軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ワロス

甲板の上に来た公国の使者たち。

身なりの良さから身分の高さがうかがえた。

俺たちに向けられた態度は明らかに横柄で、整えた自分の髭を触りながら宣言する。

「男爵家以上の子弟は助けてあげましょう。それ以下の騎士家の子弟に興味はありません。亜人の奴隷も同じです。もちろん、この飛行船も船員も必要ありません」

大半が絶望した表情をする中、安堵しているのは上級クラスの生徒たちだ。

亜人種たちは何か文句を言いたそうにしていた。

女子の一人が、

「ま、待ってよ! 私の専属使用人は助けてよ!」

そんな女子に使者は侮蔑した態度で答える。

「ならば貴方は愛人と一緒に沈みなさい。奴隷付きの人質など面倒なのでね。まぁ、貴族としての心意気を見せるのなら、ここで沈んだ方が良いでしょうけどね。もっとも、腑抜けた王国の貴族では無理でしょうが」

そんな使者の前に出たのはアンジェだった。嫌な予感がする。

「なんだ、この小娘は」

アンジェの態度は堂々としていた。

「……レッドグレイブ。アンジェリカ・ラファ・レッドグレイブ。私の家名くらい知っているだろう」

公爵家はとにかく有名だ。

流石の使者も目を見開き驚くが、すぐに笑みを浮かべた。

「まさか公爵令嬢が乗っておられるとは……王国は本当に間抜けですね。そんな大事な人物を護衛もなしに旅に出すなんて」

使者は手を広げる。

「さて、そんな貴方がどうして名乗り出たのでしょう? もしかして、私たちがその名にひれ伏すとでも?」

お前の家名に恐れないと言う使者に、アンジェは小さく息を吐いた。何か覚悟した姿に、俺が前に出ようとすると背中から男子たちが俺を押さえ込んだ。

「は、離せ! お前ら、一体何をしているのか分かっているのか!」

俺がもがくが、大勢で押さえつけられる。

それを見ていた使者が首をかしげていた。

「誰です?」

アンジェが答える。

「……私の友人だ」

「何とも友達思いですね。……五月蠅いので黙らせておきなさい」

全力で起き上がろうとすれば、拳や蹴りが俺に飛んでくる。

「お、お前ら!」

「アンジェリカ様のご厚意を無駄にするつもりか? お前は黙っていろ!」

アンジェの取り巻きに殴られ口の中を切った。血の味が口の中で広がる。

それが分かっていたなら止めろよ……。

予想通り、アンジェが言う。

「公爵令嬢に価値がないとは言わないよな? 私一人を人質にし、皆の命を助けろ」

使者が髭を撫でながら、

「良い心がけです。まぁ、後は戻ってからお話ししましょう」

するとオリヴィアさんが声を上げた。

「アンジェ!」

周囲の亜人種たちがオリヴィアさんを取り押さえていた。

「は、離してください。アンジェ、行かないで!」

手を伸ばしたのはオリヴィアさん一人だった。連れて行かれるアンジェは、振り返ると笑っていた。足が小さく震えている。

「――リビア、ありがとう」

そう言って使者たちが乗ってきたボートに乗せられ、そのまま去って行く。

俺は強く蹴られて甲板の上を転がった。

腹を押さえると、オリヴィアさんが駆け寄ってきて俺を庇う。

「リオンさん!」

俺を見下している男子と専属使用人たち……まずいな。恨みを買いすぎてしまった。

「お前のせいで全部無駄になるところだっただろうが」

「この馬鹿貴族が」

「おい、船員。こいつを牢屋にでもぶち込んでおけ」

集まってくる船員が俺を取り囲んだ。

……この糞共が。

公国の飛行船――モンスターの上に作られた建物の中、貴賓室でアンジェは騎士たちに囲まれていた。

対面しているのはヘルトルーデ王女だ。

「アンジェリカ、久しぶりとでも言えば良いのかしら? まぁ、互いに挨拶しかしていない関係ですけど」

アンジェは不敵に笑っていた。

「公国の国力で本気で戦争をするつもりか? 今回の一件、小競り合いでは済まないぞ」

王国と公国には国力に大きな差がある。

それを知っているアンジェだったが、内心では少し焦っていた。

(こいつら、いったい何が目的だ? 国力差を埋める何かを得たか?)

ヘルトルーデは伏し目がちに答えた。

「そうね。でも、国力差なんて関係ないのよ。外の様子を見なかったの?」

「モンスターを従えていたな。それだけで王国に勝てると?」

「……勝つわね」

すると、側にいた重鎮らしき人物がヘルトルーデの話を遮った。

「殿下、それよりもあの豪華客船ですが」

「あぁ、そうだったわね」

アンジェが睨み付ける。

「私の投降で見逃すはずでは?」

「それも考えたのだけれど……アンジェリカ、使者は助けるなんて言ったのかしら?」

ヘルトルーデの言葉にアンジェは目を閉じた。

(……やはり当初の予定通り、男爵家以上の子弟を人質にするつもりか)

しかし、

「考えたのだけれど、貴方一人で十分ではないかしら?」

「――な!」

驚くアンジェリカに、騎士たちが剣を向け取り囲んだ。

ヘルトルーデは淡々と話をする。

「貴方が連れ去られるとき、抵抗したのは二人だったそうね? なんと薄情な貴族の子弟たちかしら。貴族としての気概もなければ正義もない。そんな者たちは必要かしら?」

「お、お前は何を言って――」

「アンジェリカ、貴方には全てを見て貰いましょうか。ここから王国が滅ぶ様を――」

学園の生徒たちが乗る飛行船に、それを伝えるために使者が向かうのだった。

牢屋に放り込まれた俺は座って天井を見上げていた。

鉄格子の向こうでは、オリヴィアさんが泣いている。

俺を出して欲しいと願い出ても駄目で、今は鉄格子を掴んですすり泣いている。

「もう泣くなよ」

「だって。アンジェが……アンジェ一人を犠牲にするみたいで。リオンさんも怪我して、私は何も出来なくて」

ウジウジして嫌な奴――と、昔の俺だったら思ったかも知れない。前世の俺なら、こんなキャラは嫌いだ。

だが、誰かのために泣けるというのは、凄いことなのではないだろうか?

そんな場所にやってくるのはクリスだった。

悲痛な面持ちでやってきたクリスは、牢屋の前に来るとオリヴィアさんを無視して俺に話しかけてくる。

「バルトファルト――先程、使者が来た。人質はアンジェリカだけで十分。覚悟を決めろと言ってきた」

また一時間後に攻撃を行うと言い、最後に華々しく散って見せろと笑っていたようだ。

生徒たちも船員も、そして亜人種たちも絶望しているらしい。

「……それで? 俺に何をしろと?」

嫌な予感がしていたのだ。

それなのにアンジェを渡すとか……取り巻き連中は恥を知れば良いと思う。

クリスは眼鏡を外した。

「手を貸して欲しい。この船には鎧が六つはあるらしい。私とお前で何とか船が脱出するまで時間を稼ぎたい」

俺は鼻で笑った。

「嫌だね」

クリスが目を細めるが、俺を責めなかった。

「そこを曲げて頼む。全員がここで死ぬわけにはいかない。お前は飛行船の護衛でもいい。私がこの場に残る」

それで押さえられる数ではない。いくら鎧でも万という数のモンスターを相手になど出来ないのだから。ソレを知らないクリスでもないだろう。

「……リオンさん」

オリヴィアさんが俺を見ている。俺なら何とか出来るのではないかという目だ。

純粋で綺麗な瞳が怖い。何もかも見透かされそうで……。

「そんな目で見るな。俺に何を期待している? そもそも、アンジェを見殺しにした生徒たちを助けろ? 笑わせるよね。おまけにボコボコにしてくるし。みんな沈めよ」

悪態をつくとクリスが意外にも同意してきた。

「あぁ、そうだな。何も出来ない私たちは沈んで大地ではなく海に還るべきかも知れない。だが、それでも私はお前に頼みたい。可能性があるのはこの方法だ。頼む……私たちを助けてくれ」

頭を下げてくるクリスを前にして、俺はゆっくりと立ち上がる。

「――断る」

クリスが悲しそうに頭を上げた。

「……すまなかった。邪魔をしたな」

去って行こうとするクリスを呼び止めた。

「馬鹿が。話は最後まで聞けよ。そもそも包囲されているのに逃げられるわけがないだろうが。お前が残っても囲まれて終わりだ。俺との戦いで何も学べていないな」

戦略ゲーム的に言えば、詰んでいる状態から始まっているようなものだ。

クリスが振り返ってくる。

「だったらどうする! この状況で、お前に何か策があるのか? 一人だけ逃げるつもりなら勝手にしろ。私は別に止めない」

……頭が硬いんだよ。

俺も頭が良い方ではないが、俺より不器用とか悲しいだろ。泣いてやろうか?

それは良いとして、

「お前一人で戦っても駄目だ。俺と二人でも駄目だ。だったら、全員でやるしかないだろうが。アンジェを見捨てた馬鹿共には責任を取って貰う。いいか、俺は何もしない奴を助けるほどお人好しじゃないんだよ」

「……無理だ。みんな絶望していて立ち上がれすらしない。それに、こういう時に私が頼ろうとしたのはバルトファルト、お前だ。分かるだろ?」

クリスが言いたいのは「他の奴ら役に立たない」だ。

激しく同意するが、そんなカス共にも働いて貰うしかない。

俺は鉄格子の側に顔を近づける。クリスも近付き、互いに鼻が触れそうになった。

「戦力の分散はこれ以上できない。一丸となってやれるなら、正面突破が一番だ」

「正面? お前の方が馬鹿だろ」

「あぁ、馬鹿だよ。でも、ただ死を待つより利口だと思うけどね。いいか、あいつらの旗印を逆に奪ってやれ。堂々と包囲網を突破する」

汗が頬を伝うクリスは息をのむ。

「お前は船を守れ。自慢の剣術を披露するのはここだ」

クリスが引きつった笑みで言う。

「自慢した覚えはない」

「世間ではお前の行動は自慢しているのと一緒だ。努力の成果を見せろ。積み上げてきたのは、今日この日のためだと思え。俺は死ぬつもりはない。お前も生きたいだろ?」

その言葉に、クリスは俯いて考え――顔を上げた。

「……そうだな。マリエの笑顔を見たい」

……最後に落ちをつけやがった。

お前ら本当は洗脳されているんじゃないの?

あいつのどこがいいの?

クリスが鍵で牢屋を開けると、俺は外に出た。座り込んだオリヴィアさんに手を伸ばす。

「手伝って貰うぞ」

「は、はい! 私、頑張ります!」

涙を拭って立ち上がるオリヴィアさんは、表情を引き締めていた。アンジェを救うために頑張るつもりのようだ。

……マリエより、絶対にこっちの方がいいって。

クリス、お前も目を覚ませよ。

そう思っていたら、クリスは胸に手を当てて呟いていた。

「マリエ、私はもう一度お前の笑顔を見る。そのために、力を貸してくれ」

その手にはお守りが握られていた。

「あ、それ」

「これか? 祭りで買ったら入っていた。武運のお守りらしい。今にして思えば、縁起が良かったな」

盾と剣の小さなお守り。

俺は笑うのだった。もっとも持つべき者に、そのアイテムが渡ったのが嬉しかった。

「あぁ、お似合いだ。お前、最高に運が良いよ」

「そ、そうか。何だか、お前に言われると照れるな」

……いや、頬を染めて照れるなよ。反応に困るだろうが。

クリスが呼びかけて生徒や船員の代表者が集まった一室。

広間に来た俺は、途中で船員から購入したショットガンを持っている。

絶望したのか俯いている奴が多い。

ショットシェル――ショットガンの弾を確認する俺は、広間にある階段の中央で演説をするクリスを見ていた。

階段に腰掛け、集まった連中の顔にも視線を向ける。

「……全員が助かるためには、戦うしかないと判断した。みんな、力を貸してくれ」

そんなクリスに浴びせられる声は罵声である。

「調子に乗るなよ、一年が!」

「あんたたいして強くないのになんで威張っているのよ!」

「そこにいる屑野郎に負けたくせに!」

俺を屑野郎呼ばわりした男子を睨み付けると、相手はコソコソと隠れてしまった。だが、顔は覚えたので後で仕返しをする。絶対だ!

三年生から一年生までいるこの状況。

しかも、これから死ぬかも知れないのだ。

普段の序列など何の意味もないと、あからさまな態度を取る奴もいる。普通クラスの男子たちが笑っていた。

「戦うだってよ。上級クラスの男子様は偉そうだよな。命令すれば誰もが言うことを聞くと思っているのか?」

「偉そうに命令しやがって」

「そもそもさぁ……そいつ、廃嫡されて何の権限もないよね?」

女子も同じだ。だが、専属使用人たちが女子と言い合いをしている。

「ちょっと、命令に従いなさいよ!」

「五月蠅いぞ、小娘! 今更お前の命令に何て従えるか!」

騒がしくなってくるこの場で、俺は階段から腰を上げた。

ショットガンを担ぐと、全員の視線が集まる。

「ガタガタ五月蠅いんだよ、カス共が」

武器を持った俺を前に静まりかえる聴衆。向けられる視線は恐怖やら憎悪といった感情が込められている。

「よく聞け。俺は正式に男爵位を持っている騎士だ。おまけに五位下――引率している教師たちよりも実質的に立場が上だ。分かる?」

教師たちが視線をそらした。

影の薄い教師陣は、これでも一応は貴族である。ただし、身分は高くない。

学園長くらいなら俺よりも立場が上だろうが……それ以外は俺よりも立場が下になる。

師匠くらいか? 俺よりも立場が上なのは?

まぁ、あの人は人として尊敬している。俺が立場は上でも頭が上がらないだろう。

「その俺がお前らに命令してやるよ。戦え。死にたくないなら戦え」

当然だが、俺の物言いに反発して誰かが口を開く。

「ふ、ふざけんな! お前らで戦えよ!」

俺はショットガンを肩に担ぐ。

「はぁ? 当たり前だろ。戦うよ。だって貴族だからね。知っているか? 貴族というのはかつて活躍した冒険者たちの末裔だよ」

誰でも知っていることを偉そうに口にする俺を、ヒソヒソと小声で馬鹿にしてくる。

「あいつ頭でも打ったの?」

「そんなの当たり前じゃない」

「ほら、あいつ馬鹿だから。最近知ったから、みんなに自慢したいのよ」

苛々する女子たちだ。

「え? もしかして知っていたの? 嘘だ~。だって、知っていたら震えて怯えているなんて真似は恥ずかしくて出来ないよね? もしかして、知っているのにここで絶望していたの? ねぇ……恥ずかしくないの?」

こいつ何を言っているんだという顔を全員がしていた。

見上げてくる関係ない専属使用人や船員たち。

「死ぬような航海の末に大地を見つけてきた。時にはダンジョンに挑んで財宝を得るため、何人も死んだ。常に戦い続けてきた冒険者の末裔が、この程度で腰が引けて動けない? お前ら、ご先祖様に恥ずかしくないの?」

文句を言ってくる奴もいるが無視をする。

「あぁ、ごめん。どいつもこいつも腰抜けばかりだったね。これは、公国の使者が言うとおりだ。お前らに期待しても無意味だな。それにしてもきっとご先祖様たちは悲しむだろうね。いや……笑うかな!」

俺は腹を抱えて笑う仕草をする。

「きっとさ『俺の子孫弱すぎ ワロスwww』ってさ!」

ワロスとは前世のインターネット用語だ。笑うから、段々と変化してワロスになった訳だが、当然ながら目の前の奴らに意味は分からない。

ただ――時に言葉よりも態度や熱い気持ちで語りかける事が大事だ。

俺のあざ笑いたいこの気持ちを……言葉ではなくこの熱い気持ちを届けたい!

「頑張って貴族になったのに、自分の子孫は腰抜けで冒険者失格の屑ばかり。きっと草葉の陰で泣くよりも笑っているね!」

この世界の貴族は冒険者の末裔である事に誇りを持っている……設定だ。それを学園も教えるし、中には立派な先祖を敬愛している奴もいる。

そもそも、冒険者という立場に憧れるのがこの世界の貴族たちだ。

……そこを煽ってやればどうなるか?

「ば、馬鹿にするな! 俺のご先祖様は、お前なんかよりもっと凄い人だぞ!」

俺は馬鹿にしたように笑う。

「あぁ、凄いね。でも、それってお前のご先祖様が凄いんであって、お前には何の価値もないわけだけど、そこをどう思う? ほら、聞かせてあげなよ。みんなに言ってごらん。そして胸に手を当てて考えてごらん。そんな凄いご先祖様が、今のお前を見てどう思うのか? ほら、みんなも胸に手を当てて! 聞こえないか?」

やっていない奴もいるが、多くが胸に手を当てていた。中には船員の姿や、そして専属使用人たちも胸に手を当てていた。

「ほら、ゲラゲラ笑っている声が聞こえるか? それとも悲しんでいるか? 呆れて肩をすくめていないか? お前ら……恥ずかしくないの? 偉大な冒険者の子孫が、この程度で諦めて投げ出すの?」

言い返せる奴が少なかった。

まぁ、言い返してきても笑ってやるが。

「狙うのは敵の旗印。あの王女様をさらって逃げる。戦う者は武器を取れ。今ここで戦わない奴は、海に沈んで先祖に笑われろ。生き残ったら一生後悔しろ。……意地を見せる馬鹿野郎はいないのか!」

一人の男子が叫んだ。

「ふざけんな、この糞野郎が! お前に言われなくても俺は戦っていた! おら、武器を渡せ!」

すると、他の男子たちも意地を見せる。

「普段からダンジョンで稼いでいる俺たちを舐めるなよ。お前はサボっていたけどな!」

「やってやるよ。こんな所で死ねるかよ!」

「お前よりも活躍してやるからな!」

男子たちが動き出せば、女子たちも中には変わり者がいるらしい。

「……ちょっと、なんで女子は誰も声を上げないのかしら?」

お嬢様という感じの縦ロールの髪型をした女子が、髪を揺らして前に出た。胸の下で腕を組み、堂々とした態度を見せている。

高いヒールに強気な瞳。何というか女王様タイプの先輩だった。

「学園一の愚か者が戦うのに、もしかして何もしないつもりかしら? 明日から貴方たちが愚か者になりたいようね」

先輩――女子は、俺を見上げてきた。

「ところで、貴方はどうするの? これだけ大きな口を叩いて、何もしないなんて言わせないわよ?」

俺はショットガンを両手に持った。

「俺? 乗り込むに決まっているだろうが」

先輩はニヤリと笑った。

「あら、流石は学園一の愚か者さんね。そうなると、鎧が必要になるわね」

俺は言う。

「鎧は全て飛行船の防衛に使う。俺が使うのはエアバイクだ」

「エアバイク? 貴方、死ぬつもり?」

外はモンスターの群れに、公国の飛行船が一杯だ。きっと鎧も沢山出てくる。

鎧と言ってもパワードスーツのようなもので、空を飛ぶ兵器である。

エアバイクでそんな場所に突撃するのは馬鹿なのだ。

「助けないといけない人がいる。ついでに旗印をかっぱらって公国の艦隊を笑ってやるのさ」

「アンジェリカを? 取り巻きの忠誠心という奴かしら? 無理をしなくてもこの状況なら誰も責めたりしないわよ」

アンジェパパが怒るかも知れないね。でもね……そういうのは関係ないんだよ。

「忠誠心? 違うね。一度くらい、お姫様のピンチに駆けつける騎士になりたいと男なら思うだろ? 俺、お前らは見捨ててもアンジェリカ……アンジェは見捨てられないわ。だって良い女だからね。お前ら女子は少しくらい見習ったらどうかな?」

一人で人質になったとき、俺が男爵位を持っていると言えば良かったのだ。そうすれば、一人で連れて行かれることもなかった。

みんなのために人質になる? まだ十六歳だぞ。アンジェパパも怖いが、そんな女子を見捨てたら俺が一生後悔する。この腐りきった乙女ゲーの世界で、アンジェと……アンジェは俺の希望である。

先輩が口を三日月に歪め笑っていた。

「いいわ。貴方、凄く良い。アンジェリカのお気に入りでなければ側に置いたのに残念ね。その生意気な態度を調教して私に忠誠を誓わせたら楽しいでしょうに。貴方、いいペットになるわ」

……こいつも駄目な女子だな。ベクトルは違うが、お近づきになりたいとは思えない。

「それはどうも」

そうして俺は声を張り上げる。

「お前ら、公国に喧嘩を売る覚悟は出来たか!」

熱気を帯びた会場が爆発するように――俺への罵声混じりに大声で皆が答えた。

飛行船の格納庫。

そこに足を運ぶと、待っていたのはルクシオンだ。

鎧を着用するためのインナースーツは、バイクに乗るために用意していた。ヘルメットをかぶると、上はベスト、下は厚手のカーゴパンツにブーツという格好になる。

ヘルメット内はエアバイクと連動して、周囲の映像が見えるようになっていた。

『準備は出来ています』

エアバイクに自分が収まる場所を作っており、そこにくっつくと俺を見てくる。

跨がった俺はハンドルを握ってエンジンを吹かした。

暴れ回るエンジンの振動が格納庫に響き渡ると、ハッチが開く。

船員たちが俺に声をかけてきた。

「本当にやるんですか!」

俺は笑う。

「当たり前だ。あの使者の髭をむしって土産にしてやる」

あいつのご自慢の髭は永久脱毛にしてやる。

「それは欲しいですね! あ、やっぱりいらないかも」

ノリの良い船員にサムズアップし、俺はそのまま体勢を低くして外に出た。

大空にエアバイクが飛び出し、まるで空を波の上を走るかのようにエアバイクが走る。

背負っていたショットガンを片手に持つと、シュヴェールト目がけてモンスターたちが集まってきた。

「準備は良いか?」

『いつでもどうぞ』

ショットガンを両手で持って構えると、ルクシオンがエアバイクの操縦を行いつつ――。

「雑魚の相手はこれが一番だ」

銃口のすぐ前に魔法陣が発生すると、小さな魔法陣がいくつも更に発生した。目の前に迫るモンスターたちを次々にロックオンしていく。

『雷属性、散弾式、ライトニング――どうぞ』

「ふっとべ!」

引き金を引くと、銃口からショットシェルが飛び出して魔法陣を突き破った。すると、中の小さな散弾の弾が弾け飛び――そのまま魔法の光を放って黄色や青と言った色に変わって方向を無理矢理変えていく。

モンスターたちが弾丸を避けようとするも、光は追いかけ貫いていく。

まるで花火のように広がった魔法は、範囲攻撃に最適な魔法だった。

難易度が非常に高く、扱える魔法使いも少ない。

一発で数十ものモンスターを倒した俺は、大きな声で笑ってやった。

「見たか! 俺とルクシオンの力を! 二人で力を合わせれば、こんな凄い魔法だって使えるんだよ。最近知ったけどな!」

俺一人なら? ごめん、無理。発動まで時間もかかるし、動いている敵をロックオンするとか厳しいです。

「まぁ、七対三の割合での協力だが」

『どうして自分が七も頑張っているように言うのですか? 比率から言えば私が七で、マスターが三の割合ですよ』

「気分が良い所で邪魔しやがって。ほら、次が来るぞ」

『……本当に屑ですね』

ショットガンを構え、また狙いをつけて引き金を引くと目の前のモンスターたちがまた大量に消えて行くのだった。

鎧に乗り込むクリスは、飛び出したリオンの姿を見ていた。

「本当に先陣を切ったのか」

飛行船がリオンを追いかけるように向きを変えて速度を上げていく。

目指すのは一番硬い本部――旗印のいる巨大モンスターの背中だ。

その姿に、クリスは鎧の操縦桿を握りしめた。

「……お前は強いな」

単純な剣の強さなら自分が上でも、今のリオンを見てクリスは自分の敗北だと思った。

魔法、そして度胸……全てが自分よりも上だった。

単騎で突撃など誰もが憧れても中々出来ない。

それをリオンは簡単にやってのけているように見えた。

エアバイクに乗ってそれを行う度胸は、クリスにはなかった。

「私はお前――バルトファルトのようになれるのか?」

首から提げたお守りが揺れていた。

クリスは鎧に乗り込んだ用心棒や、生徒たちを見る。

「私たちの目的は飛行船を守ることだ。絶対に守り切れ!」

仲間が声を揃え、鎧の胸元を閉めると起動した鎧六体が動き出す。外に出たクリスは、リオンではなく飛行船に突撃してきたモンスターを斬る。

その太刀筋はとても綺麗だった。

モンスターたちの中を進み、全て斬り伏せていくと――モンスターたちは煙になって消えて行く。

その姿を見て、甲板に出た生徒たちが歓声を上げている。

クリスは飛行船の側面に沿うように降下して、モンスターを斬り裂いていく。

「バルトファルトとの約束だ。この船は落とさせない!」

公国の飛行船。

船内には警報が鳴り響いていた。

立ち上がったヘルトルーデは、その黒く長い綺麗な髪を揺らした。黒系統のドレスに身を包み、窓に近付くと侍女が行く手を遮る。

「殿下、いけません」

「下がれ。自分の目で確かめる」

騎士に囲まれたアンジェも気になっているようなので、ヘルトルーデは声をかけた。

「アンジェリカも来ると良い。どうやら、お前の学友は名誉ある死を選んだ。最後の瞬間をその目で見せてやろう」

睨み付けるアンジェの顔をヘルトルーデは見ている。

ただ、馬鹿にしてはいなかった。

アンジェが騎士たちに囲まれながら立ち上がると、そのまま二人を囲むように騎士たちが配置につく。

外に出て様子を見ると――。

ヘルトルーデが目を見開く。

「なっ!」

豪華客船が正面を向いていた。しかも、こちらに向かってきている。

ヘルトルーデが魔笛を持ってこさせた。

「魔笛を早く!」

アンジェはその様子をチラリと見てから、正面を向いた。

飛行船の前で戦っている人物は、エアバイクに乗って魔法を放っている。広範囲を攻撃する魔法は、とても高度な魔法だった。

「馬鹿者が。それだけの力があるのなら逃げれば良いのに……本当にお前は馬鹿だな」

リオンの姿にアンジェは目から涙があふれてくる。

侍女が魔笛を持ってくると、ヘルトルーデは口をつけた。

とても不思議な音色が響き渡ると、モンスターたちが一斉に動き出す。

そんな光景を前にしてアンジェは、公国の強気な態度に納得がいった。

「これが公国の奥の手か」

ヘルトルーデが口を離す。

「そうよ。数の差はこれで覆る。王国は沈むの」

そう宣言したのだが、飛行船に突撃したモンスターたちが次々に消えて行く。

乗っていた学生たちが必死に抵抗していた。

シールドを展開し、おまけに魔法を放ってモンスターの数が減っていくのだ。

……公国の使者は馬鹿にしていたが、王国の騎士は強い。

何故か?

結婚して貰うためにダンジョンに挑み、稼いではそれを女子へと貢ぐ。稼ぐために奥へ奥へと進み、卒業する頃には結構な強さを手に入れているからだ。

女子に振り向いて貰うために、本当に血と汗と涙を流して頑張ってきた成果である。

アンジェは戦場を駆けるリオンを見て胸が苦しくなった。

(見捨てれば良かったんだ。お前なら逃げることだって――)

真っ直ぐに目指すのは自分の所だと……そして、助けに来てくれることを期待するアンジェだった。

必死に抵抗する飛行船を前に、ヘルトルーデが唇を噛んだ。

「……抵抗すればそれだけ辛くなると言うのに」

アンジェが笑う。

「悪いな。王国の貴族は諦めが悪い。お前らの言うとおり、意地を見せに来たぞ。そしてあの場では言わなかったが……前を駆けるのはリオン・フォウ・バルトファルトだ。王国でも指折りの騎士さ!」

「バルトファルト?」

そんな二人の下に使者に出た男がやって来た。

「確かに諦めが悪い。ですが、それもここまでですね」

使者がそう言うと、公国の艦隊が飛行船を囲む配置についた。射線に味方が入らないように八の字に展開している。

モンスターたちに囲まれた飛行船や、リオンに向かって大砲を向けている。

ヘルトルーデが使者を睨む。

「勝手なことを」

「勝つためです。それに、モンスターなどいくらでも手に入りますので」

使者が不気味に笑うと、モンスターたちが押し寄せたリオンと豪華客船に何百という大砲が放たれた。

モンスターたちを巻き込むその砲撃に、アンジェが叫ぶ。

「リオン! リビア!」

騎士たちに取り押さえられるアンジェ。飛行船は大きな爆発と黒い煙に包まれるのだった。