軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ソウルフード

飛行船の格納庫。

そこに並ぶのは――アロガンツをはじめとした、改修済みの鎧たちだった。

「お~、こいつは凄いな」

感心して眺めていると、俺の右肩付近に浮かんでいるルクシオンが説明をする。

『共和国で使用した鎧を、限界まで改修しました。また、アロガンツに関しては追加装甲を取り付けています』

言ってしまえば「フルアーマーアロガンツ」みたいな格好だ。

普段のアロガンツに鎧のような装甲板が取り付けられ、色々と武器も搭載されている。

そして、周囲にはユリウスたちの鎧が並んでいた。

ルクシオンが改修し、アロガンツに迫る性能を持たせた鎧だ。

格納庫には五馬鹿の姿がある。

俺と同様に、パイロットスーツを着用しているのだが――。

「ふんどしに法被スタイルじゃないと気分が乗らない」

――そう言って落ち込むクリスに同意するのは、ねじり鉢巻きをしたグレッグだ。

二人とも、俺と同じベストではなくお祭り用の法被を羽織っている。

「この日のために新しいふんどしを用意したのに、これじゃあ見えないから意味がないぜ」

こいつらはどこで道を踏み外したのだろうか?

ブラッドなど、マントとシルクハットを着用している。

「君たちはただ脱ぎたいだけだろうに」

呆れて首を横に振っていると、クリスとグレッグが猛抗議を始めた。

「裸じゃない! ちゃんとふんどしを着用する!」

「変態みたいに言うんじゃねーよ! それに、お前の格好の方が変態だからな!」

ブラッドが激怒するのだ。

「このマジシャンスタイルが変と言いたいのか!」

五月蠅い三人である。

ジルクなど、格納庫にティーセットを持ち込み、お茶を楽しんでいた。

これがまた、酷く微妙な香りを漂わせている。

「皆さん、少しは落ち着いたらどうです? それにしても、バルトファルト――いえ、リオン君は、どうして鎧を五つも用意したんですか?」

アロガンツ以外の鎧は五つある。

だが、この場には俺を含めると四人しかいなかった。

「あぁ、こいつは――」

どうして用意したのか伝えようとすると、格納庫にコツコツと足音が響く。

登場するのは――ユリウスだ。

だが、仮面を付けてマント姿――この場を他人が見れば、仮装大会かと疑いたくなる光景だろう。

「その機体は私のものだよ」

何やら良いタイミングで出て来てやった、という空気を出している仮面の男。

「久しぶりだね、諸君。この私も手を貸そう」

すると、グレッグが仁王立ちで腕を組む。

「何しに来た、変態の騎士!」

「仮面の騎士だ! そこを間違えるな!」

俺はこのやり取りを見て肩を落とす。

「俺はこの茶番をいつまで見せられるんだ」

『同情します』

ルクシオンにも同情されてしまった。

ジルクが立ち上がる。

「いったい貴方は何者なのですか? もしや、帝国のスパイでは?」

「帝国のスパイとは心外だな。私は君たちの味方だよ」

ブラッドも警戒している。

「君の出自が分からないからね。それに、大事な作戦の前だから、不安要素は少ない方がいい」

仮面の騎士の正体を知らないこいつらは、その出自を疑っているのだ。

――本気で馬鹿な連中だ。

クリスが剣を手に取る。

「仮面の騎士、素顔を見せてもらおうか」

俺は近くにあった箱に腰掛け、ルクシオンに注文する。

「腹が減ったな。軽い食べ物はないか?」

『戦闘前ですよ』

「最後の食事になるかもしれないだろ。何かない?」

『冗談に聞こえませんね。――おにぎりをご用意します』

「そいつはいいな」

ルクシオンが離れると、俺は五馬鹿の茶番劇を見る。

剣を向けられた仮面の騎士が、その仮面に手をかけた。

「――君たちの不安はもっともだ。だから、私も誠意を見せるとしよう」

仮面を外したユリウスは、首を横に振り髪を揺らした。

美形は何をやっても絵になるから羨ましい。

四人が息をのんだ。

最初に口を開いたのは、ユリウスの乳兄弟であるジルクだ。

「で、殿下」

ユリウスは微笑む。

「仮面の騎士の正体は――俺だ」

クリスが剣を下ろす。

「まさか、仮面の騎士が殿下だったとは思いませんでした」

本当に気付かなかったの? ねぇ、それって大丈夫なの?

心の中でツッコミを入れつつ見ていると、ブラッドがアゴに手を当てて推理を始めた。

「そうか。よく考えれば、仮面の騎士が出てくるタイミングで動けるのは殿下だけだ。僕たちのことにも詳しくて、そしてベストなタイミングで目の前に現れるのも納得だよ」

うん、そうだね。

俺はもっと早くに気付いて欲しかったよ。

実は気が付いていて、知らない振りをしてやっているというこいつらの優しさなのでは? と、現実逃避したこともあるくらいだ。

だが、こいつらは俺の予想をいつも斜め下に裏切ってくれる。

グレッグが唖然としていた。

「――ユリウスが仮面の騎士だったのか」

ユリウスが前髪を手でかき上げ、そして真剣な顔付きになる。

「俺もお前たちと一緒に戦わせてもらうぞ」

グレッグが鼻の下を指でこする。

「へっ! 好きにしろよ。それに、今のユリウスがここにいても困らないからな」

何故か感動の場面みたいな雰囲気を出しているが、他から見ればただの茶番劇だ。

ただ、グレッグの今のユリウスが~というのは少し疑問だな。

ユリウスは弟のジェイクが男に走って地位を捨てたから、王太子に返り咲く可能性もあるのに。

まぁ、ローランドは子供が多いそうなので、この戦いが無事に終わればきっと跡継ぎは慎重に選んでくれるだろう。

ユリウスやジェイクという失敗例を踏まえて、本当に真剣に選んで欲しい。

五人の茶番劇を見ていると、ルクシオンがおにぎりを運んできた。

ちゃんと緑茶も用意している。

『マスター、お持ちしましたよ』

「ありがとよ。ん~、これこれ」

塩と海苔だけだが、これがどういうわけかうまい。

俺がおいしそうに食べていると、ユリウスたちがこちらを見ていた。

「なんだよ?」

「いや、何を食べているのかと思ってな」

「おにぎりだ」

「おにぎり? 一つ食べて良いか?」

五人がワラワラと集まってきて、俺のおにぎりを食べ始めた。

いや、数は多いし、別に食べても良いけど――こいつら、図々しいな。

ジルクが目を細めている。

「――変な感じがしますね」

おにぎりに対して変な感じがすると言い出した。

無礼な奴である。

ブラッドも同様だ。

「ベチャベチャする」

嫌なら食うなよ。

グレッグが飲み込むように一つ食べ、そして首をかしげていた。

「珍しい食べ物だな。でも、これなら普通にパンとかでよくないか?」

俺は三つ目のおにぎりに手を伸ばしつつ、グレッグに答えてやるのだ。

「俺のソウルフードだぞ。馬鹿にするなら船から蹴り落としてやる」

すると、おにぎりの湯気で眼鏡を曇らせたクリスが、嬉しそうにしている。

「つまり、マリエのソウルフードでもあるということか。うむ、良いことを聞いた」

こいつら、何でもかんでもマリエ基準かよ。

俺が黙々と食べていると、ユリウスが尋ねてくる。

「リオン、お前はアンジェリカたちにあの話をしないのか?」

あの話――転生者云々という話だろう。

「アンジェたちはお前らと違って繊細だからな。この大事な場面で、余計な心配をかけたくないから黙っている」

ユリウスは俺を見て悲しそうにしている。

「俺なら好きな人のことは知っておきたいけどな。マリエが事情を話してくれた時は、本当に嬉しかったぞ」

転生云々を話しても、普通なら信じない。

「お前らが異常なの。普通は信じないからな。それにしても、転生者だって言われたのに、よくマリエを受け入れたな」

結果的にうまくいったが、不用意な発言だった。

もっとうまく隠せば良かったのだ。

ジルクは、ルクシオンが用意した緑茶を飲んでいた。

「私たちは今のマリエさんに惚れたんです。転生者云々の話は驚きましたが、だからどうした? というところですよ」

グレッグが三個目のおにぎりを食べながら頷く。

「そうだ。俺たちはマリエの中身に惚れたんだ!」

「その中身は性格の悪いおばちゃんだぞ。お前ら、本当に大丈夫か?」

こいつら全員、あいつの中身など見ていないのではないか?

どう考えても人を見る目のない節穴である。

そう思うと心配になってくる。

ただ、ブラッドが俺の意見を否定する。

「見た目や年齢じゃないよ。それに、マリエはいい女だからね」

マリエを見て、よくもここまで言えたものだ。

心底呆れていると、クリスが照れくさそうにしていた。

「色々と隠し事があるミステリアスなところも良かったが、前世を知っているなんて凄いじゃないか。やっぱり、マリエは凄い女だな」

う~ん、こいつら馬鹿すぎ。

馬鹿すぎて――安心した。

「そっか。まぁ、あいつのことをこれからもよろしくな。――面倒をかけるなよ」

そう言うと、ユリウスが照れていた。

「あぁ、心配しないでくれ。マリエは俺たちが守るさ。リオン――お義兄さん」

「お、お義兄さん!?」

驚くとユリウスが首をかしげていた。

「だってそうだろ。マリエの兄なら、俺たちの義兄だ。これからもよろしく頼むぞ、お義兄さん!」

「止めろ! 鳥肌が立つわ!」

すると、五人がニヤニヤしながら俺に「お義兄さん!」「お義兄さん!」と言ってくる。

こいつらを信じた俺が馬鹿だった。

やっぱりこいつらは、ただの馬鹿だった。

アロガンツのコックピットに乗り込む。

ルクシオンの子機が一緒に乗り込んでくると、俺の新しいパワードスーツについて説明をしてくる。

見た目は変わらないが、背中にはバックパックを背負っていた。

『マスター、強化薬を背中のバックパックにセットしています。使用する際は私に声をかけてください。また、使用後は十分以内に中和剤を注入します』

「十分だけか?」

『それ以上はマスターの体が持ちません。本来なら、使うべき薬ではありませんよ』

「十分間だけはヒーローになれるって感じか。嫌いじゃないぞ」

薬を使用すれば、速攻で効果が現れて俺自身の能力を引き上げてくれる。

『――無闇に使わないでください。本来なら、一度でも使用するのは危険な代物です』

「安心しろ。使うタイミングは選ぶから」

何しろ帝国にはフィンがいるし、同様の騎士たちがいてもおかしくない。

「ま、三回だけっていうのが少し心許ないな」

そう言うと、普段よりもルクシオンが怒っているように感じた。

『三度目は考えないでください。一度の使用でも命を落とす危険があります。危険と判断すれば、私の判断で――』

「悪いな。ルクシオン“命令”だ。途中で絶対に止めるな」

『――マスター』

どこか悲しそうな声で呟くルクシオンを見ていると、こいつは感情が豊かだと思った。

「悪いな。今回だけは止めるな」

『本当に今回だけですか? マスターは嘘吐きなので信用できません』

「お前は本当に性格悪いな」

馬鹿な話をしつつ、俺は俯いてルクシオンに今後のことを頼む。

「――悪いが、俺に何かあったら後のことは頼むぞ。みんなが心配だ」

『拒否します』

ここに来て拒否されるとは思っていなかった。

「お前はいつもそうやって――」

『マスターに何かあるということは、既に私が存在しないという意味です。ですので、皆を守りたいなら、マスターが生き残るしかありません』

口を開けて驚き、そのまま顔に手を当てて大笑いをする。

「お前、俺と心中するつもりだったの!?」

笑ってやると、ルクシオンは一つ目を横に振ってヤレヤレという感じを見せた。

『願い下げですね。ただ――マスターに万が一のことがあれば、クレアーレが対処してくれるでしょう』

「そっか。それを聞いて安心したよ」

本当に安心した。

「だったら、後は敵のチート兵器を沈めて全てを終わらせてやる。悪いけど、お前にも手伝ってもらうぞ」

今回ばかりはルクシオンも無事では済まない。

それを、ルクシオンも気が付いている。

『私がいなければ、マスターは満足に戦えないじゃないですか』

「お前も言うよな。こういう時は、雰囲気を察してそれっぽい台詞を言えよ」

『真面目な雰囲気はマスターに似合いませんよ』

「違いない!」

ユリウスたちと比べれば、モブが精々の俺が格好を付けてもただのギャグだ。

笑って、そして俺は口を閉じて時間が来るのを待つ。