軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出陣

深呼吸をする。

王宮にある屋上の一つ。

太陽が昇ってくる景色を見ていた。

冷たい空気が体に入ると寒かった。

その寒さで目が覚める。

王都からは飛行船が出入りを繰り返し、住民たちの避難を続けている。

『マスター、パルトナーの準備が完了しました』

「これで俺の方は戦う準備が整ったな」

避難が続く王都――。

今、公国に攻め込まれたら困ってしまう。

「このまま予定通りに進んで欲しいな」

『……超大型の接近に伴い、通信状況が更に悪化しています。大陸の裏側に本体が回り込めば、私はマスターのサポートが必要最低限しか行えません。マスター、本当によろしいですね?』

球体の一つ目の姿は、ルクシオン本体の子機だ。

本体とのリンクが切れてしまうと、どうしても性能が落ちてしまう。

通信状況が悪くなり、今まで出来ていた偵察も出来ていない。

公国の動きが分からない。

分かっているのは、超大型がゆっくりと王都を目指して移動してきていることだけ。

「リビアとアンジェもいるから大丈夫だ。二人の愛の力でモンスターたちを吹き飛ばしてやる」

『愛ですか。本当に愛でどうにかなるのなら、世界中にあふれている愛とは何なのでしょうね?』

「俺が知るわけがないだろう。そういうのは勝った後に考えればいい」

『それよりも、本当によろしかったのですか? アレからお二人を避けていますよね?』

ジョークグッズで二人が愛し合っていると分かったのだ。

俺が二人の邪魔をする必要もないだろう。

「流石の俺も予想外すぎて何も言えないからな」

『お二人はその後にマスターを探していたそうですよ。――! マスター!』

ルクシオンが空を見上げていた。

王宮の一室。

そこにはリオンの師匠がいた。

お茶を用意しており、向かい合って座っている女性二人の給仕をしている。

朝早くに向かい合っているのは、ミレーヌとヘルトルーデだった。

「王女殿下、この戦争を止められませんか?」

「無理よ。公国はこの日のために何十年も耐えてきたのよ。今度は貴女たちが 蹂躙(じゅうりん) される番ね」

薄らと浮かべた笑みを見て、ミレーヌは目を閉じる。

「王国が悪だと言いたい気持ちは分かります。ですが――」

「あら、脅すつもり? もう遅いわ。あの子の持つ魔笛は、空と海に公国の守護神を呼び出すの。一度命令されたら、それらを実行するまで止まらないわ。もう手遅れよ」

自分を使った交渉も意味がない。

ヘルトルーデがそう告げると、ミレーヌは首を横に振る。

持っていた随分と古い書類、そして一冊の本をテーブルの上に置いた。

「これは?」

「まずはこれを読みなさい」

ヘルトルーデが読んだ書類は、公国が独立したばかりの時代の物だった。そこには、これまでの蛮行についての賠償について書かれていた。

王国ではなく、公国が行ってきた蛮行についての賠償だ。

「う、嘘です。公国は独立のために、不当な扱いを行う王国と戦ったのです! これは偽物ですね」

ミレーヌはあきれ果てた目をヘルトルーデに向けていた。

「綺麗事だけ聞かされて育ったのですね。傀儡としては素晴らしい王女でしょう。国が綺麗事だけで動いていると思っているのですか?」

本に書かれているのは、王国と公国の間にあった歴史だった。

公国――大公は、王国と敵対する国と繋がり、王国を何度も攻めていた。

攻め込んだ領地で略奪の限りを尽くしていた。

大公家の軍事力は相当なもので、王国も困り果てていた。

大公家一つを潰すのは簡単でも、周囲に敵国を抱えているので全力を出せなかったのだ。

そのため、辺境伯を置いて国境の守りとした。

「軍事施設を用意し、飛行船を揃え、浮島を運び要塞としました。その時、莫大な資金と資材、そして労働力が消費されたそうです」

大公家に腹を立て、王国は臣下ではなく敵国として扱ったのだ。

大公家は公国を名乗ると、これまでの略奪が行えないため一時的に疲弊する。

結果――戦力を整えようと、まだ人が住んでいる浮島から浮遊石を得るため、砲撃で破壊してしまった。

激怒する王国と、辺境伯により公国軍は敗北。

賠償を約束させた後は書類へと繋がる。

「この後も公国は王国を攻めました。辺境伯を配置した後は被害も少なくなりましたが、恨みは消えません。以前公国に攻め込んだ際に、乗り込んだのは今まで公国が蹂躙してきた土地に住んでいた人々です」

王国が絶対的に正しいとは言わないが、ミレーヌはヘルトルーデに事実を突きつけた。

「本当に公国は王国から略奪するのが好きなのですね」

「違う! 公国は独立のために戦ったのよ。王国が不平等な条約なんて結ぶから!」

「賠償を請求しただけです。当時は払う気などなかったのでしょうね。負けたので渋々払い、生活が苦しくなったら王国が悪いのですか?」

ヘルトルーデが顔を赤くしてカップを手に取ろうとすると、師匠が素早く動いた。

「紅茶が冷めてしまいましたね。煎れ直しましょう」

ヘルトルーデが悔しそうに師匠を睨むも、ミレーヌが話をしているのは自分だと言いたげに、

「貴方には知る義務があります。確かに王国は公国領で略奪を行いました。ですが、そこに至る経緯を忘れて貰っては困ります」

混乱するヘルトルーデだったが、師匠が急に窓の外に視線を向けた。

サイレンが鳴り響き、王都に敵が来たことを知らせていた。

ミレーヌが立ち上がる。

「予定よりも早いわね」

師匠がヘルトルーデを見た。

「王女殿下の救出でしょうか?」

「あり得ますね。魔笛を彼らに渡してはいけません。リオン君は?」

「既に外にパルトナーが出撃しています。ミスタリオンは迎撃に出たのでしょう。頼もしい限りです」

ヘルトルーデは足が震えていた。

師匠が二人を床に伏せさせる。

「お二人とも、失礼いたします」

直後、爆発音が王都上空で響き渡る。

王宮の屋上に降り立つアロガンツ。

すぐに乗り込む俺は、ルクシオンから状況説明を受ける。

『やられました。上空からの奇襲攻撃です』

「お前のレーダーもたいしたことがないな」

『通信状況が悪いと言いました。攻撃前に気付いたことを褒めて欲しいですね。パルトナー、緊急発進します』

王都の空を守るように出撃したパルトナーを見た俺は、アロガンツの操縦桿を握りしめ空へと舞い上がった。

王都にサイレンが鳴り響いている。

「何隻だ」

『三十隻です。飛行船が降下してきます。同時に、爆弾を投下してきましたね』

「撃ち落とせ」

パルトナーが攻撃を開始すると、空に弾丸がばらまかれ爆弾に命中していく。空で爆発すると、灰色の煙が王都を覆った。

朝日が綺麗だった空は、急に曇り空になったようだ。

『マスター、王国軍が指示を求めてきています。迎撃部隊の出撃が遅れているようです』

「避難を優先させろ。味方が空に上がるまでは、俺とお前であいつらをどうにかする」

『敵、鎧を出撃させました』

操縦桿を握りしめ、アロガンツの背負ったコンテナからライフルを取り出すと構える。

急降下してくる公国軍の鎧に乗るパイロットたちの声を拾う。通信にノイズが混じり、聞き取りにくい。

『出てきたぞ! 外道騎士だ』

『隊長、あんな大きな鎧が凄い勢いで近付いてきます!』

隊長機に狙いを定め、ライフルを構えて引き金を引く。

『問題ない。あいつは人も殺せない 臆病者(おくびょうもの) ――え?』

腹部を撃ち抜き、鎧が爆発すると周囲の鎧たちが慌てていた。

『隊長ぉぉぉ!』

『あいつは殺さない不殺の騎士じゃなかったのかよ!』

ライフルを向けてくる敵に対して、俺は操縦桿を強く握った。

何が不殺だ。

俺が不殺を貫いたのは、あの時点ではまだどうにかなる状況だったからだ。

事ここに至っては――もう不殺なんて言っていられない。

犠牲を出しすぎた。

「ここまで俺を追い込んだのはお前らだ。悪く思うなよ」

弾丸を避け、当たったとしても弾くアロガンツ。

左手に戦斧を持たせ、すれ違いざまに一体を深く斬りつける。近付いてきた他の鎧を蹴り飛ばし、ライフルを構えた俺は飛行船の機関部分を狙った。

引き金を引き、少し遅れて飛行船が火を噴き出した。

空の上で逃げ惑う公国の軍人たち。

その姿をモニターで見ていた。

「最悪だ。本当に最悪だ。お前らが来なければ、俺はこんなことをせずに済んだんだ!」

『逃げれば戦わずに済みましたが?』

「そしたらもっと嫌なことになるから戦うんだろうが! 王国も嫌いだが、公国はもっと嫌いだ! これなら婚活で悩んでいた方がマシだ!」

吐き気を我慢してアロガンツを操縦すると、周囲の敵が集まってくる。

アロガンツを目がけてやってくる鎧たち。

『奴を止めろ!』

『この外道が!』

どうやら外道、外道騎士は、俺の通り名らしい。

何が外道だ。

外道は俺にこんなことをさせる――お前らだ。

「逆恨みで攻め込んできてんじゃねーよ!」

また一体を破壊し、ライフルを飛行船へと向けた。

戦場となった王都の空。

ユリウスは王宮の廊下を駆けていた。

「ジルク!」

見つけたのは親友のジルクだ。

彼はパイロットスーツを着用している。

「ご無事でしたか、殿下!」

駆け寄るジルクに、ユリウスは窓の外を見上げながら悔しそうな顔をしていた。

「公国の連中は何を考えている。今更、王都を攻める理由は何だ?」

モンスターを引き連れずに、公国軍だけで乗り込んできたのを不審に思うユリウスに対して、ジルクは自分の考えを述べた。

「ヘルトルーデ王女殿下――そして魔笛を取り返そうとしているのではないでしょうか?」

ユリウスが右手で壁を叩き、苛立ちを隠そうともしない。

「バルトファルトは何をしている!」

「迎撃に出ています。殿下はお下がりください」

「馬鹿を言うな。俺も出るぞ」

そんな二人のところに、護衛に守られたミレーヌとヘルトルーデ――そして師匠が姿を見せた。

ミレーヌはユリウスに強めの口調で、

「それはなりません」

「母上?」

振り返ったユリウスは、顔を引き締めミレーヌに出撃させて欲しいと願い出た。このような状況を黙ってみていられないという気持ちだった。

「俺も出撃します。母上たちはすぐに避難を」

「ユリウス、貴方に戦う力はありません。そして、貴方の仕事は生き残ることです」

「ジルクは戦うのですよ! 俺だけに逃げろと言うのですか!」

「えぇ、そうです。貴方は逃げることしか出来ないのよ」

「飛行船を出せとは言いません。鎧を一機用意してくれれば――」

「ユリウス、貴方のために鎧を用意する人はいませんよ」

ユリウスが驚き、ならばジルクはどうしてパイロットスーツに着替えているのかと思って振り向いた。

自分と同じで、ジルクも鎧を持っていないはずだ。

「実家に頼み、一機用意して貰いました。他の三人も同じです。殿下、あとはお任せください」

そんなジルクに、ユリウスは力なく首を横に振る。

「どうしてだ。どうしてお前たちが俺を裏切る! 協力しようと言ったじゃないか。あの言葉は嘘だったのか。マリエを一緒に守ろうと!」

俯くジルクを責めると、ミレーヌが止めに入った。

「ユリウス、もう王宮には鎧も飛行船もないのよ。貴方に戦う力はない。ここは素直に私たちと避難しなさい」

王宮が保有していた鎧も飛行船も出払っている。

ユリウスに回す鎧がなかった。

だが、ユリウスは思い出した。

「あります! 公爵家の飛行船には、まだ余っている鎧があったはずです。騎士を募集していると聞きました。すぐに俺が向かえば――」

「――貴方はレッドグレイブ公爵家に何をしましたか? 公爵家は、既に貴方の支援者ではないのですよ。ジルク、公国軍が降下してきています。出撃するなら早くしなさい」

「はっ! 殿下、それでは失礼いたします」

ミレーヌが「武運を祈っています」と言って見送ると、ユリウスはその場から駆け出すのだった。

混乱する王宮内。

アンジェはリビアの手を引いて走っていた。

窓の外を見るリビアは不安そうにしていた。

「王都に接近するまで気が付かないなんて」

「普段よりも通信機のノイズが酷い。ルクシオンが発見できないなら、私たちではどうにもならない。とにかく、王家の船まで移動する」

アンジェが窓の外に視線を向けると、パルトナーの姿が見えた。

一隻で王都の空を守っている。

(リオンの奴はどこにいる)

二人が王家の船に認められた後、リオンは姿を消してしまった。

話に聞けば落ち込んでいたらしいが、王家の船に選ばれてしまった二人もその後は忙しく結局リオンには会えなかった。

リビアが俯く。

「浮かれていた私たちに愛想が尽きたんでしょうか?」

「そ、それはないと思うが――いや、確かに私たちが悪かった。だが、謝る暇もなくいなくなるとは思わなくて」

あの後、気が付けばルクシオンが手配していたロボットたちがやって来て、王家の船を整備し始めた。

ドアをこじ開け、中に入り整備を始めたので大騒ぎだった。

王都の空からは発砲音に爆発音が絶え間なく聞こえ、何かが王都に落ちた音も聞こえてくる。

(父上も兄上もここにはいない。タイミングが悪すぎる)

王宮の空には、護衛のために出撃した飛行船が姿を見せた。

その内の三隻は、公爵家がアンジェのために残した飛行船だった。いざとなれば、逃げ出させるために用意されている。

アンジェのための戦力でもある。

そんなアンジェたちの前には、肩で息をするユリウスが現れた。窓の外を見ており、アンジェに気が付くと近付いてくる。

「殿下、こんな所で何を?」

急いで逃げようと提案するアンジェに対して、ユリウスは頭を下げてきた。

「アンジェリカ、頼みがある。お前が持つ戦力を――公爵家の艦隊を貸して欲しい」

リビアがオロオロとしていた。

アンジェは、一瞬驚くもすぐに冷静になり首を横に振る。

「彼らは私の護衛で部下ではありません。命令できるのは、父上か兄上――もしくは、リオンだけです」

リオンの名前を聞いて悔しさが顔に出るユリウスは、それでも頼み込んできた。

「飛行船を貸せとは言わない。鎧一つでもいい。俺は卑怯者になりたくないんだ」

戦場から逃げたくないというユリウスの言葉に、アンジェはまたも首を横に振った。

「駄目です。殿下、我々と避難をしてください」

アンジェの言葉に、ユリウスは顔を上げる。

「お前の気持ちを裏切った俺が憎いのか?」

だから戦力を貸さないのだろうと問われ、アンジェは気が付いた。

(何だろうな……もう、憎しみも悔しさもない)

復讐してやろうという気持ちよりも、リオンが無事なのかという気持ちの方が強かった。同時に、早く顔が見たかった。

「憎かったのは事実です。でも、もう私は――リオンが好きですから」

そう言って微笑むと、ユリウスは少しだけ 狼狽(うろた) えていた。

何か言いたそうにしたところで、公爵家の騎士たちがアンジェたちに駆け寄ってくる。

アンジェはすぐに命令した。

「これから地下に向かう。殿下もお連れしろ」

「はっ!」

騎士たちがユリウスを囲み、そして地下室へ向かって移動を開始した。

リビアがアンジェの手を握る。

「大丈夫ですか? あの、えっと――」

「気にするな。私は大丈夫だ。色々と吹っ切れた」

そう言って笑顔になるアンジェを、ユリウスは見て俯いてしまう。

リビアがユリウスを見て、

「どうかしましたか?」

ユリウスは 自嘲(じちょう) していた。

「アンジェリカがこんな風に笑うところをはじめて見た。……それだけさ」

ユリウスの言葉を聞いたが、アンジェはリオンの心配をする。

(リオン、無事でいろよ)

公国軍の飛行船。

艦橋にはゲラットの姿があった。

ゲラットは、空高くから王都を見下ろし親指の爪を噛む。

「またも邪魔をしますか、外道騎士! 絶対に本隊へ来ると思ったから、奇襲部隊に志願したというのに」

王国側が、一か八かの賭に出て公国軍の本隊に決戦を挑むと考えていた。そして、その 先鋒(せんぽう) はリオンだと思っていたのがゲラットだ。もしくは、王国の上層部に飛行船を取り上げられ出撃できない状態だと考えていた。

どちらにしろ、出てこない確率が高いと思っていた。

「本隊が来るまでに魔笛を回収せねばならないと言うのに!」

本隊は空の守護神と言われる超大型と一緒に行動している。

出現場所が王都から遠く、移動速度が遅いという欠点もあってまだ王都に到着していなかった。

「あの魔笛は大地の守護神を呼び出す貴重なアイテム。失うわけには――」

ゲラットが回収したかったのは、ヘルトルーデではなく魔笛だった。公国の宝であり、奪われたままでは自分の将来に関わる。

そのため、無理に「ヘルトルーデを救出する」と言って、ヘルトラウダから三十隻の飛行船を借りて奇襲をかけた。

近くにいた軍人が、ゲラットに報告をする。

「伯爵、既に十隻が撃沈。鎧も次々に撃ち落とされています」

「見れば分かります! あの外道騎士、不殺を諦めるなど騎士としての意地がない! このままあいつがここに来れば、私は……こ、こんなところで死ねない!」

すぐに撤退を決めるゲラットだが、既に遅かった。

飛行船の艦橋――その前に姿を見せたのは、アロガンツだった。

鎧から音声が聞こえてくる。

『こいつが旗艦か』

向けてくる銃口を前に、ゲラットが両手で顔を覆う。

アロガンツのコンテナの一つが開放され、そこに積み込まれたミサイルが発射されると飛行船に襲いかかった。

「こんなところでぇぇぇ!」

アロガンツが引き金を引いた瞬間に、ゲラットの意識は途切れてしまう。

王都の避難場所の一つ。

飛行船に乗り込もうとする人々を守るのは、クラリスだった。

飛行船に乗り込み指示を出している。

アトリー家が保有している飛行船で、避難民を乗せて王都からの脱出を手伝っていたところだった。

「何としても避難民を守りなさい!」

避難民を急いで収容するが、公国軍の勢いが勝っていた。

地上ではバリケードを作り騎士や兵士たちが戦っているが、押し込まれていた。

空ではエアバイクに乗った学生たちが、公国軍のエアバイク部隊と交戦をしており地上も空も騒がしい。

地上にいたクラリスたちを守る鎧は、公国の鎧たちによって破壊されるのが見えた。

降伏を考えるクラリスだったが、敵は飛行船に攻撃を仕掛けてくる。

『避難民でも関係ない。王国の外道共は殺して罪を償わせろ』

敵の声に、クラリスは悔しそうに奥歯を噛みしめた。

「好き勝手暴れたのは、あんたたちも同じじゃない!」

すると、一機の鎧が飛び上がり艦橋前に姿を現した。

持っていた斧を振り下ろすと、天井に切れ目が入る。そこを無理矢理広げた鎧からは、下品な笑い声が聞こえてきた。

『女がいるぞ! しかも貴族の女だ!』

クラリスは嫌な予感に冷や汗を流す。

戦場で女性が捕まればどうなるかを知っているため、その後の予想に体が震えていた。

クラリスに鎧が手を伸ばしてくるので、近くにいたクルーたちがライフルで攻撃するも鎧は弾丸を弾いていた。

『そんな豆鉄砲が効くかよ。お前はその身で自分たちの罪を償え!』

クラリスに鎧の手が届きそうになると、乱暴に鎧が艦橋から引き剥がされてしまった。

見上げるとそこにはアロガンツの姿があった。

右手に持ったライフルを公国軍に向けると、そのまま引き金を引く。

弾丸は鎧の腹部を貫き、敵が動きを止めるとアロガンツの握った鎧から声がする。

アロガンツから離れられずに暴れ回っていた。

『放せ! この――』

アロガンツの左腕から衝撃波が放たれ、鎧のパイロットからは声が聞こえなくなった。

鎧を放り投げ、そのまま次の戦場へと飛び去ってしまうアロガンツを見送り、クラリスは小さく溜息を吐く。

「……無理しちゃって」

投げ捨てられ地面に落ちた鎧。

腹部を撃ち抜かれ動かなくなった鎧……手加減など考えない戦い方に、クラリスはリオンが無理をしていると見抜くと心配そうな顔をするのだった。

コックピットの中。

エチケット袋に何度目か分からないが吐いてしまった。

胃液のツンとした臭いが気持ち悪い。

降下した公国軍が王都内で暴れ回っている。

「降伏しろよ。何で暴れ回るんだよ。もう勝負は付いただろうが」

旗艦を潰した。

彼らの頭を叩いたのに、それでも抵抗を続けている。

『降伏しても、というところでしょうか?』

一部では降伏した公国軍を、王国軍が認めずに撃ち殺している戦場もある。

市街戦で王都の至る所から煙が上がっていた。

口元を拭い、そして周囲を見る。

「次の戦場はどこだ?」

ルクシオンに尋ねるも、どうやら時間が来てしまったらしい。

『……マスター、どうやら時間です。これより、サポートは最低限しか行えません』

いつもの声が申し訳なさそうに聞こえてくる。

「そうか。頑張れよ」

『本当によろしいのですか?』

「構わないからいけ。お前にしか頼めないだろうが」

ルクシオンは一つ目で俺を見た後に、一度お辞儀をするように一つ目を動かす。

『王家の船の整備は終了しています。アレには私とは別の人工知能をサポートに付けました。何かあればそちらに――』

電子音にノイズが混じり、そして普段と少し違うルクシオンの声に変わった。

『本体とのリンクが切断されました』

機械的な口調に、俺は少しだけ不安を感じつつも操縦桿を握り直す。

「――頼むぞ、相棒」

浮かび上がる大地と海の隙間。

海から伸びる水の柱は、大地が海水をくみ上げているものだ。

それとは別に、大地を海から伸びた触手のような腕が何本も突き刺していた。

海面から顔を出すのは大きな人の顔だ。

まるで島のようなそのモンスターは、海の守護神である超大型だった。

飛行船――否、宇宙船ルクシオンは七百メートルを超える大きさだ。そんなルクシオンが小さく見えてしまう。

『何とも大きなモンスターですね』

たった一隻で大陸の下に潜り、海の守護者と呼ばれるモンスターを前にしてルクシオンは落ち着いていた。

『まぁ、倒し続けることに何の問題もありません』

ルクシオンの主砲が光を放つと、大地に突き刺さっていた腕が全て切断され黒い煙へと変わっていく。

大きな顔の瞳がルクシオンを見ると、海面から次々に触手が出現してルクシオンに絡みついた。

『私に触れるな』

そう言うと、灰色の船体から次々にレーザーの発射口が出現。発射口から放たれたレーザーに触手は切り払われる。

船体からミサイルの発射口が姿を見せると、一発のミサイルを放った。

命中すると大爆発を起こして超大型を吹き飛ばしてしまう。

黒い煙が周囲の視界を覆い尽くすように広がった。

『徐々に復活しつつありますね。マスターの情報に間違いはなかったということですか』

海面から再び触手が出現すると、それを次々に撃ち抜いていく。

人の顔を持ったまるでイカのようなモンスターが、ルクシオンの前に姿を現すと海面が大きく波打っていた。

そんな姿を見たルクシオンは――主砲で撃ち抜いて再び黒い煙に変える。

『私がここにいる限り、貴方の目的は達成できそうにありませんね』

問題なのは、もう一体の相手をルクシオンが出来ないことだ。

そちらはリオンとパルトナーに任せるしかない。

復活やら再生を繰り返す敵に攻撃を繰り返し、ルクシオンは動きを完全に封じ込めていた。

だが、同時にリオンの言った通りだと判断する。

『確かに負けはしませんが、勝つことも不可能ですね。問題は、反対側にいるもう一体……マスターの生存確率が予想よりも下がってしまう』

ルクシオンの本体が、艦内にある工場でシュヴェールト……リオンのエアバイクの改修を始めた。

修理するため、ルクシオンが本体に移していた。

修理は終わったが保管した状態だったので、丁度良いと改修を始める。

『シュヴェールト、マスターのために生まれ変わりなさい』

大地と海の狭間で、ルクシオンは超大型モンスターを相手にする。