軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒騎士

空の上。

アロガンツに乗る俺は、コックピットで悪態をつく。

「こいつらウゼぇ!」

集団で襲ってくる敵の騎士たちは、上下左右と俺を囲んで遠距離からの攻撃を仕掛けてくる。背中を見せれば斬りかかってくる。

そちらを向けば散開して逃げていく。

『随分と訓練されていますね』

弾丸は装甲が弾き、接近戦でも傷はつかない。

ダメージはないのだが、問題は倒すのに時間がかかることだった。

「おまけになんで撤退しない!」

『既に損耗率は二割を超えているのですけどね。敵は撤退しないようです。通信を傍受しましたが、どうやら撤退できない理由があるようですよ』

ルクシオンが傍受した情報に寄れば、撤退を進言する軍人たちが多いらしい。

それを指揮官は拒否していた。

「さっさと逃げろよ!」

逃げてくれないとこっちが困る。

アロガンツを加速させ、空中で敵の鎧をブレードで突き刺す。突き刺したのは中にいる騎士が傷つかない場所だ。

ブレードを引き抜き、敵飛行船の甲板に蹴り飛ばしておく。

「無駄に抵抗しやがって!」

どうして逃げないのか考えつつ周囲を見れば、ルクシオンが状況を報告して来る。

『パルトナー、護衛対象に接近します。救助を開始します』

傾いた豪華客船を守る位置についたパルトナーは、救助艇を出して人命救助を開始している。

「豪華客船はもう駄目か」

黒い煙が至るところから立ち上り、既に船体が歪んでいた。

「このままこっちが撤退だな。パルトナーに全員を乗せたら離脱しろ。いつまでも付き合っていられるか」

『――! マスター、新手が出撃してきました。機体色はブラック。敵、精鋭部隊と思われます』

ブラックと聞いて俺は嫌な思い出が蘇った。

前世――ゲーム中最強の敵は【黒騎士】だった。とにかく強く、黒騎士相手に何度もゲームオーバーにさせられてきた。接近戦はクリスよりも強く、遠距離戦闘ではジルクが相手にもならない公式チートが黒騎士である。

いったいどれだけ苦労させられてきたことか……こいつも戦略モードの難易度を上げた元凶の一つだ。

「黒騎士かよ!」

ルクシオンが警戒を強めていた。

『パルトナーの砲撃を避けています。ドローンも破壊して進んできます。このままでは救助を邪魔されます』

「上等だ。俺が相手をする!」

しかし、今の俺はアロガンツに乗っている。

チート戦艦ルクシオンがいる今、俺に恐れるものは何もない!

黒騎士くらい倒してみせる!

こちらに向かってくる映像を見た。

すると、黒い機体は……あ、あれ? 五機もいるんだけど?

パルトナーに移ったリビアは、部屋の中でアンジェと――ヘルトルーデの三人になっていた。

混乱する船内、馬鹿なことをする……ヘルトルーデを狙う貴族の子弟がいないとも言い切れず、アンジェが見張る形を取っていた。

窓に広がる戦場の光景は、幾分か落ち着いては来たが終わらない。

アンジェが苛立っている。

「何故退かない? もう勝負はついているはずだ」

ヘルトルーデは捕らえられたのに堂々としていた。

「……言ったはずです。公国は止まりません。この程度では退きませんよ」

リビアがリオンの無事を祈る。

「リオンさん、大丈夫でしょうか?」

アンジェは頷く。

「簡単に負けるとは思えない。ただ、何が起きるか分からないのが戦場だ」

窓の向こうに見えたのは、リオンの駆るアロガンツと――それを追いかける黒い鎧たちだった。

その姿を見て、ヘルトルーデが焦る。

「バンデル! どうして……」

バンデルの名前を聞いてアンジェも焦る。

「黒騎士か? まさか、ここで出てくるのか?」

リビアは訳が分からなかった。

「あ、あの、黒騎士というのは?」

アンジェが説明する。

「私たちが生まれる前から活躍している公国の騎士だ。王国は奴一人のために飛行船を何十隻と沈められた。百に届くかも知れないな。鎧はその何倍も討ち取られた」

アンジェがチラリとヘルトルーデを見るが、口を閉じて俯いている。その姿は悲しそうに見えた。

アンジェはヘルトルーデの様子を気にしながら続きを話すのだ。

「……最近は名を聞かなくなった。もう年齢も年齢だが、病気でもしているという噂があったな」

リビアはそんな強い騎士がリオンを狙っていると聞いて焦る。

「そんな強い騎士様がいたんですね。リオンさん、勝てるでしょうか?」

「流石に予想は――」

予想が出来ないというアンジェの言葉にヘルトルーデの声が被さった。

「バンデルは負けません! 公国最強の騎士が、王国の卑劣な騎士になど絶対に負けません!」

卑劣と言われ、リビアは言い返すのだった。

「リオンさんは卑劣じゃありません!」

「はっ! 笑わせてくれますね。王国が二十年前に公国にしたことを忘れたのかしら? それとも、自分たちは間違っていないとでも教えているのかしら? 学園というのはとても素敵なところみたいね、アンジェリカ」

アンジェリカは少し俯いた。

「アンジェ?」

リビアに対して、アンジェは昔の事を話した。

「私たちが生まれる前――王国は公国に侵攻した。一度や二度ではない。何度も攻め込み、そして公国を追い込んだ。その度に、公国は王国を追い返していたよ」

リビアが驚く。

「そ、そんな。だって、そんな話は聞いたことがありません。王国が攻め込んだって話も聞いたことが――」

ヘルトルーデはリビアを睨み付ける。

「平和ボケとはこの事ね。自分たちのしてきたことを教えていないのだから。教えてあげなさいよ、アンジェリカ。貴方たちが公国で何をしてきたのかを」

アンジェリカは口を噤む。

それだけの事をしてきたのだと、リビアも察して悲しい気持ちになるのだった。

目の前に迫る黒騎士――たちに向かって、ライフルを構えて引き金を引く。

しかし、彼らは一騎、一騎が強者なのか、ライフルの銃口を見た瞬間に射線を回避していた。

「こいつら全員チートかよ!」

空を後ろ向きに飛び、向かってくる黒騎士たちの気迫に圧倒される。

『――性能はこれまでの鎧よりも上ですね。公国は王国よりも技術レベルが高いと思われます。飛行船、鎧、そして組織体系などが王国よりも優れています』

「技術大国か? 親近感がわくな」

『向こうは敵意がわいていると思いますよ』

ルクシオンの言うとおりだった。

とにかく俺を討ち取ろうとする気迫が凄い。

今も一騎が距離を詰めて斬りかかってくるのを、ブレードで受け止めるが――。

『王国の外道が! その首を渡せぇぇぇ!』

機体性能で弾き返し、そしてまたライフルを構えるが――すぐに散開する。

ルクシオンが言う。

『恨まれていますね』

「過去の云々とか、そんな感じだ。俺には関係ないのにさ」

王国が昔攻め込んだから恨まれているのだ。

そんな重たい設定を乙女ゲーに持ち込むなと言ってやりたいが、事情を知っている俺からすれば一方的な被害者面はどうかと思う。

……乙女ゲーに重い設定を持ち込みやがって! もっとふわふわ軽い感じにしろや!

「ルクシオン、ライフルとブレードは収納しろ」

『武器を交換しますか?』

「素手で勝負する」

両手を空けた俺に対して、黒騎士たちが激怒しているのが分かった。

ただ、気になるのは五機で追いかけてくる中、後ろで控えている鎧だ。いかにも隊長機という感じなのに、先程から一人だけ静かだった。

アロガンツが距離を詰めてきた敵を手で掴む。

ユリウス殿下に行った攻撃――大きな衝撃を与えて粉々にするアレだ。とにかく、そんな機能がある。

その出力を絞り込めば――。

「もういい加減に下がれよ!」

黒い鎧は衝撃を受けても、たいしたダメージは受けていない。だが、中のパイロットは別である。

黒い鎧からアロガンツが手を離せば、そのまま海に向かって落ちていく。

「これで仲間を助けに――」

落ちる仲間を助けに行くため、更に一機がこの場を離れる。

そう思っていたのに、

『マスター、後ろです』

振り返ると、剣を振り下ろしてくる鎧の姿が見えた。展開しているドローンたちの攻撃を無視して、ボロボロになりながら俺に一撃を入れるために向かってくる。

「――ちっ!」

左腕でガードすると、相手の剣が折れた。

接触した際に声が聞こえてくる。

『消えろ、王国の化け物』

その直後、ルクシオンがアラートを鳴らしてきた。

『――! マスター!』

アロガンツが振り返ると、残り三機が俺に向かって突撃してくる。真正面には、隊長機らしき黒騎士が大剣を向けて突撃してくる光景が見え――そのままモニターが黒く染まると、大剣の剣先が俺に迫ってきた。

クリスは公国の騎士を一人倒し、そして周囲を見回していた。

「数が随分と減った。バルトファルトはどこだ」

味方を探すクリスが見た光景は、アロガンツに大剣を突き刺す黒騎士の姿だった。

目を見開く。

「黒騎士が出て来ただと……」

クリスの家は剣術指南役であり、父は剣聖の称号を持っている。だが、そんな父でも黒騎士相手に勝つことは出来なかった。

公国最強の騎士に貫かれるアロガンツを見て、クリスは歯を食いしばり俯くがすぐに顔を上げた。

既にパルトナーに乗員は避難を終えている。

最悪、自分が時間を稼げばみんな生きて帰れる。

「マリエ、すまない。どうやらここまでのようだ」

剣を構えてリオンの下に向かおうとすれば、急に黒騎士たちの様子がおかしくなった。

アロガンツは、剣を関節に突き刺す黒い鎧二機を両手で掴む。

そのまま両手が光り、衝撃が発生すると黒い鎧はまるで中にいる騎士が気を失ったかのように落ちていく。

そして黒騎士が大剣を抜くと、追いかけるために動き出した。

ボロボロになった黒い鎧が間に入れば、そのまま掴まれまた衝撃波で戦闘不能にされ投げ飛ばされた。

「あいつ、生きていたのか!」

黒騎士に追いすがるリオンを見てクリスは喜ぶ。

「いけ、バルトファルト! お前なら――お前なら黒騎士に!」

貫かれたモニターを手で取り払う。

アロガンツの胸元が開いた形になった。外の風がコックピットに入り込み、開放感が凄い。同時に、生身が外に出た形は不安だった。

間一髪で頭部を右に避けた事で、頭部を守った俺は頬から血を流していた。

コクピットの頭部目がけて向けられた大剣。

これが腹部だったら死んでいた。

「はぁ……はぁ……」

肉眼で見る黒騎士は、大剣を構えていた。

ルクシオンが俺に声をかけてくる。

『性能は三割減です。パイロットへの負担増加。撤退を進言します』

「アロガンツの装甲を貫くとか聞いていないぞ」

『敵の持つ大剣は、どうやらこの世界特有の金属【アダマティアス】のようです。ファンタジー金属ですね』

「ファンタジーの塊みたいなお前がそれを言うのかよ」

特別製の大剣。

それを振り回すのは、ほとんどチートのような黒騎士という存在だ。

「さっさと撤退しろよ」

愚痴をこぼすと、ルクシオンの反論が耳に痛い。

『マスターが相手の命を奪わないようにした結果です。そのため、彼らは退くに退けない状況に追い込まれたと推察します』

本当に耳が痛い。

相手が俺に話しかけてきた。

『若いな。若すぎる。これが王国の騎士か?』

黒騎士の細かな設定なんて知らないが、声は渋かった。年齢は初老か壮年の野太い声だ。

「お前らが攻め込むから戦うしかなかったんだろうが」

『そうだ。俺の時もそうだった。小僧、王国に生まれたことを恨め』

大剣を構える相手を見る。

操縦桿を握りしめ、アロガンツの拳を構えさせると緊張で呼吸が乱れている。

どうして俺がこんなギリギリの戦いをしなければいけないのか?

普段なら絶対に逃げている。

逃げない理由? 啖呵を切って逃げ出すのがかっこ悪いのと、こいつが逃がしてくれそうにないからだ。

相手の持っている大剣……下手をしなくてもパルトナーの装甲だって貫く。

こいつだけはここで倒しておかないと危ない。

『……撤退しない理由をお聞きしても? その気になれば――』

「悪いな、俺にも意地がある」

こちらが動き出すと、敵も動き出した。

首に提げたお守りが揺れる。

大剣を問答無用で振り下ろしてくる黒騎士は、俺を最初から殺すつもりのようだ。右腕で受け止めると、右腕を随分深く切られた。

アラートが聞こえ、左手を黒騎士に向ければ危険を察知したのか剣を引き抜きつつ俺の真上を飛んで後ろへと回る。

振り返ると大剣を横一文字に振るう黒騎士。

前に踏み込むと右肩に大剣が深々と突き刺さった。

「機体性能の差があるはずなのに!」

文句を言うと、ルクシオンは冷静に返答する。

『操縦者の技量の差ですね』

左腕を黒騎士に叩き込み、そして衝撃波を放とうとすると黒騎士は乱暴に左腕を蹴り飛ばして離れた。

そのまま互いに身を削るような戦いを繰り返し、そして最後に――夕日を背に黒騎士が俺と向かい合う。

黒騎士は左腕を失い、そして片足もない。

こちらもボロボロで、俺は外に姿が見えている。

黒騎士も随分と弱っていた。

『……王国の騎士に負けるわけには』

絞り出した声は苦しそうだった。

俺も苦しい。

黒騎士が突撃してくると、夕日が眩しく目を細めてしまった。大剣がキラリと光った気がする。

距離を詰められ、黒騎士がアロガンツに大剣を突き刺す。

俺はそのままアロガンツから飛び降りて、黒騎士の鎧にアンカーを引っかけて飛び移った。黒騎士は俺の行動に驚くも、笑っていた。

『勝負を捨てたか!』

「いや、俺の勝ちだよ」

右手に拳銃を持ち、俺は黒騎士に向ける。すると、俺の方に気を取られた黒騎士は、アロガンツが動いていることに気が付かなかった。

アロガンツが黒騎士を抱きしめ――締め上げていく。

『なっ! どうして動く!』

黒騎士の頭部を引き剥がし、そして身動きの取れない中のパイロットに銃口を向けた。

「終わりだ。降伏しろ」

その言葉に黒騎士は、

「殺せ。降伏などしてたまるか」

拒否してきた。

だが、気が付けば船上の音が聞こえなくなっている。

浮かんだルクシオンが俺の側にやって来た。

『制圧が完了しました』

動けなくなった敵の艦隊。鎧も全て海の上だ。

黒騎士が悔しがっている。

「姫様をお救いできないとは」

そんな黒騎士の様子を見ながら、俺は敵の飛行船から放たれた光を見た。照明弾のようなソレを見て、俺は眉間に皺を寄せる。

「往生際が悪すぎる」

ゲラットは、黒騎士が負ける姿を見て気が狂ったように笑っていた。

「終わりだ。私はおしまいだ」

生きる伝説のような黒騎士を敗北させてしまった。

公国にとっては酷い痛手である。

学生に負け、出すなといわれていた黒騎士も出して敗北……ゲラットは持っていた銃のような物を懐から出して窓に近付く。

一発だけ撃てるソレは、魔笛を研究して作られた道具だ。

モンスターを呼び寄せることが出来る。

魔笛で率いるモンスターたちを集めるための道具だが、その中でも特に強力な効果を発揮するため使用を控えるように命令された物だった。

「こ、こうなればせめて全てを消し去らなければ。将来、私が無能として歴史に名を刻まないためにも」

空に向かって引き金を引くと、照明弾のような光が打ち上げられた。

暗くなり始めている空に輝くその光と――妙な音。

それに引き寄せられるかのようにモンスターたちが出現してくる。

空から、海から……続々と集まってきた。

「さぁ、化け物たち同士で食い合え!」

ゲラゲラ笑うゲラットを慌てて押さえに来る軍人たち。

だが、モンスターたちは次々に集まってきた。

黒騎士を抱えたアロガンツの上に立っていた。

俺は小さく溜息を吐く。

肩の側で浮かんでいるルクシオンが、俺を見ている。

『……これだけ集まると壮観ですね』

身動きの取れない黒騎士が、味方の飛行船を睨んでいた。照明弾を打ち上げた飛行船だ。

「愚か者が。この場の証拠全てを消し去るつもりか。おい、小僧! 姫様に伝えろ。魔笛を吹くように言えば良い。この状況、お前らにも不都合だろう」

魔笛で新たに集まったモンスターを操るつもりか?

確かにありだが……そうなると、また敵が増える。

黒騎士が俺の疑念に気付いて話をする。

「今更、お前たちと争うつもりはない。このまま双方、全滅するのが望みか!」

俺はルクシオンに視線を向けた。

「全滅なんて嫌だね。ルクシオン、やれるな?」

『ようやく出番ですか』

そう言うと、ルクシオンの赤い瞳が光った。

すると、空に浮かぶ雲の一つから次々に細い光が放たれ集まるモンスターたちを貫いて黒い煙に変えていく。

黒騎士が首を動かしその光景を見ていた。

「何が起きている!」

まるで流星群でも見ているような気分だ。

俺は黒騎士を見る。

「切り札を持っているのはお前たちだけじゃないんだよ。その辺を国に帰ったらちゃんと伝えるんだな」

すると、黒騎士が俺を怒鳴りつける。

「俺の首を取らないつもりか!」

爺の首なんているかよ!

「いらないね。ちくしょう、俺のアロガンツをここまでボロボロにしやがって……あ、この大剣は貰っていくから。没収するわ」

この大剣のせいで焦ってしまった。

「小僧! 貴様の甘さは命取りになる。忘れるな、次は必ず貴様を討ち取ってやるからな!」

憤慨している黒騎士を見つつ、俺は笑みを浮かべた。

「まだ分からないの? お前ら、増援が来た時点で負けていたんだよ。お前らはその甘さに救われたんだ。俺が優しくて良かったな。感謝しろよ。お前らみんな生きて帰れるのは俺のおかげなの。文句を言う前にありがとう、って言わないとね。あと……殺せ、云々だったけど、大丈夫。俺はお前たちを殺したから」

黒騎士が驚いた顔をしていた。

もう殺したという意味が分かっていないらしい。

「ど、どういう事だ」

「爺さんには分からないかな。お前らさぁ……学園の生徒。子供に負けたの。大の大人が軍隊を動かして、切り札も用意して、完全敗北だよ。分かる? お前ら、人としては生き残ったけど、騎士とか軍人としては死んだの。帰ったら再就職先を探そう!」

黒騎士が目を見開く。

「貴様、我らに恥辱にまみれ生きろというのか!」

黒騎士に顔を近づけ頭突きをすると、頭が痛かった。この石頭爺が。

「負けたのに何を偉そうにしているの? お前は負けたの。恥辱にまみれて生きろ。俺は人としては優しいが、騎士としては外道や卑劣と呼ばれても良いと思っている」

黒騎士が歯を食いしばっていた。

俺は黒騎士を笑ってやる。散々ゲームでも現実でも手間取らせやがって。

お前は少し反省しろ!

黒騎士の顔は憎悪に歪んでいた。前世――黒騎士が出てくると同じように俺の顔も歪んだものである。……悔しさがこみ上げてくる。

「騎士としての情も持ち合わせていないか。この外道が!」

「外道で結構! ついでにお前のその顔が見たかった!」

散々苦労させてくれた黒騎士の悔しい顔が見られて満足だ。

「はぁ、スッキリした。今日は気分よく眠れるな」

話し込んでいる内にルクシオンがモンスターたちを全て倒し終え、周囲は静寂に包まれる。俺は黒騎士を拘束したままパルトナーへと向かい、そして後片付けを始めるのだった。

一段落した後。

パルトナーの格納庫に俺は足を運んだ。時間は随分と遅くなっていた。

ボロボロにされたアロガンツに突き刺さった大剣を眺める。黒い大剣は、これまで多くの血を吸ってきたのだろう。

『マスター、どうしてわざわざ戦われたのですか? 私の本体ならば、黒騎士を倒すのは容易なことでした』

俺が自分から命を危険にさらしたと思っているのだろう。ルクシオンが責めてくるが、目の前の大剣を見て思うのだ。

圧倒的な力で敵を全て消し去ることも可能だった。ただ、それをやれば俺は大量虐殺者だ。

悩まずにいられるだろうか? ……無理だな。絶対に後悔するし、きっと悩む。

「全て消し去ったとして、それを見た連中はどう思うかな?」

『……マスターを脅威とするでしょうね』

「この大剣と同じだ。黒騎士みたいに今度は俺が王国に酷使されるか、嫌になって反旗を翻しても、次は王国と戦って余計に血を流す。そういうのは馬鹿だと思わないか? ……俺、そういう面倒な事は嫌いだね」

甘い? それがどうした。終わりなく戦うなど人生を損している。

俺は小物であると認めているが、修羅や戦争狂にはなりたくない。

……これが嫌だから、俺は引きこもりたかったのに。

翌日。

公国の浮遊島には、破壊された公国の飛行船が積み上げられていた。

ロボットたちが次々に作業をしてくれるので、大量の浮遊石が手に入る。

……全部俺の物だ。

「鎧も運び出せよ。状態が良い飛行船は持ち帰るぞ」

ルクシオンが俺の側に浮かんでいるが、どうやら肩の近くがお気に入りのポジションらしい。

『根こそぎ奪うなんてマスターには人情がありませんね。流石です』

「だろ? 俺もこんな自分が嫌いじゃない」

近くにいるのは、拘束された使者だった男――ゲラットだ。

随分とボコボコにされているが、やったのは俺ではない。

捕まえたときにはこの状態で気を失っていた。

何でも伯爵らしく、この艦隊でも結構な地位にいた。

「バルトファルト男爵、出来れば浮遊石は返していただけないでしょうか?」

俺はニヤニヤしながらいうのだ。

「え~、どうしようかな? こっちは豪華客船を襲撃されて破壊されたから、少しでも回収したいんだよね。あ~あ、誰かさんたちが襲ってこなければこんな事にならなかったのに」

「そ、それでしたら、公国と王国の間で正式に交渉を――ひっ!」

俺はわざとらしく床を乱暴に踏んで音を立てた。

「何で勝った俺が譲歩するの?」

「いや、しかし――」

「良いよね?」

「いやあの――」

「良いよな?」

「……は、はい」

俺に生殺与奪を握られているゲラットが、悔しさに顔を歪めていた。

「いや~、俺って優しいわ。だってこれだけでみんな許してやるんだもの。俺の優しさって罪だわ~」

ルクシオンは呆れている。

『情け容赦のないマスターって素敵ですね』

「負けた兵士を捕らえて奴隷にしないだけマシじゃない?」

『空賊は子爵家に売り払いましたけどね』

「売ったね。丁度、鉱山が見つかった子爵家がまとめ買いしてくれて助かったよ。そもそもあいつら犯罪者だからね。捕まればどうなるか分かっていたはずだし、後悔なんかしないはずだよ」

『助けを求めていましたが?』

「そんなことも言っていたね」

次女が迷惑をかけた子爵さんの家に売り払った。

今後は人のために鉱山で空賊たちも必死に働いてくれるだろう……命懸けでね!

鉱山の労働なんて重労働で命懸け。大人でもバタバタ倒れていくような場所である。

そんな場所に公国の兵士を送り込まない俺は、優しさにあふれていると思った。

……ただ、内心で少し焦りもある。

これだけ多くの戦力を削りはしたが、公国は戦争を止めるだろうか、と。

「……止めないだろうな」

将来への不安が膨らむも、これだけ頑張ったんだから後は王国で何とかして欲しいと思ってしまう自分がいた。

目の前には壊れた鎧が多い。

「これも修理に出さないと駄目だな」

『私が修理しても構いませんが、全てを私が行うと私の能力を疑う方も出てきます。ここは鎧を整備する工場に依頼するべきでしょうね。一番良いのは、マスターがそういった工場を持つことですが』

「すぐには無理だけど、それもいいな。今はどこかに依頼するか」

『最近は鎧製作のスペシャリストを名乗る詐欺師も多いようです。依頼する場合は気をつけた方が良いでしょうね』

「あぁ、そう言えばゲームでもそういう詐欺師がいたな」

ルクシオンが告げてきた。

『マスター、そろそろ時間です』

「そうだな。奪う物は奪ったし、帰るか」

『まるで空賊のような台詞ですね』

浮遊島一つを残し、公国は飛行船とほとんどの鎧を俺に奪われるのだった。

パルトナーの船内。

俺は豪華客船の船長やら、色々な話をして疲れて部屋に戻った。

ドアの前にはガードマンのようなロボットがいて、部屋を守っている。「ごくろうさん」といってドアを開けようとすると――俺の邪魔をしてきた。

「おい、なんで俺の部屋なのに俺を通さない」

ロボットが俺の入室を阻止してきた。

何やら頭部の目が光って何か訴えているが、俺は無理矢理部屋の中に入ろうとする。

「良いから通せよ! 眠いんだよ!」

邪魔をするロボットの言葉を、ルクシオンが俺に伝えてきた。

『マスター、どうやら部屋にお二人が――』

ドアを開けて部屋の中に入ると、俺のベッドでリビアとアンジェが向かい合うように横になっていた。

お互いの手を握って眠っている姿。

布団が掛けられており、どうやら制服も脱がされている。お世話をするロボットが浮かんでおり、二人の制服にアイロンをかけていた。

そうなると、布団の下は下着?

二人とも可愛い寝顔をして、静かに寝息を立てていた。

なんて尊い光景だろう。

……俺はゆっくりとドアを閉めた。

そしてドアを背にして、そのまま座り込む。

「……言えよ! 覗いちゃったじゃないか! アンジェパパに殺されちゃうよ!」

膝を抱えて怖がっている俺に、ルクシオンの言葉がかけられたが――。

『どうやら部屋で待っている間に眠ってしまったそうです。お疲れだったのでしょう』

……二人とも可愛かった。

俺の精神が大人でなければ、そのまま覗き込んでいたかも知れない。

二人とも、俺が大人で良かったね。

「俺はどこで寝ようかな?」

避難した学生やら船員やらがパルトナーに乗り込んでいるため、空いている部屋があるのか考える。

すると、足音が聞こえた。こちらに近付いてくると立ち止まり、そして見上げればクリスが立っていた。

「……どうした?」

「バルトファルト、答えて欲しい。お前が……お前が私と剣術の勝負をしないのは、私ではお前に勝てないからだろうか?」

……何を言っているんだ、こいつ?

剣術に才能が振り切れたようなお前に、俺が勝つ? 冗談だろうか?

「何? 冗談?」

クリスは首を横に振る。

「いや、黒騎士に勝ったお前だ。私たちなど眼中にないのだろう。私ではお前の技量を測ることは出来なかった。自分が恥ずかしい」

勘違いを恥じた方が良いよ。

勝ったのはアロガンツの性能があったからだし。

「それは勘違いで――」

しかし、クリスは決意を新たにしたような顔で告げてきた。

「必ず追いつく! 私はお前に認められるくらいに強くなる。それを、言いたかった――お前は私の目標だ」

そう言って歩き去って行くクリスに、誤解を解こうと思ったが面倒なので止めた。

どいつもこいつも改心するのが遅すぎる。

去っていくクリスを見ながら思った。

「……よし、今度はあいつに功績を押しつけるか」

『また悪巧みですか?』

悪巧みとは失礼な。

俺が出世するよりもきっとみんな喜んでくれる。

俺はそう思いつつ、ドアの前で座りながら眠るのだった。

「いや~、公国は強敵でしたね」

学園の自室。

ようやく修学旅行から戻ってきた俺は、ベッドに横になりルクシオンと話をしていた。

『よく言いますね』

あの後、色々と取り調べを受けた。

しかし、俺は黒騎士の大剣を渡す際に「クリスが頑張ってくれました!」と役人に何度も念を入れて伝えている。

ほとんどの功績を伝えず、みんな頑張った。俺、感動しました! という態度で俺は協力しただけという立場に徹した。

王宮としても、騎士団や軍が来るまで待てとか嫌味を言われたが……。

危機的状況だったので、取りあえず俺に問題はないとされたのだ。

今回頑張った男子や女子には、国から褒美が出るらしい。

勲章的な物が出ると聞いた。

『それにしても、黒騎士の大剣を献上してよろしかったので?』

「万単位の人を屠った大剣とか呪われていそうだから嫌だ。同じ材質の物はお前が用意できるだろ?」

『解析したので可能です。それにしても、飛行船と鎧まで献上しますか? 王国と公爵家の両家に無償で献上するとは……』

王宮に媚びを売る。

そして、アンジェパパにはアンジェの寝顔を見た後ろめたさもあって引き渡した。

「別に良いだろ。まだ残っているし。大事な浮遊石は手元にあるからな」

今回は昇進もない。

みんなと一緒に勲章を貰って終わりだ。

『マスターがそれでいいのなら、こちらは構いませんが……』

今回は色々とあった。

反省点も見つかった。

そろそろ、本格的に頑張るとしよう。リビアの腕輪を回収して、後は公国との戦いを終わらせればソレで終わりだ。

やっと俺もこの騒がしい日々との付き合いを決めることができた。モブのままでもいい。ただ、あの二人の側にはいたい。

さて……そのためには色々と準備が必要になるな。