軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

入学

小さな浮島は特に際立った物はなかった。

小さな山に森、そして川があって平地部分が広い。

見つけた時は特徴がなさ過ぎた浮島だが、ここに独立して領地を持とうと決めた。

どんなに発展しても準男爵規模にしかならなそうな大きさも理由の一つだが、誰も住んでいない無人島だ。

将来というか、余生を過ごすには最高ではないだろうか?

学園を卒業して領主になり、開拓すると理由を付けて引きこもる。

実家を寄親にして面倒を見て貰いつつ、俺はのんびりするわけだ。

島にある洞窟の中。

そこにはルクシオンを格納していた。

ゴテゴテと張りぼての装甲を付けたルクシオンは、今ではその張りぼてをモデルに新たな飛行船の作成をしている。

造っているのは作業用のポッドロボットたちである。

俺の近くには灰色のメタリックボディーに、赤い一つ目の球体が浮かんでいた。

大きさはソフトボールくらい。

「わざわざ偽物を造る必要があるのか?」

『何事にも備えは必要です。それに、あのゾラという女が何か仕掛けてくる可能性も否定できません』

自爆すると言っていたルクシオンだが、俺が日本語を話せると知ると興味深いという理由で俺に従ってくれた。

意味が分からないが、命令通りに動いてくれるなら問題ない。

「それより島の様子は?」

『浮島に熱を持つ鉱石がありましてね。吸い上げた水を通して温泉にすることが可能です。将来的には観光地として稼げそうですね』

「別に興味もないけどな」

そもそもルクシオンがいれば問題ないのが大きい。

こいつ、資源を自分で用意できるらしいのだ。

どうしてそんなチート性能を持ちながら、旧人類は新人類に負けたのか気になって仕方がなかった。

ただ、こいつが目覚める前に戦闘は終わっており、詳しい記録は残っていない。謎は残るばかりだが、乙女ゲーの世界にそんな謎があっても気にならないのが本音だ。

どうでもいい。

『屋敷の建設を開始、港の整備も進めています。一年もすれば地上も快適になるはずです』

手入れのされていない領地など酷い物だ。

それが一年でどうにかなるのだから、ルクシオンの性能様々である。

前世で二千円だったとは思えない。

「頼むよ。俺はもう冒険なんかこりごりだ。モブにはお前を探すだけでも人生何回分の刺激になったか分かりやしない」

『私の性能を手に入れ、全力で引きこもるという判断をしたマスターには敬意を表したいですね。大志もなければ自己中心的。惚れ惚れするくらい人間です』

「嫌味か?」

『皮肉です』

俺がルクシオンをデコピンで弾き飛ばす。

表面は割と柔らかい材質で出来ているのかあまり痛くなかった。

『王都にある学園に入学する用意は出来ましたか?』

ルクシオンの質問に俺は肩をすくめながら答えた。

「出来ているよ。お前のおかげで実家は借金から解放されて、滞っていた領内整備の真っ最中だ。付き合いのある商人が俺のために色々と用意してくれてね」

手に入れた財宝のほとんどで港の整備と、領内整備に金をばらまいた。

新しい村を造るために資材を買い集め、今まで手を付けなかったことに手を出している。

領内はここ数ヶ月で随分と賑わっていた。

「それにしても学園なんて意味があるのか?」

今度は俺の問いかけにルクシオンが答える。

『表向き、貴族の子弟を教育することで質を上げるという意味合いがあります。貴族の子弟の方々はマスターのように引きこもりで領内から出ない方も多いとか。そのため、貴族の一般常識に欠けている方も多いようですから、一カ所に集めて教育したいのでしょう。また、そのような見識の狭い貴族たちに王都の凄さを見せつけ反抗心を奪いたい気持ちもあるかと。地方の貴族たちにしてみれば、学生は人質になります。ですが、若者は留学が出来て嬉しいでしょうし、王都で教育を格安でしてくれるのですからありがたいのも事実かと』

「……詳しいな?」

『一番の理由は、同じ国に所属するという事を意識付けしたいのだと思います。いざという時にまとまれるのは強いですよ。マスターの話では他の大陸国家も存在しているようですし』

学園に意味を見いだすとするとそんなところなのだろうか?

俺はてっきり乙女ゲーの事情で学園物だから用意された学園としか思えない。

『そう言えば、学園は結婚相手を見つける場所だとか。社交の場でもある訳ですから、あまり無茶をされないように』

「別に何もしないって。そもそもモブが騒いだくらいでどうにかなるかよ」

『モブ、ですか。言いたいことは分かりますが、その判断は――』

俺は話を遮る。

「まぁ、無難に相手を見つければ良いんだ。高嶺の花である貴族の娘じゃなくて、騎士家の娘を見つけて将来は独立だ。それでいいだろ」

まさに順風満帆の人生。

下手に地位の高い女など貰う物ではない。

「……え?」

父の仕事部屋に呼び出され、向かってみれば待っていたのは俺の想像を超える話題だった。

「いや、どうして驚くんだ? 未開のダンジョンを発見して攻略。ロストアイテムの発見に加えて新しい浮島の発見だぞ」

そこには王宮から俺宛の書状があった。

俺はこれまでの冒険者としての功績から、仮として男爵の地位が与えられることになった。

騎士として独立するだけではなく、男爵の地位まで与えられた。

「な、何で!」

「今さっき理由は言っただろうが。お前は学園を卒業したら男爵家の当主だ。だから、実家の寄子にはなれない」

男爵家である実家のバルトファルト家。

その寄子になろうと思えば騎士爵家と準男爵家の二つしかない。同格の家が寄子になるのは正直あり得ないというのがこの国の常識だ。

「男爵家規模の領地なんかないよ!」

「俺だって知るか! 王宮からの手紙に功績を評価して独立と陞爵を認めるとあったんだ!」

親父にとっても驚きらしい。

精々、独立を認めて騎士爵にしてくれる程度だと考えていたらしい。

「……もしかして、学園では」

「男爵家以上の跡取りが入るクラスになるな」

学園に通う貴族の大半は騎士家の子弟だ。だが、彼らと同じ教育を男爵家以上の跡取りにするわけには行かない。

次男や三男なら良いが、独立予定の俺は上級クラスに入るのが決定していた。

金を持っている家の次男や三男も、金を出して上級クラスに入りたがる。そのため、跡取りしかいないわけではないが……とにかく入りたくないクラスだ。

「普通クラスが良い」

「無理だろ。男爵家の当主だぞ。相応の教育が必要だ」

「なら嫁は!」

「……当然、同クラスの男爵家か子爵家から貰うことになる」

俺は絶望のあまり膝から崩れ落ちた。

「そんなの嫌だぁぁぁ!」

「馬鹿、泣くな! ゾラみたいな女だって少ない。それに、お前が思っている以上にいい女だって学園にはいるぞ……多分」

この親父、多分とか言いやがった。

ソレは逆を言えば外れしかいない状況かも知れないじゃないか。

「男爵から伯爵家の娘なんて一番の地雷だぞ! 俺は嫌だからな。絶対に嫌だからな!」

親父が慌てる。

「お前、貴族のお嬢さんを地雷呼びするのは止めろよ! 聞かれたら大変なことになるぞ。というか、お前の姉も妹もその男爵家の娘だからな」

「だから嫌だって言っているんだろうが! あいつらマジで最悪だ!」

出来ればもっと身分の低い女性の方が良かった。

「嫌だー! 俺はもっと大人しくて優しい女性が良いんだ。男爵家以上の娘とかあり得ないよ!」

親父が両手で顔を覆っている。

同意できる部分があるのだろう。

実際、田舎貴族なのに姉や妹たちは俺から見てもちょっと「え!?」って感じだ。

平気な顔で「男は甲斐性よね。顔のいい男は他で探すわ。もしくは奴隷! ねぇ、パパ~、私もエルフの愛人――じゃなかった、使用人奴隷が欲しい」と妹が言っているのを聞いてドン引きした。

俺の金で姉が奴隷を購入して自慢しており、羨ましかったらしい。

お袋はそんな娘たちを見てオロオロしていたし、俺や親父――そして実家に戻ってきた次兄はしらけた感じでその光景を見ていた。

姉とか妹とか害悪でしかない。

「とにかくお前が進むクラスは上級クラスだ」

跡取りや金持ちの貴族が通うクラスと、その他大勢の生徒が通うクラス。学園には二つのクラスが存在していた。

まぁ、男爵家以上の女子は無料で上級クラスには入れるのだが。

上級クラスと言えば、主人公たちと出会えるのかと思ったが……別に思い入れもないので興味がない。

「それに今年は王太子殿下に名門の跡取りたちも入学する。縁を繋いでおくのも悪くないぞ」

「いや、向こうからすれば俺たちなんて眼中にないでしょ」

乙女ゲーの王子様は普通っぽい子が好きであって、周りに集まる貴族なんか大っ嫌いだ。俺はそういう偏見の目で見ている。

「……分かっているけどハッキリ言うなよ。お前のおかげで少しは領地もマシになったんだぞ。あと二年もすればうちだってもっと裕福な生活だって」

落ち込んでしまった親父に謝罪しつつも、俺はこれからのことを思うと気が重くなるのだった。

ホルファート王国の王都は大陸中央に位置する。

その場所には昔からダンジョンが存在し、モンスターが湧き出していた。だが、同時にダンジョンには魔石などの鉱石が存在している。

それらが王国の財源や資源となっており、強国に押し上げた要因の一つとなった。

大陸は非常に大きく、海水から水をくみ上げている箇所も一カ所や二カ所ではない。何カ所からも水を引き上げており、大地は豊かだった。

自然と調和する美しい大陸という奴だが、王都の規模はとても大きい。

都市部だけで百万人はいるのではないだろうか?

下水やら電気も用意された近代的な都市。

そんな場所に貴族の通う学園は存在していた。

都市部から少し離れた場所にある小さな浮島は飛行船の港になっており、そこに領地から乗ってきた飛行船を停泊させる。

実家が購入した飛行船で、大きさは五十メートルクラス。

最新型の飛行船は上部に甲板を用意しているが、他は装甲で覆われている。形としては潜水艦に似ている。

次兄が旅行鞄を持って欠伸をしていた。

「実家から直でここに来られるのは良いな」

以前は乗り継いで実家に戻ることになっており、一年目と二年目は戻ってこなかったのが次兄と次女だ。

次女の【ジェナ】は、学園の二年生である。茶髪で都会かぶれした姉は、実家に金が入ったと知ると奴隷を購入した。

獣人の亜人で猫耳を持つ細マッチョの奴隷は、俺たちが着用している服よりも立派なスーツに身を包んでいた。

「もっと豪華な飛行船が良いわ。友達は豪華客船並の飛行船を持っているのに、私だけ貧乏な感じで嫌よ」

お前の飛行船じゃないし、嫌なら乗るなと言ってやりたかった。

次兄も同じ事を思っていたのか視線をそらしていた。

「お袋はまともなのに、うちの女共ときたら」

次兄と二人で旅行鞄を持って都市部に降りる定期便の飛行船。その乗り場に向かうと奴隷に荷物を持たせた次女も後をついてくる。

「ちょっと、あんたたち話を聞いているの? リオン、あんたまだ財産があるなら出しなさいよ。お姉ちゃんは交際費だって馬鹿にならないのよ」

後ろで五月蠅い姉とか言う生き物を無視して次兄と話をする。

「兄貴、俺だけ上級クラスに行くのが不満じゃない? なんなら俺の功績は兄貴のだって言ってやろうか?」

「弟の功績を譲って貰うほど落ちぶれていないっての。上級クラスになんか行きたくないね。何しろあんな女ばかりだぞ」

二人で後ろを振り向けば、まだグチグチと文句を言っている次女の姿があった。

「……俺の金で高い奴隷を買いやがって。糞が」

俺が忌々しそうに呟くと、次女の奴隷が俺を睨んでいた。

そのピコピコ動く猫耳で聞いていたのだろう。

次兄が俺の肩に手を置く。

「上級クラスでかぶれたんだよ。察してやれ」

上級クラスはとにかく身につける物やら奴隷などがステータスになる。そのため、金を持っている家のお嬢様たちは着飾って奴隷を連れ歩いて見せつけるのだ。

男が無駄に着飾り、女性の奴隷を連れて歩こうものなら白い目で見られるというのに……。

次兄は少し照れくさそうにお礼を言ってくる。

「まぁ、お前のおかげで俺もアルバイトに精を出さずに勉強が出来た。相手も見つかりそうだし、ありがたいとは思っているよ」

「じゃあ、俺を助けると思って――」

「無理なお願いは聞けないな。おっと、ここの乗り場は道に迷いやすいからちゃんと覚えておけよ」

次兄に案内される形で定期便の乗り場に移動した俺は、他にも学園に向かう多くの生徒たちの姿を確認した。

飛行船の港を利用しているのは主に騎士家から子爵家が大半だ。伯爵家以上の家になると専用の港が都市に用意されており、そこで乗り降りをしているらしい。

前世のイメージで言うと駅やらバス停のターミナルのようなイメージが近い。

港という感じはあまりしなかった。

待っていると定期便がやってくる。

俺たちの後ろでふてくされている次女が立ち上がろうとすると、何やら慌てていた。

次兄も額に手を当てている。

「どうかしたの?」

次兄は人混みを指さした。

「公爵家の取り巻き様たちだ」

見れば、堂々と横入りをしている集団が目にとどまった。女性陣を筆頭に、その後ろには美形の奴隷たち。そして、男子たちが続く。

次女が嫌そうな顔をしていた。

「今年は王太子殿下や有名どころの跡取りが来るからね。仕方ないわよね」

王子たちが来る。そして、その相手である婚約者たちも来る。

という事は、有名どころの貴族が一杯来る――名門貴族の生徒たちが大勢いると言うことだ。

その取り巻きたちは、名門貴族の地位を後ろ盾に偉そうにしているわけである。

「なるほど……ボスがいるから強気な子分たちか」

俺の言葉に次兄と次女が慌てていた。

「ば、馬鹿!」

「あんた馬鹿じゃないの! ねぇ、馬鹿なの!?」

二人は聞かれていないと知ると安堵する。

「耳の良い亜人たちが聞いているかも知れないだろうが。お前、もう少し緊張感を持てよ」

黙って何度か頷いていると、定期便の飛行船に取り巻き連中が乗り込んで王都に降りていった。

学園は王都の中に存在している。

人口密度の高い場所でこれでもかというくらいに広い土地を確保し、校舎も大きいが学生寮の規模も凄い。

次兄は普通クラスの寮に向かったが、俺の方は上級クラスが使用する寮になる。

気が重い。

学生寮とは思えない豪華さで、一階のロビーはまるでホテルだった。

受付にも人がいて、実際に働いている人たちはホテルの従業員のようだった。

「うわ~、ゲームで見た感じそのままだ」

豪華な学生寮。出てきた感想はその程度だ。これが待ちに待った学園! なら話も違うだろうが、俺にしてみれば牢屋みたいな物だ。

対して主人公は質素な感じの寮に押し込まれる流れがあるので、ゲームをプレイしていた俺には見慣れない景色だ。

受付に行くとどの部屋か教えられる。

もっと身分が高ければ荷物も持って貰えるらしいが、俺はクラスのカースト的に最下層なので自分で向かえというのを丁寧に言われた。

マジのカーストが存在しているから驚きだ。

クラス内での人気も関係するが、実家の規模とか実力がここでは大きく影響するのである。

「もう帰りたい」

鍵を受け取り部屋に向かうと、そこには俺と同じような学生たちがいた。部屋の位置的にあまり日当たりの良くない場所。

掃除はしているが部屋も他に比べれば狭いのだろうが、一人部屋であるのは救いだ。

先に送った荷物は届いているようで、箱を開けてみると俺の荷物が入っていた。

それらを部屋に置いていくと、机の上に教科書やらノートが置かれているのに気が付く。

もう準備はほとんど整っていた。

「至れり尽くせりだな。まぁ、卒業するまで頑張るとしますか」

どうせ三年だ。

正直、貴族の娘を嫁に迎えるのは抵抗が強い。しかし、結婚後にゾラのように王都や都会に住むのなら、俺は現地というか実家の領地で嫁――側室を探せば良いのだ。

相手はあまりいい顔はしないだろう、が。

親父のように仕送りさえしておけば文句を言う女も少ないだろう。

女性の多くが田舎貴族など相手にしないのも分かっている。

収入的な意味でも、外見的な意味合いでも俺は女性が欲しがる男ではない。そもそも次女のように都会に住みたいから田舎の貴族はちょっと……なんて奴が多いのだ。

まぁ、住みやすい都会の暮らしが良いのは俺も同じだが。

最後に旅行鞄を開けると中からルクシオンが飛び出してきた。

『到着したのならさっさと解放して欲しいですね』

「あ~、悪い。忘れてた」

『……流石はマスターです。賞賛に値する記憶力ですね』

こいつの皮肉を聞きつつ片付けを続ける。

「それで、船旅はどうだった?」

『原始的な飛行船ばかりですね。魔法技術に関しては驚くしかありませんが、科学で再現可能なレベルです。まぁ、今後も引き続き情報を収集しようと思いましたよ』

つまり見るべきところはあったのだろう。

「素直じゃないAIだな。ツンデレか?」

『おや? 私に異性を求めているので? 残念ですが、私には性別の概念がありませんのでマスターの気持ちには応えられませんね』

こいつ腹が立ってきた。

殴ってやろうと拳を構えると、そのまま俺から距離を取ったので片付けに戻る。

すると、ノック音が聞こえてきた。

学生寮を出て――というか、新入生を集めて先輩たちが連れ出してくれたのは学園の外にある洒落た居酒屋だった。

「え~、今年も同じ立場の新入生を迎えられ、誠に嬉しく思うわけでして」

挨拶をしているのは同じ地方の男爵家――その跡取りだった。

俺は近くにいた同じ新入生の【ダニエル・フォウ・ダーランド】に話しかけた。

ダニエルは小麦色の肌をした健康的な男子だ。短髪で背が高く筋肉質で好青年に見える。

「なぁ、なんでこんな歓迎会をしているんだ?」

「知らないのか? 同じグループで集まって悩みを相談しつつ情報を共有するんだよ。ほら、結婚とか大事だろ」

同じグループでまとまっていると確かに楽だが、好条件の女子が出てきた際に奪い合いになるのではないかと思った。

首をかしげていると、反対に座っていた眼鏡をかけた男子【レイモンド・フォウ・アーキン】が眼鏡を押し上げながら呆れていた。

こちらはダニエルとは反対にインテリ眼鏡で性格が少しひねくれていそうだ。

「女性の奪い合いになっても同じグループなら付き合いもあって無茶もしないだろ。揉めたらグループ内で話を付けるのさ。まぁ、奪い合いになることは滅多にないらしいけどね」

そういう物かと納得していると、上級生の挨拶が終わったので宴会が始まった。

今回の歓迎会は先輩たちのおごりらしい。

そして、来年は俺たちがおごる側に回るようだ。

上級生の一人がこちらにやって来た。

「いや~、今年は大出世した話題の騎士がいるから楽しみにしていたんだ。あ、俺は【ルクル】って言うんだ。よろしく」

ルクル先輩は三年生らしい。

既に結婚相手を見つけており、後は実家に戻るだけの状態のようだ。

「大出世の騎士?」

俺が首をかしげると、レイモンドが舌打ちをした。

「とぼけないで欲しいね。入学前に冒険者としてほぼ成功した男爵家の三男は君だろう? 王都どころか、僕の実家にも話は聞こえてきたよ」

ダニエルが驚いていた。

「あの噂の騎士ってお前だったのかよ!」

俺は顔を伏せる。

「仕方なかったんだ。金を稼がないと変態婆と見合いコースだったんだ」

俺の言葉で全員が察したのか、それ以上の追求はなかった。やはり同じ悩みを抱えているだけあって話しやすい。

ルクル先輩は笑いながら学園のことを話してくれる。

俺は気になったことを聞いてみた。

「そう言えば、うちの実家は長男が継ぐんですけど……このグループにいたんですか? あ、名前はルトアートって言います」

ルクル先輩は次兄と同じ三年生だ。

もしかしたら知っているかも知れないと思った。

「去年卒業したルトアート先輩? 僕たちのグループにはいなかったね。スクールカースト最下層はお呼びじゃないとか言っていたよ」

お前もその最下層だろうに。

ルクル先輩が当時のことを話してくれた。

「なんて言うかお金持ちのグループに混ざっていたね。無理して付き合っていたようにも見えたけど、本人の希望なら仕方がないし。仲が良かったの?」

首を横に振ると、ルクル先輩は「だろうね」と言ってジョッキを口に運んだ。

ダニエルやレイモンドが先輩に学園生活で気になることを質問し、先輩が面白おかしく答える。

そうした会話を聞いていると、ルクル先輩が俺たちに言うのだ。

「入学式まで残り数日だから、その間に王都の案内をするよ。あんまり遊びすぎて身を崩さないようにね」

三人で頷くと、ルクル先輩が言う。

「それと、君たちの学年に一人特待生が入学するらしいよ。優秀な人材を拾い上げるために、貴族以外の生徒も入学させるとかなんとか言っていたね」

その話を聞いてレイモンドが苦々しい顔をしていた。

ダニエルも面白くなさそうだ。

貴族の子弟からすればこの反応が当たり前なのだろう。

「特待生ですか? 普通クラスですよね?」

レイモンドの質問に、ルクル先輩は首を横に振った。

「上級クラスだよ。王太子殿下が入学する時期なのに迷惑だよね。あ、それから何かあったら教えてくれない。それに、その特待生――なんの伝もない平民って噂なんだよね」

俺は特待生が平民だと知っているので驚きもしないが、二人には衝撃的だったらしい。

俺も驚いておくふりだけしておいた。

将来的に聖女だったか? とにかく凄い血を引いていた事が判明し、貴族たちが手のひらを返すことになるのは黙っているべきだろう。

言ったところで誰も信用しない。

入学式当日。

大講堂とでもいうのだろうか?

とにかく、まるで劇場のような場所で入学式が始まった。

欠伸をかみ殺して出席してみれば、これ程までに貴族がいるのかと驚くような数が出席している。

なんとなく女子の香水の臭いが混ざり合って酷い感じになっている。

そんな中を紺色の髪を短くした王太子殿下【ユリウス・ラファ・ホルファート】が挨拶を述べている。

見るからに美形。背が高く引き締まった体はバランスも良い。

綺麗な肌に紺色の瞳は美しく輝いて見えた。

周囲の女生徒たちが溜息を漏らすのも理解できる。

アレは次元が違う。

近くにダニエルとレイモンドが座っているが、流石に王太子殿下に文句は言わないらしい。黙って話を聞いていた。

すると、後ろの方から――。

「ついに来たわね。もう、王子様ったら十年も待たせちゃって」

聞こえてくる声に振り返ったが、誰がしゃべったのか分からない。王太子殿下の美しさを口々に呟き、周囲と話しており誰か見分けが付かなかった。

だが、一人だけ――妙に気になる女子がいた。

金髪碧眼。

顔立ちは美人と言うよりも可愛い感じの女子は、周りの女子とは違う視線を王太子殿下に向けていたのだ。

ダニエルが俺を見る。

「なんだ、もう相手を見つけたのか? お、可愛い感じだな。あの子が好みなのか?」

からかってくるダニエルに対して、俺は静かに首を横に振った。

「いや、どちらかと言えば……嫌いだ」

「そ、そうか。可愛いと思うんだが」

その女子を見た時に最初に感じたのは怒りだった。どうして腹が立ったのか分からないが、とにかく嫌だった。

憎しみではない。何というかもっと複雑な……とにかく、異性としてみることは出来ない相手だと思った。