軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仮面の騎士たち

待ち伏せていた敵を全て倒したアロガンツの背中が、ユリウスには禍々しく見えていた。

「リオン、一体何をした?」

これまでの動きとは明らかに違うアロガンツを見て、嫌な予感がする。

アロガンツが振り返ってくる。

『――何も。それよりも、少し疲れた。何かあったら頼むぞ』

先程信じられない動きを見せていたアロガンツが、今は動くのがやっとに見える。

アロガンツではなく、パイロットであるリオンは随分と疲弊していた。

グレッグがユリウスに話しかけてくる。

『リオンの奴、何か使ったんじゃないか? 共和国の時も怪しい薬を使ったとか聞いたぞ』

「薬だと!?」

その手の薬――肉体や魔力を強化する薬があるのは、ユリウスも知っていた。

だが、それらは必ずデメリットも存在する。

効果が大きく、即効性がある程に使用者の負担は大きくなる。

ユリウスの機体が、アロガンツの肩を掴むのだった。

「リオン、無茶をするな!」

だが、リオンは忠告を無視した。

『時間がないんだよ。さっさと先に進むぞ。まだ、フィンも残っているんだ』

ユリウスが汗を拭う。

「フィンか? あいつ、そんなに強いのか?」

話には聞いているが、リオンが恐れるほどとは思っていなかった。

リオンが苦しそうな声を出す。

『――あいつは俺がやる』

無茶を言うなと言いたかったが、リオンがこれだけ決意をしているとなるとユリウスには止めることが出来ない。

「お前たちは仲が良かったからな。戦わない道を選ぶと思っていた」

『無理だ。お互いに――退けないから』

「そうか」

アロガンツに肩を貸すかたちで、ユリウスは先へと進む。

先頭を進むグレッグが、ルクシオンに尋ねる。

『おい、目的地はまだ先なのか?』

アルカディア内部に侵入してから、迷路を進み時間を取られてしまった。

思っていたよりも時間がかかっている。

『この先です。動力炉の反応が近付いています』

徐々に魔素の濃度が濃くなっている。

メーター類がそれらを示し、ようやく目的が果たせそうだった。

「動力炉さえ破壊すれば、この馬鹿でかい要塞も沈むのか?」

『それは間違いありません』

グレッグが威勢のいい声を出す。

『何だ。割と簡単じゃないか。こんな要塞に勝てなかったご先祖様たちは、いったい何をしていたんだ?』

その疑問に答えるのはルクシオンだ。

『アルカディアが万全な状態であれば、私たちは既に全滅しています。勝負にすらなりませんでした』

ユリウスが驚く。

「そんなにか? お前でも勝てないのか?」

旧人類の技術の粋を集めて作り出されたルクシオンでも勝てないと聞いて、ユリウスは目を見開いた。

『はい。アルカディアをここまで追い込んだ、旧人類の軍人たちのおかげで我々は戦えています』

グレッグがばつの悪そうな声で言う。

『なら、俺たちが止めを刺して、ご先祖様たちの心残りを――』

その途中で、後方より接近する敵に気が付く。

ユリウスはアロガンツを手放し、そして盾を構えて庇った。

「ちっ! 追いついてきたのか!?」

後ろから迫ってくるのは、敵の鎧だ。

その中には魔装の姿も確認できる。

リオンが苦しそうな声を出す。

『フィンは!』

『いません。どうやら、ブレイブとは別の魔装です』

その中にフィンはいないようだが、厄介なことに変わりはない。

グレッグがジルクたちを心配する。

『おい、もしかしてジルクたちは――』

『いえ、無事です。現在も敵を防いでいます。目の前の敵は、別ルートから要塞内部に戻ってきたと思われます』

ユリウスは目の前の敵を見る。

盾で敵の銃撃を防ぎつつ、その数を数えていた。

(魔装と呼ばれる鎧は四機。その他は帝国の通常の鎧か)

チラリとアロガンツを見れば、リオンの動きがぎこちなかった。

「ルクシオン、リオンは戦えるのか?」

『――現在中和剤を使用しています。すぐに回復するでしょうが、現状では戦闘に耐えられるとは思えません』

「すぐに回復はするんだな?」

『――はい』

ルクシオンとの会話で、ユリウスは覚悟を決めて深呼吸をした。

「なら、リオンを先に進ませろ。敵が集まってきているからな。ここで誰かが残る方がいい」

剣を抜き、そしてバックパックに背負っている武器で攻撃を開始する。

リオンが驚いていた。

『お前』

「先に行け。時間を稼いでやる」

『一人でこの数を相手に出来るわけが――』

二人の会話に割り込むのはグレッグだ。

『なら俺も残るぜ! ユリウスだけで心配なら、俺も残れば安心だろ?』

リオンが何かを言いかけるが、ユリウスはアロガンツを押した。

「行け! ――時間がないのだろう?」

アロガンツが背中を向けると、先へと進んでいく。

アロガンツが先に進むのを見て、止めようと魔装の一機が無理矢理突っ込んできた。

それをユリウスは盾で防ぐ。

「悪いが通行止めだ!」

ユリウスの白い鎧が、バックパックから青白い光を放出した。

決闘の時に破壊された鎧の機能を、ルクシオンが再現していた。

剣を魔装に突き刺すと、敵が青い炎に包まれ燃えていく。

後方からは銃撃されるが、それを盾で防ぎつつ背中のキャノンを使って応戦する。

もう一機の魔装が飛び出してくると、今度はグレッグが敵に槍を突き刺して倒していた。

『ユリウス! あんまり飛ばすと、後で息切れするぜ!』

「大きなお世話だ。ほら、次が来るぞ!」

二人がリオンのために敵の増援を防ぐため戦い始める。

アルカディアの司令室。

そこにミアを送り届けたフィンは、再び出撃しようとしていた。

『相棒、アロガンツが動力炉に迫っている。味方は蹴散らされるか、足止めを受けて止められない』

ブレイブが現状を伝えてくると、フィンは手を握りしめた。

「そうか」

ミアがフィンに抱きつく。

「ミア?」

ミアは震えていた。

「騎士様、お願いです。お願いですから――戻ってきてください。私を一人にしないで!」

泣いているミアを、フィンは優しく抱きしめる。

「大丈夫だ。必ず戻ってくるよ」

「本当ですか?」

「あぁ、本当だ。だから、ここで待っていてくれ」

ブレイブもミアを安心させる。

『ここが一番安全だからな。ミアがここにいれば、相棒も心置きなく戦えるぜ』

ミアがブレイブを見る。

「ブー君もちゃんと戻ってきてね」

『任せろ! というか、ブー君って呼び方はどうにかならないのか? 相棒は黒助って呼ぶし、みんなブレイブって呼んでくれないよな』

フィンが笑う。

「似合っているだろ、黒助」

ミアも微笑む。

「ブー君って可愛いと思うよ」

『やっぱ、お前らの感性って理解できないわ』

普段通りの会話をして安心したのか、ミアがフィンから離れた。

そして祈るような仕草をする。

「騎士様、ちゃんと戻ってきてくださいね」

フィンは笑顔で答えるのだ。

「――あぁ」

アルカディアの外でも動きがあった。

『セルジュ下がれ!』

飛行船から命令を出すエリクの声を無視して戦うのは、ボロボロの鎧を操り戦うセルジュだった。

今も襲いかかってくるモンスターや、帝国の鎧を倒している。

「俺が戦わないと」

まるで罪を償うために戦っているようだった。

同時に、今自分が下がれば共和国軍も崩れると理解していた。

「俺は託されたから――親父に託されたから――」

奮戦するセルジュだが、鎧の方が先に限界に達してしまう。

関節が悲鳴を上げ、空中で分解してしまった。

背中のエンジン部分も火を噴く。

(あぁ、俺もここで終わるのか。ようやく――)

解放されると思っていると、セルジュの機体に近付く味方機がいた。

それはファンオース公爵家の鎧だった。

『共和国の連中、何で見ているだけで助けない?』

『おい、無事か!?』

共和国の味方ではなく、ファンオース公爵家が助けてくれた。

それが、今のセルジュの立場を物語っていた。

ファンオース公爵家の飛行船。

艦橋にいるヘルトルーデは、公爵家の騎士たちが回収した共和国の鎧を見ていた。

「奮戦するエースを放置するなんて、何かあったのかしらね?」

近くにいた艦長がヘルトルーデに提案する。

「ヘルトルーデ様、もう味方も限界です。王国軍も前に出てきました。ここで下がっても問題ありません」

王国軍も再編成され加わり、今は最初よりも楽になっている。

だが、油断できる状況でもなかった。

「駄目よ。この戦い、引くことは許さないわ」

「しかし!」

「それに、逃げたところで」

逃げたところで、待っているのは種族としての死だ。

その言葉を言い終わる前に、アルカディアの様子が変わる。

外壁にある目のような塗装が光を放ち、主砲を発射しようとしていた。

「敵の攻撃が来ます!」

ヘルトルーデもここまでかと覚悟を決めると、飛行船の横を白い何かが横切った。

「あれは!」

その姿は一本角の特徴的な飛行船。

リコルヌだ。

その両脇には、宇宙船が従っている。

シールド特化の宇宙船が、アルカディアの主砲から味方の盾になった。

途中で防ぎきれずに大破すると、今度はリコルヌが前に出て味方を守るように魔法障壁をカーテンのように展開する。

敵の主砲を完全に防いでいた。

ヘルトルーデは、リコルヌを見て肩をすくめた。

「王家の船に代わる切り札を用意していたの?」

だが、今はアルカディアの主砲を防いでくれるなら大助かりだ。

「皆の奮戦を期待します。ここでファンオースの名を知らしめなさい!」

ファンオース家にとっては、ここで頑張らねばならない理由も多い。

新しい王国での立ち位置が決まってしまうからだ。

それを考えると、安易に下がるという判断がヘルトルーデには出来なかった。

そして、個人的にも。

(聖女様にも借りを返さないとね)

ヘルトルーデは、マリエへの恩を返しておきたかった。

『キャァァァ! 私のリコルヌがぁぁぁ!』

主砲の一撃を何とか防いだリコルヌだが、無事というわけではない。

船内は激しく揺れたし、各部に負荷がかかっている。

単純に聖樹の若木からエネルギーを得ているから、何の問題もない――というわけではない。

両手で杖を握りしめ、立っているマリエは呼吸が荒くなっていた。

シールドを展開する役目は、聖女であるマリエにある。

そして、アルカディアに接近したことで、シールドの負担は更に大きくなっていた。

カーラがマリエを心配している。

「マリエ様、疲れているなら休んだ方がいいですよ」

ただ、マリエは笑顔を作る。

無理矢理作った笑顔は、お世辞にも可愛いとは言えない。

「だ、大丈夫よ。心配しないで」

カイルが水とタオルを持ってくる。

「ご主人様、あんまり無理をすると倒れちゃいますよ」

「これくらい平気――よ」

杖を握りしめ、何とか立っている状態だった。

水を飲むと、周囲で戦っているリオンの友人たちの声がする。

『リコルヌに敵を近付けるな!』

『狙って撃とうなんてするな! 前に撃てば嫌でも当たる!』

『あぁぁぁ! やっぱり格好をつけて参戦しなければ良かったぁぁぁ!』

悲鳴交じりの声が聞こえてくる。

リオンの友人たちが扱う飛行船も鎧も、ルクシオンが建造しているだけあって性能は高い。

そして、彼らは数年前から扱っており、練度も他より高かった。

マリエが汗を拭う。

(兄貴の友達も頑張っているわね)

リオンが学園で用意した貴重な味方たちだ。

しかし、未だに敵の数が多い。

彼らが頑張っても、戦力差は簡単には覆らない。

クレアーレが青い目を光らせる。

『ちっ! 抜けてくる連中がいるわね』

味方をすり抜け、危険と判断したリコルヌに群がってくるモンスターたち。

味方がリコルヌの盾になるため前に出るが、味方の飛行船を無視してモンスターたちは押し寄せてくる。

窓の外に二十メートルは超えるモンスターが迫っていた。

アンジェがクレアーレに叫ぶ。

「迎撃は!」

『ごめんなさい。さっきのダメージで無理よ。復旧まで三十秒かかるの。あ、でもね――』

迎撃は間に合わないと思われた時だ。

マリエは目を見開く。

「――え?」

白い機体――ユリウスの機体に似た二機が、リコルヌの前に出た。

大きなモンスターを剣で斬り裂く。

モンスターは斬り裂かれ、黒い煙になって消えていくのだ。

そして、二機の鎧が振り返る。

『困っているようだね、レディたち』

船内のモニターに彼らの映像が映し出されると、似たような仮面を付けていた。

アンジェが無表情になる。

「何をされているのですか?」

仮面を付けた男たちは、それぞれ似たようなポーズをするのだ。

『私は名前のない騎士。というのは困るから、仮面の騎士とでも呼んでくれ』

『今は仮面の騎士と名乗っておこう』

二人揃ってユリウスと同じようなことを言い出した。

マリエは体の力が抜けて、膝から崩れ落ちる。

(こいつらやっぱり親子だぁぁぁ!)

二人から駄目な臭いを感じ取り、マリエは血というものの恐ろしさを知るのだった。

仮面の騎士たちが、互いに向き合って罵り合っている。

『誰だ貴様! 仮面の騎士は私だぞ!』

『そっちこそ誰だ! 徹夜で考えた俺様の格好を真似やがって!』

『センスのない仮面をしやがって!』

『言ったな! アーレも格好いいと言ってくれた仮面を侮辱したな! そこに直れ! 叩っ切ってやる!』

二人が喧嘩をし始める。

仮面の騎士は――ローランドと、ジェイクだった。

疲れた顔のリビアが、二人に対して冷たい声を出すのだ。

「邪魔をするなら帰ってください」

『お、お嬢さん、冷たいじゃないか』

『ここで帰ったら笑いものだろうが。まぁ、いい。今はこいつとも共闘してやる。俺様の足を引っ張るなよ、偽仮面の騎士』

『私が本物だ! 私こそがオリジナルだ! それよりも、声からすれば若造か? 親の顔が見て見たいものだ』

『貴様こそ、ろくな大人じゃないのだろうな』

クレアーレがボソッと呟くのだ。

『実は出発する前に二人が別々に相談に来てね。参加したいって言うから、ルクシオンが用意していた鎧の予備機を貸してあげたのよ。それにしても、親子揃って同じ格好をするって興味深いわね』

マリエが窓の外で戦っている二人を見る。

「親子って怖いわね」

ユリウスも同じ格好をしていることから、この二人と同レベルなのだと思うと悲しくなるマリエだった。