軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間 ルクシオンレポート その3

「いいかお前ら! 今日からお前らの雇用主は俺だ!」

留学先を目指すアインホルン。その甲板の上でデッキブラシを持った八人を前に、リオンは大声を張り上げている。

その様子をルクシオンは影ながら見守っていた。

リオンに対して不満を持っているのは、ジルクである。

「殿下を雇うなどどういうつもりですか! 伯爵になったからと浮かれていませんか?」

「黙れ、腹黒! お前らの扱いについては厳しくするように王妃様から言われている。この際、こき使っても構わないと仰せだ」

リオンが王妃であるミレーヌからの手紙をユリウスたちに見せると、ブラッドが激しく抗議するのだった。

「ちょっと待て! こんなの聞いていないぞ。僕たちは、海外留学をして世間を学べと言われただけだ」

そんな意見をリオンは鼻で笑っている。

「金もないお前たちが、向こうでどうやって生活するつもりだ? 働かない奴に食事も給料も出さねーから覚えておけ! ほら、さっさと甲板掃除を始めろ!」

文句を言いながらも掃除を始める五人。

マリエにカイル――そしてカーラは、安堵した表情をしていた。

「やった。これで明日からのご飯を心配しなくて済むわ」

「良かったですね、ご主人様」

「マリエ様、今日からは毎日昼食も食べられそうですね」

カーラの嬉しそうな声に、リオンが左手で目を隠していた。

根は優しいリオンにしてみれば、お昼ご飯を食べられないマリエたちに同情するなというのが無理な話だ。

マリエがこれまで、何をしてきたのか考えれば甘すぎる処置である。

ルクシオンの一つ目が、五人に向かう。

ユリウスは腹立たしいのか文句を言い続けていた。

「朝から夕方まで働かされて、貰える金額は二百ディアだと。ふざけているのか」

二百ディア。

円換算すれば、二万円程度の金額だ。

『マスターも甘いですね』

「こんなことが許されるのか? 二百ディアでいったい何が出来る。このような扱い、認めるわけにはいかない」

冒険者としてダンジョンに挑めば、もっと稼げるというのもユリウスたちの意識改革の邪魔をしている。

「黙れ、高等遊民! その使えなくなった価値観をさっさと切り替えろ!」

不満を口にするユリウスを、リオンは後ろから蹴り飛ばした。

甲板の上に転がるユリウスに近付くのはジルクだ。

「殿下! バルトファルト伯爵、これではあまりにも殿下が不憫です!」

そんなジルクの発言を無視するリオンは、甲板を見ている。

「同じ所をただブラシでこすっているだけじゃないか! お前ら、ちゃんと掃除をする気があるのか? ここが終わったら、次は船内の掃除だからな。便所掃除もさせるから覚悟しておけよ」

クリスが奥歯を噛みしめていた。

「このような不当な扱いが認められるというのか」

ユリウスたちからすれば、このような扱いは許せないようだ。

しかし、雇用条件をルクシオンが確認する。

『朝八時から、夕方五時までの勤務時間。休憩はトータル二時間……七時間労働で、この報酬は高すぎますね』

衣食住はリオンが世話をしている。彼らは、食事にも、寝る場所にも、着る物にも困らない。王国から必要経費として金は出ているが、八人の世話をしているのはリオンの方だ。

ルクシオンからしてみると、この扱いは不当だ。

もっと厳しくてもいいと思っていた。

グレッグがデッキブラシを構え、リオンの前に立った。

「バルトファルト、正々堂々と勝負しろ。俺たちが勝ったら、この不当な扱いを改めて貰う!」

リオンは両手で顔を覆ってとても悲しんでいた。

「お前ら本当に何なの? 本気で言っているなら笑えないんだけど。頼むから冗談だと言ってくれよ」

グレッグはデッキブラシを器用に振り回し、

「俺たちは本気だ!」

他の四人もデッキブラシを構えたのを見ていたのは、光が消えた目をしているマリエだった。

ブツブツと……。

「それくらい働いてよ。どうせ船の中じゃ暇じゃない。掃除くらいしてよ。お願いだから働いてよ。自分のお小遣いくらい自分で稼いでよ」

何かを思い出したのか、ガタガタと震え始めていた。

デッキブラシを構えた五人を前にして、リオンは首を横に振っていた。

「お前ら昼食のデザートはなしでいいな」

「な、何故だ!」

狼狽えるユリウスに対して、リオンはヘラヘラ笑っていた。

「雇用主様に逆らうからだ。もっと抵抗してもいいんだぞ。このままダラダラ仕事をさぼるなら、一時間残業させてもいいんだぞ。それとも、明日からの朝食にはお前らの嫌いなものを並べるか?」

クリスがデッキブラシの構えを解く。

「卑怯だぞ、バルトファルト!」

「卑怯で結構。でも、お前らみたいな労働者を雇っているだけで、俺は十分に心優しいと思うけどね」

全員から離れた場所で見守っているルクシオンは、五人について――。

『今までの生活とは違いますし、そう簡単に適応できないのでしょうか? 価値観の違いはどうしようもありませんね。現状を正しく理解していない』

――厳しい判断を下すも、その理由について心当たりもある。

これまでは、廃嫡されてもその生まれや容姿から周囲にチヤホヤされていた。マリエが生活を支えていたこともあり、自分たちの状況が理解できていないのだ。

そのため、これから先もどうにかなると考えているのだろう。

『そう思うと、マリエはマスターと同じですね』

マリエは駄目男製造機だとの判断を下す。

同時にリオンとよく似ているとも思った。

五人が悔しそうにしている中、カイルは掃除道具を持って他の場所へと掃除に向かうのだった。

「ご主人様、僕はこっちを先に掃除しますね」

「お願いね。カイルとカーラだけが頼りよ」

マリエに頼りにされたカーラが、目を輝かせて感動していた。

「はい、マリエ様!」

ルクシオンは思ってしまう。

『……それにしても、どうしてこの面子で海外留学に向かっているのでしょう?』

どう考えても、最初は敵同士だった面子だ。

リビアとアンジェがいるならまだしも、この八人の顔ぶれはルクシオンには意外だった。

五人を監視しているリオンを見つつ、ルクシオンは呟く。

『楽しい留学になるといいですね、マスター』