軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

主人公?

淡いピンク色の癖のある髪をサイドポニーテールにした女子。

髪のボリュームがあるため、フンワリとした髪型に仕上がっている。

見た目は可愛らしく、少し制服を着崩しており学園でも目立っていた。

名前はレリア。

姉が存在しているが、今は学園にいない。

そんなレリアが声をかけたのは、中肉中背で真面目そうな男子だった。

「エミール」

「あ、レリア」

振り返った男子は、肩に届かないまでのストレートの髪を揺らしていた。

サラサラした青い髪はとても綺麗だ。

「そっちのクラスはどう? 留学生が来たんでしょう?」

学園のクラスは非常に多い。

貴族や一般の生徒が同じように学ぶのも理由の一つだ。

ホルファート王国との違いは、積極的に一般人を役人として雇い入れることにある。

学園を好成績で卒業すれば、六大貴族の下に就職しやすくなる。

それが駄目でも学園を卒業したというだけで箔が付く。

学園に入学できた時点でエリートだった。

エミールは少し困った顔をしていた。

「クラスで大人気だったよ。ユリウス殿下とジルク君に女子は夢中だよ。レリアもやっぱり気になる?」

不安そうにしているエミールを安心させるため、レリアは微笑む。

「興味はあるけど、異性としてはちょっとないかな。外国の貴族様だから結婚も出来ないよ」

エミールは慌てながら、

「そ、そんなことはないよ。貴族とも結婚できるよ。ホルファート王国は難しいだろうけど、アルゼルなら十分に可能だから」

そんなエミールの反応にレリアはからかいたくなったのか、

「本当? だったら、エミールが私を貰ってくれる?」

顔を赤くするエミールに、レリアは笑うのだった。

何アレ?

口から砂糖を吐きたくなったよ。

甘い。甘すぎない?

物陰からレリアと安牌――じゃなかった、エミールを覗き見している俺とマリエは、とても微妙な顔をしていた。

マリエなど呪詛を口にしている。

「ふざけんな。何うまいことやってんのよ。あんたも逆ハーレムで大変な目に遭いなさいよ。なんで私だけがこんな目に遭っているのよ。主人公だからって絶対にゆるさ――痛い!」

本当に呪いそうだったので、拳で軽く叩いておいた。

「主人公を呪ってどうする。あの子がハッピーなら俺たちもハッピーだ。それでいいだろうが」

運良く二人を発見した俺たち。

物陰から様子を見ていたが、とてもいい雰囲気だった。

ルクシオンが報告してくれたのだが、あのレリアという女子には他に男の影がない。

二股をしている様子がないのだ。

「……それにしても、二作目の主人公ってギャルっぽくない?」

マリエは頭頂部を手で押さえながら答える。

「一作目の主人公が頭お花畑で不人気だったのよ」

「リビアの前でそんなことを言ったら撃ち殺すぞ」

マリエが視線をさまよわせながら「い、言うわけがないじゃない」なんて言っていた。

「と、とにかく、今度はもっと自分から動いて活躍する女の子が主人公になったの」

「そうか。でも、活発な子なら悪役令嬢がいなくて良かったな」

「何で?」

「喧嘩が酷いことになりそうだからだ」

マリエも納得する。

「女の敵は女だもんね。分かるわ」

……リビアとアンジェは違うけどね。

違うよね?

「こっちは安心できそうだな。俺やお前みたいな転生者がいるようにも見えないし」

俺やマリエのような存在がいなくて助かった。

そいつらと敵対するのは非常に面倒である。

しばらく学園で過ごして調査もしているが、それらしい情報は得ていない。

「ところで、だ。マリエ、こっち側のお役立ちアイテムとか知らない?」

俺が持つお守りや、ルクシオンのようなチート級の存在を確認しておきたかった。

だが、こいつはマリエだ。

「私、男向けのゲーム部分に興味がないのよね。クリア優先でプレイをしていたから、よく知らないわ」

「二作目はクリアできたのか?」

一作目は非常に難しいからと、俺にクリアするようにと言って渡してきたのがマリエだ。

「難易度が下がったからね。課金アイテムもあったわよ。でも、さすがにもう覚えていないわ。そもそも、私が生まれたのはホルファートだったし、アルゼルのことは二の次っていうか、覚えているだけでも凄くない?」

使えない奴である。

こっちで何かお役立ちアイテムがあれば探しておきたかったのに。

「ルクシオンにその辺りも調査させるか。こっちは問題なさそうだし、動きがあれば何かするってことで」

「異議なし! ねぇ、兄貴。帰りに買い物に付き合ってよ。今日は特売日なのよ」

五人の野郎共を養うマリエは、まるでお袋のような存在になりつつあった。

……何故だろう?

泣けてくる。

「大使館に言って買って貰えよ」

「予算にも限りがあるのよ! 色々と計算したら、どうしても毎月やりくりが必要なの! ……私、朝は目玉焼きにベーコンは必須なの」

カリカリのベーコンが好きらしい。

買ってやるからもう喋るな。

不憫すぎて涙が出てきそうだ。

「カーラも連れてこい。お前と二人だけだとユリウスたちが五月蠅いからな」

「カイルも呼んでくるわ。あ~、今日からは一品料理が増えそう」

こいつ、なんでそんなに頑張っているんだろう?

あの五人にやらせればいいのに。

ユリウスは教室内で少し困っていた。

「殿下、アルゼル共和国はどうですか?」

「今度の休みに観光でもしません? 私が案内して差し上げますわ」

「私と出かけませんか? 専用の飛行船を持っていますわ」

身分の高い女子たちに詰め寄られており、辟易していたユリウスだった。

教室内、ジルクを見れば同じ状況だった。

(まいったな)

ユリウスとしてはこんなところをマリエに見られたくない。

「悪いが婚約者も来ている。不貞を疑われることは出来ないな」

リオンがこの場にいれば、青筋を額に浮かべ煽り倒していたこと間違いない台詞を口にしていた。

ユリウスからすれば、一度アンジェを裏切っている。だから、二度とそんなことはしないと心に決めての言葉だった。

だが、女子たちの攻勢は止まらない。

「一途なんて素敵ですわ」

「なら、その方も誘っては?」

「殿下ったら本当に紳士ですね」

ウットリする女子たち。

ユリウスはどこで間違ったのかと、真剣に考え始めていた。

大人気の留学生たち。

そんなユリウスたちを面白くないと思っている男子がいた。

名前を【ピエール・イオ・フェーヴェル】。

顔色が少し悪く不健康そうなピエールは、紫色の髪を指で弄っていた。

体つきは細く、留学生たちの話題で持ちきりの学園に苛々している。

「……時代遅れのホルファート王国にすり寄る馬鹿共が」

取り巻きたちも同意する。

「そうですね、ピエールさん」

「あいつらのどこがいいのか?」

「冒険者から成り上がった野蛮人たちですよ」

彼らは制服を着崩し、いかにも不良という格好をしていた。

だが、ピエールが六大貴族の次男とあって、誰も注意を出来ないでいた。

同じ境遇のエミールが真面目なだけに、ピエールは悪い意味で目立っている。

階段に座っているピエールは、親指の爪を噛みながら口角を上げて笑うのだった。

「お前ら……いい見世物を用意してやろうか」

「何か思い付いたんですか?」

「うまくやればホルファート王国と戦争が出来るぞ。お前らも出世したいだろう?」

それを聞いた取り巻きたちがニヤリと嫌らしい笑みを作る。

まるで戦争が起きても問題ないような口振りだ。

むしろ、起きて欲しいとすら思っている。

ピエールは自分の髪を弄りながら、目の前を通り過ぎたブラッドを見た。

同じ紫色の髪を持つ男子……周囲には女子たちが集まっている。

「あいつ目障りだな」

そう言うと、取り巻きの男子たちが顔を見合わせ頷いた。

「あいつを校舎裏に呼び出しますか?」

「いや……少し趣向を凝らそうか。あいつを利用して、王国の馬鹿共から身ぐるみ剥ぐのも面白いと思わないか? あいつらの飛行船、見たこともない新型らしいじゃないか」

共和国の飛行船には劣るが、新技術を詰め込んだ飛行船は興味がある。

そう言ってピエールは立ち上がった。

「調子に乗った王国の馬鹿共を笑いものにしてやるよ」

国際問題など考えないアルゼル共和国の貴族たち。

彼らの絶対的な上位者としての振る舞いには理由があった。

階段でたむろしている彼らに、上の階から降りてきた生徒たちが困っていた。

「あ、あの、通りたいんですけど」

それが一般生徒だと知ったピエールは、取り巻きたちに指を鳴らして指示を出す。

取り巻きたちが、困っている生徒たちの代表で声をかけてきた男子を囲み――。

「てめぇ、気安く口を利いてんじゃねーよ!」

「この人が誰か分かっているのか?」

「おら、返事しろよ、こら!」

――暴行を加え始めた。

それを見ているしか出来ない一般生徒たち。

ピエールはその様子を見てニヤニヤと笑みを浮かべている。

本当に楽しそうにしていた。

ボコボコにされ、歯が折れた男子生徒の髪を掴み上げる。

「この俺様に邪魔だと言ったのはお前か?」

「ち、ちが――通りたかっただけで」

ピエールは男子生徒を殴る。

「言ったよな?」

「ち、ちがいま――」

そして認めるまで殴り続けると、取り巻きたちが他の生徒たちを先に行かせて男子だけを残させた。

「これはお仕置きが必要だな」

ピエールは床に倒れ込んだ男子生徒を踏みつけ、取り巻きたちに準備をさせるのだった。

翌日の校舎裏。

吊された男子生徒が見つかった。

「……最低だな」

男子生徒は下着以外を焼かれ、腫れ上がるまで暴行されていた。

生きてはいるようだが、体には火傷の跡まである。

近くにいた男子生徒に聞いてみる。

「おい、犯人は誰だ?」

「……お前、知らないのか?」

男子生徒は周囲を警戒するように言う。

「貴族だよ。一般生徒にこれだけ暴力を振るっても許されるのは、六大貴族の誰かだ」

「いや、注意しろよ」

「……それが出来たら苦労しないよ」

男子生徒が離れていく。

教師たちがやってくると、生徒たちを教室へと戻すのだった。

「早く教室に戻りなさい!」

「おい、急いで連れていくぞ」

「これは酷いな」

木に吊された男子生徒は、骨が折れているようにも見える。

胸くそ悪いと思っていると、校舎から見下ろしている生徒たちがいた。

楽しそうに見下ろしている奴らの気が知れない。

人混みの中、マリエが俺に近付いていた。

「兄貴、ちょっと」

「何だよ?」

人混みを抜け出し、マリエと二人になる。

「あいつら危険な奴らよ」

「あいつら? あのブラッドの出来損ないみたいな紫髪の野郎か?」

マリエは何度も頷く。

「名前がピエールで、悪い貴族のお手本みたいな奴よ。主人公の実家を滅ぼした七大貴族の一つが、あいつの実家なの」

ゲームでも相当酷いキャラのようで、悪役令嬢はいないが悪役はいたらしい。

「……面倒だな」

だが、奴の地位は面倒くさい。

七大貴族の出身で、次男というから結構高い地位にいる。

「関わらないのが一番ね。主人公があいつをそろそろやっつける頃かな? そのイベントで攻略対象キャラといい感じになるというか、必須イベントだったと思うし」

潰してしまいたいが、それでは問題が起きるという。

本当に厄介な奴である。

「分かった。手は出さないでいてやる」

胸くそ悪い連中が、主人公に成敗されるのを待つとしよう。

帰り道。

学園から自宅までの道のりの途中で老いた犬がいた。

歩くのも難しいのか、ヨロヨロとしていた。

「首輪が付いているな」

近付くと人を怖がらない。

飼い犬だったのは間違いないようだ。

俺の近くにいたルクシオンが犬を見る。

『単純に老いですね。放置すれば十日以内に死ぬでしょう』

「飼い主に届けた方がいいんじゃないか?」

すると、近くの家からおばちゃんが姿を見せた。

俺が様子を見ている犬を見て、

「その犬、学園の生徒さんが実家から連れてきていたのよ。真面目な子だったのに、可哀想にね」

「可哀想?」

おばちゃんは学生が使用していたアパートを見た。

「前はあそこに住んでいたんだけど、今日になって大怪我をしたから入院するって話だったわ。もう学園には復学できないし、アパートは解約するみたいなの」

奨学金を利用していたらしく、退学となるため住まいも引き払うことになったらしい。

「――貴族に目なんて付けられなければね」

そう言っておばちゃんは家に戻っていく。

今朝の男子生徒の顔が思い浮かんだ。

首輪にあるプレートには名前が刻まれていた。

「お前、女の子か? “ノエル”なんて可愛い名前じゃないか」

差し出した手をノエルが舐めた。

ルクシオンが俺に問いかけてくる。

『罪滅ぼしで飼われるのですか?』

「いけないか?」

『長くはありません。世話も大変だと思いますが?』

俺は汚れた犬を抱き上げる。

プルプルと震えていた。

「世界のために個人を見捨てたんだ。代わりに犬くらい助けてやってもいいだろ。その男子生徒の様子、少し調べてくれ」

『了解です』

俺はノエルを撫でながら、

「それにしても、ここも酷い学園だよな」

ルクシオンはジッと俺を見ている。

『その気になれば、すぐにでもこの国ごと消してしまえますが?』

「俺、世界の破滅とか嫌いな人だから却下だ」

犬をそのまま自宅へと連れ帰ることにした。