてみると苗木は聖樹がある土地では育たないと分かった。

いくら欲しても手に入らない。

確かに滑稽だ。

俺はそれよりもノエルの方が心配だった。

「……弱っているな」

『限界が近いようですね』

すると、自宅にマリエが訪ねてきた。

「あに――リオンさん、ちょっとお話があるのですが?」

言葉が普段と違って安定しないマリエに呆れつつ、俺が玄関に行くとそこには包帯を巻いた痛々しい男子がいた。

小さく頭を下げてくる。

ノエルの飼い主――ピエールに暴行された男子だ。

「あ、あの、ノエルを預かってくれていると聞いて!」

俺は部屋に案内する。

男子が入ると、ノエルがベビーベッドの上で顔を上げた。

やはり飼い主を待っていたらしい。

「ノエル!」

男子が泣きながらノエルに近付いて手を差し伸べる。

その手をチロチロと舐めるノエルは、鼻を寄せて主人の臭いを嗅いでいるように見えた。

『もう鼻もほとんど利かないはずです。目も見えているかどうか』

ルクシオンの言葉に俺は、

「馬鹿。そこにいると分かればいいんだよ。ちゃんと飼い主がそこにいる、ってノエルは気付いた。それでいいじゃないか」

男子も泣いている。

「ごめんよ。ごめんよ、ノエル」

感動の再会だ。

俺たちは家を出て外で話をすることにした。

外に出た俺たちは話をする。

マリエは、首に出来た痣が消えていた。

ピエールが紋章を失った――加護なしになった時点で消えたようだ。

「兄貴、えっとあの……」

マリエが俺に色々と手渡してくる。

ピエールと付き合いのあった組織との繋がりを示す証拠や、何を取り扱っていたのかを示す証拠品だった。

「お、交渉材料が増えたな」

マリエがまだ俺に怯えている。

「わ、私も今回は反省しているというか、頑張ったので……ごめんなさい、お兄様! 許してください!」

中庭とはいえ、外で土下座をしてくるマリエを呆れて俺は見る。

「……馬鹿か。もうとっくに許したよ」

「え!?」

顔を上げると、マリエの額に土がついていた。

「お前、気が付かなかったの? そもそも、ピエールが色々しでかしたときには、俺も裏で動いていたの。ルクシオンにも調べ物をして貰うために、あいつのところにいかせただけ」

『反吐が出るとはこのことですね。あの程度の呪いで、私を譲渡できると思っていたのでしょうか? 愚かすぎます。マスターの命令がなければ殲滅ものでしたよ』

マリエが涙目になった。

「そんな! 私、頑張ったのに!」

俺はマリエの頭に手を置く。

「あぁ、よく頑張った。こいつは俺が有効に使ってやる。ついでだが、王国にはお前らへの締め付けを緩めるように連絡しておいた」

「え!」

元気な顔になるマリエに俺は説明する。

「王妃様からも返信が来たよ。最低限の生活が送れるくらいにはしてやるってさ。料理人と使用人数人が、今度派遣される使節団についてくるから」

そして俺は懐から、アルゼル共和国の紙幣――札束の入った封筒をマリエに渡した。

「小遣いだ。そいつで当面の生活費の足しにしろ。八人いても、それだけあれば多少の贅沢は出来るだろ」

分厚い封筒を懐にしまい込むマリエは、嬉し涙を流していた。

マリエが俺の脚にすがりついてくる。

「兄貴ぃぃぃ!」

「五月蠅い、離れろ! 言っておくが、反省していたから話を付けただけだ。何もしていなかったら、現状維持だったのを忘れるなよ。小遣いも悪さをしたら没収だからな!」

マリエは祈るように両手を組み、太陽に向かってお礼を言っていた。

「頑張ってよかった! 神様は私をまだ見捨てていなかったのね!」

……いや、どうだろう?

こんな世界に転生している時点で、って思ってしまう。

マリエが思い出したように俺を見る。

「あれ? それより、ピエールを兄貴がボコったけど、これでよかったの? イベント潰れちゃうわよ」

俺は首を横に振る。

「お前は馬鹿だな。主人公とエミールを見ただろ? あんな関係で付き合っていない方がおかしいし、仲良くなれるイベントだろ? どうしても必要ならこっちで支援してもいいし、別にこだわらなくてよくね? というか、もう肉体関係あってもおかしくないって。何だよ、あの甘ったるい雰囲気。見ていて悲しくなってくるぞ」

俺は婚約者二人と離れ、メールでやり取りをするだけなのに……。

マリエも少し考え、別段必要でもないと思ったのか頷いた。

「そうね! あの糞野郎をボコボコに出来たし、そっちの方が重要よね!」

「だろ!」

二人で笑い合っていると、部屋からノエルを抱えた男子が出てきた。

――ノエルは息を引き取っていた。

男子生徒の名前は【ジャン】。

田舎から出てきて、学園で勉学に励んでいた。

幼い頃から一緒だったノエルを連れてきたのは、ジャンには家族がいないから。

最期にノエルは、ジャンをずっと待っていたのだろう。会えたことで気が緩んだのか、安心したのか逝ってしまった。

色々と話を聞いている内に、すっかり夜になっていた。

ジャンは火葬したノエルの骨が入った箱を持っていた。

「で、これからどうするんだ?」

俺が今後の予定を聞くと、ジャンは首を横に振る。

「分かりません。でも、奨学金を返済しないと。働くことになると思います」

俺は溜息を吐く。

「……ピエールはもういない。復学しておけ」

「そうしたいんですが、もう奨学金は打ち切られています。今から復学しても留年ですし、生活費もありませんから」

俺はテーブルの上にお金を置いた。

「え?」

「ピエールの実家から巻き上げた金だ。貰っておけ。ほら、怪我をさせられたんだ。 慰謝料(いしゃりょう) だよ」

「で、でも」

ジャンが俯いている。

「ノエルを拾ったのも何かの縁だ。学園を卒業した方が稼げるんだろ?」

「そ、それはそうです。卒業生になるとやはり違いますし」

無理矢理押しつける。

「なら復学だ」

ジャンが俺を見て、

「ホルファートの貴族様は優しいんですね」

「違うよ。俺が特別優しいのさ。マリエ――他の留学生たち。特に美形の五人は、顔は良いが阿呆だからな。注意しろよ」

ジャンは俺にお礼を言って家を出た。大事そうにノエルの骨が入った箱を抱きしめて……。

一度、実家に帰るらしい。

一人になると、ルクシオンが話しかけてくる。

『……寂しくなりましたね』

ベビーベッドを見ながら、俺は同意する。

「そうだな」

ノエルがいなくなってしまった。

少し寂しいが、仕事をするとしよう。

ホルファート王国王宮。

執務室で目の下に隈を作ったローランドが、リオンからの手紙を握りつぶしていた。

『お元気ですか、陛下?

病気とかしていませんか? 何かあれば教えてくださいね。

それはそうと、いい感じにまとまりそうです。

派遣してくれた役人に詳細を教えて送り返しますので、交渉役を送ってください。

今ならいい感じに搾り取れますよ。忙しくなりますね(笑)

By貴方には勿体ない家臣より』

「どういうことだ! どうしてこんなに早く手紙が来る! 人を派遣したばかりで、まだ向こうに着いたばかりだろうが!」

気が付けばアルゼルとの揉め事が終わっており、何やらいい感じにまとまるらしい。

色々と心配していたローランドが机に突っ伏す。

「あいつを処刑したい」

そんなローランドの言葉に反対するのは、ミレーヌだった。

ミレーヌの方には、リオンから別の手紙が届いている。

少し恥ずかしそうに手紙を読んでいたミレーヌが、処刑と聞いて真顔になる。

「駄目です。王国の意地を見せた騎士を裁くとは何事ですか!」

「あいつの監督不行き届きだろうが! 揉め事を起こして、それを自分で解決したに過ぎない! 私の優雅な一時を奪いおって……」

ミレーヌが呆れている。

「今後、役人同士で条件を詰め合うことになりますね。それに交渉役には相応の人物を派遣する必要がありますよ。誰を送るのか決めましたか?」

ローランドが顔を上げた。

「人がいない……奴を派遣する。もうすぐ学園も夏休みだからな」

ホルファート王国の学園。

アンジェとリビアが見守る中、クレアーレが映像を空中に投影していた。

その映像を見ているのは――リオンに契約という名の鎖で縛られた友人たちである。

聖樹の誓いなどよりも、よっぽど契約らしい関係で縛られた友人たちだ。

ダニエルがワナワナと震えている。

『――と、いうわけだ。夏休みに観光に来い。アルゼル共和国は色々と楽しいぞ』

レイモンドが唖然とする。

「いや、荷物が多いから飛行船を出せってどういうこと? 僕たち、夏休みは色々と予定があるのに!」

映像が切れると、ダニエルも怒っていた。

「こっちはようやく、彼女を実家に連れて行けるようになったのに! アルゼルまで行って、帰ってくるだけで夏期休暇のほとんどが潰れちまうよ!」

他の男子生徒たちも苦悩していた。

リビアが申し訳なさそうにする。

「あ、あの、とりあえず報酬の件からお話をしますね」

リビアが報酬を伝えると、男子たちの様子が変わった。

ダニエルがレイモンドと話をする。

「多くね?」

「行きと帰りの魔石と物資はリオン持ち。報酬も悪くないね。これだけあれば、うちは借金を返済できそうなんだけど」

アンジェが話をまとめる。

「リオンがアルゼルから賠償金を得た。報酬に嘘はない。外国への長期の船旅になると、どうしても船員の練度が必要になる」

いくら性能が高くとも、船員の訓練が出来ていないと危険である。

そのため、リオンは友人たちを頼ったのだ。

アルゼルから賠償として得た大量の資源などを運ばせるために。

リビアが、やる気を見せる男子たちに呆れる。

「さっきはやる気もなかったのに」

アンジェが肩をすくめる。

「人を働かせるためには、報酬の支払いが大事だからな。まぁ、頑張って貰おう。それに、飛行船の数は多い方が旅も安全だ」

クレアーレがウキウキしているような声を出す。

『忙しくなるわね。準備しなくっちゃ! 私、新しい飛行船を用意しているのよ』

リビアが胸に手を当てる。

「リオンさん、驚いてくれますかね?」

アンジェが微笑む。

「驚くさ」

そんな二人の姿を見て、ダニエルとレイモンドの顔が不機嫌になった。

「……リオンに腹が立ってきた」

「奇遇だね。僕も同じだよ。向こうでは何かおごって貰おうか」