軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

故郷

マリエはリオンの心臓が動き出したのを見て安堵した。

(守護者の紋章が、道具の代わりをしてくれたの? でも、これで禁術が使える!)

本来であれば、必要な道具があった。

だが、その道具の代わりに、聖樹の若木がリオンの命をつなぎ止めてくれている。

(でも、時間がない。早く兄貴をこっちに連れて来ないと。それに、もう一つ大事な要素は、私で代用できるから)

マリエは深呼吸をする。

そして、ノエルを見るのだった。

「ノエル、あんたは聖樹を制御して兄貴の命をつなぎ止めて」

「わ、分かったわ」

ノエルがリオンの手を握ると、巫女の紋章が輝いた。

(これで時間は稼げるはず。あとは――)

マリエがリオンの体に触れると、ユリウスが肩を掴んでくる。

「マリエ、一体何をするつもりだ?」

マリエは振り返る。

「何よ? 兄貴を助けるだけじゃない」

笑顔を見せるマリエに、ユリウスたちは不安そうな顔を向けていた。

「――お前が、何か考えているような気がしたんだ。これだけの状態だ。リオンを助けるために、それなりの代償が必要なんじゃないのか?」

ほとんど死者を蘇らせる行為だ。

それをリスクなしに行えるとは、ユリウスたちには考えられないらしい。

マリエが安心させる。

「大丈夫よ。何の問題もないわ」

「なら、どうやってリオンを助けるつもりだ? 詳しく教えろ!」

心配するユリウスをなだめるために、マリエは簡単に説明する。

これは三作目で――聖女リビアが、主人公の恋人を救って見せた時の魔法だ。

「あの世にいこうとする魂を無理矢理連れ帰るのよ。肉体の方はそれまでに何とかして欲しいけどね」

リオンの体の状態はよろしくない。

クレアーレが困っている。

『命が長らえるだけでいいなら、何とか――待って!? 来た、やっと来たぁぁぁ!』

クレアーレが窓の外を見ると、そこにはルクシオン本体の姿があった。

動かなくなった子機を見て、クレアーレが褒めるのだった。

『子機が動かなくなっただけだったのね。もう、それなら早く連絡しなさいよ。あら? こっちから話しかけても本体も反応しないわね。何かのトラブルかしら?』

ルクシオンの子機は何の反応も示さない。

ジルクが驚いている。

「変ですね、ここに来るまではちゃんと動いていたのですが」

マリエがユリウスたちを部屋から出すのだった。

「とにかく! 私は忙しいからみんなは外!」

「わ、分かったから押さないでくれ」

マリエはユリウスたちを追い出すと、ドアを閉める。

ドアに額を押しつけ、皆に心の中で謝罪をするのだった。

(みんな――ごめんね)

涙を拭い、そして両手で頬を叩くと気合を入れた。

「よし! すぐに取りかかるわよ!」

マリエはリオンに近付くと、その手を強く握りしめた。

すると、オリヴィアがマリエの手を握る。

「私にも手伝わせてください」

マリエは拒否しようと思ったが、真剣なその顔を見て諦めた。

アンジェリカにも視線を向ける。

「あんたも手伝って」

「いいのか? 出来ることなら何でもするぞ」

マリエは俯き、二人に注意する。

「兄貴の魂を連れて帰るために、あの世の手前まで行くわ。それから――何を見ても、兄貴を嫌いにならないでね」

不安なことを口走るマリエは、オリヴィアたちが何かを言う前に聖女の禁術とも言える魔法を実行した。

「―― 蘇生(そせい) 魔法を開始するわよ」

三人が倒れそうになると、ユメリアや機械たちがその体を支えるのだった。

そして、今まで反応を示さなかったルクシオンの赤い瞳が淡く一度だけ光った。

気付けばリビアは、暗いトンネルを歩いていた。

「アンジェ? マリエさん!?」

真っ暗で何も見えないが、トンネルである事は不思議と理解していた。

周囲からマリエとアンジェの声がする。

「ここよ! 絶対にはぐれないでよ!」

「私はここだ!」

互いが近くにいるのを声で確認すると、マリエが二人に注意をする。

「いい? ここからは私の指示に従って。それから、何を見ても驚かないでよ。――兄貴を信じてあげて」

アンジェがマリエに疑問を投げかける。

「死者すら蘇らせる術など聞いたことがない」

その問いかけに、マリエは淡々と答えるのだ。

「神殿の禁術だもの。聖女の道具を受け継いだ者しか覚えられないのよ」

「禁術? お前、こんな術を受け継いでいたのか?」

いったいいつ受け継いだのか?

マリエが聖女として認められていた時期は短く、このような禁術をすぐに覚えられたとは思えないようだ。

リビアも同意見だった。

魔法の知識を持つだけに、このようなことが実現可能とは信じられない。

そして、同時に禁術になるべき魔法だとすぐに理解した。

「でも禁術というのも理解できますね。死者をあの世から連れ戻すような術があれば大問題ですから」

アンジェがマリエに問う。

「それにしても妙な話だ。今までにも使うタイミングはあっただろうに」

どうしてその時に使わなかったのか?

リビアは予想を立てる。

(これまでにも使えるタイミングはあった。でも、マリエさんはそれをしなかった。出来るけどしなかったのかしら? それとも――)

考えがまとまりそうなところで、目の前が明るくなる。

「見えたわ!」

マリエが駆け出したのか、足音が聞こえてきた。

光に近付くと、そこには大きな門があった。

それを両手で押して開けるマリエは、二人に手を振る。

「早くして! 聖樹やノエルが、いつまで兄貴をつなぎ止められるか分からないんだから!」

アンジェが光に近付くとその姿が見えた。

リビアも追いかけ、二人で門をくぐると――そこに見えたのは今までには見たこともない町だった。

「ここは?」

とても不思議な家が建ち並んでいた。

いくつもの柱が道の脇に立てられ、多くの線で繋がれている。

地面には白いペンキで何やら文字やら白線が書かれ、色々な形の似たような看板が立っていた。

人が暮らしているようには感じられるが、不思議なことに誰もいない。

アンジェも見たことがないのか、非常に驚いている。

「どこの町だ? 奇妙な場所だな。これがあの世か?」

マリエは立ち止まっており、その景色を見ると涙を拭っていた。

「――早く兄貴を迎えに行くわよ」

マリエについていくアンジェは、違和感を覚えた。

(こいつ、先程から迷わないな)

まるで迷路のような町を、マリエは最初から知っているかのように歩いていた。

そして、到着したのは集合住宅だった。

「ここよ! 三階なの!」

マリエが階段を上っていく姿を見て、アンジェは建物を見上げた。

「造りからして我々の国とは違うな。外国なのか?」

建物の様式が自分の知っているそれとは随分と違っている。

リビアと一緒について行けば、マリエはいくつもの部屋から一つの部屋の前に迷わず向かっていた。

「この部屋よ! 兄貴、いるなら出てこい!」

ドアを叩くマリエだが、反応が全くないのでドアノブに手をかけた。

「開いているわね」

マリエがそのまま部屋の中に入ると、アンジェもリビアも続いた。

マリエが靴を脱いで部屋に入ると、まるで勝手を知っているかのようにリオンを捜す。

「兄貴ぃ~。トイレ?」

どこに何があるのか分かっている様子だった。

その様子に、どうにも腹が立ってくる。

「随分と詳しいのだな」

自分たちよりもリオンの事に詳しいマリエに、嫉妬してしまうアンジェだった。

そんなアンジェを見て、マリエは首を横に振るのだ。

「勘違いしているみたいだからこの際に言うけど、私はリオンの妹よ」

「な、何!? いや、そんなはずはない! リオンの家系図は公爵家で徹底的に調べた」

マリエが何を言っているのか分からなかった。

ただ、リビアだけは何となく理解していたのか、驚いた様子を見せない。

「マリエさん、説明してもらえるんですよね?」

「リビア?」

マリエは隠すほどのことでもないと言ってから、リオンの部屋に入る。

「私と兄貴は前世で兄妹だったのよ」

それを聞いてアンジェは思考するが、咄嗟に理解できなかった。

(前世だと? 一体何を言っている?)

三人がリオンの部屋に入ると、そこはお世辞にも広いとは言えない部屋だった。

学生寮の方がまだ立派だ。

狭い部屋にベッドや机、その他色々な物を押し込んでいるように見える。

「これはモニターか?」

ルクシオンたちが使用しているモニターと似たものが、リオンの部屋にもいくつもあった。

リビアが興味深そうに部屋の中を見ている。

「知らない文字が一杯ですね。それに、もしかしてこれって――こ、古代文明ですか!」

ギャルゲーのポスターを見ながらリビアが興奮しているのを見て、マリエが何とも言えない顔をしていた。

「そ、そうね。古代文明ね。――たぶん」

リビアは興奮しつつも、この部屋でリオンが暮らしていたのを感じ取っていた。

「リオンさんが色々と詳しいのは、前世を覚えていたからなんですね」

アンジェはリビアに尋ねる。

「リビアは驚かないのか?」

「――今までにも、不思議なことが一杯ありましたからね。それに、前世の兄弟と聞いて、納得しました。マリエさんが、リオンさんのことをお兄ちゃんって呼んだことがあるんです」

マリエが恥ずかしそうにしている。

アンジェはそれを聞いて、ベッドを見るのだった。

「前世のリオンの部屋か。そうなると――やはりあったか」

ベッド下を探ると、当然のように出て来た。

エロ本の類いである。

マリエが両手で顔を隠した。

「馬鹿兄貴、エロ本の隠し場所まで前世と同じとか、恥ずかしくないの? 私は妹として恥ずかしいわ。というか、婚約者にバレバレじゃない」

そして、リビアが見つけてしまう。

「――これ、何ですか?」

それは“あの乙女ゲー”のパッケージだ。

タイトルは「アルトリーベ」と書かれ、サブタイトルに「聖女物語」と書かれている。

リビアはパッケージを持っている手が震えていた。

リビアと似たような少女が、ユリウスたちに囲まれている。

アンジェはそれをリビアから受け取り、裏側を確認した。

文字は読めないが、赤いドレスを着た自分らしき人物を確認する。

「これは殿下たちに似ていないか? それに、この絵の場所は見たことがあるな。学園の広場にある噴水ではないか?」

マリエは俯く。

「私たちにとっては、ここが現実なのよ。あんたたちの世界は――私たちから見れば、ゲームの世界なの」

マリエは自分たちが“乙女ゲーの世界に転生した”と伝える。

丁寧に、まずはゲームの説明から入り、そして全てを教えた。

アンジェがパッケージを握りしめる。

「私とリビアが敵対するだと? そんなことはあり得ない!」

リビアもアンジェと同じ気持ちだったようだ。

「そうです。アンジェと決闘なんてしません!」

そんな二人を見て、マリエは少しだけ悲しそうに微笑む。

「それは、私が邪魔をしたからよ」

アンジェは目を見開く。

「邪魔だと? いや、待て――お前、まさか!」

マリエは中途半端ながら、ゲームの知識を持っていた。

今は諦めたように、全てを説明する。

「私は一作目の中盤まで知識があったのよ。だから――ユリウスたちを籠絡するなんて簡単だったわ。何が好きか最初から知っていたし、五人が好む行動も大体覚えていたからね」

アンジェが右手を振り上げると、それをリビアが止める。

「リビア、放せ!」

「落ち着いてください。私も驚いています。驚いていますけど――私は、今がとても幸せです」

「リビア、だがお前もこいつには――」

「色々ありましたけど、私はリオンさんやアンジェと今の関係になれて幸せだと思っています。だから、早くリオンさんを迎えに行きましょう」

アンジェがパッケージに視線を落とした。

「そうだな。だが、そうか――リオンから見れば、私たちは物語の中の人というわけだ」

それがとても寂しく、同時にリオンが何を考えていたのか察する。

(何か隠しているとは思ったが、このことだったのか)

確かにこれは言えないな、とアンジェは思いながらパッケージを置くのだった。

マリエが困った顔をする。

「というか、ここに兄貴がいないとすると――やっぱり実家かしらね?」

アンジェがリオンの実家と聞いて興味を持つ。

「前世のリオンの実家か?」

「そうよ。たぶん――両親もいるかもね」

それを聞いてアンジェもリビアも驚くのだった。

「両親がいるのか!?」

アンジェの驚きに、マリエは頷く。

「たぶんね。ほら、さっさと向かうわよ。――はぁ、気が重いなぁ」

マリエが肩を落としつつ玄関へと向かう。

三人がリオンの部屋から出ると、そこにダークグレーの毛並みを持つ猫が座っていた。

赤い瞳で三人を見上げていた。

アンジェが首をかしげ、その猫を見る。

「猫?」

これまで生き物もいなかったのに、どうして猫がいるのか?

猫はプライドの高そうな顔をしており、アンジェが手を伸ばすと距離を取って顔を背ける。

そして、階段へと向かうと、三人に向かって一鳴きするのだ。

その姿は、まるでついて来いと言っているようだった。

猫に連れられて向かった先は、懐かしの実家だった。

マリエは家を追い出されてからは、まともに帰ったこともない。

そんな実家に、二度目の人生で戻れる日が来るとは思わなかった。

緊張した気持ちを深呼吸で和らげようとすると、オリヴィアが声をかけてきた。

「どうしたんですか?」

タイミング悪く声をかけられ、マリエは咳き込んでしまう。

「き、緊張するのよ!」

アンジェリカが呆れている。

「実家なのだろう? お前、もしかして何かしたのか?」

マリエは気まずそうにリオンが転生した経緯を話すのだ。

「そ、その――兄貴が死ぬ原因を作ったのが私というか――親を騙してお金をもらって、海外旅行に行ったとか――色々とありまして」

オリヴィアもアンジェリカも、マリエを見る目が急激に冷たくなる。

「前世の話よ! も、もう、入るわよ!」

話を切り上げて呼び鈴を押すと、インターホンから懐かしい声が聞こえてくる。

それは母親の声だった。

『は~い、どちら様ですか?』

マリエは自分の名前を口にしようとするが、喉まで出かかったところで止まった。

自分の前世の名前を思い出せない。

「え、えっと――あの、その」

困っていると、先に母親が言うのだ。

『――馬鹿娘まで帰ってきたの? 今はマリエよね? 鍵を開けるから、さっさと入ってきなさいよ』

呆れたような母親の声がすると、玄関の鍵が開けられた。

マリエがためらいながら玄関のドアを開けて中に入ると、そこには懐かしい実家の景色が広がっていた。

オリヴィアとアンジェリカも入ってくる。

「ここがリオンさんのご実家ですか? 立派なところですね」

ただし、オリヴィアの感想に、アンジェリカは困ってしまう。

「み、見たこともない様式だな」

お嬢様育ちのアンジェリカからすれば、立派とは言えないのだろう。

マリエはすぐに居間に向かって移動すると、襖を開けてそこにいる家族を見た。

居間の隣に台所があり、母親はそこで料理をしている。

こたつが用意された居間では、父親が新聞を読んでいた。

マリエが来たことで顔を上げると、気軽に挨拶をしてくる。

「お前も戻ってきたのか? おや、そちらのお二人は?」

マリエは立ち尽くした。

記憶よりも老いているが、懐かしい両親がそこにいた。

そして――。

「誰? お客さん?」

――こたつで寝ていたリオンが、のそのそと起き上がり欠伸をしていた。

オリヴィアもアンジェリカも、その姿を見て涙をこぼしている。

マリエはリオンに飛び付くと、胸倉を掴んで前後に大きく揺するのだった。

「馬鹿兄貴! さっさと戻るわよ! ほら、早くしないと間に合わなくなるから!」

こたつから連れ出そうとするマリエだったが、リオンは――。

「え? 嫌だよ」

――拒否するのだった。